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「三島も外に食べに行くのか?」
たまには外食がしたくて外に出ると高橋とばったり会って、なんとなく流れで一緒に昼食をとることになった。高橋は私と同期で営業企画部3課に所属。陽気な性格で同期のなかでもフレンドリーな部類だ。どこか犬っぽい、というのが私の印象。
私たちが入ったのは客席が半個室スペースで区切られている和食屋だ。ここなら私と高橋がお昼を食べていても誰にも気づかれないだろう。この店を選んだ私、ナイス!!
というのも営業企画3課というのは、いわゆる“目立つ部署”のひとつで、そこで頑張る高橋もけっこう社内の女性に人気があるらしいのだ。同期なだけで共通点のない私と高橋の組み合わせは珍しいらしく、話しているのを見られたあとに派遣の方や他部署の女性社員に絡まれるので誰にも見られたくない。
「なんか三島に遭遇するのって久しぶりな気がする」
「高橋は大げさだよ」
「だって俺がよく見かける三島は、オレンジ色のトロリーバッグ持ってさっそうと出かける姿ばかりだ。いつもいないから同期の飲み会があっても誘えやしない。今週はもう日本にいるわけ?」
「んー、そうね。出張は今のところないわね」
「じゃあさ、今日とか夕飯でも一緒にどうよ。同期なんだからさ、いろいろ話そうぜ」
「ごめん、今日は残業確定。国内にいるうちに片付けたい書類があるの」
「そっか。じゃあいつなら空いてる?」
私が断ると、いつもあっさり納得するのに。今日はなんだか粘るな。
「高橋、なにか大事な話でもあるの?」
「だ、大事な話と言うか…ちょっと聞きたいことがあるというか」
今度は、なにやらもごもごし始めた。聞きたいこと…仕事のことなら上司の宮本課長か坂本主任に聞けばいいし、プライベートなことならもっと仲良しの同期がいるだろうに。
「何よ、はっきりしなさいよ」
「……じゃあ聞くけど、三島は松浦さんとつきあってるのか?」
「…………!!」
「ほら、お茶」
「……ありがと。うん、つきあってる」
「だいぶ年齢離れてるよな」
「そうね、10歳差。でもどうして高橋が知ってるの?」
「繁華街のなかにあるミニシアターの近くを通りかかって見たんだ。三島と松浦さんなんてさ、正直驚いた。思わず課長にポロッと言っちゃったよ、俺」
「宮本課長に?どうしてよ」
「松浦さんと課長は大学時代からの親友なんだよ、知らなかったのか」
「知るわけないよ。聞いたことないもの」
へええ、宮本課長と柊介さんが親友…ということは、川辺さんが好きだったのは宮本課長で柊介さんはそれを知ってて川辺さんに片思い…なんか切ない展開だなあ。
「普通、三島の勤め先聞いたら自分の親友がそこにいるって教えないか?俺なら言うけど」
「そこは人それぞれじゃない?」
「それはそうだけど。なあ三島、あの人なんか軽そうじゃん。気をつけろよ」
「高橋、なんかしゅ、松浦さんにつっかかるわね。なんでよ」
「……そんなことない。気のせいだ」
言動と態度が一致してないのが分かりやすすぎる…ものすごく黒いと噂の坂本主任レベルになれとは言わないけど、精進したほうがいいな…高橋。
「あっそ。ほらそろそろ戻るよ」
「あ、あのさ、松浦さんのことで何かあったら俺に言えよな」
「言ってどうするのよ」
「ヤケ酒につきあってやる」
「高橋、私より弱いじゃない」
「……三島は同期で一番男前だよな。あ、褒め言葉だからな」
「はいはい、そういうことにしておいてあげる」
その後、私に出張が入ったりして柊介さんとは会えない時間が続いている。その間、メールのやりとりは毎日しているけれど、そこにいつも出てくる「川辺」の文字に親しげな内容。友人だから親しいんだよね?
柊介さんの恋人は私だよね?だけど不安をぶつけるのは違う気がして、私は今日も仕事に打ち込む。




