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64話 アンカの謎と大精霊

「キャッ!…アンカ!しっかりつかまってなさい!」


「う、うん!」


私は必死に黒馬のタテガミを掴み腕の間に娘のアンカを抱き。両足は精一杯の力で黒馬の胴を挟む。

黒馬は迷うことなく、ものすごい速さで森を抜けていく。馬車ではここまでの速度は出ない…初体験の速さだ。乗っていて気付いたのだが、木々がまるで黒馬を避けている…いや、道を作っている。目の前にあるものは飛び越え、踏みこえ進む。速度は一切落ちない。

なぜ、私がこんな状況か…自分でもわかっていない。アクィラが急変したせいだ。シリウスがあそこまで慌てている様子から、ただ事ではないのはわかる。だが…何があったというのだ?…それにアンカのことも気になる…シリウスはディルに助けを求めよといった。ディル…なぜ、あの子なの?…あの子は…何なの?…一体


「なんかね、さっきからね!赤い妖精さんがね!後ろを指差してるの!」


「黙ってなさい!舌を噛んでしまうわよ!…」


アンカがそう元気に言うので、私はそっと後ろを振り返る。すると、そこには下半身のない髑髏が宙に浮いて追いかけてきていた。その数、4体…あれは、魔物『ゴースト』だ。霊体なので聖魔法でしか攻撃できない特殊系の魔物だ。私も聖魔法はできるが、初歩のものしかできない。ゴーストを追い払うほどの力はない。今はまだ黒馬の方が早いが、そのうちスタミナが切れれば、スタミナのないゴーストに追いつかれ魂を刈り取られる。くそっ…


「ヒューー〜…」


後ろからゴーストの鳴き声が聞こえて来る。恐怖で体が固まる。身体中から汗が吹き出る。せめて…アンカだけでも助かれば…いっそ、私が馬から降りて囮になれば?…そう考えていると、胸にいたアンカがその場でもぞもぞと動き始めた。


「何をしている!アンカ!やめなさい!」


アンカは私の言うことも聞かずに体をくねらせ、私と向かいあう形になると顔を出し後ろを見る。その時違和感を感じた。アンカじゃない…

すると、アンカはそっと口を開いた。


「ったく、センスを感じねぇ…」

「何言ってんの!どうすんの!」

「ここは俺がいったん、あいつらをぶっ殺して…」

「無理よ!霊力だけだとアンカちゃんが持たないわ!」


アンカの会話は支離滅裂の自己完結だった。話すたびに、他の人が乗り移っているかのように口調が変わる。なんなの!?


「あ、アンカ!?」


「お、おい!どうすんだよ!母親にばれちまったぞ!」

「あんたが勝手に体を乗っ取るからでしょ!」

「しらねーよ!ああああ!あの水瓶の小僧を呼んで来い!あいつしか力を使えない!」

「ごめんなさい、ローズさん。あなたの子を少しお借りしています。」


急に優しい雰囲気になったアンカが謝ってきた。何を言っているんだ?…理解が追いつかない。しかし、アンカはそんなことは知らずまた人格が変わった。


「呼びましたか?」

「おお!ガニメデス!早く、あいつらをどうにかしろ!」

「え?これってどういう状況なんですか!?説明を」

「後にしろ!」

「わ、わかりましたよ!『占星の聖酒』」


アンカが突然、手を後ろに突き出す。すると、アンカの小さな手のひらからどんどんと水があふれ出てくる。水はものすごい勢いと量が吹き出る。


「なっ!」


「終わったよ!あれで、全部ならね!それで、ほら説明して!」

「そ、その前にローズさんに説明が先でしょ!」

「な、なら、お前がしろよ!」



「なんじゃ!?この姿は!ここはどこじゃ!」


「お、お前は…誰だ?…」


俺は恐る恐る話しかける。どうもさっきの女の子とは違い口調が老人のようだ。どう見ても別人だ…


「あ?なんじゃ…小僧…わしはアブロン。人はこう呼び『烈火の大神』とな」


「烈火の大神…本物なの?…」


横にいたラスティが目を開いてつぶやく。ここまで驚いているのは初めてみた…


「誰だ?それ」


「お告げをする悪魔と呼ばれてる…善意を持つ悪魔で、現れる時は世界を変える大きな出来事が起こる…でも、悪魔じゃなく本当は精霊の分類…」


ラスティの説明が聞こえていたようで、女の子…ではなく、アブロンが語りかけてくる。


「ん?生娘の割には、よく知っておるでないか。かれこれ姿を表すのは90年ぶりかのぉ。しかし、今回は呼び出されたみたいじゃ。わしの意思はない。しかし、わしが現れた以上は必ず何か起こる。」


