109.帝国諜報部隊の襲撃とその後
家の中に入って、みんなで、静かな晩ごはんを食べて、お風呂で、今日の事をみんなで、話し合った。
げんきたちは、気持ちのリセットをする為に、
明日、1日休養を取ることになり、各々やりたいことをすることになった。
次の日の朝、
げんきが、ゆっくり寝ていたら、
ショコラが、げんきのお腹の上で、ぴょんぴょん跳ねていた。
「起きた、起きたよー」
(おはよー、あるじ)
「おはよう、ショコラ」
(街に行こー)
「まだ、早いよ。お昼ごはん食べた後に行こうな」
(むー、わかったー)
昨日のお風呂で、1日休養をとることになったので、
ショコラは、街に行きたい、とげんきを起こしに来ていた。
げんきは、お腹の上で、むくれているショコラを撫でて、ショコラの機嫌が良くなったところで、
ショコラを抱えて、朝ごはんを食べに食堂に向かった。
食堂では、セラたちメイドが、朝ごはんの準備をしていた。
まだ薄暗い、朝5時過ぎだと言うのに、早いなー、メイドって大変だ、とげんきは、ショコラを撫でながら、思っていた。
「みんな早いねー、おはよう」
「ご主人様、おはようございます」×メイド
げんきの軽い感じの挨拶に、メイドたちは、作業をやめて、一列に並んで、挨拶してきた。
「そこまでしなくても……」
「メイドとして、当たり前のことです」
「あー、はい……でも、ご主人様はやめてくれない?なんか居た堪れなくなるから」
「ですが、なら、なんとお呼びすれば良いのですか?」
「げんきで、良いよ」
「では、これからは、げんき様とお呼び致します」
正直なところ、げんきは、様は要らない、と言おうと思ったが、セラの目が、げんきの言おうとしていることを見抜いていたようで、
セラから、敬称は必要です、と釘を刺されて、諦めた。
「じゃあ、それで、お願い。それと、昼ごはんの後に、ショコラたちと街に行こうと思ってるんだけど、みんなも一緒に行く?」
「お供させていただきます」×メイド
「なんか違う気がするけど、まぁいいか。よろしく」
げんきは、気軽に誘ってみたのに、
メイドたちは、お仕事、と捉えていた。
他のメンバーも段々と集まって来て、
最後に、アスカとミカが来たところで、朝ごはんを食べ始めた。
「俺は、昼ごはんの後から、ピーチたちとメイドたちと、街に行くけど、みんなは、何するの?」
「それ、私も付いて行くー」
「私も〜」
「私もお供させていただきます」
椿、楓、シャルが、げんきたちに付いて行くと言い、
他のメンバーも予定を決めてなかったので、つられて、結局、全員で、街に行くことになった。
「みんなで、街に行くなら、晩ごはんはバーベキューしようか?」
『賛成ー』
アスカとミカ以外のメンバーは、バーベキュー?ってなっていたので、
げんきは、バーベキューを説明していった。
「昨日の晩ごはんから、チャイとアリソン以外は、肉を遠慮してたけど、気持ちを切り替える意味でも、晩ごはんは、みんなで、ワイワイやろうと思う」
『賛成ー』
「バーベキューには、メイドたちも普通の服で、参加するように。肝心の肉は、ドラゴンの肉を使うので、楽しみにしてるように」
「ウォー」
「おー」×多
チャイだけ、ドラゴンの肉と聞いて、雄叫びを上げていた。
そんなチャイに、アリソンは呆れて、
他のみんなは、笑っていた。
げんきは、朝ごはんを食べた後、
