32話 学園集会
1限の終了を知らせるチャイムが鳴り響く。一瞬で子供達は周りにいる友達と会話をし始める。これはどの世界でも共通なんだな…俺の唯一の友人であるカフは、色々な生徒に話しかけられ身動きができないようだ。
ほぉ…充実してる学園生活じゃないか…。ふと、隣を見ると机を枕にして突っ伏して寝ているラスティ。なんでこいつが、Aのクラスにいるんだろうか…って、よだれが机に広がってるじゃねーか!
「おい、ラスティ!起きろ。授業終わったぞ…」
声をかけても起きないので、体を揺らしてラスティを起こす。すると、ラスティは体を起こし目をこすりながら俺を見てくる。まだ寝ぼけているのか何かを言っている。
「うむぅ?…ディルも見たぃ?…いいよぉ…『聖神徒召かクリアンs…』」
「馬鹿っ!」
一瞬でラスティの足元に光り輝く魔法陣が浮かび上がる。どんどん光が強くなっていく。これはまずいと直感で、わかりラスティの詠唱をやめさせるため口を塞ぐ。すぐに息ができなくなったのか顔を青くして全力でタップしてくる。
それにしても…さっきのはなんだったんだ?…あの光…確かシリウスが…
「おい、ディル…ラスティが死んでしまうぞ?」
「へ?」
どこからか聞こえたことに思考から離れ、意識を現実に戻す。すると、青い顔に白目をし、力なく倒れるラスティ…あ、手を離すの忘れてた…そっと、手を離すと全力で生きを吸い始めなんとか戻ってきたようだ。死んだら死んだで、いいんだがな
「こ、ここは…」
「大丈夫か?…すまない…」
「何のことかわからない…けど…なんか、許さない…」
どうやら本気でわかっていないようだが、本気で許さないようだ…まじかよ…お前も原因があるんだけどな…
この一連の流れを聞いていた、声をかけてきたカフを見る。ニコニコとした笑顔で少し腹がたつな…
「どうかしたのか?カフ」
「はぁ…次は集会だからそろそろ行かないとあ似合わないぞ?」
「そうか、助かった。ラスティいくぞ。」
「うん…」
「ははは!仲がいい事で…って私を置いていくな!待て、ディル!」
△
「ついたな…どこに座るか…」
「どこでもいい…」
集会をする場所は大きなコンサートホールのようで薄暗い照明にたくさんの座席が並んでいる。昨日読んだ紙には大雑把な区切りはあったが座席の指定はなかったな…
悩んでいると、後からカフが生きを荒げて近づいてきた。
「はぁはぁ…何を言っているんだ!ディルは…成績は特待生だろ!こっちだ!」
「特待生?ちょ、ひっぱんなって!…」
カフが俺の服を掴んで、どこかへ連れていく。壁際にあった小さな扉を開くと大きな通路になっており、何人もの上級生が行き来をしている。カフから解放された俺は、カフについて行きながら話の説明を受ける。
「さっきの特待生ってなんだ?」
「もらった紙を読まなかったのか?…はぁ…ディルは成績がトップだったから色々な委員から勧誘がきたろ?どれも答えなかったから、勝手に特待生に決まったんだよ」
「ふーん…ソフラン先輩と一緒か…って、じゃあなんでカフもいるんだよ」
「私は1年の風紀員になったからだ。」
「兄貴に憧れてだろ?」
「確かに否定はしないが…そう言われると、なんだか腹が立つ…」
「ついたか。」
「ああ。」
大きな扉が見えてきた。木製で厳重な扉をゆっくりと開けると、そこには化け物がいた。化け物と思えるほどの威圧が容赦なく飛んでくる。厳かな空気が漂う部屋に、カフが脂汗をかき一歩引く。俺はそのカフの背中を軽く押すと、俺は部屋の中心まで歩いていく。今の俺でも敵いだろう先輩方、目つきの鋭い先生方。おもしれぇ…
俺は部屋の中心であろう場所で立ち止まると、頭を下げる。そして、無表情を解除する。
「お初に御目に掛かります。今年度、入学したディルと申します。若輩者ですがどうか、よろしくお願いします」
頭を上げると同時に無表情を発動する。すると、すぐにカフが隣にやってくる。
「お初に御目に掛かります。同じく、今年度入学したカフ=B=カシオペアと申します。1年の風紀員として粉骨砕身の思いで頑張っていきますので御指導御鞭撻のほどよろしくお願いします」
カフは声を震わせることもなく、堂々と言い切った。なんか、俺のが霞んで見えないか?…
すると各所で拍手が起こる。所どころ笑い声が聞こえるが…いいのか?…
すると、一人の大柄な男。いや、大熊が俺たちの元にやってきた。身長は俺の三倍はあるだろ…
「ははは!お前たち、いい度胸だな!ここでそんな挨拶してきたやつは初めてだ!俺の名は風紀員長のウルサ・マヨルだ!これからよろしくな!」
差し出される手を握る。手の皮が厚く、とても暖かい手だ。おそらく、ハンマーなどの武器を使うのだろう…
カフは目をキラッキラさせて手を握っている。どうやら感激しているようだ。握手をし終えると大熊さんは去っていった。
「で、ディル!あ、あ、握手をしてしまったぞ…ウルサ様と…」
「そんなに嬉しいか。よかったな。」
まるで有名人と握手をしたファンの子のように握った手を大事そうに見ているカフ。俺からして見ればただのでかい熊なんだけどな…
