126.覚醒とデメリット
「げんき様、どちらへ?」
「ん?ちょっと外にな。先に寝ときな」
「……はい」
しょんぼりとした感じの声で、返事したのは、シャルだ。
シャルは、ゴールドスライム、プラチナスライム相手に固定特化ハンマーで暴れていたので、
げんきが、何か欲しいのあるかと、晩ごはんを食べ終わった時に聞いたら、お情けを下さい、と言って、
お風呂から上がってから、げんきの部屋で、今の今までお情けをいただいて、ベッドの上で、腰砕けにされていた。
「また明日、楽しもうな」
「はい!」
げんきが、明日も楽しもうと言ったので、
シャルは、元気良く返事をして、布団を被った。
げんきは、マジックバッグ片手に、部屋の外に出て、
色々大変だな、とため息を吐きながら、テントから出て行った。
テントから出たげんきは、テントから離れた場所にある横穴に入り、穴の出入り口を完全に塞いだ。
そして、周りの音を聞いて、周囲に誰もいないのを確認してから、呼び掛けを始めた。
「もしもーし。もしもーし、もしもーし」
「………」
3回程呼び掛けたが、反応がなかったので、呼び掛けの仕方を変えた。
「もしもーし、創造神ー。もしもーし、創造神ー」
「………」
「いつでも頼れ、って言ってたのになー。今から、1分以内に反応がなかったら、楓作のレシピが書いてある紙を燃やしちゃいそうだなー」
「……ま、待つのじゃー。あと、あと2分待つのじゃー」
「おっ、創造神、おひさー。2分だな、了解」
そして、1分と30秒が経った。
「待たせたな。そ、それで、楓様のレシピとは、なんだ?」
「ん?何か、元の世界とエンフィスでの栄養がどうたら、成分がなんたら、とか言って、今まで見て来て、鑑定なんかで、わかったことから、元の世界で、胸が大きくなると言われてた料理の中で、エンフィスの食材を使って、作れる物が書いてあるレシピだよ」
昨日の晩ごはんの時に、楓と椿に、今日の夜に、創造神に話しかけてみる、と伝えた時に、交渉の道具として、渡されたのがこのレシピだった。
「な、な、な、なんだとー、欲しい、欲しい、早く頂戴、早くー」
創造神は、げんきの頭の中で、喚き散らしていた。
「いやいや、どうやって渡すんだよ!あ、後、こっちの質問に答えてくれないと、渡さないよ」
「そんなの簡単だよ。えいっ」
頭の中の創造神が、何やら可愛らしい感じの声を出すと、
げんきの目の前が光で真っ白になり、1分くらいで、光っていた物が形を成していき、20センチくらいの人型になった。
何やら、羽根の生えた小さい創造神が、現れたので、
げんきは、とりあえず手でキャッチした。
「創造神か?」
「そうじゃ、この姿は、私がエンフィスでの調査をする時の姿じゃ!」
創造神だと言う小さな創造神は、げんきに首根っこを摘まれて、げんきの目の前で、胸を張っていたが、
なんだか2つの意味で残念な感じだった。
「早く離さんか!そのレシピとやらは、私の物なのだ!」
「先に、俺の質問に答えてもらおうか」
「むー、答えられないこともあるからな」
「そうか、なら、答えられなくていいよ。このレシピ燃やして、残念だったと楓に伝えておくから」
「嫌だなー、もう。げんきたちに話せないことなんてないよ。今なら、口が軽いよ。何でも聞くがいい」
レシピが大事なのか、楓が怖いのか、はたまた、どちらもか、わからないが、創造神は、素晴らしい手のひら返しをしてきた。
「そうだな。まずは、特殊とレベルについてだけど……」
げんきは、特殊とレベルの関係について質問したら、
創造神は、何を今更、といった感じに、げんきの考えと同じ事を話していった。
特殊0なら、レベルの上限は200、特殊1なら、レベルの上限は300と、特殊の数値が高くなって行く程、レベルの上限も上がって行くそうだ。
「次は、レイラ、マリア、シャルについてだけど、何が言いたいかは、わかるよな?」
「あ、あぁ」
