56.ボール
げんきは、起きると、一緒に起きたピーチとハクを撫でて、外に出て、タバコを吸った。
げんきは、アエリスが来る前に、
昨日狩った魔物をマジックバッグから出して、解体の準備をしていた。
少し明るくなってきた頃に、
アエリスとシロが、げんきたちのテントまで、歩いてきた。
「げんき、おはよう」
「ギャ」
「2人とも、おはよう」
3人は、いつもと同じ挨拶をして、げんきの解体を見ていた。
「えっ……」
げんきが、ゴブリンアーチャーを解体すると、
耳と魔石だけになってしまった。
「なんで?」
「あー、ゴブリンって、価値のない魔物なのよ」
げんきが、混乱していると、アエリスが、説明を始めた。
「ゴブリンって、魔物として、素材の価値が全く無いのよ。耳は、ギルドに持って行くと、討伐報酬ってのが貰えるから、価値があるんだけど、他はどこも価値がないの。解体のスキルは、解体を使った魔物の価値のある素材しか残らないのよ。だから、ゴブリンは、耳と魔石だけになるのよ」
「……なるほど」
げんきは、アエリスに説明してもらって、理解したが、ゴブリンって、解体する意味あるの?、と疑問に思った。
「あー、ゴブリンは、解体しても意味ない、みたいな顔だけど、その通りよ。ゴブリンは、耳を切って、身体の真ん中、胸の少し下あたりから、魔石とれば、解体完了よ」
「えー……」
げんきは、その後のゴブリンを、アエリスの指示通りに、スキルを使わずに、解体していった。
最初は、多少、魔石の場所が分からず戸惑ったが、三体も解体すると、ナイフ以外を汚さずに解体できるようになった。
他の魔物も全て解体して、紙に書くと、朝ごはんが出来たと、楓と椿が呼びに来たので、みんなで、朝ごはんを食べた。
「このゴブリンの山、どうしたらいいの?」
「あー、それなんだが、げんきたちに会わせたい子たちがいるから、その子たちにあげて欲しいかな」
「会わせたい子?」
ごはんが食べ終わって、げんきが、スキルを使わずに解体したゴブリンの山の処分を、どうしたらいいのか分からず、アエリスに聞いたら、誰かにあげたい、と言われ、会って欲しい、とだけ言った後は、返事はなく、
アエリスは、シロに何か伝えると、シロはツリーハウスの方に歩いて行った。
「会えばわかるから」
アエリスは、それだけ言うと、アエリスもシロの後を追っていった。
げんきは、楓と椿に、アエリスの話しをして、今日のお昼までは、マジックバッグの整理をすることになった。
げんきたちは、テントから少し離れた場所で、昨日の穴の中にあったものを、全て広げて、武器や防具を楓と椿、その他をげんきが、それぞれ担当して、整理していった。
楓と椿の担当だった武器や防具は、これといっていいものは無かったので、洗って、テントに積んでおくことになった。
げんきの担当のものは、鞄の中から、綺麗な状態の本が4冊、少しいたんでいるがまだ読める本が3冊あった。
それ以外は、装飾品や宝石など価値のありそうなものは、テントに積んで置くことになった。
げんきたちが、整理が終わって、武器や防具を洗っていると、
ツリーハウスのある方から、アエリスとシロの声が聞こえてきたので、
げんきたちは、声のした方を向いた。
げんきたちは、何やらボールが、げんきたちの方に、飛び跳ねて来ているのが見えた。
げんきたちは、良くわからない状況に、戸惑っていた。
げんきたちの耳に、段々と、ポヨン、ポヨン、とボールの跳ねる音が聞こえてきだした。
ボールは、ゴブリンの山の前で止まった。
アエリスとシロも、ゴブリンの山の前で止まったので、げんきたちも、ゴブリンの山に向かった。
「いきなりごめんね。紹介したいのは、この子たちよ」
「ギャ」
アエリスが、ボールを指差して言うと、30個のボールが、一斉に飛び跳ねた。
「えーと、どうも、げんきです」
「楓です」
「椿です」
げんきたちは、とりあえず、自己紹介をした。
「あれ、げんき、まだ眼で見てないの?」
「あぁ、アエリスの件があったから、見てないよ」
「おー、成長だねー。この子たちは、スライムだよ」
『これが……』
「スライムなんだ……」
げんきたちは、エンフィスにスライムが居ると、聞いた時から、どんな形か楽しみにしていた。
