第10話《魔導書が起動しました》
今度こそ魔導書使えるようになります。
「魔素ねぇ…」
魔素を集めろと言われても正直ピンと来ない。空気中から酸素やら窒素やらを手に集めてみろって言われても「出来ません!」としか答えようがないのと一緒だ。
この世界ではそれが出来るから魔法が使えるんだろうなぁ…。
そんなことを考えていると、次はエマさんが私を呼びに部屋に来た。
「マシロ〜、そろそろ布団を中に入れるから手伝ってちょうだいな」
「あっ、はい!今行きます〜!」
エマさんに続いて、昼間庭に干した寝具を取りに行った。
二人で運んだ寝具を私の部屋のベッドに元通りにセッティングする。
「おや、マシロ。それが例のやつかい?」
ふとエマさんが指差してそう言う。その先には例の魔導書があった。もう面倒だから魔導書呼びでいいよね。
「はい。でも……お姉ちゃんから聞いたんですけど、私の魔力を流さないと使えないみたいで」
「そりゃそうよ。あんたの魔力を原動力として動き始めるんだから。あとはそうね、本人認証の役割もあるわね」
ほぉ〜なるほど。そうだったんだ。さすがエマさんわかりやすい。
「でも私、上手く魔法使えなくて…」
「魔法?アッハハ!マシロ、魔力を流すだけなんだから魔法なんて使わなくていいんじゃないのかい?」
私の発言におかしそうに笑いながらエマさんが言った。
「へ?」
「魔法っていうのは無属性であるあたしらの中の魔力を元にして魔素を練り込んで使うもんなのさ。ただの粘土に色の素を入れて練っていくようなもんよ」
え、そうだったの!?夕方魔法について説明してくれた時は魔素を練るとしか言ってなかったですよ!?
「ほらマシロ、手に魔力集中させてから魔導書の表紙に手を置いてみな」
エマさんに言われ、私は先程やったように目を瞑って魔力を手を集める。
「出来ました…多分。このまま手を置けばいいんですか?」
「そうそう。そしたら魔力を流すんだよ」
「流し方がよくわかってないんですけど…」
「息を吐く感じ、かねぇ…。魔力は魔素と違って体の一部みたいなもんだから、何となくのイメージでコントロール出来るもんなのよ」
「さ、とりあえずやってみなさいな!」というエマさんの言葉で、私は手から魔力を放出するイメージを始める。
すると少しして手の温もりがスゥーっと引いていくような感じがした。
「わっ」
同時にふわっと光に包まれる魔導書。表紙には光る文字が刻まれていった。
”Mashiro Tanizaki”
「私の名前…って!」
エマさんいるのにフルネームはまずいですって…!
バッ、と勢いよくエマさんの方に振り返るが、特に名前に関しての反応は無いようだった。それよりも魔導書が光ったことや名前が刻まれていく様に興味を奪われているらしい。
「こうやって魔導書に名前が刻まれるんだねぇ……マシロの名前も刻まれて、これでやっと本格的に魔導書が使えるわね!」
「あ、あの…エマさん?ここに書いてある名前、読んでみてもらっていいですか…?」
「なんだい?”マシロ”って書いてあるじゃないか。あんた、街中で看板とか読んでたし、文字が読めないってことはないだろう?」
「”タニザキ”…って書いてありませんか?」
気になりすぎてもう私から聞いてしまった。だってステータスの名前にも特に何も言わなかったし、もしかしたらこの世界の一般市民にも名字があるのかもしれない。
「いや?マシロとしか書いてないけどねぇ…」
「え?」
タニザキが認識できてない?
