プロローグ「とある幼賢者とその弟子」
「好きですっ‼︎お師匠様‼︎私と付き合ってくださいっ‼︎」
本来、静寂に包まれるべきである私の書斎に、あまり似つかわしくない求愛の叫び声が轟く。
私は毎度毎度鬱陶しいなと、耳の穴に小指を詰めながら呆れるが、私に愛の告白をした目の前の女「ルルリーナ・アルファード」は、そんな私の態度など知ったことではないようで、
「返事をお聞かせくださいお師匠様っ!今度こそ、今度こそ私は貴女に相応しい女に成長した筈ですっ!ほらっ!胸の大きさだってとっくにお師匠様より豊かになっ……」
「阿保ゥ‼︎‼︎」
「いっっっっっ……たぁぁぁぁぁぁい‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎何をするんですかお師匠様⁈いきなり千ページもある魔導書で私を殴るなんてっ⁈」
おっと……激情のあまり貴重な本を粗末に扱ってしまった……これは反省しなくてはな……。
「すまないな…魔導書よ……お前の美しき表紙をこんな薄汚い弟子の頭なんぞに叩きつけて。」
「ちょちょっ?私の頭は心配しないのですか?そして今さっきの私の決死の告白の返事はないのですかお師匠様⁉︎」
私の冗談を上から握り潰すように、ルルリーナはけたたましく喚きながら私の座っている椅子の周りをぐるぐると回る。
まったく……相変わらずせっかちな弟子だ。
そんな焦らずとも、私の中に答えはきちんと出ているのだから。
「ルル、一度落ち着いてそこに座れ。」
「はいっ!」
私の一声に応えて、ルルリーナは素直に私の前に着席する。
「いいか、お前は私、賢者マギア・ラトゥール・ケトス・ルベイト・リリィ・マトラージュ・レイモンド・フラックスの弟子にして、絶滅危惧種の上位種族《吸血鬼》の末裔だ、魔導書を頭にぶつけられた程度でぎゃあぎゃあ騒ぐな。それと告白の答えだが……、」
「ごくり……。」
わざとらしく唾を飲み込む音がルルリーナの喉から響く。
こいつ……盛り上げ方をわかっているな……。
ならば私も、そのノリに応えなくてはならないだろう。
私はゆっくりと、大きく息を吸い込んで……
「断る。」
と、短く口にした。