「なら、あの表示はなんなんだ?鑑定の魔道具でも、あの表示は見えないみたいだしな。説明してくれ」
「それはだな……レイラとマリアの種族に関しては、隔世遺伝、先祖返りと呼ばれているものだ。まだ覚醒してはおらんがな」
創造神の説明をまとめると、
レイラとマリアのステータスの種族の横にある灰色に表示されていたレイラの月兎、マリアの月猫、
という表示は、2人の先祖に兎人種ー月兎、猫人種ー月猫が居て、2人は、その先祖の血を色濃く受け継ぎ、条件を満たせば、2人は覚醒し、月兎と月猫という種族に変わる。
「その条件ってのは?」
「簡単な事じゃよ。特殊の数値を1上げるだけだ」
特殊の数値を上げることについては、
エンフィスに来て、すぐの頃に樹の女神達から聞いていた。
神の管理するダンジョンを踏破すること
一つの職を極めて、特殊な職に就くこと
の2つだと教えてもらっていた。
創造神は、簡単な事、と言っていたが、
げんきが、今まで見てきた、人たちだと普通に困難な事、というより、不可能に近い気がしていた。
そして、話しの続きを聞いていくと、
楓や椿の金狐に銀狼も、エンフィスで生まれた狐人種、狼人種に適性があり、隔世遺伝、先祖返りをした場合は、未覚醒で、同じように、特殊の数値を上げないと、本来の金狐、銀狼と言う種族に成れない。
ただし、他の者よりも生まれた段階で、高いステータスは持っている。
月兎と月猫というのは、金狐や銀狼とまでは、いかないがそれぞれ種族的には、上位種であり、げんきたちのような例外を除けば、隔世遺伝、先祖返りをして、特殊の数値を上げるという条件を満たす事でしか、なれない種族であるらしい。
「あとは、灰色に表示されているスキルについてだが、これも月兎と月猫と同じような感じか?」
「あぁ、そうよ。2人のスキルは、月兎と月猫の種族スキルだから、覚醒と同時に、有効になるはずよ」
レイラとマリアには、灰色に表示されているスキルが2つずつあったのを、げんきは、初めて見た時くら気になっていた。
「それじゃあ、シャルについての話しを聞こうか」
「………聞かない方が良い事もあると思うぞ。それに、今は幸せそうだし、もうすぐ解放されるのだぞ?」
げんきは、ただ、無言のまま、首根っこを捕まえて、ブラブラしている小さな創造神を睨んだ。
構図を考えたら、げんきの方が悪者にしか見えない状況だったが、創造神は、げんきの無言の圧力に負けて、はぁー、とため息を吐いた。
「………シャルちゃんの持っている灰色のスキルについては、げんきも想像出来るでしょ?あのスキルは、効果が強すぎるのよ。だから、生まれた時にしか取得出来ないような調整をして、生まれた時に取得したものに、対になるようなデメリットスキルを必ず一緒に取得してもらっているのよ」
「そのデメリットのスキルってのが、《不幸の導き》って訳か」
「シャルちゃんの場合は、そう言う事になるかな。生まれた時に強力なスキルを習得した時は、必ず、対になるようなデメリットスキルを習得するようになっているから、必ずしも同じデメリットスキルと言う訳ではないけどね」
不幸の導きースキル所持者の精神状態によって、所持者、周囲にいる者に不幸が起こる。
シャルの持つ不幸の導きは、シャルの感情によって、効果が変わり、正の、プラスの感情なら、不幸の導きは、発動しないが、負の、マイナスの感情だと、スキルが発動して、周囲をも不幸に導くのだ。
しかも、不幸の導きなどのデメリットスキルの存在は、げんきクラスの鑑定能力もしくは、神級以上の鑑定道具が無いと、ステータスやスキルにすら表示されないようになっていた。
「それで、もうすぐ解放されるってことは、これも特殊の数値を上げると、スキルが有効になるんだな?」
「そうよ。それに、特殊の数値が上がると、デメリットスキルは封印されるわ。有効になったスキルが存在する限り、デメリットスキルは効果を発揮しなくなると言った方が分かりやすいかな」