楓と椿の2人を連れて、昨日作った部屋を改造しに向かった。
「どう改造するの〜?」
「この部屋に、3人で、結界魔法を三重に張りたいと思ったんだ」
「何の為に?」
「俺たちが居ない時に、侵入者がいたら、ここに放り込んでもらおうと思ってな」
『なるほどー』
3人で、色々な案を出し合い、相談して、話もまとまったので、
3人は、部屋に結界魔法を三重に張り、
げんきが、家の住人達が間違って落ちても大丈夫なようにと、中に落ちた侵入者が逃げないように、鍵魔法で、結界魔法を強化した。
その後、3人は、メイドたちと馬たちを集めて、
侵入者が入って来て、麻痺してたら、穴に放り込んでおくように伝えた。
お昼ごはんを食べた後、
げんきたちは、家にいると言ったルビーとホワイト、馬たちを家に残して、街に向かった。
(人がいっぱいだー)
ショコラは、前に朝街に来た時よりも、多い人にテンションが上がって、げんきの腕の中で、バタバタしながら、キョロキョロ周りを見ていた。
(あっ、前が空いたよー。あるじ、すごーい)
げんきたちに気づいた住民たちが、道の端に寄って、
道が出来たのを見たショコラは、更に、テンションが上がって、げんきに話しかけていた。
ハクやクロも、げんきに話しかけてきたり、周りをキョロキョロ見ていたり、といつもより、テンションが上がっているようだった。
げんきたちは、まだ行った事のない店を数件回って、
げんきにお支払いを任せて、楓たちは、目に付いた服などを大量に買っていった。
ここまでの買い物の代金は、白金貨4枚以上になっていた。
「キャーー」
げんきが、女の買い物に恐怖しながら、広場で、ショコラが食べたい、と言った肉串をピーチたちと食べていたら、
楓たちがいる店の方から、女の悲鳴が聞こえてきた。
セラの声だったので、げんきとピーチたちは、肉串を食べながら、店に向かった。
「ん?」
(あるじー?)
「急ぐ必要はなさそうだ」
げんきは、マップを見て、セラの周りに楓たちがいるのを確認して、ゆっくり向かう事にした。
げんきたちが、楓たちのいるところに着くと、
楓たちの前に、腕のない者が2人、黒いローブを着た男が1人の3人が縛られていた。
「セラ、大丈夫か?」
「あっ、はい!大丈夫です!」
げんきが、何があったのか聞いたら、店で、買い物をして、店から最初に出たセラが、腕のない2人に襲われて、ナイフを首に当てられて、人質にされそうになったら、椿が腕のない2人の腕を斬り落として、セラを助けて、それを見て逃げ出した黒いローブの男を楓が捕まえた、ということだった。
げんきは、眼で3人を見て、3人に話しかけた。
「ティルクス帝国、帝国諜報部隊の方が、何のようですかな?」
3人にも、昨日の侵入者2人と同じ称号があったので、
げんきは、周りの野次馬たちに聞こえるように尋ねた。
「……」
「アハハ、この程度のかまかけで、動揺したら、諜報部隊失格だろ」
黒いローブの男は、げんきの言葉に無反応だったが、
腕のない2人は、目に見えて、動揺して、黒いローブの男を見ていた。
野次馬たちも、帝国?諜報部隊?と騒ぎ出す者が出てきた。
げんきがマップを確認したら、げんきたちに敵意を持っているのが3人、近くの建物の上にいて、げんきたちを見ていた。
「ショコラ、そいつらが動いたら、消し炭にしていいよ」
(いいのー?)