しばらく、興奮するカフを見ていると、あの厳かな空気がさらに厳かになる。誰もしゃべらずただ、決して悪い雰囲気ではない。尊敬…を感じる…
ふと視線を入ってきたドアの方に向けると、スーツを着た教員たちを率いながら老人が入ってきた。地面すれすれのローブを着ている。老人は辺りを見渡す、すると俺の姿を発見したのか笑顔で近づいてくる。カフはさっきの興奮が嘘のように顔を真っ青にして固まる。
「おお、ディル坊ではないか。会うのは城を出ていらいかのぉ…少し成長したか?どうじゃった、一人旅は。」
「シリウス様、お久しぶりです。三日ぶりですので、成長はしていません。一人旅は色々な経験があり満足できるものでした。」
「そうか…それに聴いたぞぉ。入学試験で満点で合格したそうじゃな。おめでとう」
「ありがとうございます。これも全てシリウス様とウッォカ様の教えのおかげです。」
「ははは!ワシのような老ぼれが、教えたことなど何もない。全てお主の才能と努力じゃ。ローズに感謝するのじゃぞ」
「はい…」
「うむ、では頑張るのじゃ」
シリウスは俺の頭をポンポンと叩くと、そのまま通り過ぎていく。小声だったので、他の生徒には今の話は聞こえていないと思うが…問題は俺の隣で放心状態のカフだ…
はぁ…シリウス…話す場面があったと思うぞ…
▽
しばらく固まっているカフを放置して5分ほど。やっと硬直が解けたと思ったら、今度は俺の胸ぐらを掴んで質問攻めにしてくる。あー…メンドクセェ…
「ディル!どういうことだ!シリウス様とどういう関係だ?一人旅とは?城とは?」
「後で全部説明してやるから。もうすぐはじまるだろ」
「わ、わかった…」
俺たちは舞台の袖から、集会の開会を見届ける。進行役のアナウンスが響き開会の言葉を述べる。それもすぐに終わるとシリウスが袖から出てきて舞台の中央に立つ。理事長のありがたーいお言葉だそうだ…ねむ…
「ワシが理事長を務めているシリウス=ベッセルじゃ。今年は例年より多くの入学志願者が多かったそうだが、その中から選ばれ学園に入学した新入生たち。入学できなかった者たちの思いも背負って学園生活を充実しなさい。在校生諸君、すでに多くのことを学んだであろう諸君らは、これからも勉強に励み人の為、世界の為、自分の為になるよう精進していきなさい。ここはあくまで通過点にすぎない。ここで学ぶんだことをどう生かして生きていくか。楽しみにしている。以上じゃ」
割れんばかりの拍手が起きる。うーん…どこがいいのか全くわからん。偉い人が口を揃えて言うセリフのオンパレードだったようなきがする。
拍手が鳴り止むと、アナウンスが次の項目に移り始める。傍から机をシリウスの前に置くと、先輩方が傍から舞台に出て行きシリウスの前で整列する。俺もカフと一緒に列の最後尾に並ぶ。
「『特待生』の表彰を行います。名前を呼ばれましたら一歩前へ出てください。終生 アルメーヌ・コーリン…」
「はい。」
名前を呼ばれた生徒は返事をしてから一歩前に出るようだ。次々と名前が呼ばれていく。あ、ソフランだ。やっぱ可愛いな…でも、なんか浮かない表情だ…そうかしたのか?
「低級生1年 ディル」
「はい」
「特待生代表、終生 アルメーヌ・コーリン。」
名前を呼ばれた終生の生徒はスタスタとシリウスの前まで行くと何か紙をもらい、頭を下げて戻って来る。あー表彰式か。高校の時と変わらないな。それから同じように監督生が発表される。1年は監督生はいなく、先生が務めるそうだ。次に各委員会の引き継ぎになる。委員会は1年生は今年の2年生、2年生は今年の3年生からと1個下の学年に厚い本を渡している。あれは?
『あれは『公務日誌』と呼ばれる魔道書です。委員会での出来事などを書いていく日誌です。書いたものはデータ化され、なくなることはありません。閲覧できるのは教員のみで、生徒は記入しかできません。」
ふーん…まあ、俺には関係ないし興味もないな。しかし、カフが緊張しっぱなしだな。ガッチガチじゃん…
引き継ぎが終わるとシリウスに一礼して再び袖に戻っていく。
「緊張してたな…大丈夫か?」
「ああ…大丈夫だ。それよりディルはなんでそんなに平気なんだ?…」
精神が子供じゃないからだよ…とは言えないので適当にはぐらかす。
「まあ、たまたまだよ」
「そうか…」
アナウンスが次の項目に移る。連絡事項らしい。
「連絡です。売店での教科書販売は高級生が今日12時から。中級生は明日12時から。低級生は明後日10時からです。村までの移動はこの土日は禁止とします。以上です。」
アナウンスが終わり、みんながぞろぞろと部屋に帰っていく。俺はソフランと少し会話をしていると、すでに生徒はほとんどいなくなっていた。ソフランと別れ、部屋に帰ろうと思ったが、アスティがいないことに気づいた。
まさかとは思うが、一応カフに連れて行かれたあの座席に戻ってみる。
「馬鹿。なんで、帰らなかったんだよ」
「ディルの…奴隷だから?…それに部屋は、入れない…」
「あーあ、アホのせいで疲れたな。腹減った。」
「ごめん…なさい…」
「ほれ、いくぞ。」
「うん…!」