3話 親バカな父とステータス
「なっ!バカなことを言うな!…そ、そうだ!ステータスだったな!!」
デュークは照れて赤くなった顔をマリアに見せないように顔を下に向けながら俺の顔に手を置く。
「よし!ディル!『ステータス』と言ってみなさい」
「ふふふ、デューク様…まだ赤ちゃんです。言葉は言えませんよ?」
「はっ!そうだったな!…赤子は、大変だな…しかし、どうすれば見れるのだ?」
「私の居た村では村長が『技能開示の石』というステータスを見ることができる石を持っていましたが…」
「よし!奪っ借りてこよう!」
「やめてください…」
マリアの表情が暗くなり声に元気が無くなる。それを察しデュークも暗い表情になる。どうやらあまり触れてはいけないみたいだな…
「そうだな…すまない。しかし…ディルが自分でステータスを開くことができれば…」
ステータス?なんだそのゲームみたいなの。え?もしかしてこの世界って幻想世界っぽい?
そうだよな、だってヴァンパイアが居るんだぜ?よし!そうとなれば、ステータスって言えばいいんだっけ?
「あぅーぁう?」
口を精一杯開いてステータスと言おうとするが声より空気が出てしまい言葉にならない…どうすればいいんだ?…
ステータスを開こうと考えていると、目の前に半透明な長方形の板が浮かんだ。
板には何かよくわからない図形の羅列がある。なにやら、文字のようだが読むことができない…
すこし、がっかりしていると突然文字がルーレットのようにクルクルと回るとすべての文字が日本語に切り替わった。どうやら自動的に変換されるようだ。流石異世界…
どうやらこのステータスはデュークには見えていないようで、未だに俺の頭に手を乗せたまま頭をひねっている。好都合なのでステータスを確認する。
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☆基本情報
名前 ディル
年齢 0.3歳
性別 男
職業 未設定 (墓荒らし)
☆ステータス
攻撃 21
防御 19
魔力 13
速さ 24
知 79
運 40
☆スキル
・魂記録[特典有り]
☆称号
・未熟者
・神への冒涜
・転生者
・皇帝の息子
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まあ、名前はディルなのも年が0.3歳というのも何となく分かってはいたが…ステータスか…やはり違和感があるな…これで何もかも分かっるって思うと怖いな…
それにしても何この職業の[墓荒らし]とか…笑えないんだが!てか、墓荒らしって仕事なのか!?初っ端犯罪者からスタートですか!?でも、未設定ってことは設定次第では変わるのだろうか?まあ、いいや…次はスキルか。魂記録?…わからんな…
すると、ステータスのスキル欄が下に伸びた。
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☆スキル
・魂記録…
魂を読み取りスキルを受継ぐスキル。受継ぐには死体に触れる必要がある。他殺でも死体にさえ触れていれば発動できる。
・初回特典《初回時の魂記録をした際、スタータス録を受継》
最初に魂を読み取った際、対象のステータスを受継ぐ事ができる。初回のみ有効。
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どうやら、疑問に答えてくれたようだ。ほほぉ…略奪系のスキルか。しかし、使いにくいな…死体に触れなければいけないか…てか、これだけなのか?他にインベントリとか、観察眼とかないのかっ!?
まあ、スキルがあるだけいいか…それにこの初回特典はかなり使えるな…しかし、リスクが高いな…
俺がステータスを目で追って読んでいるのに、どうやらマリアが気付いたようだ。
「デューク様…もしかしたら、ディルはステータスを見ているのでは?目がステータスを読んでいるものと似ている気がするのですが」
「そうか…?なら、なぜ干渉できないんだ」
「どうやら、この子はかなり知能が高いのではないでしょうか?目に赤ちゃんの無知さが感じられませんし」
「そうか!それはいいことだ。では、頼んでみるか?」
「そうですね…ディル。ステータスを見せてくれますか?」
やばいな…マリアの表情がかなり厳しい…俺の気持ち悪がってないよな?てか、勘がいいな…
マリアが頼むと、突然頭に抑揚のない機械質な女の声が響いた。
『ステータスの開示が求められています。要求者 デューク=ドラキュース
開示しますか?」
おお…開示の要求か…でも、このステータスを見られたらかなりやばいんじゃないか?だって、知と運が他と比べて高すぎるんだが…いや、他が低すぎるのか?
