45話 アステリオスと帰還
俺の名はアステリオス、ミノタウロスの王だ。そして現在、我が国の軍総出で出撃している。
我宿敵にして忌々しきあの吸血鬼皇帝のデュークが勇者に敗れたと耳にし、奴の持っていた人族の国々と魔族の国を分けていた領地を奪うため使いを送った。
昔は多くの魔族が人族の巣食う領地に攻めようとしたが、奴とその父のせいでそれが全て阻止されていた。そのため現在は多くの魔族がデュークの領地を支配しようとしているのは目に見えている。しかし現状把握のため送った使いは、ミノタウロスの誇りであるツノだけの状態で送られてきた…送り主は、デュークの祖父だ。吸血一族が落ちこぼれる前に、実権を握っていた蝙蝠鬼で全盛期は歴代最強の、串刺し皇帝などと呼ばれ、恐れられたようだが息子が死に、孫も死んだ今はただの老いぼれ。しかし、我が同胞を殺しツノだけを送りつけるという蛮行決して許さぬ。全力を持って叩く。
「アステリオス様。あと、4時間ほどでデュークの地「血染め山」につきます」
「そうか…着くのは11時ほどか。近くで1時間ほど休憩を取る。…いるのは老いぼれ一匹だ…」
「はっ…」
1時間も休む必要はないと思うが、移動の疲れを考え休憩を取る。なぜ全軍できたかといえば、老いぼれを殺しデュークの地を手に入れても、これから他の魔族が群を成して襲ってくる可能性がある。それを、撃退するためだ。所詮老人一匹、我が出る間もなく終わるだろう。
まあ、攻めてくるであろう軍は、傾国のリリスの持つ軍か…噂では、サウロンとかいうリッチを筆頭にした不死なるアンデッドの軍だったか…それと、考えられるのはデュークの弟の吸血鬼の軍か…まあ、あいつらは数が少ないから数で勝つ。しかし、父と兄の考えが違ったせいで弟の方が長く生きるか、世の中は面白い。
考えているといつの間にか、連絡をしていた兵士が去っていた。
「待っていろ…デューク…貴様に負けた屈辱を晴らせぬ今、人族を多く殺し上げこの世界を支配するのだ…勇者などに引けは取らぬ。そして…現魔王にもだ…」
△
一方、ディルはのんびりと空を飛んでいる。
遊び疲れたので真面目に飛ぶことにした。気づいたことなのだが、デュークの屋敷に近づけば近づくほど空を飛ぶ魔物の数が多くなる。まあ、こちらの方が早いので無視しているが帰りに狩って帰るのもいいだろう。そうこうしているうちに、見覚えのある屋敷が見えてきた。そっと、地面に着陸しようとすると多くの巨大な蝙蝠が襲ってきた。まあ、すべて斬り殺したが…まあ、これでおそらく、じぃお気づいたろう。前門は少しだけ開いていたので、何も言わずに堂々と入る。だって、実家じゃん?
