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75話

すぐに黒魔法の『影渡り』を使う。足元の影がブクブクと泡立つ。行先は後者の影だ…

最初に俺が入り、その後黒馬に乗ったアンカが影に入ることになっている。徐々に足が沈んでいく。


「ラスティは大丈夫だろうか…」


徐々に視界が明るくなる。人は全然なく、気味が悪い。俺が完全に影から出ると、数秒遅れて黒馬に乗ったアンカが出てきた。俺は嫌な雰囲気がしたので、黒馬をその場にいることを指示し、状況を把握しようと開けた場所に出ると多くの教員と生徒が集まっていた。皆武器を構えているだけだ。人ごみをかき分け中に入ると、そこには真っ黒な悪魔がシリウスと戦っていた。悪魔の二本の剣を交わしながら、攻撃魔法を撃つ。剣士と至近距離で戦う魔法使いに勝ち目はない。何度も攻撃がすでに当たっていおり、シリウスもギリギリのようだ。しかし、そんな戦いも目には入らなかった。俺はある一点…戦闘のその先にいる…真っ赤に濡れた塊。それを抱きしめるシェダル…まさか…まさか…


「あ あ ああああああああああああぁぁぁああああ」


自分でもどこから声が出ているのかわからない。もう声ではなく、音だった。俺は引っ張られるように足を引きづりながら近く。頭が追いつかない。何を考えているのかもわからない。そのまま戦闘をしているにもかかわらず近づいていく。悪魔はシリウスを突き飛ばすと、一気に俺までかけてくる。一瞬で距離を縮めた悪魔は両手に持った剣を振り下ろし俺に切りかかってくる。


「ガァアアっ!」


「…」


息が続かづ声がで無くなったが、息を吸うのも忘れている。俺は腰に差した『星斬り』を両手で持ち進行を邪魔してくる悪魔を見ることも無く切り殺す。端から見ればただ袈裟懸けしただけのようにしか見えない。しかし、数秒の時間を置いてから悪魔は血しぶきを上げながら細かい肉片で山になる。圧倒的速さと圧倒的強さで認識する前に、切り殺す。この短い間に俺は強くなりすぎた。しかし、今は何も考えられない。ゆっくりとシェダルに近づくと、シェダルは顔を上げ俺を見てくる。その目は怒っているようでも、憎んでいるようでもない目に見えた。

そして顔を上げたおかげで、抱きしめている塊が見えてきた。赤黒くなった髪、壊れたオリハルコンの防具、中性的な整った顔立ち。足はひん曲がり、頭の形も変わっている。しかし、浅く胸が前後している


「ディル君…」


「カカカカカカカカ…」


「落ち着くんだ…そうだよ…カフだ。カフは君と仲が良かったんだよね…」


そうシェダルはそう言うと、そっとカフの頭を撫でる。カフは動かない…


「君のせいじゃない…君に責任はない…何か事情があったのだろう…私は許さない…あいつを…殺す…」


シェダルはカフを見ながらそう呟く。俺はシェダルの正面にしゃがみこむと、シェダルはカフをゆっくりと俺に抱かせてくる。


「ディル君…妹は…カフは、悪魔に乗っ取られた友達を救うために…こんなになるまで…。奴は君をおびき出すための罠にエルフの子を操ったのだろう…カフは…」


俺は持っている回復魔法を抱きしめながら発動させる。今ある魔力全て使って回復させていく…真っ白い光が俺とカフを包む。顔にある傷は徐々に治っていくが、未だに息が浅い…

どうすればいいんだ…生きろ…死ぬな…一気に息を吸い込み叫ぶ


「死ぬなぁあああああ!!!!!!」


俺のからだにある魔力を全て白魔法に変換し一気にからだに流す。ビクビクと体を震わせるカフ。震わせながらも体からゴキゴキと音がなりながらひん曲がった腕が戻り、凹んだ頭や胸も音を立てて戻る。凹ませたペットボトルが元に戻るように…

