第12話《葉の理由→レシピ?》
2月6日:《葉の理由&レシピ?》から《葉の理由→レシピ?》に改変しました。
異世界で初風呂を満喫し脱衣所に出ると、二人分の着替えが用意されていた。片方は私が昼間街で買って貰った物、もう片方は多分お姉ちゃんのだろう。着るとサイズは少し大きめではあったが、ゆったりしていて着心地も良かった。お姉ちゃんには丁度いいようだ。この世界で一般的な女性の寝巻きはルームワンピースらしく、少しデザインは違うが二人とも同じような物を着ていた。
「使ったタオルと着てた服はそこのカゴに入れておいてね、明日の朝洗うから」
「これ?」
「そうそう。じゃ、風邪引かない内に部屋に戻りましょ」
そう言って脱衣所を出るお姉ちゃんに続く。出てすぐに目に入ったのは大量の葉で出来た山だった。
「な、何これ?」
落ち葉掃除で集めました、と言うには多すぎるし、何よりこんな若そうな葉が落ちるわけがない。
「さっきクッション代わりにしたやつよ。慌ててそこの窓から飛び降りてきたから」
何でもない風に言いながらお姉ちゃんが指さしているのは二階の多分お姉ちゃんの部屋の窓。
「ひぇ…」
「魔法って便利よね。もっと早く使えるようになりたかったわ」
ふふふ、と笑ってお姉ちゃんはそのまま指を今度は葉の塊に向け、くるっと一回転させる。
すると葉がふわりと消え、代わりに足元の地面から木の根が生えてきた。
「っわ!ビックリした…」
驚いてる間にも根は絶え間なく動き、人が立って一人乗れるくらいの大きさに巻かれたところでやっと止まった。
「よし、出来たわ!私も中々上達したと思わない?」
ルンルン顔で聞いてくるが、以前のお姉ちゃんを知らないのでコメントのしようが無い。
私は何も答えられずにいたが、特に気にすることも無く渦を巻いた木の根にポンと乗り手招きをした。
「乗って乗って!くっ付けば大丈夫だから!」
「えぇー…」
正直怖かったが、こんな楽しそうな笑顔の姉の誘いを断るなんて出来るわけなかった。恐る恐る片足を乗せる。
「大丈夫だって!」
グイッ
「!?」
お姉ちゃんに一気に引っ張り上げられバランスを崩しそうになるが、支えられてどうにか体勢を整えられた。お姉ちゃんは片腕で私を後ろから抱きしめ、もう片方は先程の様に指を一本下に向けている。
「行くわよ、えいっ」
「きゃ…!」
私たちの乗った根は一気に上昇し、窓の所まで来て止まった。ここまで5mくらいあった筈なのに、この間約二秒。恐ろしい…。
先に窓枠を越えて部屋の中にいたお姉ちゃんに引っ張り上げられ、やっと空中から脱出した。
私が降りた瞬間根が跡形も無く消えたから魔法って不思議だ。
「ここってお姉ちゃんの部屋?だよね?」
「そうよ。…ハッ、初めて妹が私の部屋に…!!ごめんなさい、こんな変な初めてで!あぁ、もっと姉らしく部屋に呼びたかったのに私ったら…!」
「お、落ち着いてお姉ちゃん!それより素敵な部屋だね!」
このままだとまた暴走しそうなのでどうにか止めに入る。
「そ、そうね…落ち着いて私…」
「結構本とかあるんだね。あと…服?」
「私こう見えて結構読書好きなのよ。それは作り途中のお洋服」
落ち着きを取り戻したお姉ちゃんにそう返答された。
「お姉ちゃん服作れるの!?」
「えぇ!私、この街の服飾屋で修行しているの!修行と言っても、ちゃんとお仕事はしてるわよ?オーダーメイドなんかはまだ無理だけど、大量生産品の服とかね」
初耳だ。確かに滅茶苦茶似合うな、と仕事中のリリーお姉ちゃんを想像する。
「凄いなぁ…」
「マシロも興味があったらお店に寄ってね!”モニカ・ウェルネス”って言う大通りの方の…」
「あれ?そこ、今日エマさんと行ったお店だよ」
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「服はお下がりが有るから良いとして、下着類や寝間着なんかを買わなきゃね」とエマさんに言われ、大通りの大きなお店にやってきた。看板には筆記体で”Monica・Wilness”と記されている。
中は見た目よりも狭かった。奥の壁に扉が付いていたので、きっと事務所か作業場的な場所と売り場とで半分に分けてあるのだろう。
「下着はこれとこれとこれと…あと寝間着はどうしようかね?」
エマさんはチラッと私を見るとパッパッと下着を選んでしまった。「え?サイズとか大丈夫?」と心配になり手渡された物を見てみたが、何故かいつも着用している物と大差ない大きさだった。
え、何で?見ただけで分かったんですか?プロ過ぎない?
