神様にも気を付けろ
不愉快な笑い声で俺の意識は覚醒した。
(ここは…どこだ?)
暗くもなく、そこまで明るくもなく。
(普通に何も見えない。)
もしかしたら俺は目蓋を閉じているのでは?
っと思ったが目蓋が開けない。
閉じる事もない。
手で目蓋を持ち上げよう!
…と思っても動かない。
仕方ないので足で!
…もちろん動くはずがない。
感覚が無いのである。
睡眠時の夢の様な感覚。
だが夢ならこのいつまでも続く不愉快な笑い声はどうにかならないのだろうか?
他の感覚が無いのに聴覚だけ使えるという事ではなく
ただ響いてくる様な。
これが世に言う『心に響く声』というのではないだろうか?
もしも…
もしもだが…
この人を嘲り、見下し、馬鹿にしくさった様な笑い声が
俺の『心に響く声』であったのだとしたら
俺は相当なヘンタイだと思われてしまう。
そうならない為にも
いや、もう手遅れかもしれないが…
俺はこの声の主を特定して
笑われてる理由と
現在の俺の状況を聞かなければならない。
(あ、あの〜)
実際声を掛けようにも口が動いてるとは思えない…
どうしたら良いのだろう?
身振り手振りジェスチャーすら出来ない。
最終奥義のアイコンタクトすら目が見えていない以上終わっていると言えよう。
だが
俺の想いが通じたのか
笑い声が徐々に治まっていく。
笑い声が聞こえなくなったところで、笑い声の主は衝撃の事実を告げた。
「ほぼ君が考えてる通りだよ。」
やはり俺はヘンタイであったか…
自分でも気づきたくなかった事実だ。
だが他人から言われるとスッと心に響く。
俺は一体何処で道を踏み外してしまったのだろう?
直ぐに思い出されるのは
ここ?に来る前に2、3度包丁で斬りつけられた事と
俺の手を握って話しを聞いてくれた黒川の凛とした態度である。
前者が肉体的、後者が精神的に
俺をワンランク上に押し上げたのではないだろうか?
そうだとしたら…
いらん事をしてくれたあのクソデブと黒川には言わなければいけない事が出来た。
(それはやはり転移!
意識を失う寸前に魔方陣の様な紋様が教室の中央に見えたのは気のせいじゃなかったんだ!)
「君は思考回路が通常の人間よりバグがあるよね。まぁいいけど。」
(今から異世界行ってクラスメイト達とヒャッホイする訳ですね?分かります。)
「君、意識が無くなる前に自分で言っていたよね?
忘れたの?
転移される前に死んだんだよ。
遅かったんだよコンマ数秒。
残念だったね。」
そう言うとまた不愉快な笑い声を出し始めた。
「ククク、はぁ〜異世界渡る奇跡の様なチャンスを目の前に暴漢に殺されるとは…プププ」
(あーそうかい。笑っていたのはそれだったか…)
「クスクス、まぁ元気出しなよ。
君が話している相手はなんて言ったって神だよ?
異世界渡るより激レアだよ。プークスクス」
(んじゃなんだ?生き返らせてくれるのか?神様よ?)
「それは面倒だから産まれさせてあげるよ!」
神(仮)の説明によると一度死んだ者をそのまま蘇らせるのは色々と世界に影響が出て
それもひっくるめて蘇らせるのはクソ面倒らしい。
俺をそのまま異世界に送り、産まれさせた方が100万倍楽だとか。
(それで本当に大丈夫なのか?)
少し疑問に思ってしまう。
「魂は同じ、記憶もある…大丈夫さ!
それでも嫌なら…死んどく?」
(頑張るって方向性は無いんだな…分かったそれでお願い。)
「んじゃ先ずは世界の説明ね。
君が行く世界は魔法とスキルとジョブというので構成されてるよ。
魔法とはその世界に存在する魔素を使って起こす現象の事
スキルとは持つ者に与えられた力の証
ジョブとはその者の性能に方向性を保たせるものだよ。」
(魔法とスキルは違うのか?ラノベとかだと一緒なんだが?)
「魔法とスキル似ているよ。
才能必須な技能って考えかな?
出来ない奴は出来ない。
出来る奴は出来る。
一定以上出来る様になるとスキルになる。
スキルとして元から持っている奴も居る。
スキルとして持っていなくても扱う事は出来る。でいいかな?」
(ジョブに関していまいち分からないんだが)
「ジョブね〜簡単な例だとゲームとかでHP,MP,AT100のキャラが居たとしたら
そのキャラが魔法使いというジョブに就いたらHP100,MP150,AT50になる様にするんだ。
トータル300という数値は同じでも使い勝手がガラリと変わる。
まぁそんな感じ。
様々な事に数値があるし、同じジョブでも色々変わってくるからゲームの様に上手くいかないけどね。」
(ふ〜んなるほど、指標的な感じで考えれば良いか。)
「あとは産まれてから色々調べて
それで君を転生するにあたって2つ程スキルを与えようと思ってる。
1つは君が本当であれば異世界渡る…クスクス…時に貰うはずだった空間魔法。
もう1つは勇者召喚として貰うはずだった肉体の代わりにあげようかな?って」
さっきまで普通に話していやがったクセに…
ん?!