何分経っただろうか…体感では数時間経っている気がする。俺の魔力は2割を切り、ギリギリだ。ここまで魔力を使ったことはない。身体中倦怠感で動きたくない…ふらつく体をとっさにシェダルが支えてくれる。


「ありがとう…ディル君…君は恩人だ…」


「はぁはぁ…いえ、まだ完全に治ったわけじゃないです…目を覚まさないと…」


「そうだね…」


俺はカフをそっとシェダルに返すと、ゆっくりと立ち上がる。周囲を取り囲んでいた教員や生徒の中から、二人の人影が飛び出して俺に向かってくる。


「ディル!無事だったか!…よかった…」


「ディル…大丈夫なの?…アンカは?…」


シリウスとローズだった。シリウスは俺を上から下まで、怪我がないか見てくる。ローズは俺を抱きしめてくる。お母さんのぬくもりを感じながら、指笛を鳴らす。すると数分後大きな足音を立てながら漆黒と燃えるような赤のラインの入った黒馬と、上に跨ったアンカが手を振りながらやってくる。周りにいた教員や生徒はすぐに道を開ける。

黒馬は俺の前まで来ると俺の顔を舐め回してくる。軽く体を撫でながていると、シリウスがアンカを下しローズは俺から離れアンカを抱きしめる


「おかぁざん…」


「よしよし…大丈夫よ…」


泣き出すアンカを抱きしめながらローズがあやす。人ごみの中から、声が響いた。


「お前のせいだ!お前がいなければこんなことにならなかったんだ!出て行け!」


声のする方を見ると、そこには坊主頭の生徒が立っていた。足を震わせながら、俺を指差してくる。その声からどんどんと他の人に伝染しコソコソと離し声が響く。俺は気にせず黒馬を撫でる。シリウスは必死に静かにさせようとするがこんな状況では意味はなく、むしろ逆効果だった。


「そうだそうだ!悪魔の狙いはお前だったんだ!お前がいなければ!」

「くるのが遅すぎないか?どうせ、悪魔だと知ってビビっていたんだろ!腰抜け野郎!」

「お前のせいで何人死んだと思ってんだ!」

「校長も校長だ!くるのが遅すぎだろ!何をしてたんだ1」

「二人してビビって逃げたんだろ!俺たちを危険な目に合わせやがって!」


俺の批判的な声以外に、シリウスへの批判の声もあった。俺はまっすぐシリウスをみる


「誰が死んだんですか…」


「アニスとコルクだ…」


「二人の死体はどこに?…」


シリウスは何も言わず、まっすぐ俺の後方を指差す。俺は軽く頭を下げるとそのままシリウスが指差した方に歩いていく。生徒や教員たちは俺が近づくと、左右に分かれる。そして、その先に頭部のない二つの死体があった。赤いジャケット姿と、見覚えのある鍛えられた肉体…俺はそっと二つの死体に触れ『魂記録』をする。自分を強くするためではない。悪魔に殺された二人の思いを俺が受け継ぎ、悪魔にぶつけてやる。体を乗っ取ると聞いて、どの悪魔かはわかっている。アクィラを乗っ取ったあのバクとかいうふざけた野郎だろう。魂記録が済むとそっと目を閉じて手を合わせる。

そして戻ろうとすると、黒馬がゆっくりとこちらに歩いてきていた。俺は黒馬を待つ。

悪魔ということは魔界にいるのであろう…見つけ次第殺す。俺をここまで怒らせたのはあいつが初めてだ。目の前までやってきた黒馬の頭を撫でた後、その背に跨る。視線が高くなり皆を見下ろす。


「俺は悪魔を殺しに行ってくる。そしてもう二度とここには現れない。さらばだ…」


俺はそういうと黒馬の腹を軽く蹴り、走らせる。ものすごい速さで森に突入していく黒馬。風にでもなったかのように思うほど早い…森の中は木々が生い茂り基本日陰だ。そのまま日陰に残りの魔力を流し『影渡り』を使い黒馬に乗りながら闇に入っていった。


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