お母さんには気を使うな
「ーリウス起きなさい。ユリウス。」
肩を左右に揺らし透き通る様な声音で意識の覚醒を促してくる。
優しく触れられた肩口と声色から起床を促してくる人物の優しさが想い浮かべられる。
そんな優しさを知ってか、知らずか。
ユリウスと呼ばれる人物は湖面に浮かぶボートの様にゆらゆらと意識を微睡ませている様で
一向に起きようとはしない。
「もう。
この前までは体調が良い時は自分で起きてたのに…」
優しく起床を促す人物は次の手段と。
横になっている人物の奥にある窓に手を伸ばし大きく開け広げる。
その際
起床を促す人物の髪が
横になっている者の鼻先をくすぐった。
髪から香るほのかな甘い香りが朝食時という事も相まって
横になっている人物のお腹を刺激する。
クゥー
(流石にこれは起きないとな…)
さも今起きたかの様に目を擦りながらベットの脇に立つ人物に視線を向ける。
視線の先には長い金の髪が窓から差し込む日の光を受けてキラキラと輝き。
肌は白く透き通る様で
見る者すべてを優しさの渦に飲み込まんとする微笑みを浮かべている女性がいる。
「おはようママ、今日も綺麗で太陽の方からママにスポットライトを当てにきてるよ。」
「 ? おはようユリウスご飯出来てるから着替えてくるのよ。」
そう言うと踵を返して部屋から出て行ってしまった。
1人残された部屋でおもむろに立ち上がり、窓に両手を掛け身を乗り出して
もう結構高くなってきている太陽に向かって
「今日も朝から最高だぜ!!」
アホが吠えた。
(特に今日は天動説絡み&スポットライトという現代用語で
褒めたからお母さん分からなくて小首傾げたところが可愛かった!)
俺は美人母を待たせないように直ぐさま服を着替えて部屋を飛び出した。
母との食事がこんなにも心躍るとは一週間前では全く考えて居なかった。
なぜ俺はこんな美人をほったらかしに今まで1人苦行をしていたのだろう?
いや、勿論チートに成る修行を辞めたいとかそんな事を考えてる訳でなく
ただ一般的かつ合法的に美人な女性に甘える事を無下にして
苦行、苦行、苦行の毎日に身を呈し続け
身近にある甘美な果実をスルーし続けるのは…
男として…否!
息子としてこんな大罪はない!
(産まれてから三年という長い月日の間俺は大罪を犯し続けていたとは…)
気づけるチャンスは何回もあった。
苦行のお陰と言ってはなんだが
俺はよく知恵熱や風邪を患う事があり
その度に白衣《天使》のナースよろしく
母が看病してくれた事が何度もあるし
産まれてから意識がある俺である
モチのロン乳飲み子としても俺は俺であった。
なのにも関わらず
俺は何もして居なかった!
悔やまれる。盛大に悔やまれる。
人生に一度しかない授乳という期間を盛大にスッポカして
あまつさえ美人と湯浴み、添い寝、膝に抱えられての絵本の読み聞かせetc.を
普通或いは、申し訳なく思いながら過ごしていたなんて!
人生最大の汚点となりえた。
そう!
“なりえた”のである。
(俺は回避した!)
無為にした三年は長いが
残りの人生を考えればたった三年で気付けた事が行幸!
一番貴重な三年ではあれど
そんなの10年、20年、30年経てば容易に覆せる。
だから
(あの時気付けて良かった〜)
普通、母親に対して思ってもいけない
口に出したら揶揄される様な事を
気付いてしまった事件
変態性をまたもや上げてしまった事件
一週間前の事を考える。
今思えばあの時の俺は自分で使っていた闇魔法に罹っていたのだろう。
あの時最後の蜂を殺す時に母が駆けつけて
頭を引っ叩き、そして抱きしめてくれて居なければ
俺は殺す事に快楽を得て、知らず知らずの内に狂人になっていただろう。
あの時の母の姿は鮮明に覚えている。
視界は赤黒く濁っているような感じではあったが
いつも太陽の光に1本、1本が反射する様に輝く金色の整えられた髪が
必死に俺を探してくれたのだろう事がありありと分かる程乱れ
服は所々土埃や泥、蜘蛛の巣などが付き
顔は目元は赤く腫れ、涙いてたのか、涙痕もあり、頬は上気し朱に染まっていた。
普段の母と見比べると別人の様に酷い有様ではあったが
だがそこには、我が子を思う母親の姿が体現されているようで
俺の胸を熱くした。
抱きしめられた腕からは想いの強さが表れているように強く。
密着した体からは早鐘を打つ心臓の鼓動が感じられ。
耳元には嗚咽と深呼吸、そして安堵の声が入って来る。
そんな母の姿が
先程までの昂っていた感情と混乱した頭を正常に戻し、意識を手放したのである。
その後は母から聞いた事だが
俺をおんぶして大人の足で歩いて30分は掛かる近くの村の薬師の所に運んで
診てもらい帰宅したらしい。俺が丸一日寝ていた為心配を掛けたが
今はこの通りピンピンしている。
元気が良すぎて若干母に呆れ混じりに対応されてはいるが
それすらも俺のギアを1、2段階上げている事に母はまだ気付いていない。
朝食中
俺はわざと皿に盛り付けてある緑色のピーマン?の様な野菜を皿の端に追いやる。
もちろん嫌いという訳ではない子供の味覚のせいか少し…
いや…かなり苦くはあれど
愛すべき母が作ってくれた料理である美味しくない訳がない!
