68話
真っ暗な外を眺める透き通った肌の中性的な顔立ちの男。その部屋に照明の類は一切ないというのに、確かに男の存在がわかる。まるで、絵画でありそうな構図だ。
そんな男の後ろに突然床から黒い点ができ始めどんどんと一つの大きな影になると、そこから傷だらけの人間が出てくる。男はふと、現れた人間の方を振り向く
「まんまとやられたようだな。バク」
「てめー、わかってて俺を派遣したろ…ちくしょう…あのガキゼッテー殺す」
「その意気だ。さて、その体が例の勇者か?」
男は綺麗な笑みを浮かべると、人間の体を一通り眺める。
「ああ。だが、すぐばれちまったけどな。」
「それも、予測はしていた。今、シリウスは学園にいない。そこでバクにはすぐに学園に行ってもらう」
「はっ!?人使い荒すぎだろう…んで、学園でそうすればいいんだ?」
悪態をつきながらも、人間は真剣な目で男を見る。男はうすらと笑う。真っ白で鋭く尖った歯が見える。
「この前、学園に潜入した際、女子学生の記憶を食らっただろう?それから、先に戦ったあの青年を思いだしてみろ。」
「待ってろ…あったぜ。ビンゴだ。学園では一年生の奨学生らしい。しかし、妙だ。勇者の義理だが息子ならもっと記憶があってもおかしくはないんだが…」
「そこまで、深く知る必要はない。…では、学園で中の良さそうなものの体を奪ってこい。それからは私がシナリオを書いてやる」
「楽しみだぜ…行ってくる。この体、冷凍保存しておいてくれ」
そう言うと。人間の目が突然色がなくなり真っ白になると、口から黒いヘドロのようものが出ると、体はそのまま力なく倒れた。黒いヘドロは徐々に地面に吸い込まれるように消えていく。それを最後まで見届けると、再び綺麗な笑みを浮かべ男は軽く髪を掻き分けながら、どこかへ歩いていく。
▽
「はぁはぁ…」
廊下をものすごい速さでかけるカフ。ラスティを抱いたままで。その後ろには空を飛ぶ美少年が退屈そうに追いかける。しばらく走っていると、すぐに目的地に着いたようでカフは扉を蹴り開けるように入る。
「遅れて申し訳ありません!」
そのカフの入室に中に居たものは一斉に身構えるが、入ってきた本人を確認すると腰を下ろし落ち着く。
カフはそっとラスティを下ろすと背筋を伸ばして先に部屋にいた先生や先輩方に頭を下げる。
「一年の風紀委員のカフです。ディルを連れてくる予定でしたが、現在ディルは不在のようです。ラスティ…説明を」
「うん…ディルは今居ない…シリウスさまの結界が消えたことを察知しいち早く行動した。今シリウスさまの元に向かっている」
すると、一斉に戸惑いの声が部屋を荒らす。まるで、頼みの綱が切れ誰かに責任をなすりつけようとしているかのように…カフは拳を強く固め、ラスティは歯をくいしばる。
「だ、だとしたらどうすればいいいのだ!も、もう終生の森の警備は誰も出来ないではないか!」
「今すぐ喚び戻せ!今からならまだ間に合うだろう!」
「いやだ…死にたくない…死にたくない」
『なんだ、こいつらは…殺してもいいのか?』
遅れて教室に入っていきたのはラスティが召喚した美少年だ。青年は部屋を見渡すと、ため息をつきながら殺気を飛ばすのでラスティが止める。すると、不服そうな表情を浮かべながらも殺気を止める。部屋にいた連中はその殺気から固まる。さっきまでの騒ぎは何処へやら。
そんな中、ロン毛にスーツ姿の教員が声を出す。
「君は…確かネイル家の…」
「ね、ネイルだと!?今すぐこのガキを追い出せ!それと、そこの…ま、まさか…」
サル顔の先輩が大きな声で騒い始める。周りの連中もサル顔の先輩が何を言おうとしているか理解し顔を青くする。静かになったおかげで、小さなラスティの声も響く。
「そう。そのまさか。わかっているでしょ…召喚した…神名は?…」
ラスティはそっと青年に問うと、青年は面倒くさそうな表情全開に返事をする。
『我が名はガブリエル。小娘の魔力が尽きるまで契約をした。』
「…これで、終生の森は守る。」
すると、サル顔の先輩が立ち上がりラスティを指差す。
「こ、今度は学園を滅ぼす気だ!皆、早く逃げろ!こいつ「そうか。絶対に守り抜く自信があるんじゃな?」
