131.やり過ぎ
115階層は、今までの洞窟や鉱山の中の様な階層ではなく、半径1キロくらいの円形の闘技場のようだった。
「あれが、最後のボスへ続く扉か……」
『おっきいねー』
げんきたちが、階段を下りて、着いた場所の正面に金色の巨大な扉が見えていた。
みんな、扉に目を奪われて、その場で、止まっていた。
止まっていても、この階層には、一切モンスターが出現することはないので、構わないのだが、
げんきは、手をパンっと叩いて、先頭を歩き出して、
他のメンバーもげんきの後に続いた。
げんきは、マップを発動させ、115階層の情報を集め、眼で周囲を見回した。
「ギルドの地図通りみたいだ。ボスより先に、テントを張りに行こう」
115階層の闘技場のような場所には、正面にボス部屋の扉があるとするなら、後ろには、114階層への階段があり、左右には、安全エリアになっている空間が存在していた。
げんきは、右側にある広い方の安全エリアを拠点とすることにして、みんなを連れて向かった。
げんきたちが向かった安全エリアは、銀色の扉を開けた先にあり、中の空間は、小学校が一校丸々入るくらいの広さがあった。
げんきたちは、そこに着くと、
みんな慣れた感じに、テントを設営して、外にテーブルやイスなども配置して、拠点を作り上げた。
「それじゃあ、最後のボス倒しに行こうか」
「おー!」
拠点を作り上げて、一息入れてから、
げんきたちは、鉱石の神ダンジョン最後のボス攻略に動き出した。
最後のボス、確認されているのは、
ギガントアダマンタイトゴーレム 希少種。
本の情報によると、
20メートル以上のアダマンタイトでできているゴーレム。
レベル450台で、HP、攻撃力、防御力、魔法防御が異常に高く、ゴーレムというのに、素早さも高い。
物理、魔法のどちらの攻撃にも高い耐性があり、
魔法に至っては、雷、氷以外の属性魔法は無効で、土魔法は吸収されてしまう。
状態異常も高い耐性があり、状態異常にならない訳ではないが、状態異常になっても、短い時間で解除されてしまう。
そして、1番厄介なのが、鉱物変化という、ユニークスキルである。
このスキルは、鉱物に関わりのあるものなら、魔力に触れただけで、スキル所持者の思うままに変化させることが出来る。
つまりは、鉱物変化を使用している時に、鉱物で作った武器で、攻撃をすると、ギガントアダマンタイトゴーレムの思うままに、武器を変化させることができるのだ。
ただし、複雑なものへの変化や特殊なものへの変化は、スキルの効果で好き勝手に変化出来るとはいえ、高い集中力が必要となる。
まして、戦闘中ともなれば、よほど実力に差が無いと、スキルに集中できないので、精々、武器を砂などに変えて、破壊するのが限界である。
武器が不壊であるなら、戦闘中、余程のことが無ければ、武器は破壊されることはない。
と本に書かれていた。
げんきは、ボス部屋の扉の前で再度、みんなとボスの情報の確認をした。
「最初のメンバーは、打ち合わせていた通り。俺たちとマリアたちで行く。ピーチたちとセラたちは、留守番頼むよ。もし、5日経っても、俺たちが戻って来なかったら、計画通りに、サーシュンの屋敷まで帰って、好きにしてくれ」
げんきの言葉に、ピーチたちは、寂しそうな笑顔で、セラたちは、どこか緊張しているような笑顔で、頷いた。
げんきは、最後のボスが、ギガントアダマンタイトゴーレムであれば、勝てる自信があったが、
レアボスが、自分たちの手に負えない可能性も考えて、ピーチたちとセラたちに伝えた。
「それじゃ行くぞー!」
『おー!』
「はい!」×マリアたち
げんきは、みんなを見回して、ボス部屋の扉を開けた。
「勇敢なる諸君!我は鉱石の神!我がダンジョンの最後のボスに挑む者達よ!諸君がダンジョンを攻略出来ることを祈っている!さぁ、最後の戦いの始まりだ!」
