~中継基地~3戦目
基地の中を、ティアが走っていく。そしてティアとすれ違いに兵士、バギー、更に重低音を鳴らす戦車が通り過ぎる。周囲にいる兵士達は互いに声をかけており、ティアの動きを気に留めなかった。1人兵士が声を掛けたが、
「おい!外の様子を見たか?まだ生きてるか!」
「は!現在は壁際に追い込み、応援を求めております!」
足を止めたティアと、何処かの隊長と思われる男は会話を交わした。ティアの服装は、この基地にいる兵と変わらない色、形の戦闘服。また女性も配属された基地ということもあり、怪しむことなどない。
「それと、中にいる侵入者はどうなりました!」
「問題ない!既に『あの兵器』が対峙しているそうだ!こちらの班も外に向かう!」
(兵器。つまり、巣にいる子ども。2人が言ってた通り、ここに来ていたんだ。)
ティアは敬礼を、外壁へと進撃する兵士に向けた。それから、司令塔となる基地の屋上に目を向けた。外から聞こえる銃撃に混じって、その建物の上からも音が聞こえる。ティアは建物から目を逸らし別の場所に目を向けた。そこは
、兵器庫と、軍用車両が並ぶ広場。
(もう少し、まってて!)
青年は、ライフルを構え、標的とする兵士を撃ち抜く。監視塔を盾に、場所を移しながら抵抗を続けていた。駆け抜ける青年に、銃弾がいくつも飛び交う。服は削り取られるように焼ける。そして1発の銃弾が、左の二の腕に当たる。
「つぁっ!」
痛みを感じると顔を歪めた。しかし焼けた痛みが一瞬だったため、弾は腕を貫通していると気づく。だが、支えとした左腕が持ち上がるたびに悲鳴をあげる。それでも、構えては撃つことを続ける。走りながら、少しだけ笑みを浮かべた。
「、、、巻き込んでしまったが、」
呟くと、突然足を止めた。戦闘服の懐に手を入れ、何かの筒を取り出した。
「頼らせてもらう!」
ティアもまた、施設内へと辿り着き、扉を勢いよく開いた。中に1人兵士がいたが、突然ひらいた扉に怯んでいた。すかさずマシンガンを構えたティアはその兵士を撃ち抜くと、駆け足でレバーへと近づく。そして、両手でそのレバーを掴み、力いっぱいに降ろした。
「いくよ!」
青年が筒を地面に擦ると、火花が噴き出す。それと同時に、施設内の電源が落ちていく。ヘリのサーチライトが光っていたが、2発立てつづけに銃弾が撃ち込まれ、それらがサーチライトを沈黙させた。
そして青年は右手に持つと、高く上げた。火花から1発、弾が放たれた。
キィーーーーン、、、、!
甲高い音ともに、閃光が放たれる。
建物の上で少女と対峙していた兵士2人が、光に一瞬目が移った。それを見た少女は迷わず、建物の淵へと走り、建物から飛び降りた。
青年を囲む兵士達もまた、光へと目が移ってしまった。
少女は、壁の上から飛び出し、青年の横へと着地した。青年との距離は肩が触れる程。少女は立ち上がると、青年を見た。そして青年もまた、少女を見る。
「ごめんな。少しだけ、借りるぞ。」
青年は申し訳なさそうに、少女へ承諾を求めた。
「うん。」
少女は笑顔を見せ、小さく頷く。少し背伸びをすると、青年の二の腕から流れる血を、下でゆっくりと舐める。そして青年も少しだけ腰を下げると、顔を近づけて、少女の二の腕から流れる血を舐めた。
輝きを待とう球は、数秒だけ続いた。兵士達は前にいる青年へと向き直った。
「隊長!あそこに!!」
1人の兵士が、指を指していた。その先を、そこに立っていた兵士と、ヘリから覗く兵士も、青年と少女を見つけた。ヘリに乗る兵士は、唖然としていた。戦場で、そしてこれだけの危機的状況で、2人は互いの腕を舐めている。それが何を意味するのかさえ、想像できるはずも無い。
すばやく冷静に判断できていると操縦桿を握り、角度を調整。機銃を握り締める兵士2人は、ボタンを押した。機銃から、無数の銃弾が撃ち込まれる。2人へと一斉に、他の兵士達も銃弾の雨を見舞う。一瞬で当たりは砂煙に包まれ、火の粉を散らす。兵士達が放つ火花でさえ、辺りを明るく照らす。
その中から、何かが上空へと飛び出した。煙もそれに釣られて、宙へと伸びる。
「なんだ!飛び出したぞ!」
「上だー!!」
兵士達が声を掛け合う。飛び立った正体は、少女。その手には、ライフルが構えられていた。左目をスコープに当て、ヘリの機銃を持つ兵士の頭部に向けられていた。一発放ったライフルの銃弾が、機銃にあるガラス製のスコープを貫き、兵士の目玉を撃ち抜いた。絶叫とともに兵士がヘリから落下する。リロードをした少女は、操縦席へと撃ち込む。しかし、防弾ガラスにより、銃弾が弾かれた。反対側の機銃を握る兵士が、空中で最高値に達した少女へと標準を合わせた。
それよりも早く、少女は1発の銀色に染まった弾丸をリロードし、再び放つ。放つ瞬間、大きくライフルが少女の頭上を更に越え、衝撃が背中側へと反れた。
その弾丸は風を裂き、防弾ガラスを貫くと、パイロットの顔面が弾かれる。真っ赤な血と肉がガラス一杯に弾け、ヘリが傾く。機銃の引き金を思わず弾いた兵士は、地面にいる仲間へと弾丸を撃ち込んでいた。
もう一機のヘリが回避行動を取り出す。左右の機銃を操作する兵士はしがみ付きながらも、落下していく少女を狙っていた。
「野郎!!」
「倒す!」
殺気を込め、引き金を二人同時に引く。その少女を、別の影が攫った。銃弾は空を切る。もう1つの影と共に、少女が地面へと降り立つ。ライフルを、その影の人物に渡した。その人物は、青年であった。青年は少女を降ろすと、白銀の弾丸を装填し、ライフルを構える。ヘリの後方、テールローターと呼ばれるプロペラへと銃弾を放った。弾丸はヘリが放つプロペラの風圧を貫き、テールローターを撃ち抜いた。火花と一緒にプロペラが吹き飛び、そこから電気ショックによる火花が散ると、ヘリがプロペラの推進力に負かされ、胴体が回転する。
1機目のヘリが、地面へと墜落し、2機目もまた墜落した。その周囲にいた兵士とバギーは火に包まれ、明かりの無い大地が再び照らされる。2つの煙が天空へと伸びる中、残る地上の兵士は墜落したヘリに呆気を取られていた。それから、引きつる顔、恐怖する顔、震える体を、一方に向けた。
兵士達の震える瞳は、つがいのように前後に重なって立つ、赤と蒼の目をもった2人の姿を映していた。