23.いきなり
扉の先には木が生い茂っていた。
げんきは一瞬、状況の変化に対応する為に、
固まっていたが、すぐに周りを確認した。
げんきは1人だった。
「きゃ」
女の人の悲鳴が聞こえた。楓の声だった。
げんきはすぐに頭の中でマップと思った。
するとすぐに、頭の中に丸い円のようなものと点が、広がった。
赤い点が2つ、灰色の点が7つ確認出来た。
1つの赤い点の横に灰色の点が1つあり、
もう1つの赤い点は赤い点の方に移動していた。
灰色の点といる赤い点の方から悲鳴が聞こえてきたので、げんきも走り出した。
げんきが楓のところに着いた時、先に着いていた椿が、黒い狼の首を太刀で切り落とすところだった。
「大丈夫か?」
げんきは腕をさすっていた楓に声を掛けた。
「着いたらいきなり横から飛びかかられて驚いただけですよ〜」
「ほんとに?腕は?」
「大丈夫ですよ〜。腕は飛びかかられた時に、木にぶつけただけですよ〜」
「よかったー」
2人の会話を椿は、黙って聞いて、げんきに私を褒めてーと眼で訴えていた。
げんきも気がついて、よくやった、と言うと、椿の頭を撫でてあげた。
「で、これどうしたらいいんだ?」
「グロいね〜」
「いや…確かにグロいけど……」
げんきたちは椿が倒した黒い狼のもとに来ていた。
胴体からは血が垂れていて、その横に首が落ちていた。
元の世界で、普通に生活していく上で、まず見ることのない光景だった。
「解体しますか〜?」
「せっかくだし、スキル使ってみるか」
げんきは上級解体のスキルを使おうと、持っていた杖を黒い狼の死体に当てた。
「どうな」
「逃げるぞ!」
げんきは椿の声に被せて言い、杖を腰に挿すと、2人の手を取って、木の間を通って、さっきの場所から離れていった。
「どうしたの〜?」
げんきたちはさっきの場所が見える少し登ったところにある茂みに隠れてから、楓がげんきに尋ねた。
「敵だと思う集団が来てる」
そう、げんきは上級解体を使おうと、解体と唱えようとしたら、発動していたマップに灰色の点が一気に増えていき、げんきたちのいたところを三方向から囲んでいたのだ。
灰色の点は3つの塊で動いていて、1番多い集団で、20個以上の灰色の点が集まっており、他の2つも10個以上の灰色の点で集まっていた。
2人にその事を伝えて、3人は狼の死体のある場所を黙って見ていた。
最初に現れたのは、椿が倒した狼と同じくらいの大きさの黒い狼が5頭、その後にそれよりも大きくて全体的に赤い狼が6頭、最後に3メートルはあるだろうと思う、黒い狼が2頭、
その後に続々と普通の狼と赤い狼が集まっていた。
げんきたちは音を立てないように、狼たちを見ていた。
そんな時、げんきの眼の奥に熱い力を感じた。
それでも、げんきはマップと狼の集団を観察していた。
マップにある灰色の点が、黒い狼の死体のある場所に集まった時、
げんきの見ている景色が変わった。
驚いて声が出そうになったが、口を手で覆って、必死に我慢していた。
その様子に楓と椿が、げんきを心配そうに見ていた。
げんきは10秒経つと、元の状態に戻り、肩で息をしていた。
げんきは10秒間、いきなり目の前で見ているように、勘違いしそうなくらい近くで、集団を見ていた。
その状態で、狼に目を向けると、いきなり情報が頭の中に流れ込んできた。
ファレスノ・ウルフ レベル27
ファレスノ・ウルフ レベル23
ファレスノ・レッドウルフ レベル48
ファレスノ・レッドウルフ
げんきはいきなり情報が流れ込んできて、頭痛がしたが、デカイ狼に目を向けた
ファレスノ・ブラックウルフ
ファレスノ・ブラックウルフ
げんきはデカイ狼の名前が頭に流れ込んでくると、元の視界に戻って、先程よりも、酷い頭痛に見舞われていた。
1分くらい経つと、頭痛は治まっていき、落ち着いてきた。
「げんくん、大丈夫?」
「あぁ、なんとか大丈夫みたいだ」
椿は心配して、げんきに声を掛けて、げんきは大丈夫、だと言ったが、
げんきは先程までより、全身が重く感じていた。
観察していた狼の集団が、動き出したので、
げんきはマップに意識を向けた。
マップには灰色の点が、少数で四方に移動していた。
灰色の点の大きさが変わっている事にげんきが気がついた時、
げんきたちが今いる場所に向かって、灰色の点が一斉に移動し始めた。
「ヤバ、バレたか」
『えっ…』
「逃げるぞ」
楓と椿はげんきの言葉を聞いて、驚いて、げんきを見た。
げんきは2人が驚いて、固まっていたので、手を引いて走り出した。
2人は手を引かれて、走り出すと、げんきにどうなってるのか、尋ね、げんきたちを追いかけてきたいる、と聞いて、一度後ろを振り返った。
「索敵使えたら使って」
げんきに言われた2人は、急いで、索敵、と口で言うと、今の状況を把握した。
後ろの方から何かが追ってきている音が聞こえてきたのだ。
楓も椿も種族的なの事もあり、索敵を使うことで、より聴覚や嗅覚など五感の感度を上げることができるのだ。
