30話 魔剣士と奴隷
不思議な少女が俺の目をまっすぐに見つめてくる。なんだ…こいつ…
「君は?…」
「私はラスティ…ラスティ・ネイル。さっき自己紹介したのに…」
「すまない…それでなぜ闇魔法と?」
「話せば貴方も私を「気が狂ったエルフ」と宣う…」
急に表情が暗くなり、伏し目になっている…なんだ?こいつ…感情が読めない…てか、情緒不安定か?…
「そんなことないさ。なら、これならどうだ?」
少女が顔を上げて俺を見てくるので、俺は無表情のスキルを消し少し脅しをかけるような笑顔をする。闇魔法は人間は使えないなら、このハッタリも効くだろ。声のトーンを下げ、ドスを効かせる。頼むぜ、「狂言」
「人間には扱えない闇魔法を俺は使える、それを君は見抜いた。なぜ見抜けたのかを聞きたい。つまり君がどんなエルフだろうと俺には関係はない」
「それが…貴方の本性なの?…」
「ああ。これが俺の素だ。」
「わかった…話したら、私も貴方に聞きたいことがある…」
「わかった。だが、質問次第だ。」
「うん…。魔法には色がある…それはみんな知っている。魔力の検査の時何の魔法に適しているか「魔感玉」で見たでしょ…。私は人が魔法を使う時、魔法が形成される前に色が見える…貴方の手から紫っぽい黒の靄が出るのを…だから…」
「そうか…ラスティは魔力が見えるのか…」
これって最強じゃね?…正直魔法が、完成するまでにのタイムロスにある程度予測できるわけか。もし的が笑顔で近づいて無詠唱で攻撃してきたら一巻の終わりだ。しかし、この子は事前に魔法をしてくるかどうか分かり、何の属性の攻撃かもわかるのか…魔法とスキルって…
『説明します。魔法は魔力を使って発動するもの。スキルは、魔力を使わず発動するものですy』
「私は話した…だから質問…貴方が昼間の魔剣士?」
「魔剣士…まあ、そうなるな。どうしてだ?」
「魔剣士の取得方法を教えて…魔剣士は魔法なの?それとも、スキルなの?…」
ラスティはゆっくりと呟くように、質問しながら近づいてくる。目は見開き、体はわずかに震えている。まるで何かに脅されているかのように。ラスティはそっと俺の胸を小さな握りこぶしで叩いてくる。
「どうしたんだよ…」
「私は…どうしても魔剣士にならなくちゃいけないの…なんとしても…だから教えて」
魔剣士…この子に魔剣士を教える…教えてもいい…しかし…この子じゃ…
「無理だ。」
「なぜ?…」
俺の胸の中で涙目になりながら少女は、俺を見つめてくる。よく見ると、頬はコケ目の下にクマができている。
「教えてやる。大きく分けて、二つある。剣術のランクを最低でも5以上。魔法のランクを9以上持つことだ。それが無理なら魔剣を持つことで手に入れろ。お前は魔剣を持っているのか?」
確か、そんな説明を受けた気がする。
ラスティは悔しそうに唇を噛み、俺の服を力一杯握る。
「そんなの…無理だし…魔剣なんてない…。なら、貴方の魔剣を私にもたせてくれれば!…」
「なら、ほら持ってみろ。」
俺は腰に差してあった剣「星斬り」を抜き、柄を少女に向けて手渡す。少女は恐る恐る、俺から剣を受け取る。俺の手から離れた「星斬り」は光を出さなくなりただの剣のように鈍い金属の光沢のみになる。
「何で?…」
「それが答えだ。」
「うぅ…」
泣いているのか、剣を持ったまま下を向き始めた。残念だが、仕方がないだろ…俺だってどうにかしてやりたい気持ちはある。どんな理由があろうと、ここまでこんな少女が頑張っているのだ。俺はそっと少女の手から「星斬り」をとると、腰の鞘に戻す。
「じゃあな…」
「ま、待って!…なら私に剣を教えて…」
「は?何を言っているんだ?…俺に利点がないじゃんか。人間で闇魔法を扱う俺だぞ?」
「闇魔法なんて関係ない…なら、私はあなたの奴隷になる」
「は?」
▽