「いいよ。身体を動かしたら、やっちゃって」
(わかったー)
「ピーチたちは、みんなを守っててね」
(わかったー)
げんきは、捕まえてある3人の前に、ピーチとショコラを置くと、
楓と椿に目で合図を出して、
3人で、建物の上にいる監視している3人の元に、走り出した。
監視していた3人は、げんきたちが突然消えたことに驚いていた。
「少しでも長生きしたいなら、黙ってついて来い」
3人は、後ろから声をかけられて、慌てて、振り返ると、
げんきたち3人が、太刀を抜いて構えていた。
「てっ………」
げんきたちは、逃げようとした3人の足を斬り落として、3人に麻痺の矢を打ち込んだ。
「馬鹿な奴らだ」
『そうだねー』
げんきたち3人は、麻痺して動けない3人を担いで、みんなのところに戻った。
げんきたちが、消えて、3人を担いで戻ってくるまでの時間は、1分もかかっていなかった。
「ただいまー」
(あるじー、おかえりー)
(おかえりー)
「この3人も頼むね」
げんきたちが、担いでいた3人を先にいた3人のところに置くと、
野次馬たちは、何が起こったのかわからず、ざわつきだした。
マップで、領軍の基地から、騒ぎを聞いて、兵がげんきたちのところに向かって来ているのが確認出来たので、
げんきは、暇つぶしにと、騒ぎを聞いて、見に来ていた総合ギルドの隠れていた男がいたので、
ささっと、透明になっていた男の横に行って、
付いてくる?死ぬ?と言って、ナイフを見せたら、
男は、透明化を解除して、げんきについて来た。
「おまえも、こいつらの仲間?」
げんきは、違うだろうと思いながら、男に尋ねたら、
男は、必死に違う、そんな奴ら知らない、と言ってきた。
男の反応は、推理物で、追い詰められた犯人、って感じで、楓と椿も面白がって、参加してきた。
げんきも面白くなってきたので、男の目の前にショコラを連れてきて、ショコラにガゥ、と鳴いてもらったら、男は、水分無くなるんじゃないかというくらいの汗をかきはじめて、気を失ってしまった。
「やりすぎたか?」
「アハハー、げんくんやり過ぎだよー」
「やり過ぎ〜」
げんきが、気を失った男の顔を叩いて起こしていたら、領軍の兵士が到着した。
「なんの騒ぎだ………ございましょうか?」
兵たちの先頭にいた男は、騒いでいる場所について、
普段と同じように、収めようと声を上げたが、
げんきたちを見て、ショコラを見て、固まった後に、
いきなり丁寧な対応に変わった。
げんきは、兵たちの後ろから来た兵隊長アリテムに、
事情を説明していった。
「では、この者たちは、帝国の諜報部隊の可能性があると?」
「だと思うよ」
アリテムは、部下に、調べるように命令すると、
総合ギルドの男以外は、帝国諜報部隊、の称号があることがわかった。
「この総合ギルドの職員以外は、確かに、帝国諜報部隊の者だったようです。この6人の身柄をいただきたく思います」
「構いませんよ」
「そうですか、ありがとうございます」
アリテムは、部下に6人を基地に運ぶように命令した。
「それで、この総合ギルド職員ですが、どうされたのですか?」
「いやー、騒ぎの時に、コソコソ動いていたので、捕まえて、軽く質問してたら、急に意識がなくなったんですよ」
あれが軽く?、拷問だろ、と野次馬たちが、騒ついたが、げんきが目を向けたら、全員目を逸らした。
「げんき様の言ってることが正しいのか?」
アリテムは、見ていた野次馬たちに聞いたが、
野次馬たちは、示し合わせたかのように、一斉に頷いた。
「そうですか……」
アリテムは、多少話しとは違うのだろうが、
ここで、話しを聞いても、誰一人として答えてくれそうにないと察した。
「ウチの職員はどこだい?」
総合ギルドの職員が、騒ぎを起こしたと聞いた総合ギルドのギルドマスターレイナが、野次馬の中から出てきた。
「ここです」
「なるほどな、げんきか……」
げんきと倒れている男を交互に見て、レイナはため息を吐いた。
アリテムは、レイナが来たので、職員の男の事はレイナに任せて、基地に戻っていった。
レイナは、げんきに断りを入れてから、職員の男の顔をビンタして、叩き起こした。
「……ドラ………」
意識が戻った職員の男は、ショコラを見て、また気を失った。
「………げんき、すまないが、この馬鹿者を連れて行っていいか?」
「どうぞ、どうぞ。連れて行ってくださいな」
