38話 友の兄の救助
視点が戻ります。
カフがケルと一緒に、離れた席に座った。どうやら、ため息をついたりしているようでケルに迷惑をかけられているようだな…まあ、仕方ない。
「こら、ラスティ!返しなさい!」
「嫌だ…」
「ったく…はぁ…」
ここで意地を張っても仕方ない。中身は高校生だ、小学一年生くらいの小さな女の子ならプリンの一つや二つどうだって事はない。そんなことを考えていると、すでにラスティはプリンを掬い小さな口に運んでいた。くそっ…
そんな時、突然校内に音声が流れた。
『全校生徒に連絡します。右剣校舎側の森にて魔族が現れました。生徒の皆さんは全員、可及的速やかに自室の寮へ戻ってください。右剣校舎側に寮のある中級生は寮ではなく、左杖校舎の魔講談室に移動してください。教員方と風紀員は職員室に集まってください。』
集会の司会と同じ声で、連絡が入った。魔族ね…魔族!?まさか、じぃの事か?でも、とっくに帰ったよな…それに今更か?…
俺が考えていると、突然沈黙を全員が破り、悲鳴や怒号の混じった叫び声をあげながら全員が食堂の出口に向かう。そこまで怯えるようなことなのか?…魔族って人間と、どういう立場なんだ?…マリアは普通にデュークといたけどな…
視界が急に開けると、呆然と立ち尽くした青年がいた。カフだ。そういえばあいつ風紀員だったな…
声をかけようとカフに近づいていくと、若干カフが震えている。目線もずっと先をただひたすら眺めている。明らかに動揺している。
「はぁ…ラスティ、いくぞ。」
「ん…」
ラスティはプリンを一気にかき込み、もぐもぐと咀嚼しながら俺の後をついてくる。カフは俺が近づいているのに気づいていないようだ。
「大丈夫か?震えるな。」
俺が声をかけると、カフは驚いたふうに振り返り俺を見てくる。そっと肩をたたくと、緊張が解けたのか表情が普段のカフになる。が、たたくと同時にカフに影盗聴シャドウコールをかける。カフが魔法に耐性があるかわからなかったが、どうやら心配は杞憂だったようだ。カフは真剣な眼差しで、俺の目を見る。
「ああ。すまない、助かった。ディルも部屋に早く戻れ。私は職員室に行ってくる」
そう言うと、カフは走ってどこかへ向かった。
「さて、帰るか…」
▽
部屋に戻るとのんびりベッドに腰掛けながら、カフにかけた「影盗聴」を聞く。ちなみにラフティは隣で本を読んでいる。さっき図書館で借りた本だ。
しばらく聞いていると、突然シリウスの声が聞こえた。
《「皆に集まってもらたのは、他でもない。放送で流れた通り魔族についてじゃ。高級生・終生の風紀員は右剣校舎側の警備を頼む。戦闘のできる先生方は協力して警戒を。中級生の風紀員は低級生の風紀員と二人組みを作りその他の森の警備を。終生の森にはワシが担当する。決して低級生と低級生で警備してはならぬ…。そして、決して森に入ることを禁止する。今晩魔族が現れなかった場合、明日ワシと数名森に入り調査を行う。高級生・終生は各々自分の持てる最大の武装を、先生方も同じく。低級生に関しては中級生から借り受けなさい。以上。」》
初めて聞くシリウスの本気モード。しかし、的確だな…低級生は弱いから中級生と組ませるか。って、森の警備したら、今晩森にスキル取りに行けなくね?…マジかよ…でも、森に入ってはいけないっていうことは、森に入ってしまえば誰かにバレることは無いってことじゃね?もっと、情報が欲しいな…
そう思っていた瞬間、
《「彼等に光の護を。神聖の後光」》
その一言で、影盗聴ができなくなった。なんでだ?…もしかして結界的なヤツか…
今の声的にシリウスだな。くそっ…。まあ、大体わかった。カフがいるのは、低級生用の森か、高級生の森だな。さすがに中級生の森は警備が強化されているだろうから、高級生の森だな。さて…
「ラフティ、少し出てくるぞ。」
「行ってらっしゃい…」
ラフティは本に夢中で、適当な返事をしてくる。まあ、好都合なんだが…
実家から持ってきた、黒目の運動のしやすい服装で廊下を歩く。警戒していかなきゃなっと考えていたが誰もいないので、堂々と廊下を歩く。
あ、ロット。案内を頼む
『案内します。その現在歩いている廊下を真っ直ぐ歩いてください」
言われた通り、歩く。この学園は見た目以上に広い。どうやら魔法で広くしているみたいだが…それと、右に進んでも地図では左に向かっていたりと、対テロリスト用らしいが、生徒からしてみればたまったものじゃない。まあ、住めばなれるらしいが…
