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第14話《朝ごはんと高級品について》

 階段を一段下りる度に強くなる香ばしい匂い。朝は軽く済ませる派の私だけど、空腹なところを匂いにやられてる今ならガッツリ食べられる気がする。


「エマさーん、おはようございますー」


 リビングの扉を開けながら声を掛けた。が、エマさんの姿は見えない。


「おや、おはよう!予想より随分早かったね」


 エマさんは奥の扉からひょっこり顔を覗かせて答えた。昨日は気付かなかったが奥にも扉があるらしい。この家、謎に扉が多い気がする。


「朝は強い方なんです。今何してるんですか?」

「朝食のパンを焼いてたのさ」

「焼きたてのパンですか!?」


 つい大声を出してしまった。朝食にパン屋の焼きたてパンを食べられるなんて贅沢過ぎる。”焼きたてパン”って名前じゃなくてガチな方の焼きたてだからね、焼き上がった瞬間のパンを食べられるってことだからね。こんな贅沢ってある?いや無い。


「焼きたてを食べるのは始めてかい?そんなに喜ぶなら、昨日食べる直前に焼いてあげればよかったわ」

「いえ、エマさんのパンは冷めてたって美味しいですから!絶対に!」


 焼きたてパンならもっと美味しいと思うけどね!


「マシロは相変わらずあたしを喜ばせるのが上手いねぇ。…おっと、そろそろだね」


 エマさんはそう言うと扉の中に引っ込んで行った。焼きたてが魅力的過ぎて、つい自分も追い掛けるように中に入った。


「わぁ…凄い…圧倒的ヨーロッパ感…」


 扉の中はパンを焼くための作業場だと思われる部屋だった。中心にある大きな作業台はクリーム色のレンガと大理石のような天板で出来ており、そこから少し離れた場所には立派な石窯が設置してあった。エマさんはその前に立ち、鉄製の蓋…扉?を開けようとしている。


「ほーら、今日もいい感じに焼けてるよ!」


 エマさんがそう言うのと同時に辺りに充満する香ばしいパンの匂い。見た目はちょっと太めのバゲットって感じだ。


「ふわあぁ…!ジュルッ…やばい涎が…」


 焼きたてパンの匂いって幸せの匂いだなぁ…本当に美味しそう…。


 パチッ、パリッ


「ん?何の音…?」

「焼きたてのパンはこういう音がするんだよ!焼きたて特有の、本当に焼きたてパンにしかない音さ!」

「凄い、こんな音がするんですね!」

「さぁさ、リビングで先に待ってておくれ。切り分けたらそっちに持ってくからね」

「はい!」


 元気よく返事をしてリビングに戻ると、キッチンにお姉ちゃんが居た。


「あらマシロ、工房に居たの?気付かなかったわ」


 結構大きな声で話してたと思うけどなぁ。


「お姉ちゃん、何してるの?」

「朝食の準備よ。と、言ってもサラダの野菜切ってるだけなんだけど」

「私も手伝うよ」

「ほんと?ありがとう。でももう終わるから…食器類並べてくれる?」

「はーい」


 言われた通りにお姉ちゃんの後ろにある食器棚に向かう。だが何を出せばいいのかわからない。


「お姉ちゃん…ごめん、どれ出せばいいのか分かんない…」

「あ、そうよねごめんなさい。このお皿と…このお皿三枚ずつ、それからコップ三つにスプーン・フォーク一組で三組、あとは〜…これね」

「わかったありがとう」


 言われた通りの食器類を、昨日座ってた席を元に並べていく。並べ終わったところでお姉ちゃんがサラダの入った器を持って此方に来た。それから次々と深めの皿に盛っていく。


「リリー!パンがそっちに行くから食材の準備しておくれ!」

「準備はバッチリよ、母さん。いつでもどうぞ!」


 そう言ってお姉ちゃんはキッチンに戻って行く。同時にエマさんが工房と呼ばれた部屋からトレイにパンを乗せて戻って来た。そのまま二人共キッチンで作業を始めてしまったので、邪魔にならないよう先に席に着く。


「お待たせ〜」


 そう言いながらお姉ちゃんは先程のパン二つに切ったのを、それぞれの皿に乗せていく。

 パンは横に切り込みが入れられ、片方にはたまごサラダが、もう片方には昨日の挽き肉が挟まれている。


「いただきまーす」

「いただきます」


 気付くと二人共席に着いていて、食べ始めていた。慌てて私も続く。


「いただきます!」


 パクッ


「!んーっ、美味しい!」


 昨日の挽き肉、パンに合わないはずがない。卵も塩胡椒のみだけど、むしろパンが美味しさを深く味わえて最高って感じ。サラダも塩胡椒のみだったけど、文句は言えない。


 そう言えば…こういう異世界って塩はまだしも、胡椒って高級なのが普通じゃないの?何だか一般家庭に普及してる感じするけど…。


「ほんと美味しいわよねぇ。多少値が張るとはいえ、胡椒買って正解だわ母さん!」

「昔より全然手が出せる値段だからね。ありがたい話だよ」

「んぐ…ゴクン、そうだったんですか?」


 今の会話だと普及し始めたのは最近なのかな?


「そうよ、ここ最近になって銀貨二枚程度で買えるようになったんだから!少し前まで100g金貨10枚よ?」

「き、金貨10枚…」


 昨日買い物しながら教えて貰ったけど、この世界の金貨1枚は日本の1万円に相当するっぽい。周りの売り物見ててもそんな感じする。ここのお金は全部硬貨らしくて、一覧にするとこんな感じ。


 魔貨一枚→百万円

 白貨一枚→十万円

 金貨一枚→一万円

 銀貨一枚→千円

 銅貨一枚→百円

 鉄貨一枚→十円


 十万円硬貨ですら怪しいのに百万円硬貨とか一体いつ使うの?って感じだけど、国同士の取引とかではあるらしい。つまり私には関係無いって事なんだけど。


「ビックリよね、私生きてる内に胡椒を口に出来るなんて思わなかったもの」

「何でそんな安くなったの?」

「本格的な胡椒栽培が始まったからさ」


 エマさんによると、これまでは価値を下げさせないために栽培に制限が掛かっていたらしい。だが今のこの国の王様が大層料理好きらしく…料理発展のためとか何とか言って他国の王様にも掛け合って制限を解除させたらしい。


「料理のためにそこまで…凄い執念…」

「そのおかげで私達も美味しい料理が食べれてるし、他にも高級食材の栽培制限が解除されたのよ?本当、王様にはこの先一生着いて行くわ〜」

「他にもあるの?」

「えぇ!そうね、例えばバターとか。これはまだまだ高いけど、前より全然安くなったわね。10g金貨10枚だっけ?」

「そうそう、なのに今じゃ10g金貨1枚!パン屋にとってこれ程嬉しい話は無いね!おかげで商品のバリエーションが増えたよ!」


 そっか、あのベリーパイが出てきたのはそういう事だったんだ。


「ま、香辛料や乳製品が高級品の類なんだけど、それが私達にも少しは手の届く物になったってわけ」

「安さが売りの飲食店は中々仕入れることは無いみたいだけどね」

「なるほど〜…」


 そんな話をしている内に朝食が終わり、エマさんは工房の方に戻って行った。

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