レイナは、職員の男を担いで、帰って行った。
次に職員の男が、目を覚ました時には、怒り狂っているレイナが、目の前にいて、また気を失う事になった。
騒動が収まったので、げんきたちは、
二件のお店に寄って、買い物をして、家に帰った。
「まだ居たのか……」
家の門の前に、帝国貴族の執事とその護衛らしき鎧を着た男2人、の3人が立っていた。
流石に、もう帝国関係はお腹いっぱい、とげんきは思っていた。
「少しよ」
「失せろ!」
げんきは、執事が、喋り始めたので、被せて、立ち去るように言った。
げんきの態度が、きなくわなかった護衛の2人は、
執事が止める間もなく、レイラとマリアに斬りかかったが、
護衛の2人は一歩踏み出したところで、楓と椿に手足を斬り落とされて、地面に転がることになった。
「なっ!」
「忠告は聞かないとな」
帝国の人間は、血の気がありすぎだと、げんきは、思いながら、地面に転がっていた護衛2人の斬り落とされた手足を燃やして、灰にした。
「お………」
執事は、げんきに軽く電気を流されて、意識を失った。
「面倒いけど、コイツらを領軍の基地に運んでくるよ」
「それじゃあ、私たちは、バーベキューの用意して待ってるね〜」
楓たちが、門をくぐると、
げんきは、ピーチとショコラを連れて、執事が乗って来ていた馬車に執事と護衛2人を積んで、
領軍の基地に向かった。
「これも、追加でよろしく」
げんきは、基地の前にいたアリテムに、馬車に乗せてきた3人を見せた。
「えーと、こちらは?」
「家の前で待ち伏せして、襲ってきた3人。たぶん、帝国関係者だと思う」
「そうですか……」
「この馬車もコイツらのだから、よろしく」
アリテムは、ため息を吐いてから、近くにいた兵士たちに、馬車と3人を基地の中に運ぶように命令した。
「どのような状況でしょうか?」
「命令してた奴が居ると思うけど、そっちはわかんないかな。ただ、3人のうち1人は、どっかの国のお付きの人だから、拷問でも何でもして、早く片付けて欲しいな」
「流石に、私の一存では、なんとも……」
「そうなんだ。なら、司令官に、近日中に片付けて欲しい、って言っておいてよ。これは、ただの独り言だけど、これ以上、周りがうるさくなるなら、俺たちが片付けるよ。その時に街があればいいな」
アリテムは、げんきの言葉に反応して、腰に差している剣に手をやったが、剣に手が触れる前に、なんとか止めた。
「司令官に、伝えておきます」
アリテムは、げんきたちが街で、暴れられたら、誰も止めれないし、本当に街が無くなる可能性すらある、と思っていた。
「じゃあ、よろしく」
げんきは、アリテムに任せて、ピーチとショコラを連れて、家に帰って行った。
家に帰ったげんきたちは、待ちきれない様子のアリソンとチャイの出迎えを受けて、バーベキューを楽しんだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
げんきたちが、バーベキューを楽しんでいた頃、
領軍の司令官マラサスは、兵隊長アリテムの報告を受けて、頭を抱えていた。
「げんき殿が、自ら動くと言われたのだな?」
「はい!街があればいい、とも言っていました」
ただの一個人が、街があればいい、と言って暴れたところで、領軍の兵士たちでも止めることは可能だろう、
でも、げんきたちは、領軍が捕まえることの出来なかった盗賊団を壊滅させて、街で一番のクランを暇つぶしと言って潰す者たちだ、止めることは不可能だろうとマラサスは思っていた。
「そうか……」
「私の勝手な意見ですが、彼等が動くような事になれば、今の街は無くなる、と思います」
「だろうな。私もそう思う。そして、誰も止めれないだろうな」
2人の考えは、全く同じだった。
「ならば、早急に問題を解決するか、もしもの時に、止める用意をするしかないでしょう」
「問題の解決は、すぐにでも取り掛かる必要があるだろう。ただ、止める用意は、どうする?何かいい案はあるか?」
2人とも、止める方法など、ありはしないだろうと思いながら、話しをしていた。
「正直、止める用意なんてないでしょう。用意なんてしたら、彼等がどう思うか、わかりません」
「そうだな……もし、用意しているのを不快に思われたら、最悪の場合には、街は無くなるだろう、良くて、領軍が彼等に敵と認識されて、領軍は消えるだろうな」
2人は、げんきたちに敵対した時の想像をして、