しばらく進んでいると、やっと高級生の寮「左杖校舎」にこれたようだ。それにしても広いな…廊下が低級生の廊下より広いぞ?…興味心からロットの案内を聞かずに適当に散策始めた。しばらく、歩いて回っていると突然女の叫びごえが聞こえた。自分が行くべきか悩んだが、様子を見に行こうと思い叫び声のした方に歩いて向かう。
すると、先にカフとカフの兄のシェダルが部屋に入っていった。これで安心だと思ったが、そこは野次馬魂。何が原因で叫び声をあげたのか知りたい…そう思っていると背後から指で突かれる感覚がした。すぐに振り返ると…
「ばぁ!…」
「ラフティ…何をしているんだ?…」
「こっそり、追いかけた…。ネタばらし?」
「そうか…うん。そうか…」
よかった…森に行かなくて…ついて来られたら死んでたな…
俺がラフティに説教をしようとすると、突然カフが扉から飛び出してきた。女性を抱えている…血だらけで見るからに重症だ。これは何かあったな…カフは必死に扉の前で泣きそうな声で叫んでいる。そっと近づくと、突然カフが声を出した。
「ディル…」
「呼んだか?…」
すぐにカフは振り返って俺を見てくる。その目には涙が浮かんでいる…。泣き虫だな…
「何があったんだ。説明してくれ」
「あ…ああ。悲鳴が聞こえて兄様と共にこの部屋に入った。その中で、その女性がブラッディピクシーに襲われていてなんとか兄様が助けたんだが…兄様が中にまだ…」
「ブラッディピクシー…」
ってなんだ?…やばいやつなのか?…まあ、この女性を見るからに噛み付くやつだろ。所々噛みちぎられているな…
『説明します。『ブラッディピクシー』小人族の『レッドキャップ』に近い存在です。血を好む種族で、殺すことを道楽と考える妖精。特筆する生体はその力です。竜種の鱗を引き剥がすレベルです。群れで移動する特性がある』
かなりヤバそうだな…しかし、いいことを知った。妖精…じゃなくて、小人か。さぞ、いいスキルを持っていることだろう…うまそうだ。
ふと、視線をラフティに向けると、ラフティは血だらけの女性に両手を当てなにやら魔法を使っているようだ。ゆっくりとではあるが、女性の傷が治っている気がする…。
「なっ!…ラフティ…君は聖魔法を使えるのか?…」
「…少しだけど…」
「さて、治療はラフティに任せて兄さんを助けに行くか。」
「し、しかし、この扉は本人魔力で反応するのだぞ?…そんなこと無理だ…」
カフは悔しそうな表情で扉を叩く。手が痛そうだな…てか、破壊って無理なのか?
『説明します。部屋には【魔力認識型結界】が貼られています。かかっている魔法はLVは6なのでそれ以上の魔法またはスキルでの攻撃などで壊すことが可能です』
簡単じゃんか。
俺は指輪をそっとはずし、腰に差した「星斬り」を両手で握る。その瞬間理性より、本能で斬りたいと思う感情が吹き上がってくる。
「大丈夫か?…」
「ああ。大丈夫だ…少し離れていろ…」
カフがある程度離れたことを確認すると、本能のまま部屋を扉を切り裂いた。すると、扉は歪むように何かを切った後、扉に斬れ筋が通り二つに斬れた。すぐに剣から手を離す。どうやら体がまだ子供のようだ…
俺は斬った扉をすぐに抜け、中に突入する。すると、血だらけになりながら棒立ちしているシェダルがいた。そしてそのシェダルを取り囲むように赤い体の小さな人形の小人が飛び回っていた。服はすでに破れかけ、地面には来ていたであろう鎧が傷だらけで落ちていた。
俺はすぐに駆け寄ると、シェダルの体に触れながらスキル『闇領域』を使用する。するとシェダルを中心に半径1mほどの黒い円が広がる。円が広がるにつれ、小人たちは追いやられるように離れていく。すぐにシェダルの様子を確認する。どうやら息はあるようだが、意識はない。それを確認すると、俺はすぐに闇領域から出て剣を構える。
「かかってこいよ。赤い蝿ども」
▽
ディルが扉を斬ってから、カフは祈るように部屋に入っていくディルの背中を見ていた。ふと、頭が少し冷静になる…
私…俺は、横で治療をするラスティを見る…
「ラスティ…」
「何?…」
その瞬間思い出した。ラスティ…
「ラスティ…ラスティ・ネイルか!」
「っ!…そう…だけど?…」
あの大事件を起こした血…ネイル家…ディルはなぜこの子を?…わからん…




