学園編 82話
遅れてすいません…
オリオンを警戒しながら廊下を進む。オリオンは楽しそうな雰囲気で歩くが、隙がない。常に視野を広げいつ襲われても完全に対処できるだろう。同い年とは思えない…父上と居た時を思い出す…。それをあくまで自然にやるオリオンはどんな人生を送ってきたのだろうか。
しばらく考えていると、いつの間にか予定していた高級生の森の入り口に着いた。
「ここか。さて、ルールを決めようか。ギブアップというか続行不可能になるまで戦う。ラスティに判断してもらう」
「わかった。それでいい…」
私は剣を抜いて構える。全神経を剣先に集中する。ラスティはすぐに離れている…
目の前のオリオンは大きなあくびをして余裕そうな雰囲気だ。そこまで余裕なら…一気に決める!
さっきまで会話をしていたので、声の聞こえる距離…数歩で届く。何も言わずに一気に駆け出し、剣を振り下ろす。
「危ないな。それでも剣士か?」
「ふっ…油断している方が悪い!それに貴様に剣士がどうこうと言われたくはない」
私の剣を『わかっていた』ように華麗なバックステップでかわす。身のこなしが魔法使いじゃない。まるで拳闘家だ。
「そうかい。んじゃ、行きますか…」
オリオンが呟くと、杖をまるでタクトのように綺麗に振るう。すると、真っ赤に燃え上がる炎が球を成しオリオンの周りに浮かぶ。その数、およそ5つ。火魔法の初期魔法『ファイヤーボール』だろうか。姫様の魔法で幾度も見ている…あの数なら躱せる。
剣士と魔法師との戦いは、どちらが有利といえない。魔法使いの魔法は遠距離攻撃が多い。それは敵を捕捉していないと、無駄な魔力を消費するし、躱される可能性が高くなる。しかし、その分攻撃範囲が広く安全に攻撃できる。
一方剣士は、基本近距離だ。剣が届かなければ戦う以前に攻撃もできない。まあ、剣技を使えば遠距離攻撃できたりするものもあるが残念ながら今の私にはそんなスキルはない。つまり近づいて切り伏せる。それだけだ…まずは初段を躱してから一気に!
「っ…」
そう考えていると、初段のファイヤーボールが飛んできた。様子見のようで、比較的速度は遅い。先を読まれないように余裕でかわしながら加速する。すると、一瞬オリオンの表情が変化し口角が上がった。
「ほぉ…」
そこから残った三つのファイヤーボールを連続で打ってくる。この連射も想定済みだ。さらに加速し全てを躱しながら斬りかかる。しかし、剣の長さからギリギリ当たらない…そしてそれをオリオンは理解しているのかかわそうとする気配もない。私が焦って剣を早く下ろしたとでも思っているのだろう。私は勝利を確信し、口角を上げてしまう。私の笑みに一瞬オリオンが睨んでくる。
「いっ…」
剣はまっすぐオリオンの肩を切り裂き、血が飛び散る。しかし、オリオンは痛みに悶えることなくバックステップで追撃に備えて距離をとる
「さあ、終わりだ。ラスティ、傷を治してやってくれ」
私は血の付いていない剣を鞘にしまいラスティの方を見る。肩から胸にかけて切られたのださすがに出血で死んでしまうかもしれない。先ほどの攻撃は剣技の『伸刃』だ。剣先を微妙に伸ばし不可視の刃で敵を切りつける。大昔に兄上に教えてもらった技だ。しかしラスティの表情は変わることがない。不思議に思った私は振り返りオリオンを見るとそこには血もなく、そして切られた箇所も切られた衣服も元どおりのオリオンが立っていた。
「あれは驚いた。スキルか?」
「…それは魔法か?」
「ふふふ。秘密だ。さて、それじゃあこっちの番だな」
オリオンはそっと杖を振ると、突然地面を這う炎でできた蛇が囲う。突然のことで剣をしまっていた私は対処できず、蛇の動きを見ていた。蛇は私の周りをぐるぐるとまりながらその火力を上げていく。そして、一瞬蛇が燃えがあり炎の渦に飲まれた。