「M、a、s、h、i、r、o。マシロ、って読むだろう?」
エマさんは、わざわざスペルまで読み上げてくれた後「あたし、何かおかしなこと言ってるかね…?」と首を傾げた。
「い、いえいえいえ。大丈夫です」
よくわからないが何故か私の名字は認識されていないらしい。念の為リリーお姉ちゃんも呼んだが、結果は同じだった。
「どっから見てもマシロとしか書いてないわよ〜?というか魔導書使えるようになるとこ見たかったわっ!呼んでくれてもよかったのにぃ〜っ」
リリーお姉ちゃんは若干拗ねてしまったのか唇を尖らせている。
「あはは…ごめんねお姉ちゃん」
「あっ!それより使えるようになったってことは、何か書かれたってことよね!?見せて〜!」
あ、そういえばそうだ。名前のことに混乱してすっかり忘れてた。
「ちょっと待って、私も確認したいから…」
「あら、ごめんなさい。まだ見てなかったのね」
「リリー。あんたマシロが来てから、ちょーっと騒ぎすぎじゃないかい?」
ギクリ、と体を硬直させたお姉ちゃんの後ろには、腰に手を当てジト目のエマさんがいた。
「か、母さんってば、私そんな…」
「リリー?」
「ごっ、ごめんなさい!!マシロもごめんなさい!!だからペナルティだけは勘弁して!!」
お姉ちゃんは顔を引き攣らせながら謝罪の言葉を口にした。ペナルティというのがかなり引っ掛かるけど、そこは深く詮索しないでおこう。どの世界でも母は強しです。
「わかったなら今日はもう自分の部屋に戻りなさいな。マシロも今日は疲れただろうから休ませてやらないと」
「そ、そうよね。おやすみなさい、また明日ね!」
お姉ちゃんはそう言うと足早に部屋を出ていった。
「ごめんねマシロ、あの子が騒いで…」
「大丈夫です。魔導書使えるようにしてくれてありがとうございます」
「いーえ!さ、もう今日は風呂に入ってゆっくりお休みよ。着替えは今日買ったやつを置いておくからね。場所は裏口出てすぐ右なんだけどわかるかい?」
お風呂あるの?やった!
「多分だけど大丈夫です!」
「そうかい。じゃあ準備だけしておくからパパっと入っちゃおうね」
そう言ってエマさんは部屋を出ていった。言われた通りに裏口から出て右を見ると、かなり小さめの小屋みたいな木造の建物が壁に沿って建っていた。中に入るとまず三畳くらいの脱衣所が現れた。その先に扉が付いていたので中を覗いて見ると、この家と同じような白を基調とした石壁の風呂場があった。奥には石造りの浴槽と固形石鹸が置かれた棚が設置されていて、高さ3m、広さ五畳半といったところだろうか。
「おぉ〜…ちゃんとお風呂だ…」
そりゃそうか、エマさんもリリーお姉ちゃんも清潔感そのものだったし。よし、さっさと入っちゃおう。
脱衣所に戻り、設置されていたカゴに脱いだ服を入れる。その隣にはタオルと…泡立てる用だろうか、目の荒い布が置いてあった。
ここに来るまでの短時間の間にエマさんが用意してくれたのだろう。私はとりあえず布だけ持って風呂場に入る。
「…あれ?ところでシャワーとかお湯とか…どうするんだろう」
見たところ先程言ったように浴槽と棚の上の石鹸しか見当たらない。困ってキョロキョロと見回していると、壁に木枠に囲われたアーモンドくらいの石が付いているのを見つけた。
「明らかに何かあるよね、これ」
もしやボタンでは?と思い、試しに押してみる。…が、特に何も起こらなかった。
ところでこの感じどこかで見たような…?
「………あっ!」
そうだ!ギルド!あそこでもこんな感じのつるっとした透明な石を見た!…と、いうことは…これは魔石ってやつ?
ギルドのとは違ってこっちは淡い水色だけど…。
「ギルドでは触るだけだったけど…今特に何も起こらなかったってことは何かしなきゃいけないんだよね」
魔石、名前からして魔法関係、色からして…恐らく水。でも私は水魔法どころか何魔法すら使えない…でも魔力コントロールは何となく出来るようになった。この世界は属性で使える魔法が決まるって言ってた。そしたら水属性じゃない人は自分一人じゃお風呂にも入れないじゃん。そんなの無理ゲーすぎるよ。
…と、いうことは。
「魔力かな」
そう呟いて指先に魔力を溜める。そしてほんの、ほーんのちょこっとだけ石に魔力を流した。何しろ私普通の人の平均の半分しか魔力が無いもんでして、はは。しかもさっきの魔導書でコントロールとかよく分からずに手を離すまで魔力垂れ流しだったせいか、今すごい脱力感なんですよね。この異世界でも魔力を使い過ぎると疲れるようです。
「って、うわぁっ!?冷た!!」
そんなことを考えながら石に触れていたら何処からとも無く冷水がシャワーとなって私に降り注いだ。