げんきたちとマリアたちの全員が、ボス部屋の中に入って、扉が閉まると、
どこからか男性の、鉱石の神の言葉が聞こえてきた。
そして、鉱石の神の言葉が終わると同時に、
ボス部屋の中央に、巨大な白い霧が発生して、霧が晴れると、巨大なゴーレム、ギガントアダマンタイトゴーレムが出現した。
「レベルは、456!楓、椿、やるぞ!」
『おー』
楓と椿は、マジックバッグから、自分の武器を取り出した。
「マリアたちは、何があっても結界から出るな!」
「はい!ご武運を」
げんきは、マリアたちを覆うように三重の結界を張った。
「さて、2人とも、出し惜しみ無しだ!全力だ!」
「ちょっと〜、全力なんて……って、2人とも聞いてないね〜」
げんきの全力発言に、楓は、本のギガントアダマンタイトゴーレムの情報だと過剰過ぎると思って、止めようとしたが、2人が、既に、全力戦闘モードに入っているので、止めるのを諦めて、出番が無くなりそうなので、急いで、自分も全力戦闘モードに入った。
ギガントアダマンタイトゴーレムが、最初に動き出し、一歩目を踏み出した瞬間、ジャイアントオークの巨大剣を両手で持っている椿が、走り出し、その後に太刀と杖を持った楓が続き、げんきは、魔法を発動させるために魔法陣を出現させて、魔力とMPを流し込み始めた。
「あっ、げんくん!それはダメだよー!私の出番が無くなっちゃうよー!」
「げんくん!それは、いくらなんでもやりすぎだよ〜。本当に出番無くなっちゃうよ〜」
楓と椿は、げんきが、わざわざ魔法陣を発動させて、発動する魔法の正体に気づいて、出番が無くなる、と移動速度を最大まで上げた。
移動速度を上げたおかげで、げんきの魔法が完成するよりもかなり早く、椿が、最初の一撃をギガントアダマンタイトゴーレムに叩き込んだ。
椿は、最高速度のままに、両手のジャイアントオークの巨大剣をギガントアダマンタイトゴーレムを両断する勢いで、お腹に叩き込もうとしたが、
ギガントアダマンタイトゴーレムが、右腕を剣と腹の間に入れて、防御したので、ギガントアダマンタイトゴーレムを両断することは出来なかったが、防御した右腕は、砕け散り、肘から先が無くなった。
椿に少し遅れた楓が、実体のある椿の幻を10体作り出し、ハンマーを持たせて、右腕が砕け散り、ガラ空きになった右側から足に幻と共に攻撃を仕掛けた。
ギガントアダマンタイトゴーレムの反応速度を超えた楓の攻撃は、幻10体の膝への連続攻撃で始まり、10発のハンマーによる攻撃で、脆くなった膝に楓の太刀が振るわれ、
ギガントアダマンタイトゴーレムは右足の膝から下が無くなってしまった。
そして、楓の攻撃が終了すると同時に、げんきの魔法が完成した。
「雷竜、いや、爆雷竜の方が正しいかな」
げんきの頭上には、黄色いドラゴンが現れた。
その黄色いドラゴンは、白い雷を纏い、バチバチと言う音と、ボンッと言う腹の底に響く音を出していた。
この爆雷竜は、雷と爆発魔法の混合魔法で作り出されている。
正確には、げんきの作り出した雷魔法の雷竜という、雷で出来たドラゴンに、爆発魔法を組み合わせて出来たドラゴンである。
「やれ!」
げんきが、爆雷竜を右足が無くなり、バランスを崩し、膝をつくように、倒れていっているギガントアダマンタイトゴーレムに突撃させた。
爆雷竜が、ギガントアダマンタイトゴーレムに接触した瞬間、部屋の中は、白い光と凄まじい衝撃と音に包まれた。
全てが収まった頃には、ギガントアダマンタイトゴーレムがいた場所には、何も残っていなかった。
ボス部屋の中で、何が起こったのかが見えていたのは、げんき、楓、椿の3人だけだった。
何が起こったかというと、