これって条件付きで見せることできないのか?いや、いっそ偽装とかできれば楽なんだよな…
『ステータスの偽装は、専用のスキルが必要です。条件付きは可能です。
設定しますか?」
おお!できたできた!てか、言ってみるもんだな…えーと、言えばいいのかな?
職業とスキルは隠してくれ。それと、称号も同じく頼む。それとステータスに関しては差があまりない程度に変えてくれ。
正直変わるか心配だったが、再び機械質な声で『完了しました。開示します』が頭に響いた。同時にデュークの表情が変わり真剣な目で何かを読んでいるようだ。頼んだことが完璧に変わっていたら問題はないと思うんだが…
数分間沈黙が続くと、マリアが恐る恐るデュークに聞く
「どうでした?…」
「…あっ!すまない。えーと…人間の子供のステータスがどうなのかわからないが…異常なまでに低い…」
絶望だ…死んだ…神は死んだのだぁあ!
デュークの言葉が空気を悪くさせる。デュークは俺を憐れんだ目で見てくる。マリアも俺を抱く強さが変わった気がする…
「それでどれくらい低いのですか…?」
「平均的に20ってところだ…スキルも称号もない…」
デュークの言葉にマリアの表情が何とも言えない表情になると、深く息を吸い込み長い溜息をする。
「はぁ…私が愚かでした…デューク様。ディルに職業はありましたか?」
「いいや、職業はないな…これも異常だ。」
「はぁ…人間の赤ん坊は平均20です。それに職業は15歳の生誕日に教会に行き本人が選択します。それからじゃないと称号もスキルも手に入りません。まあ、たまに生まれた時から職業が決まっている『天職』持ちと呼ばれますが、違うようですし」
「そ、そうなのか…し、しかしそれではすぐに死んでしまわないのか?魔族は生まれたら数時間で立ち上がり、一日で魔法を使っているものだが…」
「それは魔族です!人間の子供は弱く無知なので、親が強く賢く育て立派な人間にするのです。それには時間がかかるのです」
「そうなのか…」
俺から手を退かすと真剣な表情になり、何かを考え込む。
マリアが不安そうな表情でデュークに尋ねる
「どうしたので…」
「すまない…私が人間についてあまりにも無知でな…これではちゃんと人間として育てることができない…父親失格だ…じぃ!いるか!」
デュークが大声でじぃと呼ぶと、すぐに扉がノックされ初老の男が入ってきた。デュークは初老の男に指示をだす
「少し人間について学びたい。文化・風俗・歴史・豆知識でもいい。関連する書籍を書斎に運んでくれ。早急に頼む。それと、コーヒーを頼む」
「かしこまりました。コーヒーはいつものミルクにお砂糖たっぷりで?」
「ふふふ…」
嫌味っぽく初老の男がコーヒーについて話すのを思わずマリアが笑ってしまう。デュークは顔を真っ赤にして初老の男に文句をいう。
「コーヒーについて言うのはやめろ、じぃ!恥ずかしいじゃないか…笑われてしまったじゃないか!」
「ハハハ。いいではないですか。それでこの子の名はなんでしょうか?」
「ああ、紹介してなかったな。私の息子にして、マリアの息子でもあるディルだ。ほらっ!じぃも挨拶!」
「ハハハ。そうですな、」
老人が俺の顔を覗き込んで満面の笑みで、挨拶をしてくる。
「ディル様。お初にお目にかかります。私はジル=ドラキュースでございます。いつか私を「じぃ」とお呼びください。」
ジルことじぃが挨拶とともに俺に指を出してくる。バカにしてんのか!へっ!こんな指へし折ってやるぜ!
俺は小さな手でじぃの差し出した指を握力全開で握る。すると、じぃの顔が驚きの顔からすぐに笑顔に変わった。俺を抱くマリアも笑顔だ。デュークだけなにやら、うらやましそうな表情だ。
「では、書籍をご用意しますので書斎でお待ちください。」
「うむ、頼む。それと、けしてうらやましいとは思っていないからな!」
「ハハハ。心得てます。では、失礼します」
じぃが満足そうに部屋を出ていった。デュークは俺の顔を見ると笑顔で頭を撫でてきた。乱暴で少し痛かったが冷たい手はやはり安心感が伝わる
「それではマリア。あとを頼むぞ。…じゃあな、ディル。あとで会おうな」
デュークは颯爽と部屋を出ていった。マリアは優しい目で俺を見る。この二人を親なら生まれ変わってよかったのかもしれないな…