〜中継基地〜5戦目
兵器庫となる広場の床が、一部開いた。自動開閉で開いたその中から、ティアが顔をゆっくりと覗かせた。入る頃にあった周囲の兵器が、いつの間にか無くなっていた。代わりに、すぐに目に映ったのは、その兵器や兵士達が、何かを取り囲むように終結していた。
「・・・まさか、本当に基地内に入ってくるなんて。」
2人と共闘することを誓ったティアだったが、改めて2人の強さを知った。周囲には誰もいないことをもう一度確認すると、穴から脱出し、再び気づかれないように姿勢を低くして移動していく。
建物から見下ろす、両目が青く光る兵士。そして下で対峙していたのは、右目が青く、左目が赤い青年。宣戦布告から、まだ上の2人は返事をしていない。青年は回答が来るまで待っていたが、ゆっくりと目を閉じる。そして少し経つと、再び目を開いた。
「いよいよ、どちらかが解放されるな。」
屋上にいる兵士へ届くような声でなく、淡々と青年が言葉を発した。周りの兵達も、青年が何か喋ったとしか把握できていない。唯一わかったのは、少女と屋上の2人だけ。いよいよ始まろうとする3人の戦いに、周りの兵士達は息を呑み、ただ傍観していた。
屋上の2人は、手に持つライフルのマガジンを外す。そして新しいマガジンを装着し、装填を終えると、青年へと構えた。青年はそれを見ると、少しだけ笑った。表情さえも、何故か笑顔を浮かべている。
ライフルを構える2人に対し、戦うのは青年1人。明らかに青年が不利だ。屋上の2人が持つ銃は、引き金を弾くたびに玉が出るオート式。対して青年は1発を放つためにリロードを必要とするボルトアクション式。何故か兵士達は、青年の心配をしていた。その心配を余所に、青年が動く。ライフルを構えたのだ。
始まった。負傷していた兵士が、1発の銃弾を放った。そしてもう1人も、青年へと銃弾を放つ。
その瞬間に飛び交う弾の動き、兵士と青年の動き。それらは、ただ少女だけが見えていた。ゆっくりと銃弾が、青年へと向かっていた。青年は狙いを定め、引き金を弾く。火花が銃口から噴出し、弾が出る。銃弾が放たれた後、青年が横飛びを始めた。
青年が放った銃弾が、1発目の弾丸に接触し、互いにはじけ飛ぶ。もう1発の弾丸は、青年の僅かに顔の横を逸れた。青年は足を着く前に、弾丸を装填。その間にも、再び2人が撃つ。同じく青年も足を踏ん張り、銃弾を撃ち、また交わす。青年の右肩を、ギリギリで通り越す。繰り返される3人の動き。
何をしているのか、周囲は全くわからない。しかし、銃は撃ち合っているのだから、戦ってはいる。弾をかわすことなど、まず無理なこと。何発も、互いに打ち合う。足元を何度も動かしている青年に対し、屋上の二人は引き金を弾くだけ。有利不利はやはり明らかであった。飛んでかわしているように見えるが、時に後方へと下がり、大きく走ってかわす動きを見せている。
その時だった。青年がもう1発放った瞬間。
「ぐっ!」
青年の表情が苦痛を浮かべる。突然、青年の構えていたライフルが、銃身が垂れ下がり、握力が無くなった手のひらはグリップを離し、足元へと落としかける。周りの兵士は驚いた。そして、少女も目を見開く。だが、なんとか膝をまげ、銃を左手で受け止めた。しかし、青年の右肩から流れる血がその状況を物語った。
限界が来ている。本来少女と血を分けたおかげなのか、その動きに異変は見当たらなかった。しかし、実際は大きな傷。それが今になって、ようやく響いてきてしまったのだ。右肩の傷を抑える青年。
(なんてタイミングだ、、、くそっ!)
心の中で悔しがる青年。屋上の兵士もまた、その姿は見逃すはずが無い。2人の兵士はともに、青年に照準を合わせている。誰もが青年の敗北を確信した。
だが、青年だけがこの状況でなかったと、周りの人間達も気づくことが起きる。
屋上の1人の兵士が、青年と同じく銃口を下げた。片膝を立てた構えから、やや前のめりに体が倒れ、床へ腕をつく。もう1人の兵士が異変に気づくと、兵士を見る。その兵士の腹部からも、血が流れていた。最初に少女から受けた傷だった。青年もその動きを見逃さなかった。
落ちたライフルを拾おうと屈みだす。青年が動いたことに気づいた無傷の兵士は、慌ててライフルを構え直す。青年がライフルを持ち上げる。兵士はスコープの中に、青年の頭部を当てた。その一瞬だけの中、青年が込めた弾が白い榴弾へと変わっていた。
青年は引き金を引き、同じ時に兵士も引き金を引いた。
青年の弾は、兵士の弾とぶつかる。榴弾は、僅かに軌道がそれた。そして兵士の弾も弾かれたが、その弾は青年の肩を掠めた。だが、皮膚までに至らず、戦闘服を焼いただけだった。そして青年の弾は、兵士の左胸を撃ち抜いた。その衝撃が強く、兵士は後方へと吹き飛ぶ。隣にいた兵士は思わず顔を上げると、そこに撃たれた兵士はおらず、後ろを振り返り、撃たれたことに気づく。
「あぁ!!!」
周りの兵士達が騒然とした。見たままの結果を知り、驚愕する。老兵もまた、「信じられない」と言わんばかりに、しわくちゃな表情が更に強張っていた。そしてまた、青年の手からライフルが落ちかけた。しかし、老兵の拘束を解いた少女が青年の元へと駆け寄り、落ちかけたライフルを左手で拾い、膝をつきかけた青年を正面から受け止めた。力無く倒れかけた青年の左脇を抱え、お互いの頰が触れる程の距離。
「大丈夫だ。」
痛みを感じるのか、青年の声が少し震えていた。少女は無言で、少しだけ頷く。抱えていた手を解くと、青年は膝を伸ばして立つ。右肩の痛みのせいか、ライフルを左手で受け取った。その後、屋上を青年は見上げる。少女は、見上げる青年の横顔を見ていた。少しして青年は少女に向き直る。
「頼めるか。」
青年の言葉に、頷く少女。