「どういうことだ?…それじゃあ、その女の子はどうなる?」


「魔力が通ってるから生きてはいる…でも、何が起こるかわからない…なんせ、大精霊が体に乗り移ってるんだもの…」


横にいたラスティがすぐ説明してくる。魔法などに長けているエルフはこういう歴史は詳しいようだ。

ラスティをまっすぐ見ていたアブロンは視線を俺に向ける。すると、ふーんと言ったような表情を浮かべると目だけでなく顔を俺に向けてくる。


「そう危惧するものではない。きちんと加護は与えておく。それにしても小僧…実に面白い。小僧がわしを呼んだのは運命かそれとも謀か…どちらにせよ。未来は変わった。直にわかるであろう。」


「未来が変わった?…どういうことだ」


「一ついいことを教えてやろう。力を手に入れるのだ。お主には神星がついておる。陰と陽が落ちゆる前に?…待て…霊力が尽きる…これはまずいのぉ…」


「はっ…!」

「っ!…」


突如、空気が変わった。何にも守られていない…そんな感じだ。シリウスの魔力が切れた…

シリウスの魔力が切れるということは、シリウスが死んだか、それとも本気で戦闘をするかのどちらかだ。


「ホホォ…もう片方もダメのようじゃ。どうする小僧。どちらもお主の運命に関係が出てくるぞい?」


「もう一つ?…何を言っているかわからないが、シリウスの結界がなくなった以上終生の森がやばい。」


終生の森の魔物は俺が強化する前はかなり厳しかった。今の状態なら余裕かもしれないが、俺以外に適任者はいない。


「でも、シリウス様の元に向かうべき…!」


「なら、誰が守るんだよ!誰も終生の森を守れない!」


ラスティが珍しく大きな声を出して反論してくる。しかし、ここは譲れない。正直、この学園の生徒や先生では終生の森を数時間あるいは数十時間守ることは不可能だと思っている。すると、ラスティが握りこぶしを作りながら大声を出す。


「私がいる!…信じて…」


「何を言っているんだ…」


「ディル…!魔力を注いで…なるべくたくさん。それで、召喚魔法を…使う。」


ラスティが消え入るような声で、そういう。そんなことはできない。なんせ、その魔法はあの事件を起こした魔法なのだ。あの時はまだラスティは未熟だったとしても、あの時の記憶はラスティもあるはずだ。

しかし、ラスティの表情は決意の目だった。しかし…


「ッ…そんなことできない!あの事件を拭えていないんだぞ!それ何に…!」


「いいから!早く!」


ラスティは俺をまっすぐ見つめる。ここまではっきり言われたことはなかった。いつもうなされているくせに…それを自ら受け入れようとするのかよ…これじゃあ、俺がヘタレじゃねーか!


「あああ!わかった!無理するんじゃねーぞ!クッソが!」


「ありがとう…ディル…」


ラスティは綺麗な笑みを浮かべると、後ろを向く。俺はそっとラスティの肩を後ろから抱きしめ魔力を流す。ラスティはゆっくりと目を閉じ詠唱を始める


「生きる事の辛さを受け入れ…展望開けない未来を信じ…過ちを悔いて過去を認めよう…」


苦悶な表情で詠唱が止まるラスティ。過去が枷になり、詠唱ができないのだろう。

俺はそっと抱く力を強くする。注ぐ魔力を強くする。俺がついているというように。

するとラスティの表情が少し和らいだ気がした。そして、詠唱が完成する。


「我らに降りかかる災いを…振り払う力をここに! 



聖神徒召喚(クリアンス・セース)』」



「お前も来るのか」


「ああ、あやつには借りがあるからのぉ…それに面白そうじゃ」


女の子の姿で腕をワキワキと動かす。なんだこれ…シュールだな…まあいい。

俺はそっと翅を生やす。すると、アブロンがブツブツとつぶやきながら俺の翅を見てくる。


「なんか場所がわかっているような言い方だったな。さっき。案内してくれるか?」


「ふっ。よかろう。ついてくるがよい」


そういうと、アブロンは地面を思いっきり蹴り上げ空に浮かぶと足底と掌からロケットのように炎を吹き出し空を飛び始めた。どこのアイアンマンだよっ!


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