だがコレをそのまま食べるには少し度胸がいる。
前までなら小さくして、他の物と一緒に食べるか
噛まずに飲み込むという作戦をしてはいたが
(現在の俺は母の愛を知っている!)
言っている意味が分からない人も居るだろうが
ここは少し待ってくれ…すぐに分かる。
そうして朝食が緑色の野菜を残しすべて食べられる。
この時になると母も俺の皿の上の現状を把握したのか声を掛けてくる。
「どうしたの?ピーマンだけ食べないで」
「だって苦いんだもん!」
「この前まで普通に食べてたじゃない?
食べないと大きくなれないわよ?」
「前までのより大きいから食べたくない!」
(ごめんよマミー本心じゃないから許して…)
「はぁ〜わかったわ。」
そう言うと母は俺の皿の上のピーマンを半分に切り分けて
木のフォークで刺し俺の口元に持ってきた。
「はい、半分だけは食べなさい?あーん」
(待っていましたこの時を!)
母の事だからどんな事しても食わせてくると思っていた。
もしも本当に拒否ろうとすれば諦めてはくれるだろうが
今回は普段食べていた野菜の拒否だ。
食べさせに来ない訳がない。
そして
甘く優しい母の事
あ〜ん♡で拒否権を封じてくる事も予想済み!
(今日も朝からハッピーデー!ありがとう神様!転生最高!)
そんな事をおくびにも出さず
苦々しい顔をしながら差し出されているピーマンを頬張った。
(美味い!美味過ぎる!料理はやっぱり味覚より視覚だな!)
これで終わらないのが
悠介改め、ユリウス・マジック!
甘々しいピーマンが口から消えた後に
俺の皿に残ったもう半分のピーマンを俺が持つ
子供用、木フォークで突き刺し
母の前に上げる。
「ハイ!あ〜ん!」
秘技あ〜ん♡返し!
効果:フィールド上に存在するプレイヤー2人以外を甘々で死滅させる。
まぁ現状この家に2人しか居ないのだが
「食べたくないだけで必死ね…。」
何かを勘違いした母は髪を耳に掛けるようにして
俺の伸ばされた腕じゃテーブルを挟んで向かいに座る母にはどうしても届かない為
椅子から立ち上がり身を乗り出す様にして食べた。
食べる際俺を見る様にして食べた為上目がちで
少し恥ずかしいのか頬が赤みを帯びていた。
(ヤバい萌え死ぬ!)
益豚の田中が言っていたが萌えを生み出す人物というのは
通常時に自然的なまでに
その動作を何の考慮も無しに行ってしまう。らしい
それで
【豚】と呼ばれる存在はその自然的な動作に心を虜にされ
また見たい!
もっと見たい!
もっともっと見たい!
…と思ってしまう自然の探求者。なのであるらしい
このままでは俺も自然の探求者になってしまう。
いや…母で萌えるのならそれは良い事なのでは?
2次元の嫁ではないし…(父親の嫁である)
なんて言ったって親子だし…(親子だからこそダメである)
俺は噛み合わない思考と感情を保留にしようと
凄く惜しいが母との目線を外す
「…え?」
俺の視界の中に写り込んだのは
先程俺が母に食べさせる時に母が煩わしい為
髪を耳に掛けた際、露わになった耳。
もちろん若い頃母が巷でブイブイ言わせていた時の名残りでピアス痕が複数見つかった。とか
耳たぶが大きくて七福神みたいだね!
…といったクソみたいな理由ではない。
もしこの耳で母がピアスの穴を空けようとしたら軟骨にブッ刺すしかないし
刺す場所は耳の天辺である。
何が言いたいか分かった人はそのまま心に置いておいてくれ。
今から検証だ!
