第2話「ルルの尋問と来客」
「ふぇっ……ひっ……お師匠様ぁ……何でダメなんですかぁ……私ここに来てから随分と経ちますよねぇ……?そろそろ恋仲に発展してもいいとおもうんですよぉ……。」
「あのなぁ……冷静になって考えてみろ、私たちは同性だぞ?お前にレズっ気があるのは薄々気づいていたが……まさか私が対象だとはな……。」
よくよく思い出してみれば、私が興味本位で吸血鬼の根城に潜り込んだとき、こいつが始めにやったことといえば、いきなり後ろから抱きつくだっただけな……。
あのときは単純に脅かしのつもりだと思っていたが……まさか初対面の頃からずっと私のことが好きだったのか?こいつは。
そう考えると、目の前で泣きじゃくるルルリーナを見てると少しだけ罪悪感が募る。
ちょ…ちょっとだけ、な?
勿論私は、彼女が来てからここ数百年のなか一番楽しくて穏やかに暮らせてるなんて断じて思っていないし、実は女の子が好きなんてこともない。
「……うぅ、お師匠様ぁ。どうしてダメなのかじっくりしっかり丁寧に教えてください……じゃないと私諦めきれません〜。私にとって、生まれて初めて心に空いた寂しさを埋めてくれた人がお師匠様なんですからね?そりゃあ恋の一つもしちゃいますよぅ。」
涙を拭いながらも、未だ潤みきった瞳と、掠れたしおらしい声のダブルコンボで、私は不覚にも心臓が跳ね上がってしまった。
ここまで来たら、もう自分に正直になればいい。
なんて思考もフッとよぎるが、私には絶対に譲れない理由がある。
これで、ルルリーナが納得してくれるかは定かではないが……。
「ルル……私の名前、ちゃんと全て言えるか?」
「マギア・ラトゥール・ケトス・ルベイト・リリィ・マトラージュ・レイモンド・フラックスですよね。今更それがどうしたんですか?」
見てくれや言動の割に、こういう時だけスペックの高さを見せてくるルルリーナ。
これが私に弟子入りを認めさせた理由の一つなのだが…。
「そうだ、よく覚えてるな。だが、何故私がそのような長ったらしい名をしているのかは知らないだろう?」
「そうですね…そ、それがどうかしたんですか?」
「私とて、何千年もの間、誰とも関わらずに生きていたわけではない。そりゃあ、今のお前と同じように恋なんて腐るほどしたさ。だけどな、人は死ぬ。私と生涯を共にしたものは、当たり前だが誰一人としてこの世には残っていない。いくらそこに愛なんてものがあったとして、絶対に先立たれてしまうのならば、嫌になる。名前が長ったらしいのは、その残った未練の残骸だ。これまで私の隣にいたものの名だ。わかったか?ルル。」
少し熱を入れて喋ってしまったからだろうか、全く動いていないのに疲労感がどっと私に襲いかかる。
ルルリーナはというと、私の話を聞いて尚、なぜかきょとんとした顔で、首を傾げている。
な……なぜだ?なぜそこで疑問符を浮かべる?
「えっと……じゃあなんでお師匠様は私を弟子として隣に置いているのですか?それってもう恋人とさほど変わりないじゃないですか!」
そ……そう来たか。しかし恋人と弟子とは……二人組であるという点以外、なんの共通点もないではないか。
しかし、ルルリーナの残念な恋愛脳に、そんなけったいなことは関係ないらしく、彼女は無遠慮に私に詰め寄る。
「お師匠様はっ、私をこの家に招き入れて、一緒に暮らすことを許してくれたじゃないですか!そこに弟子も恋人も関係ありませんっ!じゃあ聞きますよ?お師匠様は私が死んだら悲しまないんですか?私はただのモノだとでも言いたいんですか⁈」
「ちょ……顔……顔が近いぞルルリーナ!」
彼女は私に吐息が感じられるほど詰め寄り、尋問を開始した。
こ……これなんだよ。
この強引で積極的な態度に、情けなくも私は逆らえなかった。
だからこの長い生の中、初めて弟子なんか取ったんだ……。
で……この非常に私にとって不利なこの状況、どう覆したものか……。
と、私が数千年の知識を掻き集めて思案し始めたところに、
ガンガンガン‼︎
この建物のドアをノック……というより全力でぶっ叩くような音が鳴り響いた。
普段の私であったなら、こんな乱暴なノックなど不愉快でしかない。
しかし、今現在において、このノックは救済の音色に他ならなかった。