なら、シャルの特殊の数値が上がれば、大丈夫だろうとげんきは、思ったが、後半のいい方が気になった。
「その言い回しだと、相手のスキルを奪ったり、破壊したりするスキルやモノがあるみたいだな」
「あははー、流石だね。私が今、確認出来るだけで、該当のスキルとモノは、21件あるかな。ただ、この情報は、流石に何があっても教えられないな。それに、この大陸内にはないから安心していいよ」
げんきは、ひとまず安心して、捕まえている創造神を見た。
「それは、残念だな。なら、取引しようじゃないか、創造神」
「取引?」
「そうだ。このレシピ、俺が、成分なり、栄養なりを眼で確認して、楓がそれを参考にして、書いてあるんだけど、これからも、俺たちは新しい食材に出会うことになるだろう。その時に、今回と同じように眼で確認して、楓に伝えていこう」
創造神は、げんきの言葉を聞いて、ゴクッと生唾を飲み込んだ。
「じ、じょ、条件は?早く言うのだ!」
「創造神なら簡単な事だよ。俺のスキルの《多次元マップ》にさっき言っていたスキルを奪ったり、破壊したりするスキルやモノなんかの、俺たちにとって脅威になり得るモノがマップの範囲内にあれば反応するようにして欲しい」
「そうじゃな……その程度の事なら、直接関わる訳ではないから可能だろう。良し、その取引受けよう!」
げんきは、小さな創造神の掌から出てきた神契約の紙にサインをして、創造神もサインして受理された。
受理されると同時に、小さな創造神から光の玉がげんきに飛んでいった。
「これで、私の条件は完了だ」
「ありがとうよ、創造神」
「これからも、よろしく頼むぞ!」
げんきは、小さな創造神から手を離して上げると、
パタパタと羽を動かしながら、げんきの顔の前に来ると、
創造神は、手を出して、楓作のレシピをねだった。
「あと1つ聞きたいことがある!」
げんきは、小さな手で、レシピをねだる創造神に最後の質問をすることにした。
「創造神、このシャルとの出会いは偶然か?」
げんきの言葉を聞いた創造神は、誰が見てもバレバレの目を逸らして、口笛を吹く、と言う子供のような行動をした。
「今、ここで、素直に話すなら、この事は、俺と創造神の秘密にしてもいいですよ」
「………本当?」
創造神は、恐る恐るげんきの方を向きながら、尋ねた。
「本当に秘密にしますよ。それに、怒ってないですよ。逆に感謝してるくらいですよ」
「……あの、その、私が、水の女神と協力してやりました」
「やっぱりか。スッキリしたよ。色々、気を回してくれて、ありがとうな。これが、レシピだ」
げんきは、創造神に感謝の言葉を述べながら、楓作のレシピを小さな創造神に渡した。
「この3枚は、食材や成分、栄養について書いてあって、その調理方だそうで、最後の1枚は、創造神に渡したらわかるって言ってたよ」
「ん?……ふむふむ、なるほど、なるほど………最後の1枚とは、これか、えーと………了解したのだ!楓様に、私が感謝と尊敬していたことを伝えておいてくれ!では、またな。気軽に話しかけて来い!」
創造神は、げんきからレシピを受け取って、3枚を流し読みして、最後の1枚を読み、自己完結して、げんきに伝言と挨拶をすると、小さな創造神の中にレシピを入れて、小さな創造神も消えてしまった。
「まぁ、いいか」
げんきは、最後の1枚の内容が気になりはしたが、自分に関係があることとは思わなかったので、頭の隅に放っておいた。
楓が、まだテントの自分の部屋ではなく、別のテントのお風呂にいたので、
げんきは、創造神からの伝言を伝えようと、
お風呂から出て来るまで、外でタバコを吸いながら、待つ事にした。
10分程で、楓が、真っ赤になっているシャーリーを担いでお風呂から出て来たので、
げんきは、創造神からの伝言を書いたメモと神契約をした事と内容を書いたメモを渡した。
げんきは、楓と少し話して、テントの自分の部屋に戻って、起きて待っていたシャルに出迎えられ、追加で一回戦楽しんでから、眠った。