門を超えると、不気味な空気が漂っていた。まあ、夜だし…屋敷の扉までには多くの死体が串刺しになっている。後で、魂記録でスキルを貰っとくか…
そんなことを考えながら歩いているといつの間にか屋敷の扉が開き、中からじぃが飛び出してきた。
「何をしているのですか!ディル様!ここは危険です!」
「俺も戦う。…じぃ。話がある。」
俺がスキル「威圧」を使いながらできるだけ低く真面目な顔でじぃを見る。最初は驚いたが、すぐ察し大きく頷いた。それにしても俺の威圧もまだまだなんだな…もう少しレベル上げよ…
「わかりました。では…お入りください。外は冷えましょう…」
「いいや、寒くはないけど…」
「いえ、体感的に寒いのではなく…ディル様は人族ですから、ここに来るまでに何かを感じませんでしたか?」
「いいや、普通だったけど…何かあるの?」
「ええ…ここは魔族の領地ですので、人間の領地と『闇』が違いますので肉体が拒否反応を起こし寒さを感じるそうなのです。なので、闇魔法に長けている吸血鬼は長く皇帝という地位を…話がずれてしまいましたね。おそらく、ここで幼少を過ごされたので適応があるのかもしれません。さあ、どうぞ…」
闇ねぇ…うん、何も感じなかったな。それに闇魔法が強くなるのか…まあ、魔族のみが使う魔法らしいし魔族の領地だもんな…まあ、これは戦いやすいな。じぃに案内され、屋敷の中に入る。屋敷は赤ん坊の時みた景色と同じだが、少し小さく感じた…俺も成長したのか…。じぃの後を追っていくと、客間についた。
「それでお話しとは?…」
「ああ…じぃ…少し離れてて?…」
俺は腰に差した剣を抜くと、身体中に闇魔法をかけていく。徐々に髪が白くなりどんどんと、伸びていく。骨が伸び背が高くなり、それに応じて筋肉もついてくる。そして、成長が止まるとデュークに似た姿になる。
俺はそっとじぃの方を見る。じぃは目を大きく開いて固まっている。俺はゆっくりと近づいていく。
「じぃ…どうだ?父さんに似ているだろう?…」
「本当に…本当にディル様なので?…わ、私には…デュークが生き返ったのかと…」
「…すまない…気を悪くしたか?」
「そんなことは決してありません…おお…少し触っても…」
声を震わせながら、俺に手を伸ばしてくるじぃ。何だかんだいって、デュークと仲良かったからな…
俺が無言で頷くと、そっと頬をなでてくる。ゆっくりと、懐かしむように…その冷たい手から温かさを感じた気がする。
「ありがとうございます…少し落ち着けました。それで、なぜその格好を?…」
「ああ…じぃには、言ってもいいだろう。落ち着いて聞いてくれ…俺は生まれる前の記憶があるんだ」
驚くかな?と思ったが、そんなことはなく眉を少し動かしたくらいだった。俺みたいな人間は結構いるのかな?…まあ、いいか。そのまま話を続ける
「それで、俺は赤ん坊の時から記憶というか…理解してた。だから、全部覚えている…俺はどうやら生まれた時からスキルを持っていてな…魂記録というスキルで、死体に手を触れて発動するんだが、死者のスキルをコピーするスキルなんだ。信じられないか?…」
「いいえ。信じましょう。それに、理解できました。その『魂記録』でデュークのスキルをコピーしたわけですね?」
「ああ、そうなんだよ…」
「そうですか。そんなことは大したことありません。前世の記憶を持って生まれる事は、結構な確率であるそうですし。スキルは…特殊ですが、運命なのですから受け入れるしかありません。おっと、喉が渇いたでしょう…コーヒーですか?紅茶ですか?」
「なら、コーヒーで。いつものミルクに砂糖たっぷりで頼むよ」
「ふふ…はい。かしこまりました」
じぃは笑いながら「黒い吃驚箱」を開くと、中からポットを取り出しコップに注ぐ。そして、ミルクを入れ角砂糖を5ついれた。そっと、スプーンでかき混ぜると俺に手渡してくる。コップを受け取ると少し口に含んでみる。
「…うぅ…甘すぎる…」
「…でしょう…」
じぃと自然と目があう。すると、どちらからともなく吹き出し笑いあった。もし、この場にデュークがいたら顔を真っ赤にしていたに違いない。
笑い終わると、真面目な顔で話し合いに戻る。じぃと俺は、空いている椅子に腰掛ける。
「では、デュークのスキルを持っているということですが…何を持っているので?」
「デュークが持っていたスキル全てだな。例えば…」
俺は机に手を乗せ、闇領域を発動させる。一瞬で机に黒い円が広がっていく。一瞬で広がった闇領域はいつもより色が濃い感じがする。これが『闇』の違いか…。じぃは驚いたように目を見開く。
「まあ、こんな感じか…」
「ディル様は人の身でありながら。闇魔法を使えるとは…驚きです…」
「ははは!これもデュークのおかげだよ。あと、外に突き刺さってる死体からも、もらっていいか?」
「ええ。かまいませんよ…ご用意しましょう。」