まず、俺と母が住んでい(エル…)黙れ!
俺と母が住んでいる場所は近場の村から30分程離れたログハウスである。
疑問(1魔物と呼ばれる生物が住むこの世界でなぜ危険を冒してまでこんな場所に?
俺の母は美人である。この世界的価値観も前世とあまり変わりはない。
疑問(2だが何度か近隣の村に母と行ったが母がナンパされる様子は見た事がないなぜ?
俺の父は宙ぶらりんで時々帰って来る際は必ず夜で、翌日の夜には出発する。
疑問(3宙ぶらりんの父は帰って来ても母とデートとか買い物に行かないで家の中でゴロゴロしているだけですぐに出て行くなぜ?
他にも色々な疑問が頭に浮かぶ。
なぜ母の胸は残念なのか?
なぜ母のおっぱいが無いのか?
なぜ母の乳は父より小さいのか?
数々の疑問が脳裏に過り
それらが収束される様に俺の視線は母の耳に集中していた。
昔父の部屋で亜人種に関する本を読んだ
内容は端的でどの様な種族が居るかと種族の特徴が記載されているモノであった。
でだ
最初の方に書いてあったのだ。
《異種族間での交配した際子供が出来た場合どちらかの種族になる》っと
別に母がエルフであっても
母の可愛さや優しさが消える訳じゃないし
前世の俺であれば『エロフ!エロフ!』と歓喜し
年齢を聞いて『ウヒョーエロフの熟練の技!?…ゴクリ』
とか考えたんだろうが…
もし母がエルフであった場合
そして二分の一の確率を引き当てた場合
俺は子供の姿のまま
後14年以内に来るであろう友人達に会わねばならず
その際子供の姿だと
色々面倒な事になるであろう事は予想に難くない。
俺が脳内で壮絶な葛藤をしている間に
母は食器を洗い上げ不思議そうにこちらを向いている。
(か、覚悟を決めろ俺!
俺のただの杞憂かもしれないじゃないか!
昔から妄想で決め付けるのは良くないと
女教師ゆうこちゃんにも言われていただろ!)
俺は意を決して
母に疑問をぶつけた。
「ママ…もしかしてエロフ?」
うん、噛んだ
噛んだという事にしてくれ
間違えただと俺の頭の中に
【エロフ】という単語が入っていると思われてしまう。
入ってないよそんな単語!
俺を何歳だと思ってんの?
片手以内で収まる年齢だぜ?
「? お母さんがエルフか?って事?」
「そ、そう!耳長いし!むNe…き、綺麗だし!」
瞬間的に射抜く様な視線になったが大丈夫であった。
そういえばスレンダーという単語を使えばフォロー出来たな
次からはそうしよう。
「そういえば言ってなかったわね〜
お母さんはエルフよ?
お父さんは人間族だからね?分かった?」
この言葉で俺は二分の一の超選択に陥った。
「う、うん
じゃあ俺は…どっち?」
シンっと静まり返った家の中
時計が無いので針の音すら聞こえてこない。
ただただ心臓が張り裂けそうなぐらい大きく鼓動する。
俺にとっては最大の難所である。
これの成否で俺は今後の修行に対しての本気度が変わる
人間族であればこのまま続ければ良し
もしエルフであれば…
子供というハンデすら覆せるよう魔法の修行をしなければいけない。
俺の真剣な態度が伝わったのか母が口を開いた
「…好きな子できた?」
俺の考えていた2つの答えとは全く違う発言が飛び出した。
「はぁ?いえ全く?………?!?!」
言葉にしてから気づいた。自分が失敗した事に
母は妖艶な笑みを浮かべながら言い放った。最悪の言葉を
「ふふ♪♪なら、お〜しえない!」
俺は自分の種族がどちらか分からないまま
修行量だけが増えてしまった。
「ねぇママー教えて〜お願いだよ〜。」
「ふふ♪成長すればわかるわよ。
エルフなら成長しなければかな?」
「ねぇママ〜
可愛いよ〜
だから教えてよ〜」
「ふふん♪そう言う事は好きな子が出来たら言ってあげなさい。」
「俺の好きな子はママだよ〜
だから〜
だからせめて答えを〜」
「だ〜め。」
「ママ可愛い〜特に胸!」
パチコーーン!!!
そんな親子のやり取りは数時間続いた。
気付いた方も多いと思うっス
そうっス
ユリウスをマザコンにしたかった為の前回の話っス
前回お気を悪くされた方が居ましたら本当に申し訳ない事をしたっス