「『炎蛇牢』って魔法だ。安心しろ…炎に触れない限り安全だ」
炎の奥からオリオンの声が響く。私は剣を素早く抜くと、剣技を発動させる。剣を素早く振ることで風を剣に纏わせ炎の檻を切り裂き、炎の消えた間を転がり出る。
「ははは!面白いな!カフ!女というのが勿体無い!」
「うるさい…」
「さて、闇魔法の恐ろしさを教えるんだったな…『影切り』」
オリオンはそっとしゃがみ自分の影に杖を当てる。するとぺりぺりという音と共に影が地面から離れ立ち上がる。それはオリオンを真っ黒に塗りつぶしたような姿だった。
「それは俺の影だ。さあ、闇魔法でできたそいつとどこまで戦えるかな?」
オリオンがそう言うと同時に真っ黒なオリオンの影が近づいてくる。闇魔法…それは魔族でない限り扱うことができない…はず…ならなぜこいつは…いや、まずはこいつを…
一気に影に斬りかかるが手応えがなくその体を刃は貫通する。戸惑っていると、影はゆっくりと私の首に手を置く。どこまでも冷たいその手は恐怖でしかなかった。影はゆっくりと力を込め始める。どんどんと喉を押され息が苦しくなる。どかそうにも触れることができない。私は…ここで…
「オリオン…終わり」
「はぁ…ラスティ。お前が触れば消える」
オリオンが退屈そうにそう言うと、ラスティが走って近づいてくる。あいつが言っていることが本当かどうかわからない…そう思ってはいるが喉が押されているので声も出せない。ラスティはそっと影に手を触れると影はドロドロと解けるように地面に落ちていく。
「はぁはぁ…」
息を荒げながら呼吸をする。喉に手を当てると、くっきりと手の跡が付いているのがわかる。すぐにラスティが回復魔法をかけてくれる。その間オリオンは降っていた杖を観察している。しばらくすると、呼吸も落ち着き喉にあった手形も消えている。ラスティの力が強くなっている気がするのは気のせいだろうか。
私はその場で腰を下ろすと、すぐにオリオンが近づいてくる。
「貴様…魔族か…」
「本当にこの国の人間は馬鹿ばかりだな。特に貴族は」
「なんだと!貴様!」
「事実だ。闇魔法を持つものは魔族だけなんだろ?その理由は?」
「魔族の地は闇で覆われている…それに人間は神に愛されている…」
「神に愛されていれば、闇魔法は使えない。愛されているものは闇魔法が使えないか。なぜ闇魔法だけ使えない?おかしいと思わなかったか?死霊魔法は闇魔法の一つに属する。人間も死霊魔法を使うものいるではないか」
「そ、それは…」
「闇魔法とは訓練すれば誰でも使える。手に入るかどうかは別としてな」
「それにしてもカフ。お前は素晴らしい!戦闘経験を積んでいるんだな!」
表情を変えコロコロとした笑顔で私を見てくる。
「積んでいない…模擬戦程度だ…」
「それで、あれだけの動きか!まあ、動きが対人戦用だったが筋は良かったぞ。剣がもっと良かったら俺は死んでたな」
「惜しいな。お前を殺せたかもしれないと思うと」
「なんか怒ってんのか??ま、関係ないが。さて、魔族と戦うんだろ?…聖剣は無理だとして、魔剣くらいなら合うんじゃないか?」
「魔剣?…なんだそれは。それに魔と名がつくものを私が持つわけがない」
「ラスティは知っているだろ?数が少ないし知ってる奴も少ないが、聖剣よりは簡単に手が入るぞ。それに作れるしな」
「うん。それに魔剣の魔は魔法の魔…」
「どういうことだ?…」
「魔剣ってのは簡単に言えば聖剣もどきてやつだ。聖剣は魔力があるから剣を抜いてすぐにその力を発揮できるが、魔剣は所持者の魔力を消費するから効率は悪いがそれなりの力がある。作れるやつを知っているが…少しちんけなやつでな…」
「教えてくれ…」
「わかった。名は『ネイキッド』…一言で言えば、変態だな」