笑い出した。
「兵隊長、げんき殿は、命令を出している奴が居ると言ったんだな?」
「はい!確かに、そう言っていました」
「なら、話しは簡単だ。サーシュンの街にいる帝国関係者は、1人だけだ。恐らく、その帝国貴族が、黒幕だろう」
「そうだと思います。既に、帝国貴族の泊まっている宿には、監視を配置しています」
「そうか、でも、早まるな。仮にも他国の貴族だ。牢にいる者達から、情報を集めてからだ」
2人は、顔を見合わせて、頷き合った。
「どこまでやっていいのでしょうか?」
アリテムは、尋問や拷問に対しての限度を尋ねた。
「そうだな……執事以外は、どこまでやっても構わん。死んだとしても、どうとでもなる」
「了解しました」
アリテムは、司令官の許可も得られたので、
早速、帝国関係者がいる牢に向かった。
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アリテムが、牢に向かった頃、
サーシュンの街で一番の宿の一室では、
帝国貴族の腹の出たおっさんが、執事や他の者が帰って来ないので、イラついて、部下やメイドに当たり散らしていた。
「何故、誰も帰って来ない!」
おっさんは、手に持っていたグラスを部下に投げつけながら、部下を怒鳴りつけた。
「それは……失敗したのだろうと思われます」
「何故失敗するのだ!たかが、レベル50程度のガキ相手に、諜報部隊が!」
おっさんは、これまで監視して、げんきたちの力を調べて、諜報部隊に、王女と団長の身柄確保を依頼していた。
「伯爵様、しかし、レベル50程度と言っても、街の噂では、街一番のクランを潰したり、盗賊団を壊滅させた、と言われていましたので、噂が本当なら、諜報部隊でも、難しいと思います」
「たかが、街の噂だろうが!噂なんてものは、信用できないものだ!どれも、姑息な手を使ったに決まっている!レベル50にできるわけないだろ!」
おっさんは、部下に言いたいことを言って、メイドに新しいグラスを用意させて、酒を飲んで、
更に、部下などに当たり散らし始めた。
「伯爵様ー」
「何事だ!騒々しい!」
おっさんが、お酒を飲み、酔いが回ってきた頃に、
1人の部下が、慌てた様子で、部屋に飛び込んできた。
「それが……執事、諜報部隊、両方失敗、しかも、領軍に捕らえられて、現在、宿の周りを領軍の兵士たちが包囲しています」
「失敗だと⁉︎それは事実なのか?街の噂なんてものは信用出来ないぞ!どうなんだ?」
「間違いありません!情報を集めに行った酒場では、諜報部隊6人が失敗して、領軍に引き渡されるところを見た者が、10人以上おりました」
「そんな、そんなわけあるか!たかが、レベル50程度のガキ相手に失敗なんてあるか!」
部下は、酒場での話しを伯爵に対して、わかりやすく説明していき、
おっさんは、部下に、ありえない、と怒鳴り散らす、
ということが、部屋の中で、繰り返し行われた。
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夜中の1時を過ぎた頃、
街一番の宿から、二台の馬車が、帝国側の門に向かって、走り出した。
「何故だ、何故………」
前方の馬車の中で、帝国貴族のおっさんは、
頭を抱えていた。
おっさんは、部下が何度も何度も同じことを言って来たので、他の部下2人に情報を集めるように指示して、帰って来た部下2人からも、同じことを言われた。
そこで、やっと、自分の置かれている状況に気づいて、一刻も早く、サーシュンの街を出ないといけない、と帝国側の門に向かっていた。
後方の馬車には、オークションで、落札した奴隷たちを連れていたが、
当初の予定では、帝国諜報部隊の護衛があるはずだったのに、
今の状況では、護衛を雇う時間もないので、最悪の場合には、帝国に連れて帰る事すら出来ずに、自分の首が、飛ぶ可能性すらあった。
その事を考えて、おっさんは、馬車に乗ってからずっと、独り言をつぶやいていた。
「申し訳ありませんが、門を開ける事は出来ません」
帝国側の門に到着した帝国貴族一行だったが、
門番をしている領軍の兵士に止められていた。
「何を言っている!私は、帝国の伯爵だぞ!他国の貴族に対して、そんな事言って、無事に居られると思っているのか!」
部下では、話しにならないと、
自分が兵士と話したが、返ってきた返事は同じで、
