第1話《知らぬ間の異世界転移》
前々から設定だけ考えて書けてなかったお話です。
暇な時にでも楽しんでいただければ幸いです。
私は谷崎真白。
ごく普通の、まだまだこれから!って感じのピッチピチJKである。
そのごく普通のピチピチJKの視界には今、どこまでも続く青い青い空しか入ってこない。
「…青いなぁ…」
思わずそんな呟きが漏れた。
澄み渡った空、心地よい風、その風に乗って運ばれてくる木々や草の匂い。
しばらくそのままでると、だんだんと意識がハッキリしてきた。
そうだ、ここはどこ?
ようやく回転し始めた脳味噌で考える。
そしてようやく気づいた。私は今、草原の上に大の字になって寝ている。
どこぞの田舎娘といった感じだ。
「う、わわっ」
急いで起き上がり、制服に付いた葉を手でおおまかに振り払う。
いけない、制服汚したらまた怒られる!
この前ソースを付けて怒られたばかりなのに…
…まぁ…その時はその時で…。とりあえず今はいっか!
そんなことよりここはどこだろう?
私の記憶の限りではこんな広い草原は見たことがない。
「それにしても心地いい風ね〜。美味しいお弁当作ってピクニックしたくなるわ、これ」
最近の日本は毎年毎年異常気象って言ってるからなのか、春だ〜!って感じの気候がなかなか続いてくれない。
そのせいでここ数年気持ちのいいピクニックが出来ていないのだ。
そういえば、何でこんな春らしい春のような風が吹いているんだろう?
私がさっきまでいたのは嫌になるほど蒸し暑い初夏を迎えてしまったにも関わらず、運悪く空調設備がぶっ壊れてしまった学校の部室。
そうだ、私はそこで一人棒アイスを食べていたんだった。
それから───
「──どうしたんだっけ?」
もう棒アイスを食べていたことしか思い出せない。
棒アイス食べて他の部員待ってて、それで、…何でこんなところにいるの?
その部分が綺麗に記憶から抜け落ちているようで、全くもって思い出すことが出来ない。
「うーん…困った…どうしたもんかね…」
どうにか脳味噌をフル回転した結果、考えても仕方ないという結論に至った。
とにかく人だ。人を見つけなければ。
もしかしたら闇の組織的な奴らに拉致られてとか、その後超カッコよく戦っちゃったり無双しちゃったりとか超展開が待ってるかもしれないし!ね!
その可能性に私の中の厨二病的思考がくすぐられる。
誰だってこんなことが起きたら少しはこういう思考になるはずだ。
そうでしょ?
辺りをぐるりと一周見渡してみる。とにかく草原ばかりのだだっ広い場所だが、よく見ると遠〜くの方に小屋のようなものがある…気がする。
何はともあれ行動しなければ何も始まらない。
「よっし、とりあえずあそこに向かって──ん?」
立ち上がって、座ってる間に下半身に付いた草を払おうと下を向くと、何やら見慣れないものが落ちている。
何だこれ、本?
言ってから気付いた。ちゃんと見ると、本というには分厚すぎる。どちらかと言うと辞書だろう。
広○苑の国語辞典くらいの分厚さだ。かなり分厚い。
普段、小説などの本らしい本は読まない方だから少し手に取るのを躊躇してしまう。
軽く中を覗いてみる。
「?…何これ?真っ白じゃん…」
とりあえずと思い、丁度中間部分辺りを開いてみたが、中は真っ白で何も書かれていない。ただの白紙だ。
ノートにしては分厚すぎるから本だと思ったんだけど…
もしやと思い表紙をめくってすぐの部分、1ページ目を開いてみる。すると予想通りそこには文字が書かれていた。
だが肝心の文字が読めない。何語とも言えないような文字が大きめに、一行分並べられていた。
「英語もまともに出来ないのに、こんな難解な字読めるわけないわ〜、無理すぎる。ハァ…」
ため息をつきながら、文字列に触れる。すると文字列が淡い光を放ち始めた。私が驚く間もなく文字列が書き換えられていく。
”召喚術の魔導書”
先程、謎の文字列があった場所にはそう書かれていた。
「何これ!?ファンタジー!?」
小説は読まなくてもファンタジー系の漫画は好んでよく読んでいた私。この展開に興奮しないわけがない。
「まさか私、異世界転生したの!?」
異世界転生。私がよく読むジャンルの一つである。
異世界転生した勇者が無双したり、王女になって国を建て直したり、とにかく夢の様な話が繰り広げられる。
闇の組織の拉致なんかより数倍、いや数十倍は厨二病心をくすぐられる話だ。
「私にもついにこの日が───あれ?まだ何かあるの?」
感動しながらチラッと視線を本に移すと、”召喚術の魔導書”と書かれた上に、文字が浮き上がってきていた。
数秒後、浮き上がってきた文字は──
「…れ、”レシピブック”…?」
何度見ても書いてあるのは”レシピブック”の文字列である。
これでここが異世界なのは確定した。
なぜなら異世界ではやたらカッコいい漢字にそれっぽいカタカナのルビを振るのがド定番だからである。(偏見)
今私に見えているのは
召喚術の魔導書
と、こんな感じである。
なろう系小説でもよくあるアレである。
まぁそれは置いといて…
「異世界だとわかったのはいいんだけど、何にしてもとにかくこの世界の人を探さないと」
この世界の住民が人の形をしていてくれればいいんだけど…
一抹の不安を抱きつつ、私は先程見つけた場所に向かって歩き始めた。