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6話 吸血皇帝として。父として。

書籍などで人間の文化を調べ始めたデュークはかなり面倒くさくなった。いや、過保護になったというべきか。栄養価や運動方法など俺にやらせようとし、すぐにマリアが止めるのが日常になっていた。今もそうだ…


「べろべろばぁ〜」


デュークが舌を出し白目を剥き、俺に見せてくる。うん…これはトラウマレベルだな…怖い。子供なら即泣き出すだろう


「な、何をしているんですか…」


呆れた表情でデュークを見つめるマリア。マリアも若干引いている様子だ。デュークはすぐに手をバタバタと動かし誤魔化そうとする。それにしてもこの世界にも赤ん坊をあやす方法に「べろべろばぁ〜」があるんだな…


「この子はなかなか笑わないですね…」


「ああ…この前は「高い高い」をやったが笑わないかった。まあ、大人しい子なのだろ。な?ディル」


「そうですね…本当に大人しい子です」


デュークは何か落ち着いた表情で俺の顔を見るデュークは、そっとマリアに話しかける。


「そうだ。すまない、マリア…少し二人っきりにしてくれるか?」


「え?…はい…」


「すまない…」


俺はベビーベッドから抱きかかえられ、デュークの腕の中にいる。真剣な目で見てくる…


「赤ん坊のディルに言っても、分からないとおもうが…私は…パパはな…もうすぐ殺されるだろう。勇者にな。魔族として生まれ、何時の間にかヴァンパイアロードなどに進化したが…私の存在自体が人間にとっては邪魔なようだ。死を迎えるなら、歓迎しよう。ただ、お前を大きくなるまで…育てたかった。一緒に訓練をし、魔物を狩りに行きたかった…私にしては、欲張りだな。よし!ディルよ!しっかり生きろよ!」


デュークが額と額を合わせてくる。顔が近い…デュークは目を閉じているが、目尻から頬に何か透明な液体が流れ落ちた。

今なら届く顔に短い手を伸ばし涙を拭う。情がわいたようだ…まあ、短い間だったが精いっぱい人間について調べ、俺に試してきたな…その努力と愛情は本当にありがたかった。

デュークは俺を再びベビーベッドに寝かせる。


「ありがとうな…ディル。よしっ!マリア…いいぞ!」


「失礼します……」


「話を聞いていたわけではないな?」


「聞いていません…」


「そうか……少し書斎に行く。ディルを頼む」


デュークが出ていくと、マリアは俺を抱きかかえる。

そして、そっと抱きしめてくる。優しくていい匂いがするな…マリアの目には今にも溢れそうな涙がたまっている


「ディル…私は悪い事をしました…。私は…話を聞いていました…デューク様は…」


その後言葉をつづけることなくただ、ずっと俺を抱きしめていた。まあ、俺は暖かく柔らかい感覚にだんだんと眠気が襲ってきていつの間にか寝ていた…俺が寝ている間にマリアが、どう思ったのかはわからない…



それから数日が平和に過ぎた。そんなある日いつものように夜になり、俺はベビーベッドに入れられた。いつもなら、すぐに眠気が襲ってくるというのに今日はやけに眠れない。何か胸騒ぎがする…

数時間ほど起きていると、隣で寝ているデュークが突如起きた。体を起こし、耳を澄ませている。そして、深く息を吸い込む。そして、吐き出す。ベッドからでると、同時に部屋にじぃが入ってきた。その顔はかなり真剣なものだ。


「デューク様…」


「わかっている…鎧を着る。まだ距離がある。じぃは、マリアを呼んできてくれ…」


「はい…」


じぃが素早く部屋から出ていく。デュークが瞳を閉じると一瞬だけ、黒い靄がデュークの体を包み込む。すぐに靄は晴れるが、デュークの体は漆黒の鎧と黒いマント…初めてデュークに会ったときと同じ姿だ…


「今の姿では、ディルに触ることはできない…。ディル。お前が拭ってくれた涙の暖かさは忘れぬ。たとえお前が大きくなり私を忘れたとしても」


デュークはそういうと、すぐに振り返り部屋を出ていく。その背中には蝙蝠のような漆黒の二対の翼が生え、爪は鋭く伸びている。その圧倒的存在感は、デュークが並みの存在とはかけ離れていることが理解出来る。これがデュークの本当の姿なのか?…


俺はベビーベッドの柵の安全装置を外し、柵を降ろしベッドから落ちる。痛みはあったが、それよりデュークに付いていきたかった…

必死に手足を地に付き「ハイハイ」でデュークの後を追う。すぐに見失ったが行く場所は分かっている。玉座のある部屋だ…必死にバレないよう玉座の部屋に行く。俺がつくと、玉座にデュークが目を閉じて座っていた。腰を深くかけ、足を組み腕を肘置きにおいてある。俺はバレないよう隅にある飾りの甲冑い身を隠す。

数分後、カツカツ…ガチャガチャと歩む音、金属がぶつかり合う音が聞こえる。そして、扉の前まで来ると、音が一瞬止まりすぐに扉が乱暴に開けられる。

先頭におそらく俺が転移する前と同い年くらいの青年が白銀の鎧を着て、その後ろに2mはある巨大な拳を象ったハンマーを構えた髭を蓄えた小さな男。純白の剣を二本構えた女戦士。地面につき擦れている古びた黒いローブを来た杖を突く老人。

四人はそのまま警戒しながら、デュークの前まで行く。先頭の青年が、剣を腰から抜きデュークに尋ねる


「お前がヴァンパイアロードか…」


デュークはそっと目を開くと、四人を軽く眺める。そして、ゆっくりと口を開く。


「控えよ」


「うぐっ!…」


デュークの一言で全員の体が硬直し自然と膝をついて頭を垂れる。


「それで主たちが勇者か」


「そ、そうだ…」


「そうか…争いを望むのだな」


「当たり前だ!お前のせいで多くの民が恐怖で震えている。多くの人間の女を攫いこの城に連れ込んだのだろ!ここで貴様を殺す!」


「そうか…では、格の違いを違いを見せてやろう。」


デュークが椅子を立つと、一斉に四人が攻めてきた。

四対一…これじゃあ、リンチだ…デューク…


「パ…パパ…」


俺の喉からなぜかそんな声が出た。見えているはずのないデュークが微かに笑った気がした…


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