第5話「七人の英傑」
「七人の英傑……か。随分と懐かしい話を持ち出してくるな、帝国よ。」
今では誰もが空想上のお伽話だと信じているレベルの馬鹿馬鹿しい伝説。
そんな今では根拠も示さないような伝説を、まさか大国のトップが信じているとは……ついに世も末だということか。
「う……う〜ん……お師匠様〜?七人の英傑ってなんですかぁ?」
むにゃむにゃと、眠たそうに目をこすりながらルルリーナが目を覚ます。
ゆっくりと起き上がり、当たり前のように私の隣に密着して座る彼女は、目の前にいるノイシャを見て、
「えっと…どなたです?」
「へ?」
その言葉にノイシャが気の抜けた疑問符を返す。
それもそのはず、ついさっき顔を合わせたばかりなのに、とでも言いたいのだろう。
「お客さんだ、ルル。それとノイシャ、こいつの今の言葉は聞かなかったことにしてくれ、説明するのも面倒なものでな。」
まぁ、真相を簡潔に述べて仕舞えば、さっきの性感帯刺激、強力な上対象者の記憶をちょっとだけ持ってってしまうのだ。
今回は都合よく、あの告白の一幕を消し去ることができたので私にとっては最高なのだが、これを説明してしまうとルルリーナの性質的に、厄介なことになるのは自明だろう。
だから少し強引だが、ノイシャにはこれで納得してもらう他ない。
「お客さんはわかりました。お師匠様、七人の英傑について教えてください。」
「わかったわかった、ちゃんと話してやる。」
ノイシャからは一応反論もなく、横ではルルリーナがちょこちょこと服を引っ張ってくる。
こういう仕草は可愛げがあるんだがなぁ。
と、しみじみ思いながら、私は語り始める。
「七人の英傑、それはかつて今のように、世界全体が危機に陥ったときに現れ、それを救った者たちのことだ。一歩歩けば大地は浄化され、一つ言葉を紡げば空気は澄み渡り、彼らの内に秘める精霊たちの力は、全ての穢れを跡形もなく消し去る。そんなデタラメたちがかつては存在したという話だ。ま、所詮は空想上のお伽話さ。」
そうさ、そんな神みたいな存在が簡単に現れてなるものか。と、私は最後に大きくその話を鼻で笑った。
「じ、じゃあ、七人の英傑は……本当に存在しないのですか?帝国の人たちは、ないものを信じてしまっているのですか⁈」
驚愕と、薄っすら安堵を浮かべたノイシャが、食い気味に身を乗り出す。
私はそんな慌ただしい態度をとるノイシャをさらに上から嘲笑うかのようにもう一度ソファーに深く座り直し、
「いいや、いたさ。何千年か前、確かに七人の英傑は存在した。だが、あれは世の理を外れるものだ。世界が滅び行く運命ならば、大人しく滅びてやるのが道理だと私は思うのだ……が。」
そう淡々と、ノイシャに英傑を否定する言葉を並べている最中、私はふとある事に気づき、言葉を詰まらせる。
それは、私のここ何百年もの悲願を叶えられるかもしれないアイデア……ならば私は……。
「すまない、ここまで私が発した言葉を、全て撤回させて欲しい。」
「えっ……それってどういう……。」
案の定、ノイシャは困惑の色を前面に出してくる。
だが、私はそれを押しのけて、結論を率直に口にした。
「帝国からの依頼、請け負った。そう、報告してくれ。」
ーーー
「お師匠様〜。どうして帝国からの依頼を受けたんですか?お師匠様、帝国のこと大っ嫌いじゃないですか。」
ノイシャが去った後、一息ついたところに、当然の疑問をルルリーナは投げかける。
しかし、私はその質問に答える前に、ルルリーナに伝えなきゃいけないことがある。
「ルル、その質問に答える前に、私から大事な話がある。」
「え、な、なんですか⁈」
ぐいっと、彼女に顔を近づけたからだろうか、ルルリーナは僅かに頬を染めつつ驚愕を露わにする。
ルルリーナの心境も充分に察せるのだが、対する私の心境も、あまり穏やかではない。
心臓はこれまでになく早い鼓動を刻み、頰は火が出るのではないかというくらい熱く、今にも倒れてしまいそうだ。
だけど、私には彼女に伝えたい言葉がある。
彼女と出会って、ここで共に過ごして芽生えた感情を。
「ルル……好きだ、私と付き合ってくれ。」