勇者召喚ってどういう事だ!?
サラっと言いやがったから「ふむふむ、な〜るほど!」とか言っちゃたじゃん。
あー失敗した。
(それで何貰えるの?まさか良いのだよね?)
「え?ああ使えるのあげたいつもりだけど…
そういえば君、武術とか習ってたの?」
(ん?いや、体育の授業で柔道と剣道、後アニメで戦○道だけだけど?)
「暴漢に反撃した一撃は普通の人間とは思えないぐらい凄かったけど武術じゃないの?」
(あ〜アレか!
多分アレは武術かなんかだと思う。
アレは小学生の頃友達に教えてもらって以降ずっと暇な時練習してる俺の必殺技なんだよ。
アレしか知らないけど結構使えるんだぜ!
ヤンキーに対しての牽制とか、地震や鍵が掛かって動かないドアをぶっ壊すのにオススメよ!)
「なんだ武術とか習っていたのなら武術とかの才能スキルにしようと思ったのに…」
(習ってないとダメなのか?)
「習ってないと練習とか出来ないでしょ?
産まれた先で学べる環境があるか分からないからね。」
(ん?!
今度は聞き逃さないぞ!!
分からないってどういう意味だ?)
「君のクラスメイト達が召喚される国があるんだけど
君は一応その国内で産まれさせるつもりなんだ
そっちの方が分かり易いしね。
君の産まれる日はクラスメイト達が召喚される日の17年前
丁度同い年になる。
気が効くでしょ?
神だからね。
そういう訳でランダムになる。
君の為にいちいち人間の男女に交尾させて
子供が確実に産まれるようにするのは面倒くさい。」
(う、ちゃんと考えられているのか…なんかすまん。)
「いやいいよ。
話し戻るけど
そういった理由で君の産まれる場所は
国内ではあれど場所はランダムだから君が武術を学べる環境になるかは分からない。
だから武術の才能系スキルだと無駄スキルになる可能性がある。
なので今思い付いたけど天才系スキルはどうかな?って思うんだ!」
(天才系スキル?)
「天才系スキルは簡単、何かに突出してるスキル。別に練習もしてないけど足が速くなれたりそんな感じ。」
(武術の才能スキルより使えそうなスキルだけど弱いのか?)
「弱くはないけど…器用貧乏に成り易いスキルだね。
普通よりかは全然マシだよ。
スキル自体がステータスに影響する様な感じだから一点技能に集中する他のスキルと違って扱い易く
扱い切れないんだよ。」
(なるほどね。実際の人間にスピードやパワーを上げる様なものか…)
「そうそう後ジョブにも影響するよ。」
またコイツサラっと…
(どうしてだ?)
「ジョブでステータス弄れるんだもん
スキルの効果が違くなってしまうんだよ。
だからジョブは勝手に決まって固定される。」
(…だよな〜どっかのチート主人公に有りそうな設定だわな。)
「まぁジョブなんてそうそう替えられないからあまり気にせずにね。
それでどうする?
なんのスキルがが良い?
…って君に聞いても意味無いか!」
ちょくちょくコイツムカつくな…
「だってどんなスキルがあるか知らない以上
君からは答えなんて出て来ないからね。」
(それじゃどんなスキルがあるか教えてくれよ。)
「多いし面倒くさい。
だから神が決めてあげるよ。
《器用さ(極)》ね。決定。
ジョブは魔術師〈マジシャン〉になったらしい
やったね!」
(早!さっきまでの件なんだったんだよ!)
「ん?なんか言った?聞こえなかった。」
思考すら読んでてよく言うな…
「もう決まったから終了〜
この後君は新しい体で人生を再スタート。
そんな君に対して全知全能な慈悲深い神様は言うのです。
最後に聞きたい事はある?」
感覚も無いのに口の端が吊り上っているのが分かる。
俺は生前常々
転生or転移で神様に会えたラノベ主人公、なろう主人公の諸君に疑念を抱いていた。
なぜ君たちは最短ルートで行こうとしない?
俺Tueeeeしたいのだろう?
ハーレムしたいのだろう?
魔王を討伐したいのだろう?
それならやるべき事はあるだろう?
聞くべき事はあるだろう?
偉い人は言いました。
【聞くは一時の恥。聞かぬは一生の恥。】
まぁ俺の場合だともう死んでいるんだけどね。
だが転生した新しい人生にまで恥を背負って行くつもりはない。
こんな思考もアイツにはお見通しなんだろうけれども
必死に笑いを堪えているのが聞こえてくるけれども
だが
この為に、この瞬間の為に無駄思考をするのも一時停止させて
神様に不快さを与えないように努力した。頑張った。
だから聞いても良いだろう?
俺は意を決して無い口を開く。
(ーーーーーー。)
「クスクス、最後ぐらいボケなよ。」
(俺の人生は友情モノなんでな。)
「プププ、君じゃ役不足ってものだよ…
…でも
聞かれた事なら答えなくちゃね。
神だから
神『様』だからね。」
最後に聞くべき事を聞き、俺の意識は落ちていった。
次話から幼少期編っス
作者からしたら本編はクラスメイトが転移して来たらっと思っているっス
まだまだ先は長いっス
気持ちが挫けないように頑張るっスよ〜