げんきは重く感じる身体を走らせて、灰色の点から距離をとった。
ある時を境に、灰色の点は追ってこなくなった。
「なんかわからんが、追ってこなくなったみたいだな」
「ふぅーよかったです」
「なんか同じとこを行ったり来たりしてる足音は、まだ聴こえてきますよ〜」
「あぁ、マップでもそんな感じ」
げんきは2人に灰色の点の大きさが変わったこと、今は狼たち以外は灰色の点が1つだけ、だと伝えて1つだけの灰色の点の方を指差した。
「それで、げんくんは大丈夫?」
「正直、微妙」
「どういうことですか〜?」
げんきはさっきの10秒間にあったこと、身体のこと、を2人に説明した。
「それが竜眼じゃないんですか〜?」
「あーそういうことか、でも俺、竜力の力の使い方なんてわかんないよ」
「熱い力ってのが、そうなんじゃないかな。ステータス見てみたら?」
楓に指摘され、椿にステータスの確認を促されたげんきは、ステータスを見た。
竜力項目が1/100になっていた。
げんきは竜力のことを2人に伝えて、さっきの熱い力について考えた。
考え始めると、マップに変化が起きた。
狼たちは同じところにいるが、別の1つだけだった点のところに、4つの新たな灰色の点が増えて、最初にあった灰色の点が消えた。
それとは別に狼たちの近くに灰色の点が3つ現れた。
3つの点が狼たちに近づくと、狼たちは離れていった。
げんきは変わった状況を2人に伝えていたら、マップにいきなり現れた灰色の点が、げんきたち3人の方へ突っ込んで来た。
「ヤバっ」
『……』
げんきは突っ込んで来る灰色の点が、さっきの狼たちとは、比較にならないくらい早いと感じ、2人に逃げるぞと、声を掛けるより早く、手を引いて、2人を自分の方へ引き寄せた。
その後、椿のいたところを、茶色い塊通り過ぎた。
茶色い塊はゆっくり止まると、げんきたち3人に向き直って、突っ込んでいった。
げんきたちは茶色い塊が、自分たちの方に向いた時に、やっと何かわかった、イノシシのようなものだった。
イノシシもどきは、背中に赤い棘のようなものが無ければ、大きさも1メートルくらいの、げんきたちの知っているイノシシだ。
げんきの目の前に、いきなりイノシシもどきのが現れ、げんきは咄嗟に腕を前にクロスさせ、防御してが、イノシシの体当たりを受けて、吹き飛ばされ、少し後ろにあった木に背中から叩きつけられた。
「ガハッ……ウッ」
木に叩きつけられたげんきにイノシシが追撃の体当たりをしてきた。
げんきは何とか動いた左手で腰からナイフを取り出して、イノシシもどきの眉間のあたりに突き刺した。
イノシシもどきがげんきから少し距離をとった瞬間、イノシシもどきの背後から怒れる楓と椿が、太刀を構えて襲いかかり、げんきの一撃で鈍っていたイノシシは、椿の二撃目で、首もとを深く裂かれて、楓が同じとこに太刀を振るうと、首が落ちた。
『げーんーくーんー』
イノシシもどきと戦闘が終わると、楓と椿はげんきのもとに駆け寄った。
「あーいてー」
『大丈夫?』
「んー、今は右手は痺れてて、背中っつうか、翼?のあたりが、ジンジンしてる」
げんきは心配そうに見て来る楓と椿に、右手をさすりながら、後ろを向いて、背中を見せて説明した。
「うえっ、また来たよ」
げんきは4つかたまっていた灰色の点が、こっちに向かってきている事に、マップを見て気がついた。
げんきは2人に向かってきているのを伝えて、マップを確認して、灰色の点がない方へ、逃げ始めた。
「次は猿みたい」
索敵で視覚が強化された椿の眼が、向かってきている姿を捉えて、2人に伝えた。
「マジですか〜」
「見た目は猿だね」
「ほんとにどうなってんだ……勘弁してくれ」
げんきの愚痴に近い言葉を聞いて、2人は苦笑いした。
猿から距離を取る為に、
げんきたちは、どんどん奥に入っていった。
「なんか空気が重くなったな」
「確かに」
「うーん、そう感じますね〜。それにいきなり静かになって不気味〜」
「あぁ、不気味だな……マップには、3人の赤い点しかない」
「さっきまでは、森、って感じだったけど、今は樹海、って感じ」
3人は猿から逃げる時に、他の灰色の点のないところを逃げたので、戦闘は無かったが、
気がついた時には、さっきまでの風景や空気が、全く違うところにいたのだ。
周りは変わってしまってが、3人は少し落ち着いて、周囲に目をやりながら、話していた。
「えっ」
げんきはマップに、自分たちの赤い点の横に、いきなり灰色の点が現れて、驚いて、声をあげていた。
げんきはいきなり現れた灰色の点の方を向いたが、お腹に衝撃を受けて、吹き飛ばされた。
げんきが受けた衝撃は、さっきのイノシシもどきの体当たりの数倍はある衝撃だった。
げんきは二回跳ねて、木に叩きつけられて、止まった。
げんきは木に叩きつけられて、地面に落ちた後、顔をあげて、自分のいた場所に目を向けた。
そこにいたのは、
少し茶色くなってはいるが、
全身白いカンガルーのようなものだった。




