95.レナード
ずっと起きていたげんきたちは、豪邸に、それぞれ、必要なものをマジックバッグから出して、晩ごはんを食べるなり、防犯用の魔道具を発動させて、エントランスで、寝てしまった。
げんきが、一番最初に起きて、外を見たら、少し明るくなってきていた。
一服していたら、ピーチたちが起きてきて、げんきの側に来た。
(あるじー味のあるお水ー)
「ピーチだけかい?」
(みんなのもー)
「ほいよ」
げんきは、最近、楓が、お化け野菜の甘みを利用して作ったお化け野菜ジュースをピーチたちに器を出して入れてあげた。
森を出てから、ピーチたちが、好んで飲んでいた。
色んな味がして、甘くて、美味しいー、そうだ。
『みんな、おはようー』
げんきがピーチたちと戯れていたら、楓と椿も起きてきて、朝ごはんを食べることになった。
朝ごはんを食べ終わると、
昨日、お風呂に入っていなかったので、
みんなで、豪邸の初風呂を堪能することにした。
げんきは、地下に行き、制御室で、魔道具の操作をして、全ての魔道具を発動させた。
全て発動させると、月に200万ゴールド以上の魔石が必要になるが、魔石は余りまくりなので、げんきは、全て発動させた。
「エンフィスでも、ライオンは、水を吐くんだな」
げんきたちは、元の世界でも、デカイライオンが水を吐いている映像なんかを見たことが、あったが、
実際に、お風呂で、ライオンの像の口から水がでているのは、生まれて初めての経験だった。
げんきが、ピーチを洗っていると、
楓と椿が、グリフォンの子供、マロンとクルルを洗おうとして、逃げられていた。
マロンとクルルは、水浴びなら、した事があるが、お風呂は、初めてで、石鹸も見た事が無かった。
その為、2匹は、足が水に濡れてるくらいで、あとは、飛んでいた。
石鹸で、よりモコモコになったピーチに、2匹が、興味を示したので、
楓と椿は、ルビーとホワイトもモコモコにして、怖くないよー、気持ちいいよー、と2匹を呼んでいた。
マロンとクルルも、最初は、ビクビクしていたが、本格的に2人に洗われ出したら、気持ちいい良さそうにしていた。
げんきは、ピーチと、先に広い湯船にのんびり浸かり、マロンとクルルが、おっかなびっくり、湯船に入って来たのを見た癒されてから、先にお風呂から上がった。
楓たちは、げんきが上がってから、10分以上経ってから、お風呂から上がった。
楓が、タオルで、マロンを拭こうとしたら、マロンは、身体を震わせて、水を払ってしまい、脱衣所は、びちゃびちゃになってしまった。
同じことが、椿のところでも起こっていた。
2匹は、楓と椿に、捕まって、2人から、タオルで拭くことを教えられた。
げんきたちは、少し休憩して、身体を乾かして、外に出たら、馬たちが、家の前の噴水の水を飲んでいた。
そういえば、馬たちの朝ごはん、と楓と椿は、
12個樽を出して、カットした野菜を入れて、馬たちにあげた。
馬たちは、放し飼いの状態だけど、敷地内なら、問題ないだろうと、げんきたちは、自由にさせることにした。
馬たちに留守番を頼んで、危なくなったら、警備が厳重な屋敷に入るように、マロンとクルルに伝えてもらった。
げんきたちは、奴隷達を回収しに、冒険者ギルドに向かった。
「アルナさん、おはようございます」
「おはよう」
受付ではない、依頼書の貼ってあるボードのところに、アルナがいたので、幸いと、げんきは、声をかけてた。
「奴隷達を連れて行くので、倉庫に行ってもいいですか?」
「一応、私も同行するわ」
倉庫の前には、ガイと職員2人が立っていた。
「おう、来たか」
「何?おっさんの出迎えは、遠慮したいんだけどな」
「昨日の詫びをな」
ガイは、そう言って、げんきに一枚の紙を渡した。
「紙には、中にいる者の近しい者の中で、要注意の人物が書いてある。君たちなら、問題ないだろうが、注意しておいて、悪いことではないからな」
「あー、問題ないだろうな。そうだ、独り言だが、セキヤとかいう冒険者とナール商店な、ダルマンの下っ端らしいぞ」
げんきは、恩を受けるのは、嫌だったので、最初に捕まえた盗賊のリーダーからの情報を提供した。
「そうか、兵隊長に伝えておく」
多少、立ち話をして、話しも一段落したので、げんきは、倉庫に入って、奴隷達を全員連れ出した。
