56話 ジルの説教と聖女の手足
「それじゃあ、次は俺たちが…俺は、エル・ジンジャ。俺たちはみんなアルコル国のスラム出身で、ギルドランクは全員『黒』。右から、剣術スキルを持つトニック、ソーダ、コーク。そんで短剣使いのカシス。双剣のウーロン。魔法使いのロックです」
俺がさっき作った『吸血の騎士団』の一人が代表して挨拶する。背丈は平均ほどだが、肩や胸ががっしりしているな。まあ、騎士団作っても何もすることはないから鍛えさせるだけかな。まあ、全員ギルドランクが黒ならかなりの手練れなのだろう。向かいに座っていたランドルフが関心した表情だったしな。
「次は私ですね…私はマリアと申します。ディルの母親です…」
「俺の母さんだ。よろしく頼む…」
なんだか照れくさいな…自分の母さんを紹介するってのは…
話を変えようとじぃを見る。じぃは少し怪しむような目でマリアを見ていたが、すぐに俺からの視線に気づいて咳払いをする。
「先ほどは失礼いたしました。私はジル=ドラキュース、元吸血鬼皇帝です。皆さんディル様の奴隷となっていますが、そのようなことは気にせずいきましょう。よろしくお願いします」
おお!じぃが優しいな…なんで、こうも人間に優しくするのだろう…吸血鬼とかと関係あるのか?…
デュークも人間のマリアと仲よさそうだったし…しばらく考えていたせいで、沈黙ができてしまった。
「俺は自己紹介したよな…まあ、改めてしておくか。俺はディル=アヴィオール=ドラキュースだ。まあ、アヴィオールと名前が付いているが、あまり気にしないでくれ。俺を育てたのがたまたま女王だっただけだ。」
「いろいろ突っ込みたいところがあるが…まあ良い。一番聞きたいのは主人は、人間なのか?魔族なのか?じゃ」
ベテルギウスがため息まじりに俺に聞いてくる。うーん…
魔族とは関わりがあるけど、デュークとちが繋がっているわけじゃないから、魔族ではない。でも、アヴィオール家とも関わりがない。俺を産んだ両親の顔がわからない…まあ、純粋な人間だろう。でも、闇魔法を扱えるのは魔族という定義なら俺は魔族の一員なるぞ
「俺は人間だ。この姿は、闇魔剣士の効果だ。」
俺はそういうと、闇魔剣士を解除し元の子供版ディルに戻る。この姿は皆にすでに見せてあるはずなので大したリアクションはないと思っていたが…皆がなんとも言えない微妙な顔をしている。
「ただでさえ、闇魔法が異常というのに…その上の魔法剣士…さすが、主人じゃ。まっこと面白い!」
一人腹を抱えて笑いこげるベテルギウスに周りはドン引きしている。そこまでなのか?…
『説明します。魔剣士はその入手方法の複雑さから、持っている人物が少ないので異常なのでしょう。』
まあ、俺みたいにスキル略奪経緯のスキルを持っていれば楽だけど、たったスキルレベル5で達人と呼ばれるんだからな…俺はなんなんだよって話か。
「まあ、俺の話はいい。さて、これからだが…奴隷たちには衣食住を俺が保証する。その代わり、俺のためになることをしてくれ。」
「例えばなんでしょうか。あっしは、掃除やらはやったことすらありやしませんので…」
ランドルフが苦笑いを浮かべる。そうだな…確かに男に屋敷のことをするってのは無理があるか?…
「あーと…まあ、適当だが、女は掃除やらの侍女でもやってもらうか。老人にはその知識を、未来のある子供たちに教育させる。男はとりあえず体を鍛えさせる。テイマー関係のスキルを持っている奴がいたら小屋に案内してやってくれ。」
「小屋ですか?…小屋とは馬小屋で?何もいないはずですが…」
じぃが首をかしげながら、俺を見てくる。やべ…言ってなかった…
「あ…じぃ。そのな…こいつら助けるときに一緒に連れてきちゃった魔物がいるんだわ…」
「…はぁ。似て欲しくない所が似てしまうんですね。デュークをきちんと教育するべきだったと後悔しますよ。…わかりました。」
「そ、それ以外には何かあるか?…」
俺がそう言うと、誰も何も言わなくなった。これでお開きか…と思いきや、隣にいたじぃが口を開いた。
「では、私が。ディル様、マリア様について説明を願います。」
じぃが真剣な目で俺を見てくる。真剣だな…って、俺がマリアにしたこと…えーと…
「母さんは、いろいろ怪我をしていたから俺が治療をした。」
「では、なぜ同族となっているのですか。」
「ど、同族…治療の時、体に負担がかかるから生身の人間のままだと持たないと判断して…」
俺がそう言うと、じぃが思いっきり俺の頬を叩いた。じんじんと肌が痛む…
なぜ叩かれたのか理解できない俺は頬をこする。マリアが席を立って俺に寄ってくる。
「マリア様…申し訳ありません…あなたを…魔族にしてしまった…」
