学園編85話 石像のテミス
遅れてしまって申し訳ない。
これは説明回みたいなものです。バ◯オなどのゾンビは動く屍なんですが、この世界のゾンビは意思を持っている程で書きたいです。魂記録に関係あるかも?です。
「アンデッド種は大きく分けて二つ。人の肉体を元に作られているものと、肉体がなく霊体で存在しているものです。まずは前者の説明をしましょう。ゾンビとスケルトンの二つですね。では、皆さんならどう対処しますか?そうですね…では、そこの…ドワーフの君。答えてみてください」
「俺は、物理でぶっ殺すしかできにゃーもんで…」
「ははは。それも立派な戦術ですよ。アンデッドは痛覚がありませんので、圧倒的破壊力で肉体を圧し潰す方が早いですよ。しかし、中途半端な攻撃は逆に死に直行です。昔、ゾンビの腹に槍を突き刺したのですが、刺さったまま向かってきたのは恐怖でしたね。まあ、一体ならまだしも2体、3体と数がいる場合はそこまで時間的余裕はありません。では、どうするか。それは、かかっている魔法を消し去るか、術者を倒す。頭を潰せば倒せるという噂もありますが、ゾンビは魔力で動いているため頭を潰したところで倒すことはできません。
さて、二つの手段があると思われがちですが、2パターンあるのです。
かかっている魔法を消し去るのは、対象が魔石で動いている場合です。魔石を取り除くか、魔石の魔力がなくなれば止まります。魔石の強さでアンデッドの強さも変わりますが、基本的に使い捨ての雑兵として扱われます。これは誰でもつくることができますよ。魔石に魔力を入れ、肉体に埋め込むだけですから。
術者を倒す…これは最悪なパターンです。これは術者が直接魔力を注ぐのですが、桁外れの魔力を必要とします。できて5体程度ですね。一国を落とせるだけのゾンビを生み出すことはサウロン。三賢者に魔法を教えた歴代最強と呼ばれた男くらいです」
「すでに死んでいるはずではないのですか?」
「サウロンは現在リッチとして生きているでしょう。より魔力を高め、より多くの魔法を得て…まあ、よっぽどなことがない限り魔族の地から出ることはないと思います。」
「なぜそんなことがいえるのですか!?この地に攻めてくることもありえます!」
「魔族は種族ごと均衡が保たれていると聞きます。こちらに攻めてくる余裕はないでしょう。カフ君の考えはわかります。ですから、私の授業をちゃんと聞いて多くを学んでいただきたいですね」
「は、はぁ…」
「とりあえず、実物を見てみることから始めましょうか。」
そういうと、フルークはポケットに手を入れ何かを取り出す。手には黒光りする5センチほどの球体だった。誰もフルークの行動が予想できなかった。
フルークは目を閉じ何かを詠唱し始めると、地面に砂が集まり出し徐々に盛り上がり形ができていく。砂でできたそれはどこかの美術館に展示されていそうな美しい美女の像を彷彿させる。フルークはその像の額に先ほど取り出した球体を当てると、吸い込まれるように球体が額に入った。その瞬間美しい像の目が開きそっと優しい微笑みを浮かべた。
「さて、これは魔石で動くゾンビと同じく、魔石を入れた像です。いわば、ゴーレムというわけです。ゴーレムは良き労働力として使われていますが、作りはゾンビと同じなのです。なぜ多くのゾンビは生物の死体を元に作るのかというと、コスト面もありますが、一番は知識やスキルがゾンビになっても使えるのです。とある大国では、不死身の肉体と隷属性で、あえて有能な戦士を殺す事もあるそうです。さて、そんな話はいいとして…とりあえず額に魔石があるので、不死身性を見てもらいましょう。ドワーフくん、ハンマーは持っているかな?」
「え、ええ…」
「では、この像の脇腹に本気の一発を当ててみてください」
「いいんで?」
「ええ。本気のヤツをお願いしますね」
指名されたドワーフの少年はそっと席から立ち上がると、使い古されたカバンから大きなハンマーを取り出した。どうやらカバンはマジックボックスの類のようだ。