おっさんは、怒り狂っていた。
「誰であろうとも、街を危険に晒す事は出来ません」
「貴様ー!おい!コイツを不敬罪で殺せ!」
おっさんの部下の1人が、戸惑いながら、兵士に斬りかかり、兵士の腕を斬り落とした。
「門、門破りだ!」
腕を斬り落とされた兵士が、大声で叫び、そのあと、部下に斬り殺された。
兵士の声を聞いた他の兵士たちは、門に集結していき、あっという間に、帝国貴族一行の周りには、400人以上の兵士が集結した。
帝国貴族一行は、一瞬で、集結した兵士の所為で、門を抜けることが出来なかった。
「何事だ!」
兵士たちの中から、兵隊長アリテムが、ゆっくり現場にやって来た。
アリテムは、現場を見て、大体何があったのか、察して、元凶と思われる帝国貴族の前に行った。
「貴様が、この門の責任者か?ならば、さっさと門を開けろ!」
「それは出来ません」
「私は、帝国貴族だぞ!」
「ここは、帝国ではありません。ルスツ王国のサーシュンです。ルスツ王国の法では、門を無理矢理通ることは犯罪であり、兵士を殺すことも犯罪です」
「帝国貴族である私を捕まえると、でも言うのか?兵士を殺したのは、そこの男だ!私は、関係していない!門を無理矢理通ってもいない!私を何の罪で捕まえると?」
兵士を殺した部下は、伯爵様、と呟いて、おっさんに襲いかかったが、兵士たちに止められた。
「何の罪も犯していないと?」
「当然だ!私は帝国に緊急の呼び出しを受けて、帝国に早く帰らないといけないのだ!だから、さっさと門を開けろ!」
「この期に及んでまだ何もバレていないと思っているのか!!」
アリテムは、既に、帝国貴族の伯爵であるおっさんがルスツ王国内で、やっていた悪事を、執事達を拷問して知っていた。
アリテムの言葉に、おっさんは、全て知られていると察して、門に走り出したが、すぐに兵士たちに止められて、地面に這い蹲る事になった。
「貴方達は、全員、領軍の基地まで、ご同行頂きます。抵抗した場合には、殺しても構わないと言われています」
アリテムは、おっさんの部下たちに向かって、警告を発すると、馬車を囲んでいた兵士たちが、一斉に剣を抜いた。
部下たちは、所持していた武器をその場で、放棄して、アリテムの指示通りに、大人しく領軍の基地について行った。
その後、ティルクス帝国に、ルスツ王国から、帝国貴族の伯爵であるおっさんが、ルスツ王国内で、やっていた悪事について、抗議すると、
帝国からは、そのような貴族は、帝国には居ない、その者が行なっていた事に帝国は関係していない、との返答があった。
ルスツ王国の女王は、再度、帝国へ抗議して、
関係ないと言われた帝国貴族のおっさんへは、徹底的に情報を吐かせるように指示を出した。
指示を受けて、それまで、帝国貴族と言う事で、
尋問だけしか行なっていなかったおっさんには、拷問が開始される事になった。
おっさんは、帝国に見捨てられた事と拷問に耐えらず、自分のやっていた事を全て話した。
帝国に一番近い都市のガリアに居を構えて、ヒューマン以外の種族で、目に付いた者は、部下たちに命令して、帝国に誘拐していた事。
国境を越えてきたヒューマン以外の種族の者達を襲わせて、殺して、持ち物を掠奪していた事。
帝国がルスツ王国へ戦争を仕掛けた時に、内部から王国を崩壊させる為に、帝国の兵士達をガリアに集めていた事。
などなど、おっさんは、自分の知っている事を全て喋った。
その後、帝国貴族一行は、犯罪に関わっていなかったメイド以外は、全て処刑され、メイドは奴隷落ちになった。
おっさんが、オークションで、落札した奴隷たちは、エイシャ王女が身柄を引き取ることになった。
その報告を受けた女王は、すぐさまガリアのおっさんの家に兵士を行かせて、家を抑えて、ガリアにいた帝国の兵士達を捕縛した。
家にあった資料から、皇帝からの命令書を発見して、帝国への抗議と共に、帝国との国境に兵を派遣して、帝国民の国境越えを禁止した。
この抗議を受けて、1年後、ティルクス帝国皇帝は、ルスツ王国へ宣戦布告を行なった。
これにより、ルスツ王国とティルクス帝国は、戦争状態に入った。
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そんな大事になるとは思っていなかったげんきたちは、ウッドドラゴンの肉のバーベキューを楽しんで、
明日からのダンジョン攻略に英気を養っていた。