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第1話 希望あふれる学校

初めまして。秤屋シオンと申します。

変な夢を見たので、文章に起こしてみました。1話辺り4~5000字で10話なので、サクッと読んでいただけたらと思います。


完結してから投稿を始めていますが、何分この作品が生まれて初めて完結させたものでして……至らぬ点も多いですがよろしくお願いします。


注意:バッドエンドです。

あと、三角定規を手に入れるのは2話です。すみません。あとがきにステータス()をつけておきますので、合わせてご覧下さい。


 どうしてもやりたいこと、ってあるよね。

 僕はずっと、学校に行きたいと思ってたんだ。でも、兄さんが学校の楽しい話をたくさんしてくれるから、今はそれで十分。ワガママは言えない。


 早くビョーキを治さないとね。そう。中学を卒業するまでには。

 そして、僕は自分の足で学校に行くんだ。


 友達と仲間が溢れる、希望いっぱいの学校へ——


*・*・*


「あー、いい朝だ」


 俺はマサキ。

 マサトという双子の弟がいる。マサトは病気で入院していて、父さんと母さんは忙しくて家に帰ってくる暇もない。

 だから家には俺一人だ。でも、そんな自由も嫌いではない。そんな思想を持つ、ごくありふれた中学三年生。


 玄関を出ると、青空を見上げて大きく伸びをしてみる。

 ゴールデンウィーク中に制服をクリーニングに出されたらしく、パリッとノリが効いているのがよく分かった。


「んー……っと、目覚めた」


 前に向き直って目に入るのは、当然だが俺んちの庭だ。家のドアを背にして立つと、かなり見栄え良く見える。どうせなら外から見て綺麗になるように作ればいいのにな。

 だが、そんな花たちはゴールデンウィーク明けの憂鬱からか、ちょっとダレている。


 違う。水が足りてないんだなきっと。


 ぱたんと腕を下ろすと、玄関から引っ張り出してきたホースが目に入った。ちょうど手元にあることだし、花に水をやってから学校に行くとしよう。


 ホースを蛇口にくっつけ、蛇口を捻る。しょわわわ、という音とともに水が半透明の管を流れて、やがて先から吹き出した。


「う、わっ!」


 慌てて先端を潰すと、塩梅を間違えたようで制服にびしゃっと水がかかる。


 せっかくの制服が台無しである。替えの制服も持ってないし、学校に行くとすればこのままになるが……

 ……でも、まあ、いいか。今日はいい天気で、体が冷えるなんてこともない。久しぶりに会う友人の顔が待ち遠しいので、このままサボるなんて俺の中じゃとんでもない事だ。


 微妙に気分が下がりながらも、キラキラと水を滴らせる花を目で楽しむ。やっぱり春はいい季節だな。


 しばらく水をまいて、ホースを片付けてから家を出た。腕時計を確認すると、──時刻は8時50分。これは由々しき事態だ。


「やべっ」


 我が家から中学まで、徒歩で15分かかるのだ。対してホームルーム開始は9時!


 遅刻である。


 寝坊した訳でもないのに遅刻するとか、そんなの俺の名誉に関わる。走らないと。——そう思った時には、足が前に飛び出ていた。


「朝から、キッツ!」


 体力テストでも、大抵の種目は軒並み高評価なのに持久走だけはダメだった。そこまで運動に思い入れのない帰宅部だから仕方ないのかもしれないが、こういう時には困る。俺の横を軽々と追い抜いていく陸上部っぽい男子が実に腹立たしい。


 が、そいつを最後に、近くに生徒は全く見えなかった。遅刻しそうなのは俺だけなんだろうか? くそー、腹立たしい! 庭の花が萎れてたせいでー!


 はあはあと荒い息と唾を飲み込んで、住宅街のブロック塀を通り過ぎようとした、その時。


 焦げ茶色のお下げが、ふわりと風に舞った。

 塀の向こうから、人が出てきたのだ……! すぐさま俺は体制を整える。


「わっ!」

「キャッ!」


 人は急には止まれない。当然避けられるわけもなく、ぶつかった。なんだこんな時にっ!!