少年はハンマーを振りかざすと、像の脇腹に一発ぶちかます。多くの短い悲鳴が聞こえたが、像は相変わらずの笑顔だが、脇腹は粉々に砕け散っている。
「君は少し手加減をしましたね…まあ、仕方がないことでしょう。では、これがゾンビだった場合…いや、少しやってみますか。ドワーフくん、今度は像と戦闘をしてもらいます。」
フルークはそっと像に手を触れると、ハンマーが吹き飛ばした像の脇腹の破片が集まり一瞬で直していく。そしてそっと手を離した瞬間、胸が前後し息をしているように見える。さっきまでの笑顔は消え怯えきったような表情でドワーフを見つめる。
「さあ、今度は破壊しても構いませんよ。どうぞ」
フルークがそういうと、像はフルークの方を見つめ必死に首を横にふる。まるで、やめてくださいというように。しかし、フルークは像を一切見ることはなく、ただただハンマーを持ったドワーフを見つめる。
「こ、こんなこと…俺にゃ、できない…」
「どうしてですか?先ほどあなたは脇腹を破壊したじゃないですか。同じ石像です。さあ、」
ドワーフは石像を見るめる。石像は縋り付くようにドワーフの足元で膝まずくと必死に口を動かし助けを請う。
「これだから、子供は…はぁ…。はい、ドワーフの君、いいです。席に戻ってください。今ので問題点がわかりましたね?人間は人間らしいものには、甘くなってしまう。しかし。所詮…」
フルークが生徒に話しかけていると、先ほどまでうずくまっていた石像がゆっくりとフルークの後ろに回り込むと、邪悪な笑みを浮かべながらフルークの首を閉めようと手を伸ばす。一瞬のことで生徒たちも反応できていなかったが、フルークは伸びてくる手を掴み、捻りあげそのまま両腕をもぎ取り、倒れそうな石像の首を片手で掴み上げると、そのまま握りつぶし頭と体を分ける。
「このように、好きを見せればすぐに殺しくる。慈悲は無用です。ちなみに、今も魔石が頭に入っているため死んではいません」
頭だけになった石像は、恐怖の表情を浮かべるとそっとドワーフの少年を見つめる。徐々に頭を握る力を入れていくフルーク。
「先生っ!…その…助けてやってくりゃせんか?…」
「この石像をですか?…」
「え、ええ…」
「ふん。そうですね…まあ、今日は少しみなさんには悪い事をしてしまいましたし…いいでしょう。」
そういうと、フルークはそっと目を閉じると倒れていた石像の体が頭にくっついていく。そして、数秒後には先ほどまでの事がなかったかのようにもとどおりになり、優しい笑みを浮かべている。
「危険な思考能力は取り除きましたが、先ほどの魔石は純度が高いのでこの像も少しは自立した思考もできると思います。そうですね…まあ、とりあえずはお手伝いとしておきますか。ではドワーフくん、名前をつけてあげてください」
「あ、ありがとうございます!な、名前…えーと…テミスで…」
「なぜその名を?」
「かぁちゃんの…名前です…」
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「フゥ…初授業はどうでしたか?」
「よかったんじゃないか?…まあ、あの石像といい少しやりすぎた感はあるがな」
「ですが、あれくらいでビビられては今後が思いやられます。来週は実技を知るつもりでしたが…まあ、あれだけのことを見せたので十分かと思いますので座学でいきます」
「何の座学だ?」
「淫魔などの精神魔法を使っていく魔族についてですかね。そのあとにでも、レイスなどの肉体のないアンデッドの話をします」
「まあ、それもそうだな。それでなんで石像…テミスだったか?なんで置くことにしたんだ?」
「あの石像はかなりいい魔石を使用したので、生徒や教員の話しなど重要なものを厳選し録音させておく機能をつけておきました。」
「その話の録音ってのはどこまでカバーできるんだ?」
「この学園全体です」
「ほぉ…これはシリウスにいい土産ができたな」