そう言うと、一気に空気が悪くなる。ベテルギウスもランドルフも目をそらす。理解できない…何が悪いんだ?…命が助かったじゃないか…。
俺が固まって必死に考えていると、じぃがゆっくりと俺の頭を撫でる。俺はゆっくりとじぃの目を見る。
「ディル。人間の世界では、魔族は悪とされる。決してそれは変わらない…人を勝手に魔族にしてしまうのはその人の人生を壊してしまうんだ。わかるかい?…お前は、お母さんを救いたかったのはわかる…でもな?それはやってはいけないことなんだよ…」
まるで言い聞かすように、俺に優しく説教をしてくれるじぃ…俺が人生を狂わせたのか…
するとマリアがすぐにじぃに発言する。
「いいんです。ジルさん…私は助けてもらったんです…こうしてディルと会えたのなら…魔族など関係ありません。これで、謎が解けました。この不自然によく見える瞳。虫の羽ばたきも聞こえるほどいい耳…全部ディルがくれたものです。大切にしたいのです…」
「マリア様…」
「だから、ディル。心配しないでね。お母さんは嬉しいわ…ありがとうね」
マリアが俺の頬をそっと撫でる。すると、さっきまでじぃに叩かれたところが嘘のように痛みが引いていく。
これは?…なんでだ?…
「ディル様。マリア様の手足は…どなたのもので?…」
「それは…クラリス…って人らしいです…」
俺がそう墓石に書かれていた名前を思い出しながら言うと。一気に部屋が固まった。誰もが驚きで目を見開いている。
「く、クラリス…聖女、クラリス!貴様っ!クラリス様を!」
ベテルギウスが席を立ち俺に杖を向けてくる。その顔には怒りで真っ赤になっている。
すぐに隣にいたランドルフが止めにかかる。じぃも俺の前に立ち守ってくる。
「待ってくれ!ベテルギウス!俺が殺したんじゃない!すでに死んでいた!」
「貴様のような魔族のガキの言うことを信じられるか!いますぐ消し炭に変えてやる!」
「ベテルギウス様!それ以上、暴れるとマズイことになりやす!杖を収めてくだせぇ!」
すると、ベテルギウスの体が徐々に黒い刺青のようなものが浮かんでくる。だんだんとベテルギウスの顔も苦痛に耐える顔になっていく。そして、杖を力なくおろし膝をつく。
「言わんこっちゃない!…」
『説明します。今のは奴隷契約の「主人には敵意を向けてはいけない」に反したので制裁が来たのでしょう。制裁は種類が多くランダムで発動します。』
ランドルフがベテルギウスの杖を回収すると、だんだんと身体中の刺青が消えていく。
俺はゆっくりと、ベテルギウスに向かっていく。ベテルギウスはすでに動けないのか目だけを俺に向けてくる。かなり殺意のこもった目だ。
「ベテルギウス。黙って聞いてくれ…俺は殺しちゃいない。ちょっと来い…」
俺はそっと倒れているベテルギウスを担ぎ闇魔剣士でデュークの姿になる。
「じぃ。少し行ってくる…」
俺はそう言うと身体中をコウモリに変えベテルギウスを乗せて、墓場まで飛んでいく。
その間もベテルギウスは俺を睨んでいる。
▽
数分でウェッタの墓地についた。今は俺が持ち主になっているらしいが…まあ、いい。
ついた頃にはベテルギウスも動けるようになっていたが、戦う気はないようだ。
「ここで、ワシを消すか。小童」
「んなこと、しねーよ…ただ、お前がクラリスとどう関係あったか知らないが…身の潔白だけはしておきたい」
「ふん」
「ついてこい…」
俺はゆっくりと墓地を進む。寒く、音もない墓地は不気味さをます。
しばらく歩いていくと、すると、大きな墓石が見えてきた。俺はそっと、ベテルギウスに指をさしながら教える
「あの石まで行ってみろ。そこで、真実を知る」
ベテルギウスはよぼよぼな体なのに、かなりの速さで走り岩に近づいていく。俺はその後をゆっくりと歩いておう。
「そ、そんな…」
「わかったか?…」
「俺がすぐにこんな墓石を立てられると思うか?…遺体は火葬した…すまない…」
ベテルギウスは、ゆっくりと石碑に近づき、掘られている文字を指でなぞる…
そして、膝から崩れ落ち頭を石碑に何度も叩きつける。
「なんでじゃ…なんでなんじゃ…クラリス…クラリスぅ…」
「殺されたのは半月前らしい…殺したのはアクィラ…だ」
「アクィラ…現勇者が…そんなこと信じられるか…わしはまだ小童が殺した可能性を捨てきれぬ」
「ったく…どうすればいいんだよ」
俺がため息まじりにそう言うと、頭の中にロットの声が響いた。いつもの機械的な抑揚のない声ではなく、まるで人間が喋っているかのように…
『人の道の迷い人 正しい道を指し示す 天の導きを「天啓」』
すると、俺の体から突然大量の魔力が出て行き全てベテルギウスに向かっていく。そのせいで闇魔剣士が維持できずディルに戻ってしまう。
「なんだ?…ロット!説明しろ!」
「な、なんじゃ!お前は誰じゃ!」




