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7:

柊介視点です

 最近、川辺がよく店に来る。この間久しぶりに来たときに相談があると言ってたわりには何も言わずに帰った。その後もランチに顔を出したりディナーの時間に来たり。だけど肝心の相談の件は何も言わない。今日は休憩時間に話す約束をしているけど、ランチも食べていくようで店にいる。

「誓子ちゃん来ない代わりに、あの娘さんは毎日来てるな。柊介、おまえの彼女か?」

 厨房の片隅で野菜の下ごしらえをしているじいさんが、川辺に視線をやったあと俺に聞いてくる。このじじいは絶対わざとだ。

「じいさん、ぼけたのか。俺の彼女は誓子ちゃんだ。ちなみに出張中だよ」

「ほ~、そうだったのか…なーんて知ってるけどな」

「ならいいけど、一瞬大丈夫かと思っちゃったよ」

「ふん、おまえよりも俺の頭はしっかりしとるわ。誓子ちゃんにまめにメール送ってるのか?」

「当たり前だろ」

「そこに、あの娘さんがよく来てるのも書いてるのか」

「誓子ちゃんに隠すほどのことじゃないからね」

「ふーん、お前はそれでいいんだろうが誓子ちゃんはどうおもってるかの~」

 じいさんの言葉を俺は鼻で笑う。誓子ちゃんだって隠されたほうが嫌だと思うけどね。


 休憩時間に川辺と待ち合わせをしたのは近所のカフェだ。これが誓子ちゃんだったら俺の部屋にご招待コースだけど、彼女じゃないからな。

「悪い、待たせた」

「そんなに待ってないわよ」

「で、相談って?」

 すると川辺は、なぜかふふと笑った。昔はこの笑顔を自分だけに向けてくれないかって思ってたんだよなあ。

「大学時代はそんなに直球じゃなかったのに。松浦くん変わったね」

 当時は少しでも川辺と話をしていたくていろいろ本題前に雑談してたもんなあ。で、ミヤに“お前は無駄に話が長いんだよ”と呆れられたこともあった。

「もう大学卒業して10年以上経過してるんだから、互いに変わったところもあるだろ。で、相談ってなに?」

「相談なんて嘘、って言ったらどうする?ただ松浦くんに会いたかったとかじゃだめかな」

「なあ川辺、俺はそういう冗談はあんまり好きじゃない。川辺は大学時代の友達だから貴重な休憩時間を提供してるけどな。大事な話じゃなかったら帰るぞ」

「……松浦くんって、そんなに真面目な人だったっけ。それとも彼女の影響かしら」

 確かに大学時代の俺は、まあ弾けてたほうだからな。でも店でのバイトと授業は真面目にこなしてた。そっか俺、川辺の前では“軽い松浦くん”だったもんな。

 誓子ちゃんの場合は、もともとじいさんのせいで俺の評価は微妙だったので挽回できてるといいんだけど。

「それはあるかも。俺は今幸せだからな」

「宮本くんに続いてノロケを聞かせる気?まあいいけど。実は、勤務先の人から交際を申し込まれたの。私、恋愛が面倒になってたから戸惑ってるのよね」

「へ~。相手はどんな人?」

「3歳上で向こうもバツイチなの。悪い人じゃないと思うけど」

「俺はミヤほど的確には言えないし、人の目を見る目があるか自信はないけど…まずはお友達から始めてみたらどうだ。なんなら店に連れて来いよ。俺よりも人生経験豊富な80代に頼んで人となりを見てもらうからさ」

 じいさんには“このお人よしが”と言われるだろうけど、川辺が幸せになれるんだったら背中を押してやりたいしな。

「ありがとね、松浦くん。お礼にここは奢るから。それと、彼女によろしくね。ふふ、この間お店に来た子でしょ。ずいぶん若いのね」

「あー、10歳離れてるからな」

「あらまあ。ぜひどこで知り合ったか聞いてみたいけど、話が長くなりそうだからいいわ。じゃあね」

 そういうと川辺は伝票を持って席を立ち、店から出て行った。


 今日の出来事をメールしようとしたら、誓子ちゃんから返信に気がついた。

『申しわけありませんが、出張が長引いてまだ日本に帰れません。川辺さんと仲良くしててください』

  “誓子ちゃんはどうおもってるかの~” じいさんの言葉が頭によみがえる。もしかして俺、じいさんより誓子ちゃんを分かってない?!だとしたらすごいショックかも…。

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