「じゃあ、お世話になりました」
げんきは、合計165人の奴隷を連れて、商業ギルドに向かった。
げんきたち一行は、明らかに目立ちながら、街のメインストリートを抜けて、商業ギルドの中に入った。
道中は、余程、黒き竜が恨まれていたのか、街の人から、罵声やら石が飛んで来た。
最初は、無視していたげんきだったが、ピーチに酒瓶が掠った瞬間、酒瓶を投げた男を睨み、無意識に発動させた威圧で、男が、泡を吹いて倒れると、
一切、何も飛んでこなくなった。
ただ、そのせいで、5分程度の距離に10分以上かかってしまい、げんきは、少しイラついていた。
「こんにちは、街の中は、大変だったようですね」
げんきたちが、商業ギルドに入ったら、小太りの男が、声をかけてきた。
「まぁな。それで、どうなった?」
「奴隷商は、4人共来ております。もう一つの方も、副ギルドマスターが話しをすることになりました」
げんきは、ありがとう、と言いながら、小太りの男と握手して、小太りの男にダイヤを握らせた。
「では、まずは、奴隷商の方へ」
小太りの男に案内されて、着いた先は、体育館くらいある地下二階だった。
中には、入ってすぐに、2人の男、その後ろに3人の男と1人の女性?、とその護衛らしき鎧を着た男たちが居た。
げんきたちが、部屋に入るなり、2人の男が近づいて来た。
「私は、当ギルド、ギルドマスターライルと申します。以後お見知り置きを」
「私は、副ギルドマスターをしているレナードと言います」
ライルとレナードは、げんきに頭を下げながら、挨拶してきて、手を差し出して、握手をしてきた。
「どうも、これはご丁寧に。げんきです。今日はよろしくお願いします」
レナードは、げんきと挨拶を交わしたら、用事があるといい、部屋から出て行った。
ギルドマスターのライルは、パッと見は、シュッとした体型で、どこにでも居そうな感じだが、目には力があった。
服も地味だが、仕立ての良いものと見受けられた。
副ギルドマスターのレナードは、ライルとは正反対、これでもかと出ている腹、ゴツゴツした装飾品の数々、
なんと言っても、げんきたちを見て、明らかに見下している態度は、イラついていたげんきには、レナードの評価は、最悪だった。
「あちらの方々もお待ちだ。私も売買に混ぜて欲しいのだが、良いかな?」
「構わないですよ」
「すまないな。近々、王都に行くんだが、護衛が足りなくてね。奴隷商を挟むと、高くなるからね」
「嘘はダメですよ。2人の女性とその子供の為にでしょ?」
ガイからもらった紙に、ライルの死んだ弟の娘2人とその子供2人がいると書いてあった。
ただ、力に訴えるような事は無いし、人として信用がおけるので、出来ればライルに売ってやって欲しいと書いてあった。
何て、お節介な強面のおっさんだよ、とげんきは、紙を見た時に苦笑いした。
「ハハハ、知っていたのか?」
「まぁね。相場で買ってくれるなら、優先的に、貴方に売りますよ。ガイさんの紹介ですからね」
「そうか……すまないな。ガイには、後で、何か持って行かないといけないな」
ライルは、げんきに頭を下げた。
ライルとの話しもまとまったので、ライルが、奴隷商の事を紹介してくれた。
4人のうち、げんきが知り合いたかったのは、2人。
奴隷商人のマイラルとカミーユだ。
この街の奴隷商の4人は、簡単に分けると、
質を重視する2人と量を揃えている2人に分かれる。
マイラルとカミーユは、前者だ。
ただ、4人は、それぞれ、細かい部分でのウリはわかれていて、競合しないようにしている。
楓と椿と結んだ神契約の為に、2人の気にいる子を探すなら、質が良い奴隷がいる2人と知り合いたかった。
ただ、どちらも、一見さんはお断りなので、誰かを間に挟まないといけなかったのだ。
「今回は、集まっていただき、ありがとうございます」
「こちらこそ、よろしく頼む」×4
げんきは、奴隷商に、挨拶をして、早速、取引に移った。
「まず、みなさんに買っていただきたい奴隷は161人。価格は、全て買取価格の相場の8割。誰が誰を買うかは、そちらで話し合って決めて欲しい」
「本当に全て8割でいいのか?」
マイラルが、4人の代表のようで、げんきに確認してきた。
「間違いないです。相場の8割。それ以上もそれ以下も無し。全て8割です」
「なるほど……」