俺は今割り振られた寮の一室に居る。Aクラスは一人部屋で、B・Cそは2〜3人のシェアルームらしい。広さは十畳ほどの広さにお湯を沸かす魔道具やお風呂まで完備されている。その俺は大きくフカフカのベッドに横になりながら先ほど教室で配られた書類に目を通していく。そんな俺の隣には、静かに本を読む少女…
「ラスティ…お前は部屋に戻れ。」
「私はディル様の奴隷です。」
「っ!…わかった…勝手にしろ…」
ラスティが俺の奴隷になると言ってから、最初は断ったのだが何度も頼み込んでくる彼女にめんどくさくなって了承してしまった。のだが、後悔している。一人になれない…まあ、特に問題はないのだが…まあいい。
入学者用の書類に目を通していく。こちらの世界も同じように、七日で一週間。365日で一年となるそうだ。一週間のうち5日は授業、残り二日は休日になる。授業は必修科目と選択科目があり必修科目は3年間で、必ず受講し進級の時テストに合格しなければ進級できない。選択はかなりの種類があり、3年間で40種受講するらしい。半年で終わるものや、テストがないものなど様々だ。
学園の設備では、朝食・昼食・夕食は各々が好きな時間に、食べれるそうだ。まあ、メニューは日替わりだが。それから図書館や道場などは低級生は夜8時までと決まっているらしい。消灯は10時。中級生から夜行性のモンスターなどの討伐などがあり、消灯はなくなるらしい。
明日は1限のホームルームに、2限から学園の集会で終了らしい。
「なあ、ラスティ。飯を食ってくるけど…お前は…」
「私も…行く…」
「ああ、なら行くぞ。」
俺は「星斬り」を「黒い吃驚箱」に仕舞い、鉄の剣のみを腰に差す。何があるかわからないから持って行くのと、二本剣を差していると正直重い…扉から出ると、鍵を閉める。これは魔力感知型で本人以外が扉を開けようとすると、警報を鳴らすらしい。まあ、何かあるわけではないが闇魔法「闇領域」を部屋を包むようにして発動させる。
「さあ行くぞ…どうかしたか?」
「ここまでするほど?…部屋には何もないのに…」
「気分の問題だよ。置いていくぞ?」
「ま、待って…」
▽
覚えたての地図を思い出しながら、歩いていたが途中で道に迷った。しかし、アナウンスが道案内をしてくれ、何とか食堂につきそうだ。そうだ…名前をつけるんだったな…何がいいかな…
『何でもいいですが、変な名前はやめてください』
わかってるって…えーと…声的にはアレっぽいんだよな…ほら、歌を歌わせる音声の…確か初音m
「どうしたの?…考え事?…」
「あ、ああ…」
まあ、そういうところから取っちゃ、ダメだよな…うん。何かダメだ。なら、案内人とか…案内人ってパイロットだったか?…なら、ロットでどうだ?
『では、これからはロットとお呼びください。』
だいぶ待たせたな…すまない。それと、これからよろしくな!ロット!
「ついたみたいですよ…」
大きな扉を開けると、そこには木製の机が三列に並べられており、机の上には大量の料理が並んでいた。バイキング形式で食事は全て記録され、家に授業料と一緒に請求されるそうだ。そういえばシリウス言ってたな…教員がただで飯を食べる時、椅子に魔力を流すのだったか。
俺が椅子に腰掛けると、椅子が赤く光ったラスティは俺の後ろで立ったままだ。
「どうかしたのか?座れよ」
「いえ…お金がないので…」
「いいから、座れよ。いい方法があるから…」
「ん?…」
ラスティは怪しみながらも椅子に腰掛ける。俺はラスティが腰かけた椅子と俺が座っている椅子に触れると、二回短く魔力を流す。すると、椅子の赤い光が支払済の淡い青色に光り始めた。
「さあ、食え。たんと、食え。にひひひ…」
「そ、それも闇魔法?…」
「違うな…これは…冬のダイヤモンドからの贈り物かな」
「なにそれ…」
「気にするな。さあ、食おうぜ」