「マシロ?」
「へ?あっ、す、すみません…」
驚愕のあまり固まっていた所に声を掛けられ現実に引き戻された。
「寝間着はここら辺が良いと思うんだけど…どうだい?」
エマさんが指差すのは寝間着類コーナーのかなり前の方にある、如何にも「今イチオシです!」感のある寝間着が色違いで二着。とても可愛らしい。
胸元と裾には寝る時邪魔にならない程度の控えめなフリルと作りリボン。腰の部分の調整紐もリボンになっているて、袖口はバルーンになっている。色はアイボリーにフリル・リボンが焦げ茶の物と、若葉色にフリル・リボンがアイボリーという二展開。
確かに可愛いんだけど…。
チラッと視線を下に移せば値段の書かれた木札が見える。そこには”銀貨五枚”の文字が。
対してその奥にあるシンプルなミルクティー色の寝間着の値段は”銀貨一枚”。
もうお分かりだろう、居候の身で高望みは厳禁なのである。
「私的には奥の、その…それで大丈夫なんですけど…」
「これ?本当に良いのかい?」
「それが良いです!」
「そうかい?じゃあ会計済まして次の店に行こうかね」
「はい」
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「…って感じ」
「多分その時私工房に居たわ…残念ね、折角来てくれたのに…」
「また今度お姉ちゃんがいる時に行ってみたいな」
「ほんと?もちろんだいかんげいよ!」
お姉ちゃんは嬉しそうに微笑む。
「そう言えば……その寝間着、私も少し前まで仕立まくってたから見覚えはもちろんあったんだけど、誰かのお下がりかと思ってたわ。ほら、服もクロエ姉さんのお下がりだったから」
「クロエ姉さん?」
「二番目の姉よ、次女のクロエ姉さん。立派な商人になって色んな所飛び回ってるから中々会えないんだけど…この街も商いは盛んだから三ヶ月に一回くらい帰ってくるわ。多分そろそろじゃないかしら?機会があれば会ってみてね」
クロエさんか…商人で飛び回ってるってことは、この世界の色々な国の事とか聞けるかもしれない。
もっとこの世界の事を把握しておきたいし是非会ってみたい。
「お話沢山聞けそうだし、会うのが楽しみ!」
「ふふ、そうね。私もお土産話が楽しみよ。さて、そろそろ部屋に戻って寝ましょ?ごめんなさいね部屋に連れてちゃって」
「そうだね、もう戻るよ。気にしないで」
「おやすみなさいマシロ、また明日!」
「おやすみなさいお姉ちゃん」
別れの挨拶をして自分の部屋に戻る。そしてお姉ちゃんが来た時にやっていたように、ドア横の淡いクリーム色の魔石に指を触れた。最初に来た時は分からなかったけど、お風呂場での経験があるので魔力を流すのだと分かった。少し流すと途端にパッと明かりが付いた。
そうだ、寝る前に魔導書確認しなきゃ。魔力通したから何か書かれてるはず。
ペラリ
「お?…おぉー!凄い!ほんとにレシピだ!」
何も書かれていなかった筈の、召喚術の魔導書と書かれたページを抜かした1ページ目にはL判くらいの四角形とその下に材料等の情報が書かれていた。2ページには作り方が書いてある。
「でも何で写真とか挿絵無いんだろう?」
普通ならある筈だが、そこは空白になっている。
「レシピだとは思うけど料理名も書いてないし…」
人より料理を作ってきた方だが、材料や手順に見覚えが無い。まだ作ったことのない料理と思うのが妥当だろう。
「明日キッチン借りて作ってみようかなぁ…いや、その前に働かなきゃ!あれ?そう言えば明日って何時起き?」
パン屋の朝は早いって聞くし…起きれるかな?…初っ端寝坊とか洒落にならないよ。
「とにかく今日は早く寝よう、そうしよう」
魔導書を閉じると明かりを消すためにドアの方へ移動した。
先程の魔石の上にある透明な魔石に触れる。この流れだとこの魔石にもアンチマジックが仕込まれてる筈だ。今度も少しだけ魔力を流すと途端に明かりが消えた。
「おぉー」
さ、寝よ寝よ。
素早くベッドに乗り、カーテンを閉めるために手を掛けたところで気付いた。どうやらこの世界にも月らしき存在があるようだ。
私はカーテンを閉めるのを止め、開けたままで布団に入る。
色々な事が有りすぎて疲れる暇も無かったのだろう。一気に疲れが来てすぐ眠りに落ちてしまった。
それから日が昇るまで、青と白の二つの月は私を照らしていた。




