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今日は水曜で、私は昨日までドイツに出張だった。課長から“三島、さくっと行ってきて”と言われて現地の打ち合わせに参加。帰ってきたのが昨日の夕方で春治郎さんのオムライスも食べられず…ううっ。
柊介さんにメールで春治郎さんのオムライス食べたかったとメールで思わず愚痴ってしまったら、今日は定休日だけど俺でよければ作ってあげるよと返事がきてた。柊介さんのオムライスを食べるのは初めてなので、ちょっと楽しみ。
会社を出て松浦洋食店に行くと、柊介さんと女の人が親しげに話していた。
後姿しか分からないけれど、つややかなボブスタイルで松浦さんとの身長差からみて私よりも背が高いしスタイルもいい。
柊介さんが先に私に気がついて女の人はそれにつられてこちらを見た。うわ、華やかな美人さんだ。いったい誰だろう。
「こんばんは。あの、お客様でしたか?」
「もう帰るから気にしないで。松浦くん、またね」
「おー、またな」
私に向かって会釈をして女の人は店を出て行った。
「誓子ちゃん、ここに座って。今からオムライス作るからさ」
私を席に案内すると柊介さんは厨房に行ってしまった。
作ってくれたオムライスはもちろん紡錘型でチキンライス入りのデミグラスソース。でも春治郎さんの作ったものとは少し違うような。それと鶏肉と野菜のスープとにんじんサラダが出てきた。
「どうかな」
「美味しいです」
「そっか、よかった。じゃあ俺も食べようかな」
私のお向かいに座った柊介さんが食べるのもオムライス。
定休日の松浦洋食店はとても静かで、響く音は外を通る車の音や人のざわめきだけだ。
食べ終わると、柊介さんが紅茶を持ってきてくれた。
「誓子ちゃん、今日はおとなしいね」
「そうですか。会社帰りでお腹すいちゃって」
「なるほど。食べることに集中してたわけだ」
「そういうことです……さっき柊介さんと話していた方、きれいでしたね」
「ああ、川辺のこと?彼女は俺の大学時代の同級生なんだ」
柊介さんの口調が何だかちょっといつもと違うから、ついカマをかけてみたくなった。
「もしかして、大学時代の彼女とか」
「いや俺の片思い。彼女は俺の親友のことが好きだったから」
「そうなんですか」
あのひとのこと好きだったんだ、ふうん……すると柊介さんが私の顔をみてにやにやしだした。
「な、なんですか。にやにやして」
「ん?誓子ちゃんのムッとした顔初めてみたなあ、と思って」
「ムッとなんてしてません」
「ムッとした顔もかわいいよ。うーん、罪悪感が負けそうな気がする」
「罪悪感ってなんですか?っていうか柊介さんは言動が軽いって言われません?」
「え、なんで知ってるの」
「え、否定しないんですか」
「否定しないよ。でもまあ…」
柊介さんの手がのびてきて私の耳から頬に軽く触れる。その感触に顔が熱くなってきてしまう。な、なんか身を乗り出してきていませんか?だから顔が近いんですけど。
「わ、私たち、こういうつきあい、でしたっけ」
「とりあえず、口閉じようか」
「……」
口を閉じたら柔らかい感触。もっとちゃんとほしくて口を開いたら待っていたように深くなるキス。
「……俺、言動は確かに軽いけど性格はけっこう真面目だよ。好きな人以外とはこういうことはしたくない。誓子ちゃん、俺の彼女になってくれる?」
「……はい」
全然嫌じゃない……むしろ、嬉しい。でも、嬉しいはずなのにどうしてもやもやするのかな。