 ——いやまて、女の子だ。


 こ、こんな時に運命的な出会いしなくたっていいじゃないの。というか、これは……


 女の子は転びはしなかったものの、親の仇を見るような目で俺を見る。

 細いメガネをしているのもあって、その眼光はきっと裸眼の三割増で鋭い。


「あ、ごめん……」

「死ね……」


 えっ。いきなり死ねって。まあ、うん。俺も同じ立場だったら言うかも。

 ただでさえ遅刻すれすれだったのにな!


 呆然とする俺をよそに、女の子はこれみよがしにゆっくりと歩いていく。俺はため息をついてポケットに手を突っ込むと、頭をがしがしとかく。


 おちゃめな失敗ってわけだ。

 学校に幻想を持っていたマサトには怒られてしまうかもしれないが。


「まあ、いいか……」


 もう俺は振り返らず、学校までの道を急ぐ。

 てか時間、マジでやばい。


 あー、走って熱くなってくると、濡れた体が気持ち悪い。べたべた体に張り付いてきやがる。……学校についたらジャージに着替えるとするかなぁ。


*・*・*


 結果として、なんとか学校には間に合った。メチャ怖い生活指導の先生が何故かそっぽを向いて電話していたので、特にギリギリの登校を見咎められることもなく学校に入ることに成功したのだ。

 何人かの生徒がずぶ濡れの俺を見てギョッとしていたが、愛想笑いを返して更衣室へ向かう。

 こんな時間に着替える奴はいないらしく、中に人はいない。


 かばんから赤いジャージを取り出すと、制服をぱぱっと脱いで着替える。そのうちにチャイムが鳴り……俺の遅刻が確定した。


「あっ……」


 そうじゃん。遅刻カウントってHR(ホームルーム)で取るんじゃん。あー、こんなことならあと少し我慢すれば……


 ハーフパンツに上の長ジャー、という出で立ちに変わった俺は、イライラしながらブレザーを机に叩きつける。


「あー、ついてないな。それもこれもあの女のせいだ——」


 と悪口を叩いた時。

 ガガッ、と校内放送のスピーカーが唸った。


 続いて流れ出したのは、耳を疑う内容だった。


『ぜ、……全校生徒の皆さんに連絡しますっ!! ただいま校内に——危険人物が侵入しましたっ!! 生徒の皆さんは、早く、《例の場所》まで避難してくださいっ!! すぐ救援は来ますが——』


「え?」


 危険人物? なんだそれ。

 不安にかられた俺は、思い切って更衣室の窓を開けてみた。


 その先に見えた光景に、目を見開く。


「や、やばいよあれ……ほんとに、危険人物だ」


 武装した大柄な男達が、何人も隊列を組んで昇降口に続く道を歩いているのが、見えてしまったのだ。今、その最後方に1人が走って追いついた。数もどんどん増えていくようだ。


 訳が分からないのと、見つかったらやばそう——ということで、ぴしゃりと窓を閉める。

 心臓がばくばくとうるさい。


 死、死ぬの? 俺。まだ高校生にもなってないのに。


「こ、ここにいたら不味い。そうだ。避難場所があるって放送で言ってたな」


 例の場所、というのは生憎覚えていないのだが(先生の話を真面目に聞いた試しがない)、人の波に乗れば辿り着けるだろう。

 更衣室の出入り口に立つと、もう既に生徒達の狂乱の様子が聞こえてきた。

 ドアに手をかけようとして、寸前で引っ込める。


「ひ、避難って……手荷物は置いていくのがマナーなんだっけ……?」


 そんなことを思い出してリュックを下ろそうとしたが——ここで、さっき見た大男たちの姿が頭に過ぎった。

 首を振る。


「いざと言う時、盾になるかもしれないしな。教科書は重いから減らして、リュックは持っていこう……っと、アレもカバンに入れておくか」


 国語やら社会やらという重そうな教科書を取り出すと、それだけでかなりマシになる。これならちゃんと走れそうだ。


 俺は慎重に更衣室のドアを薄く開け、生徒の波を見定める。


 昇降口からまっすぐ歩いた先に、更衣室はある。つまり、俺がここから出た時点でモロ見えなのだ。時間の猶予はない。生徒達がどこに向かっているのかを見定めなければならない。