「値引きも無しか……」
「無しです。相場に関しては、昨日までの相場を調べておいたので、下手に相場を下にしたりはしないで下さいね」
げんきは、相場を調べた訳ではなく、昨日の奴隷たちを眼で見た時に、相場が情報として、入って来ただけだった。
先に、クギを刺された奴隷商たちは、4人で、話しながら、奴隷たちのチェックを始めた。
げんきは、ライルに売る奴隷4人を呼んで、ライルの前に行った。
「お前たちは、この人に売ることにした。なんか話したいなら、話していいぞ」
ライルの前に連れて行かれた4人は、ライルを見て、泣いていたので、げんきが話していいと許可を出した。
「ライルおじさん……」
「おじさーん」×2
「本当に……おじさんには……迷惑ばかりかけて……」
「気にしなくていいんだ。アイツの娘と孫は、私にとっても娘で孫だ」
ライルは、2人の子供を撫でながら、笑顔で、答えた。
「感動しているところ悪いんだが、子供2人で金貨6枚、若い女2人で金貨40枚、全部で、金貨46枚頼む」
「あぁ、すまない」
げんきは、ライルから金貨46枚受け取り、
4人の額にある奴隷紋を触り、所有者の変更を指定して、ライルにそれぞれの奴隷紋に血を一滴垂らしてもらい、ライルに所有権を譲渡した。
「出来ることなら、恨むなら、俺だけにしときな。他の2人は、俺ほど優しくないからな」
奴隷4人は、げんきの言葉を聞いて、げんきの後ろにいる2人を見て、げんきに目を戻した。
「私達の男を見る目がなかったんだ。君を恨んだりしないよ。それに、おじさんにみんなを売ってくれた。感謝しています。ありがとう」
「ありがとうございます」×3
「俺に感謝は要らないよ。感謝するなら、昨日の夜から朝まで、冒険者ギルドのマスターに頭を下げ続けたおじさんにしなよ」
「君は……私の格好がつかんじゃないか……ただ、本当にありがとう」
げんきが、改めて、ライルと握手をして、楓たちに、カッコつけすぎ、とからかわれていたら、
奴隷商たちの話しが、終わって、それぞれが買う奴隷を書いた紙を持ってきた。
げんきは、紙を確認して、全て相場の8割だったので、奴隷達を買う奴隷商ごとに分けた。
「紙の通りに、わけたが、これで問題ないか、確かめて欲しい」
奴隷商たちは、それぞれ確認をして、問題が無いと答えた。
マイラルとカミーユは、それぞれ20人ずつ、残りの2人で121人を半分くらいずつ買ってもらう事になった。
げんきは、マイラルとカミーユから、合計で白金貨8枚と金貨50枚、残りの2人から金貨1820枚と銀貨80枚を受け取り、奴隷の所有権を譲渡していった。
「良い取引が出来ました。ありがとうございます」
「いやいや、こっちが得しすぎだよ」
「そうだね。この価格なら、奴隷商はみんな飛びつく。今日街にいて、よかったよ」
げんきは、奴隷の所有権を譲渡して、マイラルとカミーユに話しかけた。
残りの2人は、軽く挨拶をして、買った奴隷を連れて、店に帰っていった。
「街で、奴隷商について聞いた時に、お二方のお店は、質の良い奴隷が多いと聞いて、多少、興味があったんですが、一見さんはお断りと聞いて、残念だったのです。今後、お店に寄っても構いませんか?」
「あぁ、もちろん、構わない」
「うちにも寄ってくれ!女の子の奴隷なら、うちがサーシュンで一番だと思っている」
げんきは、マイラルとカミーユから、店の地図とそれぞれのサインの入っている紹介状を受け取った。
2人は、げんきに紹介状を渡すと、奴隷を連れて、店に帰っていった。
「では、げんき様、次の話しをしにいきますか?」
「あぁ、頼む」
2人が商業ギルドから出て行くと、
小太りの男が、げんきに声をかけて、次の取引の話しをする部屋に案内してくれた。
部屋の前で、小太りの男から、
次は、レナードが、取引したいと言って、待っていると聞き、げんきは、若干嫌になった。
部屋の中には、男の全裸の彫刻、絵画、など芸術品が置いてあり、中央のソファーの横にレナードが立っていた。
レナードの側には、鑑定板を持っている3人の男と秘書らしき女の人が1人いた。
「こちらへ、どうぞ、座ってはなしましょう。ご苦労。お前は下がれ」
小太りの男は、レナードに部屋から出て行くように言われて、出て行き、
げんきたちは、レナードに言われて、レナードの正面のソファーに座った。
