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 柊介さんと会ったのは定時退社の水曜日だ。待ち合わせ場所のカフェに行くと、柊介さんが私を見つけた。

「お店のほうは大丈夫なんですか?」

「うちの店、水曜日が休みなんだ」

 そんな初歩的なことも、私は知らなかった。


「今日は互いのことを話したいなと思ってさ。誓子ちゃんは、うちのじいさんから俺のことをどう聞いてるのかなとか」

「えっ」

 わざとじゃないのかもしれないけど、すっごく答えづらいことを聞く。

「その困りぐあい…こりゃろくなことを言ってないな、あの不良じじいは。ね、何を言われたのか教えてくれるよね?」

「む、無理です。春治郎さんに聞いてください」

「どうせ悪口なら可愛い女の子から聴きたいもんだ」

 柊介さんの言い方に思わず吹き出してしまう。女の子って…35歳からみると25歳なんてきっとそうなんだろう。

「春治郎さんは、松浦さんのこと」

「そこは柊介って呼ばないと。ね、誓子ちゃん」

「…しゅ、柊介さんのことを“ふにゃふにゃした性格で35歳独身記録更新中”と言ってました」

「ありがとう誓子ちゃん、家に帰ったらじいさんと“じっくり”話し合うことにするよ。ちなみにじいいさんはきみのことを “性格のよさが食べ方に出ている”って褒めてた。“食べ方にはその人の性格が出る”というのがうちのじいさんの言い分でさ、俺もそう思うんだ」

 私、なんかものすごく持ち上げられてる?

「わ、私はそんな人から褒められるような性格じゃないです。やきもちだって焼くし、言いたいことがうまくいえずにいらいらしたり…それに自分本位なところもあるし」

「そんなの、誰だってそうだよ。俺だってじいさんがきみに言ったような部分は確かにあるし、嫉妬もするし、いらいらもするし自分勝手なところもある。年とると上手に隠せるようになるだけだよ」

 こういうたわいのない話をするのが楽しい。それに柊介さんのもってるふんわりした空気感が心地いい。私はこの時間を楽しんでいた。



 そして出会って3ヶ月。1回だけだったはずのデートはもう今日で5回目になっている。休みがあわなくたって会いたいと思ったら互いに調節するし、年齢が離れていたって共通の話題はいくらでもある。しごく当たり前のことを私は柊介さんと会うようになって気づいた。そして「しゅうすけさん」といつの間にか呼ぶことに慣れていた。

 待ち合わせ場所のミニシアター付属のカフェに到着すると、柊介さんはいつも私より先に来ている。それがちょっと悔しくて、時間より早めに私も到着してるのに勝てない。

「柊介さんをいつも待たせるのって心苦しいです」

「俺が誓子ちゃん待ってるの好きなんだよ。だから気にしなくていいからさ」

「いやそういうわけには」

「今日はここで50年代ミュージカル映画特集が上映されてるんだ。誓子ちゃん好きでしょ。あと30分で始まるから行こうか」

「はい…柊介さんも映画、好きですよね」

「うん、好きだよ」

 2人ともクラシック映画を好み、特に30年代から50年代のミュージカル映画が大好きで1回目のデートで話が弾んだ。

「で、映画見たらうちの店で食事。じいさんと父さんが誓子ちゃんを連れて行かないとうるさくて」

「は、はい。いつもすいません」

 いつのまにか1回目のデートで私は料理が苦手で普段は社食かコンビニですませると言ったことから、デートのあとは松浦洋食店で食事をするのが決まりになっていた。

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