げんきたちの知っているスライムは、雫型の可愛いスライムだったので、ボール型とは思っていなかったので、少し戸惑っていた。
とりあえず、色は各種取り揃えてますよ、的にバリエーションは、豊富みたいで、30体のスライムは、全て違う色だった。
「目がちょこんとある〜」
「ほんとだ!可愛い〜」
楓と椿は、戸惑っていたが、スライムの目を発見して、2人は、可愛いー、と言いながら、スライムに近づいていった。
「口もちゃんとあるよ〜」
「あー、可愛いー」
げんきは、スライムにメロメロになっている2人を苦笑いしながら見ていた。
スライムも、2人に興味がある個体がいるみたいで、2人に恐る恐る近づいていた。
椿が、両手を出すと、サッカーボールくらいの黄色のスライムが、ちょこんと乗った。
「可愛いー」
「うきゃー」
椿は、手に乗ったスライムを見ていたが、辛抱堪らず、抱きしめたら、スライムが、叫び声をあげた。
椿が、慌てて離して、謝ると、また黄色のスライムは、手の上に乗ってくれた。
椿が、黄色のスライムと仲直りしたら、遠くから、ドスン、と音がして、
みんなで、音のする方を見ると、
ドスン、ドスン、と言わせながら、デカイボール2個が、跳ねながら、こっちに向かっていた。
「坊やー大丈夫ー」
「こらー」
「ん?」
『何?』
ドスン、ドスン、と言う音の間に、微かに声が聞こえてきて、げんきたちは、デカイボールの方を見ながら、耳を傾けていた。
その後も、何か言ってるような気がしたが、げんきたちは、聞き取れなかった。
「こら、2人とも飛んできたら、うるさいからゆっくりきて、ってお願いしてでしょ!」
『ごめんなさい』
「えー……」
『えっと……』
ゴブリンの山の前まで来たデカイボールに、アエリスが、怒ると、ショボーンとなったボール2個は、謝りながら1メートルくらいまで縮んでいった。
少しの間、デカイボール2個は、アエリスに怒られていて、げんきたちは、ただ黙って待っていた。
「ごめんねー。えーと、こっちの赤いスライムが、リル、こっちの黄色いスライムが、ラン」
「どうも」
『どうも、よろしくお願いします』
「2人は、この子たちのお父さんとお母さんよ」
「よろしく」
「よろしくね」
げんきは、アエリスから、リルとランを紹介されて、挨拶したが、色の違いしかないので、どっちが、お父さんで、お母さんなのか分からず、混乱してしまい、
後で、アエリスから聞いた時に、アエリスから謝られることになった。
ちなみに、ランがお父さん、リルがお母さんらしい。
その後は、椿がさっきの事を2人に謝った後は、
和やかな雰囲気になり、楓と椿は、リルと、スライムの子たちが可愛い、など話していて、何やら意気投合していた。
げんきは、ランとアエリスと、スライムについて話しをして、ゴブリンの山について話しをして、
スライムは、大抵のものは、食べて、吸収することができるらしく、吸収することで、少しずつ強くなっていくので、ゴブリンでもなんでも、吸収するらしい。
シロが、解体したオークの内臓や皮を持って帰っていたのは、子どもたちに食べさせる為だったらしい。
簡単に言ってしまえば、げんきの血肉吸収みたいなものらしい。
「必要なら、どんどん食べて、吸収して下さい」
「いいかい、ありがとう」
げんきは、話しを聞く前から、ゴブリンの山の処理に困っていたので、役に立つなら、どうぞ、とスライム一家の子どもたちに、ゴブリンの山をあげた。
げんきが、許可を出すと、子どもたちは、一斉に、飛び跳ねて、ゴブリンの山に群がっていった。
「スライムは、人のような食事を作って、食べたりするんですか?」
げんきは、今までの話しで、ふと疑問に思っていたことを、ランに聞いてみた。
「うーん、作るの線引きが難しいが、肉を焼いたり、水を沸かしたり、なんかは魔法で出来るから、たまにするってとこだな」
「なるほど、なら、お昼ごはんがもうすぐなんで、みんなで一緒にどうですか?量は、あまり多くは作れないと思いますが」
「いいんですか⁉︎アエリスさんとシロに、ごはんの話しを聞いて、食べてみたかったんだ」
げんきは、今の話しをリルと話している楓と椿にもして、テントの外で、バーベキューをすることに決まった。