「商業ギルドに、宝石なんかを売りたいとか?」
「そうですね。メインは、宝石、装飾品。あと、使っていないものの整理の為に買い取ってもらいたい」
「そうですなぁ……メインは後にして、先にその他の物を見せて下さい」
げんきは、立ち上がり、秘書に言われた部屋の隅に、黒き竜から手に入れた、絵画などの美術品、売れそうだと思って回収した魔道具、その他土地と家の権利書などなどを部屋の隅に置いていった。
「これ程とは………」
「嵩張って、邪魔なんですよ。全てで、白金貨30枚、いや、白金貨25枚で売りましょう」
げんきは、レナードとちまちま話すのが嫌だったので、さっさと話しを纏めたくて、相場から白金貨5枚を下げた価格を提示した。
「白金貨25枚……物が確認出来ないと、なんとも言えないですね」
レナードは、パッと見で、それ以上の価値があることは、商人として、感じていたが、慎重に確認しないと、どこに落とし穴があるかわからない、と鑑定板を持った3人に鑑定をされることにした。
「そうだ、あれだけのものだ。物が無くなったりして、揉めたくは無いので、記録用の魔道具を使わせて貰いますが、よろしいですよね?」
「ん?あぁ、構わない」
レナードを全く信用していない、信用できないと、げんきは、記録用の魔道具を発動させた。
その後、鑑定係の3人によって、全て鑑定されて、レナードに、全てで、白金貨30枚以上の価値があると伝わった。
「鑑定も終わったみたいですね。白金貨25枚。買いますか?買いませんか?」
「そうだのー、白金貨20枚なら買おう」
強欲なレナードは、はなから子どもだと見下して、げんきの提示した金額より更に下げてきた。
「そうですか、残念ですが、全てで、白金貨25枚。これより下にするつもりはありません」
「くっ……」
レナードは、何とか安くしようと考えていたが、
げんきが、ソファーから立ち上がり、回収するように言うと、白金貨25枚だ、と折れた。
げんきは、秘書から白金貨25枚を受け取り、売買契約書にサインした。
レナードは、鑑定係の1人に、物を倉庫に運ぶように命令した。
25枚から下げられなかったのは痛いが、元々、それ以上の価値があるとわかっているので、内心では、やはり、もの価値を知らないガキ共だ、と喜んでいた。
げんきは、次に、装飾品を出す、と伝えて、鑑定係が用意したトレイに、指輪、ネックレス、ブレスレットなど、黒き竜から手に入れた装飾品全てと、ダンジョンの宝箱に入っていたものを出していった。
ダンジョンの宝箱からも、装飾品はいくつも出てきていたが、それらは、魔法が付加されているものもあり、今回は、魔法の効果の無いものを出した。
げんきたちは、自分たちの分だけで、白金貨120枚以上の価値があるのを知っていたが、
レナードが、鑑定係にトレイ4つ分を鑑定されるみたいだったので、黙って待つことにした。
げんきは、暇だったので、黒き竜から手に入れた装飾品の価値をまとめていき、合計で白金貨50枚程度だと計算した。
合計で白金貨170枚以上、白金貨160くらいで、売りつけよう、と考えていた。
30分以上かかり、装飾品の鑑定が終わった。
レナードは、秘書から、まとめられた紙を見て、白金貨170枚以上の価値があると理解した。
「で、いくらで買いますか?」
「そうだな、全てで、白金貨140枚で買おう」
「白金貨165枚。それ以下では売らない。他を当たることにするよ」
げんきは、相変わらず下に見下してくるレナードに、イライラして、予定より高く言い、立ち上がろうとした。
「待て!そう急ぐことは無い。白金貨160枚だ。それなら買おう」
「160か……まぁいいでしょう」
想定の範囲内だったので、げんきは、考えるふりをして、同意した。
秘書から白金貨160枚を受け取り、契約書にサインした。
レナードは、金庫の中が、無くなってきたのを秘書から聞いて、秘書に、総合ギルドから、お金を出してくるように命令した。
げんきたちは、秘書がお金を取りに行っている間に、宝石を鑑定することにして、
げんきが、極小の各種宝石を出していった。
げんきは、小サイズ、中サイズの宝石を順に出して、中サイズの宝石の鑑定が終わった頃に、秘書が、護衛らしき男4人と戻ってきた。
