魔族戦争編 世界樹 88話
さて、迷宮にこれから入るのだが入り方がわからない。
とりあえずスキル『飛翔【翅】』を発動させる。背中からトンボのような薄い翅を四つだしそれぞれをバラバラに動かしながらゆっくりと切れ目を降りていく。【飛膜】でもよかったんだが、ホバリングのできる翅を採用した。
さて、ゆっくり降りること数分。どんどんと魔素が濃くなっていくのがわかるほど濃い。魔族の地もかなり魔素が濃い方なのだが、この迷宮とは違った感じだ。魔族の地は冷たく感じるが、ここでは肌にまとわりつくような気持ちの悪い感じだ。
迷宮に明かりなどあるわけもなく、とりあえず『夜目』を発動させ底に降り立った。
「ここが迷宮か…やけに臭いな…」
そこに着くと腐敗臭というか死臭…とりあえず何かが腐っているような匂いが充満している。まあ、この迷宮はアンデッド系と言われていたので覚悟はできていたし『悪臭耐性』スキルは常時発動させている。
『迷宮に到着しました。聖魔法の結界を発動させてください』
俺はクラリスの聖魔法の中にあった『聖域』を発動させる。すると、俺の周り数メートルの魔素が聖の魔力に変化したのがわかった。澱んでいた空気が澄み、死臭もなくなった。これは非常に助かるな…
『説明いたします。この迷宮は1階層のみの構成です。またアンデッドは生者に惹きつけられる性質があるのでこの先に進めば大量のアンデッドが襲ってくるでしょう。また、一階層のみの構成のため魔物の種類やレベルなどがバラバラなので注意してください』
ほほ…一階層のみというのは楽だし。一気に襲ってくるなら手間が省けるってもんだ。さあ、時間がない。一気に行かせてもらうか。すでに視界の先にはゾンビの群れが見えている。バイオなハザードでしか見たこない光景だが、リアルで見ると気持ち悪いな…というより、一気に焼き殺した方が早い気がするが…そうするとスキルが手に入らないのか…死体を残さないといけないというのは意外とめんどくさいな…
俺はゆっくりとゾンビの群れに近づいていくと、ゾンビたちも俺に気付いたようで猛スピードで俺に走ってくる。ゾンビが走れないっていうのは迷信だったんだな。俺は腰の星斬りを抜くと一番先頭にいたゾンビに刃を振り下ろすとまるで温めたナイフでバターを切るように滑らかに抵抗なくその体を真っ二つにした。弱いな…いや、脆い?
『説明いたします。現在『聖魔法『聖域』』により周囲の魔素に聖属性がついたため闇属性のアンデッドにはかなり制限がつきます。またゾンビ程度なら体に触れれば闇魔力が抜けるので『星斬り』を使うより古宇利がいいかと」
斬り殺したゾンビの体に触れ出てきた魂を回収していく。その間に俺の周りはゾンビだらけになってしまったが、ロットに言われた通り体に触れていくとすぐにバタバタと倒れ魂が出ていくるのでとりあえず星斬りを腰に戻し周囲のゾンビから魂を回収し続ける。
どれくらいあれからたっただろうか。襲ってくるゾンビの魂を大量に回収し、積み上がるゾンビの死体を火魔法で消し炭にしている。すると、ゾンビに混じって小さな子供のようなアンデッドが現れた。
『喰種です。ここからは星斬りを使用してください。また、アンデッド系の特性で『剣の切れ味を下げる』や『呪い付与』などあるので『神酒の水瓶』を発動してください』
俺は言われた通り星斬りの刀身に刻まれたマークに触れ『神酒の水瓶』を発動させる。一瞬で星斬りの鍔から剣先に透明な液体が流れる。俺はゾンビを斬り殺しながら飛びかかってきた喰種を切り落とした。ゾンビの動きはまだ単調で人間と比べると多少遅いが、喰種は動きが早く非常に小さい。これは刀で殺した方が楽だな。
そこからどんどんとアンデッドの種類が変わってきた。白骨化した体のスケルトンは硬いので鬼人体術で拳で粉砕する。ゆらゆらと近くを回るゴーストは『聖域』に入った瞬間消滅し、レイスは聖域を突破できたがその頃にはかなり弱体化しており体に触れようとするだけで消滅した。
しかし、ここで少し面倒な奴らが増えてきた。それはデュラハンとリッチだ。デュラハンといえば首なし騎士で有名だが、この世界のデュラハンは戦闘のできるアンデッドだ。肉体がある奴もいれば、白骨化している奴もいるが、それより面倒なのは連携してくることだ。また、それに合わせて死角からリッチの魔法が飛んでくる。まあ、ロットはこれも修行の一環ですとか言いやがって…そして…
デュラハンの多くは鎧を着ており、冒険者風から騎士風、元獣人など戦闘スタイルが違っておりかなり戦闘の経験値が詰めていると理解出来る。リッチには無詠唱の魔法で処理していく。もう魂を回収していく余裕もないので全部殺してから回収しよう…
「はぁはぁはぁはぁ…」
もう何時間剣を振ったことだろう。足は痙攣し、腕も小刻みに揺れる。だが、もう視界の中にアンデッドの姿はない。だが、すべてのアンデッドを討伐したことで気がついたが奥に石造りの扉がある。明らかにボス戦だろう…
黒い吃驚箱から水と食料を取り出し喉の渇きと空腹満たしたところで、『聖域』を解除し闇魔力で全身を包み込み姿を闇魔剣士の姿に変わる。っといても元々デュークの姿だったのだが。なぜこうしたか…それは正直もう疲れた。どんな奴が待っていようが一発で黙らせる。
俺は石造りの扉を蹴り開けると、そこは陽の光があり緑が広がっていた。心地よい風に、草木が揺れる音が聞こえる。その中で一本とても巨大な大木があった。力強く神聖な雰囲気が漂う大木の幹に褐色の肌の少女が埋まっていた。下半身が完全に大木に埋まっており上半身は力なく前かがみに倒れている。
「これは…なんだ?…どういうことだ…ロット!説明しろ」
『説明いたします。この大木は『世界樹』の挿し木が成長した姿です。世界樹は『冥都』で復活の時を待っています。」
「世界樹?…復活?どういうことだ」
『世界樹はこの世界で特別な存在です。また世界樹は世界に一つだけ存在するのです。挿し木をいくらしようとも成長することはできないのです。なぜなら命がないからです』
「回りくどいぞ。」
『世界樹の挿し木に取り込まれているあの女性が供物です。エルフの始祖。初代聖女の命を挿し木に捧げることで世界樹の挿しぎに命を与えたのです』
「なぜわざわざ世界樹の挿しぎなんかを作ったんだ?…」
『世界樹は世界の魔力を管理する存在です。まだこの世界樹の挿しぎにはそこまでの力はありませんが』
「ロット…俺をここに連れてきた理由を教えろ」
『それは…ディル…あなたに私の子を解放をして欲しいのです』
その声にはいつもの抑揚のない声ではなかった。