げんきたちは、全員を連れて、テントまで戻って、
げんきは、外のバーベキューの準備、
楓と椿は、食材の準備と、大きな鍋3つ全部を使ってオーク肉の豚汁を作りはじめた。
スライム一家は、げんきたちのテントやげんきの準備しているバーベキューセットを、興味深そうに見ていた。
げんきは、アエリスとシロに手伝ってもらいながら、テーブルを追加でだしたり、焚き火を作ったりしながら、楓と椿の用意した食材を外の3つの網の横に運んでいた。
バーベキューの準備が整うと、
楓と椿が、マジックバッグに鍋を入れて、外に出てきた。
「じゃあ、バーベキューの開始だー」
何故か、開始の挨拶をしろ、と言われたげんきが、開始を宣言すると、
楓と椿が、網の1つずつで、各種肉や野菜を焼き始めた。
げんきは、2人の作った豚汁を器に入れて、みんなに配っていった。
準備の段階で、器の数が足りなかったので、アエリスに言われたシロが、急いで、ツリーハウスに、100個の木の器を取りに行って、ギリギリ開始の宣言に間に合った。
そのシロは、空いている網でピーチたちとバーベキューを楽しんで、ピーチたちの肉を焼いてあげながら、自分用のニンジンを自分の前で焼いて、ニコニコしながら食べていた。
げんきは、鍋1つ分をみんなに配ると、ピーチたちのところに行って、残りの鍋2つを横に置いて、肉を食べ始めた。
スライムの子共たちは、最初は、げんきに渡された豚汁の入った器を、身体から人の手のようなものを出して、器用に器を口に運んで、豚汁を一気に流し込んだ。
豚汁の美味しさに、子どもたちは、飛び跳ねていたが、楓と椿に、オーク肉やスネーク肉を焼いたものを渡されて、食べて、また美味しくて、飛び跳ねて、みんなリルに怒られていた。
子どもたちは、その後、豚汁が欲しい子は、げんきのところに、焼いた肉が欲しい子は、楓か椿のところに、頭の上に、器を乗せて、ちゃんと並んでいた。
頭の上に、器を乗せて、並んでいる光景に、楓と椿は、やられてしまい、どんどん肉を追加していった。
リルとランは、げんきからもらった豚汁を一気に流し込んで、子どもたちのように、飛び跳ねそうにはなったが、何とか耐えて、楓と椿から、肉をもらって、食べたら、ランは我慢出来ずに、一回跳んでしまい、リルから、怒られていた。
リルとランは、美味しいごはんを食べながら、子どもたちを見て、自分たちも並ぼうか、迷って、楓のところが、空いた時を見計らって、おかわりしに行った。
アエリスは、みんなを見ながら、スライムの子どもたちと一緒に、げんきのところや楓のところに並んでいた。
げんきは、座ってから、ピーチたちの分を焼いていたシロにお礼を言って、シロから変わってげんきが、ピーチたちの肉や野菜を焼き始めた。
ピーチとハクは、げんきの焼く肉をもらって、嬉しそうに食べているのを見た、
ルビーとホワイトも、主人の焼いた肉が食べたそうにしていたので、
げんきが、楓と椿のところに行って、焼いた肉を器に山盛りもらってきて、
2匹の前に置くと、グルー、と言って、コクリと頭を下げると、山盛りの肉にかぶりついていた。
その後、げんきもおかわりの豚汁を器に入れる作業が、本格的に始まった。
でも、豚汁は、無くなってしまったら、追加は無いので、ルビーとホワイトの器にいっぱい入れてあげて、残りは、並んでるスライム一家に、どんどん入れていった。
豚汁が無くなると、げんきは、解放されたが、楓と椿は、ずっと肉を焼いていた。
げんきは、ピーチたちに肉を焼きながら、初めてのスネーク肉を食べた。
感想は、骨が多い、クセが強い、ゴムのような弾力、だった。
1つ食べた後は、オーク肉を焼いて食べた。
楓と椿も、さすがに、追加した分の肉が無くなると、さらに追加で、肉を用意するのはやめて、バーベキューは終了となった。
お昼ごはんを食べ終わった後、
げんきたちは、リルとラン、アエリスと少し話しをして、リルとランは、げんきたちにお昼ごはんとゴブリンのお礼を言うと、子どもたちを連れて、帰っていった。
げんきたちは、バーベキューで疲れている楓と椿は、今日は休みにして、げんきとシロが、お腹いっぱいで、戦いたい、と言う、ピーチたちを連れて、狩りに行く事になった。