「帰って来たので、鑑定したものを先に値段をきめませんか?」
「うーん、そうだな。わかった」
げんきは、キリがいいので、と提案して、
レナードは、まとめて、話がしたかったが、鑑定係が、疲れていたので、休憩を取らせる為に、げんきの提案にのった。
レナードは、帰って来た秘書に計算を任せて、
秘書から計算が終わった紙を受け取った。
紙には、金貨で4800枚以上と書かれていた。
ちなみに、げんきたちも知っている。
「そうだな。全てで、金貨4500枚、白金貨45枚で買おう」
「じゃあ、それで」
げんきは、もっと安く言ってくると思っていたので、拍子抜けだった。
レナードは、まだ大きいサイズを持っていると確信して、今回は、次に出てくるものの為に、甘い査定をして、次に、買い叩く気でいた。
「それじゃ、次は」
げんきは、大サイズの宝石をトレイに乗せていった。
数は、げんきたちのものが12個、黒き竜のものが二つだ。
レナードは、宝石を見て、目を輝かせた。
明らかに、高品質以上の大サイズの宝石が10個以上、加工して、売れば、倍以上にはなるだろう、と頭の中で考えていた。
レナードは、鑑定された紙を見て、心の中で、笑っていた。
高品質が4つ、最高品質が8つ、適性も輝きも透明度もA評価、これだけのもの、手に入れなければ、と思って、
げんきたちを見た。
エンフィスでは、宝石の原石には、付加術、と言うスキルがあれば、魔法を付加することができる。
ただし、鑑定で、中サイズ以上で、魔法に適性があると判断される適性の評価が、B以上で、ないといけなかった。
サイズと品質によっては、付加できる魔法の数が多くなる。
魔法の付加された宝石を使った装飾品は、王族や貴族に高値で売れるものだった。
今回のものは、高品質なものでも、魔法を2つは付加できるものだった。
「これだけのものです………こちらを1つ金貨800枚、こちらを1つ金貨1500枚、こちらを1つ金貨2000枚で買いましょう」
レナードは、2つの普通品質、4つの高品質、8つの最高品質にわけて、金額を提示した。
普通品質の価値は適正価格だが、高品質と最高品質は、明らかに、低く見積もっていた。
高品質なものは、一番安いルビーでも1つ最低金貨5000枚、
最高品質のものは、ダイヤモンドで、1つ最低金貨8000枚以上の価値があった。
「馬鹿にし過ぎだ」
げんきは、トレイの上の宝石を全て回収した。
「どうしたのですか?」
悪びれもしない感じに、レナードは、げんきに聞いた。
「聞こえなかったのか?馬鹿にしてるのか?鑑定した人、さっきの宝石の価値は、この人が言った値段のものだったか?高品質と最高品質なのに?」
「それは……」
鑑定係の男は、げんきの問いに答えられなかった。
それはそうだ、鑑定で、高品質、最高品質、評価も高いものばかり、価格まで鑑定出来なくても、それがその値段なわけがないと知っていた。
「まずは、落ち着いて下さい。値段なら相談しましょう」
「ほー、金貨8000枚以上の価値のダイヤモンドに金貨2000の値段をつける奴と、どう話し合うんだ?それとな、言っておくが、全て鑑定して、価値は知ってるからな」
「なっ……」
「話しは終わりだな。黒き竜の物が売れてよかったよ。助かったよ。ありがとう」
「……黒き竜?」
レナードが呟く前に、げんきは、みんなを連れて、部屋から出て行った。
「まっ、まっ、待ってくれ!宝石は、適正な価格で買う、だから売ってくれ!」
げんきたちが出て行ったことに気づいたレナードは、げんきたちを追い、姿を見つけて、叫んだ。
「業突く張りが!てめぇに売る気は無い!黒き竜の物だけでも利益にはなるだろうが!」
げんきは、こういったが、
エンフィスでは、神は近い存在だ。
神に奴隷にされた者たちの持ち物、タダで手に入れて使うなら、欲しいと思うが、
店に並んでいる中から、わざわざそんな者たちの持ち物だった物は選びはしない。
しかも、黒き竜の一件は、街中に広がっていて、
街で、評判最悪の黒き竜の物は、誰も欲しがるはずが無い。
げんきたちは、後ろの方で、何か言っている声がしたが、無視して、ギルドの受付まで戻った。
受付に、ラルフと4人の奴隷と話をしている小太りの男がいたので、げんきは、挨拶がてら話しかけた。
「どうも、商談は終わりましたよ。お世話になりました」
