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―柊介サイド―
その日の営業終了後、じいさんと父さんがずっと同じやりとりをしている。
「あ~、俺って馬鹿な孫を持って不幸だ~。いったい誰に似たんだ」
「うーん、誰だろうね。俺じゃないからやっぱり父さんじゃないの?」
「馬鹿言うな。俺はロマンチストだがあんなではない」
自分でロマンチストとか普通言うかね~…2人のぼやきは聞き流すに限る。
「柊介聞いてるのか!誓子ちゃんは絶対面食らったぞ」
「まあ、確かに面食らっただろうね」
彼女のぽかんとした顔は可愛かったな。笑顔はもっと可愛かった。
引退したじいさんがいそいそとオムライスを作り、褒めちぎってる“誓子ちゃん”がどんなひとなのかはずっと気になっていた。でも、なぜかじいさんは彼女が来ると思われる日には俺に遠出の用事を言いつけたり、じいさんの友達が俺に用事を頼んでくる。だから余計に気になって本人に会えたときについつい浮かれてしまうのは仕方ないじゃないか。
「俺があんなことを彼女に言ったのはじいさんが会わせるのを嫌がったからだろ」
「はあ?お前、人のせいにすんのか!」
「柊介、人のせいにするのはよくないぞ。父さんも落ち着いて」
「あんまり怒ると血圧上がるよ。まだお迎えは早いと思うし」
「「あたりまえだっ!!」」
2人して怒鳴らなくても。
―誓子サイド―
どうしてデートの約束しちゃったんだろ。
ついついパソコンの前でため息をついてしまう。今日は出張帰りだから、出張報告書さえ上司に提出すれば急ぎの仕事などはない。
今日は帰ったらお風呂に入ってすぐに寝よう。来週はフランスに出張だから資料も読み込んでおかなくちゃいけないし…海外を相手にする仕事がしたくて希望がかなって。社会人になって嫌なこととか悲しいこともそれなりにあるけど、好きな仕事ができて毎日楽しい。だけど私生活(特に恋愛分野)は何にもなかったもんなあ。
もしかしてちょっと潤いが欲しかったのか、私。だから柊介さんに“デートしよう”って言われたときも面食らったけどOKしちゃったのかな。
そういう意味ではああいう性格の人でよかったかも。ほんとに気軽に一度だけになるに決まってる。