 生徒は口々に叫んで四方八方に走っている。

 単にパニックを起こしているだけっぽいやつを除外しないと、ルートの予想も立てられないな。

 真剣に人の流れを見つめ、やがて生徒達の足音すら聞こえない程の集中モードへと移行する。


「……あいつと、あいつと、あいつは抜いて」


 小声でブツブツ言いながら見ていると、生徒の波は大まかに2つに別れているのが分かった。どちらも、階段に向かう方向だ。


 俺たちの通う校舎はロの字型になっていて、一階には4つの階段がある。

 そのうち2つ——昇降口から見て奥側にあり、生徒達が向かわなかったほうの階段は、3階止まりのフロアへ続く階段だ。今押し合い圧し合いしてる手前の方の階段は、4階まで上れるものである。


 よく分からないが、きっと避難場所とやらは4階にあるのだろう。4階1フロアも中々の広さだが、そこはまあついて行けばたどり着けるに違いない。


 危険人物——侵略者と仮に呼称することにする。侵略者がいるのだから外に出ないのは当たり前だったが、生徒達が分かりやすく避難してくれていてよかったわ。

 校長ごめん。今度からちゃんと話聞きます。


 心で謝ってから、俺は一気に更衣室を出た。


 ここで誤算がひとつ。


「……俺、なんでこんな目立つジャージ着てるんだよ!!」


 階段に向かって走る俺は、一言で言って——かなり、浮いていた。

 当たり前である。黒とグレーを基調とした制服の群れに、たった一人真っ赤がいるんだから。

 いや、でも。侵略者が来る前に4階に上り切れば、俺の勝ちだ。目立とうが構わん。


 そんな思いは、またしても一瞬で砕かれた。


「き、来たーー!!!」


 ある時、近くの生徒が大きく叫んだ。興奮していて顔がにやけているが、その内容は絶望的だ。


 来たって、何が。


 その方向に顔を向けると、——いた。黒い武装に身を包んだ、筋骨隆々の男達が……


 侵略者が、中学校に入ってきたのだ。


「ふざけんな、足速すぎだろ」


 そして、あっという間に学校中に散らばっていく侵略者のうち、1人が俺の方を見た。


 毒づく俺の声が聞こえたわけではなかろうが、てか多分このジャージのせいか。


 とにかく俺は、今完璧に侵略者にロックオンされたのだ。


「うわああああ!!?!?」


 俺の叫びを聞いて、生徒を引っ捕まえながら階段を登ろうとしていた侵略者が、俺を捉える。なんだなんだ、目立つやつから叩くってか!?


 階段を登るのをやめ、まっすぐに俺を見ている。——だめだ、こっちに道はない。


 避難場所とやらに行けないのはキツいが、今は奥の、3階止まりのフロアに逃げ込むしかないだろう。


 俺はセクハラ扱いされるのを承知の上で、人波に体を埋めて階段前の混乱を抜けた。ジャージという視覚情報を頼りにしていた奴らは俺を見失い、まんまとガラ空きの方面へ出る。


「くそ、なんで俺は目を付けられてるんだ。なんであいつらは、侵略して来るんだよ。——こんなの……友達と仲間が溢れる、希望いっぱいの学校じゃねえよ……」


 マサトがよく言っていたフレーズを繰り返し、項垂れる。でも足は止めない。

 生徒がこっちへ来ることは予想していないのか、侵略者の足音はまばらだ。もっと奥にいるんだろうか。


 緩みかけた緊張。——それが再び張り詰めるのは、またしても一瞬だった。


「キャーーーーッ!」


 女の子の悲鳴が聞こえた。

 朝のあのキツい堅物メガネなんかじゃない。絶対ふんわり可愛い系だ。——そんな子は今、きっと侵略者に襲われているのだろう。


「助けないとな!」


 階段のある方向でもあるし、俺はその声の元へ一直線に走った。

【ステータス】

パーティ:マサキ


名前:マサキ

武装:リュック(中身:数学の教科書、水筒、アレ)

服装:学校指定のジャージ(赤)、ハーフパンツ(黒)

状態:女の子大丈夫かな!


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