「そうか、それは良かった。レナードだから心配してたんだが、大丈夫みたいだな」
話を聞くと、ラルフの奴隷になった4人は、これからは、ラルフのお店で働くらしく、商談ギルドに登録した後らしい。
「そうなんだ。そうか、なら、俺と商談をしないか?」
げんきは、ギルドに登録した2人に黒き竜の宝石で残っていた2つの大サイズのダイヤモンドを取り出した。
「これなんだけど、商談がまとまらなかった、所謂、売れ残りなんだ。一個金貨10枚で買わないか?」
げんきは、黒き竜の物を持っていたくないのと、餞別代わりに、格安での、商談を持ちかけた。
ラルフと小太りの男は、余りの安さに、びっくりしすぎて、固まっていた。
「えっ⁉︎」
「これを金貨10枚……」
母親2人の声に、ラルフが、正気を取り戻して、慌てて、2人にお金の入った袋を渡した。
「こんな商談、商人になるなら、直ぐに飛びつかないといけないぞ」
2人は、ラルフに言われて、袋から金貨20枚を出して、げんきに払った。
「助かったよ。ありがとう。じゃあ、また何かのときは、よろしく」
げんきは、2人にダイヤモンドを渡すと、
みんなで、商談ギルドを出て行った。
げんきが去った後には、大サイズのダイヤモンドを持って、頭を下げている2人と、呆気に取られている2人が残っていた。
レナードは、やっと、ギルドの受付までたどり着いたが、その頃には、げんきたちは、商談ギルドを出て行っていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
レナードのその後
ラルフと小太りの男が、その日の夜に、レナードが黒き竜の持ち物を全て買ったと、居酒屋で飲んでいる時に話し、次の日の朝には、街中に知れ渡ることになった。
2人は、元々、レナードのやり方が好きじゃなかったこともあり、レナードよりげんきの方が利益になるだろうと、考えて、ワザと少し早い時間から居酒屋で、大声で喋って、噂が広がるようにした。
買い取った商品を自分の店に運ばせて、並べて、開店させたレナードは、毎日来ていた者が、全く来ない事に気づいたが、すでに、遅かった。
噂が広がりきる前に、売るつもりだったレナードだが、買い取った次の日の朝以降、誰一人として、店を訪れる者は居なかった。
「何故だ、何故だ、何故だー」
ひと月経ち、レナードの買い取ったものは、何一つ売れなかった。
それどころか、付き合いのあった者たちですら、次の日には、レナードを見限っていた。
レナードは、自分の利益の為には、手段を選ばずに、周りにも、無理を強いていた。
それも、サーシュンで2番目に利益を上げている店のオーナーで、商業ギルドの副ギルドマスターだったから、周りの者たちは、何も言えなかったのだ。
そんな奴が、曰くのある商品を大金を出して、買ったとわかり、
ギルドマスターから、こちらと取引しないかと、良心的な取引を持ちかけられたら、
みんな、そっちに流れるのは当たり前だった。
そして、2ヶ月経った頃には、雇っていた者達が、契約が切れると更新せずに、レナードから離れて行った。
げんきへの恨みを晴らそうと、暗殺専門の裏ギルドに、大金を払ったが、一ヶ月以上音沙汰なし。
そして、レナードは、最後の手段を取ることにした。
最後の手段は、他の国に行って、一から始めることだ。
レナードは、帝国なら、貴族も多い、美術品なども売れると、帝国までの護衛依頼を冒険者ギルドに依頼したが、10日経っても、誰も依頼を受けなかった。
げんきが、関わっている事に、首を突っ込む冒険者は、サーシュンに存在していなかった。
仕方ないレナードは、戦闘可能な奴隷を残りの金で買い漁り、奴隷30人に護衛されて、帝国に旅立った。
だが、帝国との国境を越えたところで、戦争に巻き込まれる事になって、ボロボロになりながら、帝都に着いた。
戦争で、疲弊していた帝国には、趣向品に高い金を出して買う物は居なかった。
そして、戦争が激化したところで、帝国皇帝の命により、
レナードは、謂れの無い罪を着せられて、捕らえられ、財産は全て没収、奴隷に落とされて、無理矢理前線に出されて、戦死した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




