第7話「出発の前夜」
「し、死ぬって……どういう……。」
彼女がこうして、絶望的な表情を浮かべるのはわかってはいた。
だが、実際に直面すると、やはりこう、心が痛んでしまう。
「順を追って説明する。そもそも死ぬということは、ここ数百年間の私の悲願なんだ。何千年と、様々な方法でこの生に終止符を打とうとしたが、できなかった。だが今回、ついにそのチャンスが巡ってきたんだ。これを逃したら、私はまた悠久のときをただ延々と彷徨うことになってしまう。」
「えっと……つまりはどういうことなんですか⁈私、全然わかりませんっ!」
私としても、あまり心の整理がついていないのもあって、遂にルルリーナに突っ込まれてしまった。
確かに、回りくどい話し方になってしまったかも知れないな。
私は自分を戒めるように一つ深呼吸を挟んで、もう一度ルルリーナの方を向く。
「つまりだな……七人の英傑に私を殺してもらおうといった算段だ。奴ら全員が合わされば、私を超えるデタラメな存在になる。お前が好きだという気持ちに正直になれたのも、先立たれる寂しさから来るストッパーが外れたからだ。」
「ちょ……お師匠様⁈それって私たちの関係は七人の英傑を探し出しちゃったら終わっちゃうんですか⁈」
話に割り込んでくるルルリーナの悲痛の叫び、私はそれに対し当たり前のように頷く。
だが、ルルリーナは納得のいかない顔で、わざとらしく「ぐぬぬ……」と唸っている。
「お師匠様ぁ……それはずるいですよ?置いてかれる私の身にもなってください!もうっ!そんなんだったら英傑探しの旅、協力しませんよ⁈」
わかってる、わかってるさ。置いてかれる寂しさなんてな。
ルルリーナより、私の方が何千倍も、だからこそこの胸の中に淀む心苦しさは消えないんだ。
「残念だ……ルルリーナ。お前は私の最後を見届けてくれないのか……ならば仕方ない。私は一人で英傑を探し、一人寂しく最後を迎えるさ。あぁ、ルルの暖かい体に抱きしめられながら死にたかったなぁ。」
ルルリーナには悪いが、最後だけ、私からのわがままを聞きて欲しい。
なんて自分勝手な賢者だろうと幻滅するかもしれないが、一応これでも、人よりすごく長生きしてるだけのただの人なんでね。
「むぅ……お師匠様は、やっぱりずるいです。いいですよーだ。絶対後悔なんてさせませんからね。絶対絶対絶対に、お師匠様には幸せに死んでもらいます。」
子どもっぽくむくれていたルルリーナは、一息つき、なにかを決意したかのように真っ直ぐに私を見据えて拳を前に掲げる。
なんか、かっこいいな。
なんて思ってしまった。
これが吸血鬼の末裔のオーラか……。
いや、違うか。
私がかっこいいと思ったのは、間違いなくルルリーナという個人だ。
種族なんて関係ない。
「ああ、約束しよう。私は最後を迎えるその瞬間、ルルを思って幸せに死んでやる。」
そう言って、私はルルリーナの拳に自分の拳を重ねる。
やっぱり、ルルリーナは強い。
恋人になった瞬間に相手が死ぬなんて言い出したら、普通は正気ではいられないだろう。
正直、私だって全力でそんな戯言は撤回させる。
だから.私はルルリーナに惹かれたのか……。
「あっ、そうだお師匠様!今夜は私の初恋成就記念なんで……。」
なにか重大なことを思い出したかのようにルルリーナはばっと立ち上がると、不敵な笑みを浮かべて……
「簡単には寝かせませんからね?」
その攻めっ気に満ちたルルリーナの笑顔に、私は絶対に勝てないと、心底震え上がった。
英傑探しの旅、明日出発にしようと思っていたが、もしかしたら出発できないかもしれないな……。