どこかに、いないかな
むかし詩人が詠っていた、月光を浴びるピエロ。
頭の中に棲んでいて、しきりと手真似をする、
薄命そうで、どこまでもやさしそうな眼付きの。
「どこかに、いないかな」
例えば、いわゆる丑三つ時の街中、人も車も行き来しない大通りなんかで。
そのずっと先の方で、ビルとビルの間から、ふらり、ふらりと現れる。
弱々しくふらつきながら、まるで踊っているみたいに、通りを横切っていく。
一歩ごとに傾く身体、バランスを取るために優しく弧を描く手、足。
ふらり、ふうわり、ふらり、ふわり。
うん、いるわけないね。これじゃあ詩人のピエロじゃない。
それでも、僕は夢を見る。
詩人の、じゃない僕のピエロ。
まだ夜明けに届かない、誰もいない街中で、
ビルとビルに挟まれた広い道で、
端から端へと、ふうわり、ふらり。
月の薄明りの中、投げ出された手が大げさに踊る。
差し出された足がユラユラ揺れる。
綱渡りで落ちる直前みたいに、ふうわり、ふらり。
誰も見ていない、真っ赤に笑った目で。
そして、僕は同じ道の上で、遠くの彼をじっと見つめるんだ。
うん、知ってるよ。そんなピエロはどこにもいない。
それでも。
「どこかに、いないかな」