爆雷竜が、ギガントアダマンタイトゴーレムに接触した瞬間、ギガントアダマンタイトゴーレムは、爆雷竜の雷が全身に駆け巡り、麻痺状態になり、爆雷竜の核が、ギガントアダマンタイトゴーレムに接触した瞬間、雷が爆発して、外側と内側からギガントアダマンタイトゴーレムを破壊し尽くした。
そして、全てが収まった頃には、HPが0になったギガントアダマンタイトゴーレムは、かけらすら残っていなかった。
『げーんーくーんー』
マップで、全てが終わったと安心したげんきの背後に、笑顔の楓と椿が、背後に般若を従えて立っていた。
げんきは、2人を二度見して、錯覚かと思う背後の般若を確認したが、残念なことに、げんきの目には、しっかりと般若がいた。
ゆっくり後ろに下がって行くげんきに、距離を離さずついてくる般若を引き連れた2人。
「これには、深い、深い、とても深いわけが……」
『正座!!!』
「はい!!!」
げんきは、正座、と言われて、すぐに、その場で正座した。
『どういうことかなー?』
笑顔の2人に詰め寄られ、肩を掴まれたげんきは、何も言えず、ただ下を向いた。
『やりすぎー!!』
『あそこまでする必要ないから!!』
『私達の位置も考えろ!!』
げんきは、2人の言葉にただただ、頷くしかなかった。
何せ、爆発魔法を組み合わせない雷竜だけでも、ギガントアダマンタイトゴーレムに致命傷を与えることは出来た。
爆発魔法を組み合わせたことで、ギガントアダマンタイトゴーレムを倒すことは出来たが、
爆発の余波で、楓と椿は、吹き飛ばされ、現在埃と煤まみれになっていた。
ダンジョンを攻略して、歓喜に包まれるはずの場面なのに、2人がげんきに説教しているので、
マリアたちと攻略を祝う為にスタンバイしていた男性は、声をかけるタイミングを完全に失ってしまい、
段々と小さくなっていくダンジョン攻略者と烈火の如く攻め立てる2人の般若を黙って見ていた。
ボスを倒してから、10分経った頃、
小さくなったダンジョン攻略者と2人の般若のお話しが、終わり、げんきが力無く立ち上がり、楓と椿の背後から般若が消えたところで、やっと出番が来たと、
ボス部屋の中に声が響いてきた。
「えー、ダンジョン攻略おめでとう!素晴らしい戦いぶりだった!君達には、私の加護を授ける。宝を受け取り、宝箱の中身を回収したら、階段が出現するので、下りて来なさい」
げんきは、声が途切れたので、逆に聞くことがあったので、空に向かって、話しかけた。
「あのー、外にいる仲間も一緒が良いのですが、俺1人階段を下りずに、115階層に戻って、再度ボスを倒したら、同じ階段は出ますか?このメンバーと合流することは可能でしょうか?」
「ん?変なことを言う奴でな。質問の答えだが、ボスを倒すことができるたら、階段は出現するし、階段を下りたら、パーティーに登録していたら、階段を下りた先で合流することは可能だ」
「良かったー」
「ただし、次のボスを倒すことができたらの話しではあるがな」
「はい!大丈夫です!答えて頂き、ありがとうございます!」
げんきは、ピーチたちとセラたちも一緒に加護を授けられそうだと思い、ホッとした。
げんきの丁寧な対応に、楓と椿は、軽く笑い、マリアたちは、朧げながら、声の主人の位を感じ取っていた。
そんな中、
げんきの前に、4つの白い光が現れ、
部屋の中央には、普通サイズの緑色の宝箱3つが出現した。
まず、4つの白い光は、
初回討伐ボーナス、と機械的な声が聞こえたので、
レアボスを討伐したボーナスだった。
1つ目は、20センチほどの金色の球体、金粘珠。
2つ目は、10センチほどの白金の球体、白金粘珠。
3つ目は、1メートルほどの白い卵。
4つ目は、金色と銀色の双剣、金銀蜥蜴竜双剣。
げんきは、1つ目は80階層、2つ目は90階層、4つ目は110階層のレアボスの特徴が色濃く現れていたので、
消去法で、3つ目が、100階層のレアボスだろうと思った。
