秋晴れの空、また君と。
「ねぇ、恭介、見てみて!! 紅葉が真っ赤だよ!」
本当だ、と俺は秋の澄み渡る空を見上げる。
秋の公園、真っ赤に染まった銀杏並木ならぬ紅葉並木。
もう秋も深まってきたからか、周りに人はいない。
かさかさ、と落ち葉を踏みつけながら呟く。
「……秋だねぇ」
「ほんとだねー」
隣で微笑む彼女のすぐ近くを、赤い葉が一枚、ひらひらと舞う。
俺はその葉を受け止め、彼女の頭に乗せた。
「……なあに? ――あ! もう、頭に葉っぱ乗っけないでよー」
「ははっ、ごめんね。美香は赤が似合うなぁと思ってさ」
ストレートに言ってみると、今度は頬が赤く染まった。
「……紅葉って言うより林檎みたいだな」
ぼそりと呟き、彼女の手を両手で包み込む。
肌寒いのか、少し冷えた指先。
細くて白くて、どこか儚いこの手を、俺はずっと守りたい。
たとえ、いつか彼女が俺に興味をなくしても。
「美香、寒い?」
訊くと美香は首を傾げながら頷いた。
「うーん、ちょっとね」
俺は人目がないのをいいことに、彼女を抱きしめる。
「わっ⁉ ……あったかいね、恭介」
「だろ?」
俺は今日もお前の愛でいっぱいなんだ。
そう言ったらきっと美香は顔を真っ赤にして、バカ、と呟くのだろう。
だから敢えて言わずに彼女を解放する。
「美香、そろそろ行こうか。腹減った」
「……うん」
美香は少し物足りなさそうな顔をして言う。
「――もっとして欲しい?」
ニヤリと笑って言うと、案の定美香はみるみるうちに顔を紅葉より真っ赤に染めて、更には俺の胸をポカポカ叩いてきた。
「もう!! 恭介ってそういうこと言うよね⁉ いじわる!」
「あははははっ、ごめんごめん痛い痛いあはははは」
彼女はというと、頬をぷくうと膨らませて拗ねている。
……可愛い。
「美香~? 拗ねないでよ、ねえってば」
「……」
俺は美香の頬からぷしゅっと空気を抜き、後ろから抱きしめた。
「美香ぁ、機嫌なおして? また可愛く笑って~?」
「……期間限定マロン&カスタードクリームパフェ一つ」
俺は一瞬固まった。いや待ってくれ今月もうピンチなんだお金ないんだ!!
「……だめ……?」
美香が少し俺の方を向いて言う。
「――ッ、いや、うん、分かった。それで手を打とう……」
さようなら、俺の今月のお小遣い……
「あと和風きのこパスタも追加」
「やめてぇええ」
そこまで言って美香はふふ、と笑った。
「うん、じゃあパフェだけでいいよ」
「ありがとうございます神様」
そう言って俺は美香を抱き上げる。
「よいしょー」
美香は驚いたようだが、すぐに周りの景色に歓声を上げた。
「すごい、紅葉がこんなに近くに……! 恭介、空がきれいだよ」
「ああ。本当にきれいだ」
爽やかな青と、柔らかく被さる白い雲。
言葉では表現できないほど、様々な色合いを――秋の色を、閉じ込めて、塗り広げている。
頬を優しい風が撫でてゆく。
秋の空気、って言ったらなんか美味しそうな感じがするね、と前に美香が言っていた。
胸いっぱいに清々しい空気を取り込み、ゆっくりと吐き出す。
俺は、今この瞬間、美香とここにいる。
その証拠を残すかのように。
「恭介、お腹すいた。パフェ」
「お前は人が感慨に耽っているところを……」
苦笑し、美香を下ろす。
「それじゃあ、行こうか」
「うんっ」
――これからも、刻んでゆく。
いつか誰かが、ふっと俺たちが残していった風を、感じてくれるかもしれない。
一分を、一秒を大切にしてきた記憶を秋風に閉じ込めて。
思い出は、永遠に鮮やかにあるべきだ。
そして願わくばまた、この道を二人で歩けるようにと。
俺は彼女の手をそっと、握った。