サル顔の先輩の喚く言葉を遮るようにモールスが声を出す。その瞬間空気が変わる。シリウスではないが、シリウスが信頼を置く謎の存在…学園No.2のモールスが声を出した。普段モールスは必要なこと以外喋らない…しかし、こうして声を出したことにその場にいた全員が驚いた。
「うん…」
「そうか。では、頼む。我々は全力で他を守る。何をしておるのじゃ…お主ら。今この場で動かぬものはワシの権限で学園を去ってもらうぞ。腰抜けはいらぬ。」
「な、何を言ってるんですか!ネイル家の女を信じると!?」
「では、君は参加しなくていい。そして、明日までに学園を去ってもらう。」
「そ、そんなの横暴だ!脅しだ!」
「では、国王の孫であり、勇者の息子であり、シリウスの弟子。拳骨のウォッカに鍛えられた青年が信じて、そこの女を残したというなら信じるしかあるまい。王位を継ぐ可能性があるからの」
モールスのその一言で、再び部屋の空気が凍る。一部の大人は知っていたようだが、大半は知らない事実だ。
サル顔の表情がどんどんと赤くなっていく。モールスの一言で、全員の意思は決まったようで、皆続々と部屋を出て行く。
そんな中、カフは固まっているラスティの肩をたたく。
「おい!ラスティ!いくぞ!時間がない!」
「…う、うん…」
『索引のくせに意思を持つか。興味深いな』
「ガブリエル!…いくよ!」
△
「フッ…」
金髪の美青年が手に持つ槍を軽く振ると、その一線上にいた魔物がつぶれるような不快な音を立てながら吹き飛ぶ。あたり一面はすでに真っ赤な血で染められている。
その後ろで必死に呼吸をしているラスティとラスティを介抱しているカフがいる。二人がいるのは学園の再奥。終生の森の門のあたりだ。高ランクの魔物を殺し続ける青年を二人は、見つめている。
「だ、大丈夫なのだろうか…悲劇は起こらないのか?…」
「大丈夫…あの時は魔力が一定じゃなかった…でも、今は違う。魔力が純粋…ディルの魔力だから…うっ…」
「大丈夫か?…しかし、こうも高ランク魔物を殺している風景は怖いな…あれはオーガだぞ…」
「そっか。カフは見ていないんだ。ディルも同じような感じだよ…」
「ディル…あいつは何者なのだろうか…」
「わからない…でも、敵じゃない」
「だと、いいが。」
△
保険室と呼ばれる部屋で、横になっていた少女が突然体を起こした。上半身だけを起こすという不自然な起き方だが…
少女はフラフラになりながらもベッドから降り立つと、囲んでいたカーテンを無理やり引きちぎる。
「何をしているの!…目が覚めたのね…よかったわ。でも、もう少し横になっていなさい…」
カーテンの向こうでは、机に何やら書き留めていた白衣姿の早老の女が心配そうに見ていた。この保険室を担当する女性だ。保健医はそっと、少女に近づくと、フラフラな体を支えようと手を伸ばした瞬間、その両腕はくるくると回転しながら数メートル宙に舞っている。少女の腕を見ると、鋭く尖った爪に血が通いていた。
「サワルナ…くっ…長く寝て言いやがったな…体がうまく動かせん…まあいい。」
少女は低い声でそういうと、首をバキバキとならす。そして上から関節を同じように慣らしていく。
しかし、一瞬で少女の首が飛んだ。
「寝ていなさいと言っているのがわからないのかしら?」
すると、切れたはずの腕が生えている保険医が小さなメスで首を掻ききっていた。吹き出る血が保険室を染め上げる。
首のない少女の体は、倒れることなく、中を舞う首をキャッチすると、未だ出血の止まらない首に無理やり埋め込むようにはめながら、保険医を見つめる。
「ほぉ…回復魔法が得意か。腕を切った痛みに悶え詠唱などできるはずがないと思うだが…いい精神力だ。なら、これはどうだ?お前の回復魔法は間に合うか」
身構える保険医は、距離を取ろうと後ろに飛び上がる。そして、保険医が着地しようと地面に足が触れた瞬間、その体はバラバラと崩れた。ビチャビチャと体の破片が重なり不快な音が響く。よく見ると、綺麗に賽の目に切られている。
「さすがに無理だったか?」
少女はフラふらな足取りで、保険医の肉片を踏みにじりながら保健室の出口を進んで行く。
「さ、あのクソガキのお友達をさらいますか」