金粘珠と白金粘珠は、げんきの眼で確認した感じだと、装備を強化するのに使う感じだった。
金銀蜥蜴竜双剣 神級
ー連撃上昇、先読み、対人上昇、土属性付加、蜥蜴生成、不壊
連撃上昇ー一定時間内で、連続して攻撃を与えると、攻撃した数に応じて、ステータスが上昇する。
先読みー使用者を生命の危機が襲う数秒先の未来がわかる。
対人上昇ー対人との戦いで、ステータスが上昇する。
土属性付加ーMPを消費することで、双剣に土属性を付与することができる。
蜥蜴生成ーMPを消費することで、10センチほどの土属性を持つ蜥蜴を作り出すことができる。
(消費したMPの量によって、蜥蜴の活動時間や出来る事が違う)
げんきが、双剣の説明をすると、
椿が、反応したので、双剣を使わないげんきと楓は、お互い顔を見合わせて、頷き、
金銀蜥蜴竜双剣は、椿に渡すことにした。
双剣を椿が、マジックバッグに入れた後に、
げんきは、アスカって双剣使ってたな、と思い出して、アスカの方を見たのだが、
アスカは、全力で、首を振り、顔の前で手を振って、恐れ多い、と口パクで言っていた。
げんきが、残りの100階層のレアボスのボーナスらしき白い卵を見ながら、最後まで卵推しだな、と思いながら、詳細を眼で確認した。
メタルコッコの卵生成器 神級
ー魔石もしくはMPを消費することで、1日1回、食用のメタルコッコの卵50個もしくはジャイアントメタルコッコの卵1個を生成することができる。
「げんくん、この卵は何の卵なの〜?」
「テイムするのー?」
楓と椿は、魔物の卵の類いだと思っているので、
げんきに何の種類の卵なのかを聞いて、げんきがテイムしないなら、どちらかがテイムするつもりだった。
「あー、この卵な、魔道具の類いだから、テイムできないぞ」
げんきは、2人に、卵を生成することができる卵型の魔道具だと、説明したら、ジャイアントメタルコッコの卵に関しては、興味があるみたいだったが、
テイムできないので、少し残念そうだった。
ボーナスが片付いたので、次は、宝箱、と思っていたのだが、
出現した宝箱は、普通サイズのミスリル製の宝箱3つで、
110階層のレアボス、100階層のレアボスの宝箱のランクよりも低く、中身も、これといって気になる物や見た事無い物は無く、神級の物も1つあったが、これまでに手に入れていた物だったので、
げんきたちは、さっさと、宝箱の中身をマジックバッグに入れた。
宝箱の中身を全て回収して、宝箱が消えると、
げんきたちのいる場所の隣に階段が出現した。
「これが、神ダンジョンを攻略した者のみが、入ることができる祝福の間にいたる階段………」
レイラの囁いた言葉に、マリアたちは、一気に緊張感を高めた。
「みんな、緊張しすぎ〜」
「攻略者として、堂々としてたらいいのにー」
マリアたちは、ボス戦で、一切何もしていないので、堂々とするのは無理だといった感じだったが、
強張っていた表情から、いつもより少し緊張している程度の表情にまで、回復していた。
「ほら、早く行きな。俺は、ピーチたちとセラたちを迎えに行かないとダメなんだから。楓、椿、頼むな」
『了解ー』
げんきは、ピーチたちとセラたちを迎えに行く為に、1人、ボス部屋に残り、楓たちが階段を下りて行くのを見送った。
「良いのだな?階段が無くなれば、後から階段を出すことは出来ないぞ」
「大丈夫だ。すぐに、また戻ってくるから、楓たちと同じところに繋がる階段の準備は頼むよ」
「承知した」
承知した、の声と同時に、げんきの目の前から階段が消えた。
げんきは、階段が消えたので、ボス部屋の扉に向かって歩き出し、ボス部屋から出て行った。
「なんて子だ。本当にすぐ戻ってくる気しかしないし、階段はそのままでいいか」
げんきの出て行ったボス部屋に、呆れたような男性の声だけが響いていた。