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柊介視点です
大学時代からの友人である宮本和哉から電話があって、掃除をするついでに店で会うことにした。やって来たミヤは仕事中なのかスーツ姿だ。
「悪いな松浦。定休日なのに」
「気にするな、掃除をしに来てたからな。もう夕方だけど、ミヤはまだ仕事か?」
「いや、今日は直帰。なあ単刀直入に聞くけど、お前は三島とつきあってるのか」
「三島?…ああ誓子ちゃんか」
「“誓子ちゃんか”じゃねえよ。俺は高橋から聞いて耳疑ったぞ」
高橋くんというのはミヤの部下だ。よくデートにうちを使っているが、同じ女の子と再来店するのを見たことはない。
「なんで高橋くんが出てくるんだ」
「お前と三島が、この近所のミニシアターから出てくるのをちょうど通りかかった高橋が見たらしい」
「へ~、すごい偶然だな」
「まったくだ。で、お前はどうしてうちの国際営業部の次期エースと知り合いに」
ミヤがどうしてそんなことを聞いてくるのか不思議だったけど、別に隠すこともないので俺はじいさんから始まった出会いのきっかけを話した。
「…というわけで誓子ちゃんと出会ったのには、うちの不良じじいが絡んでいるわけだ」
「春治郎さんか…あ~、なるほど」
「なにがなるほどだよ」
「気にするな。高橋は三島と同期で、あいつも頑張ってるんだが彼女と比べるのは酷だな。ちなみに国際営業部の課長は俺の同期でさ。お前、もし彼女を寿退社させたりしたら恨まれるからな」
ミヤの発言に飲んだコーヒーを噴出しそうになる。
「こ、寿退社?!なんでそんな話になるんだ。だいたい俺と誓子ちゃんは確かに2人で会ってはいるけどそれだけだ」
「お前が?嘘だろ」
「勝手に絶句してろ。10歳差に手を出すなんて犯罪だろうが。それに誓子ちゃんにはもっと年齢が近いほうがいいだろうし」
「大人同士なんだから犯罪じゃないだろ。ま、確かに俺たちより同年代の高橋とかのほうが話はあうだろうな」
そこで、ふと高橋くんと誓子ちゃんがデートをしてる図が頭に浮かんだ……面白くない。だいたい高橋(:もう呼び捨てでいい)は彼女とは同期なだけで、趣味や思考なんて知らないくせに。たとえ知っていても俺のほうが。
「おい、眉間にしわよってる。それにしても大学時代は大変なもんだったお前がね~。ま、頑張れよ」
「うるせっ」
ミヤはそれだけ言うと、手をひらひらとさせて帰って行った。
確かにミヤが言うように25歳と35歳だと大人同士なので犯罪臭はしない。でもだからといって、今まで付き合ってた女性たちと同じように接していいかというと…なんか俺って、ほんと軽い付き合いしかしてなかったのかも。
これほど触れるのを恐れてしまう女性は初めてだ。でもこれほど触れたいと切望してしまうのも初めてだ。
掃除を終わらせた後、椅子にすわってぼんやり考えていると、店のドアが開いてじいさんが入ってきた。
「柊介、お前は掃除をしに来たんじゃないのか。なんだ和哉くんは帰っちゃったのか」
「ミヤはさっき帰ったよ。掃除はもう終わった」
「ふん、どうやらお悩みのようだな。なんなら人生80年越えの俺が適切なアドバイスをしてやろうか」
「じいさんのアドバイスは聞くのが恐ろしいから遠慮する」
「かわいくないな、お前」
「35歳の孫がかわいいのも問題だろ?」
「ま、そりゃそうだ。ところで誓子ちゃんはいい娘さんだろ」
「そうだね。いい子だと思う」
「お前、つまらんなあ。そんなんじゃ、あっという間に誓子ちゃんと年齢の近い男に持ってかれるな。ま、それもまたよくある話か」
ミヤの言葉も面白くなかったけど、じいさんの発言はもっと面白くない。