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「柊介さん、変なメールを送ってしまってごめんなさい」
「あれは俺も悪かった。ごめん」
「柊介さんは悪くないです」
「彼女へのメールに別の女性のこと書いたら面白くないよね。俺だって逆だったらどうかと思うし」
柊介さんが私の手と指を柔らかくなでる。すごくどきどきする。
「あ、あの手…」
「誓子ちゃん、川辺は俺のことを友達としか思ってないよ。俺だって川辺はもう友達としか思えない。第一、あいつはこれから彼氏ができそうだしね」
「え、そうなんですか?」
「そっ。 “交際申し込まれたんだけど、どうしよ~”って俺に恋愛相談してきたからね。そういう役目はミヤだったんだけどね、なぜか俺になった」
「ミヤって宮本課長ですよね」
「そうだよ。あれ?俺、話したっけ」
「いいえ、高橋くんから聞きました。あ、高橋くんというのは宮本課長の部下で」
「誓子ちゃんと同期なんでしょ。ミヤから聞いた。高橋くんはミヤの披露宴で顔見知りになってから、うちの店をよくデートで使ってるよ」
「そうなんですか。意外なところで繋がっていますね」
高橋、彼女いたんだ。同期の間では“女運がない”と言われているので、ちょっと安心した。
「誓子ちゃん、いま他の男のことを考えたでしょう」
「へっ?!」
なぜ分かった。エスパーか?エスパーなのか?それとも私が独り言でも言ったのか?
「ふふ、焦っちゃってかわいいなあ。でもまさかあてずっぽうで言ったことが当たるとは。面白くない」
「えっ、なんですかそれっ。あ、あの柊介さん、近いですね?」
「うん、近寄ってるからね」
「あ、あのシンクはいいんですか?」
「もうとっくに終わってる。ねえ誓子ちゃん」
「はい?」
「一緒にお風呂と一緒にベッド、どっちがいい?」
「うぉっ?!」
私は自分の顔がたちまち赤くなるのが分かった。そんな私を柊介さんは楽しそうに見つめている。
「え、えっと。一人でお風呂、という選択肢は」
「ないよ」
「ベ、ベッドというのは」
「うん、一人で眠るってのはないね」
「じゃ、じゃあせめて歯磨きさせてくださいいいい。食後の歯磨きは大事です」
「じゃあ俺も一緒に歯磨きする。でもその前に」
キスするね、と柊介さんは私に軽くキスをした。
一緒に歯磨きだけだと思っていた私は甘かった。歯磨きが終わったとたん短いキスがくりかえされギュっと抱きしめられると今度は深いキスが落ちてきた。くたっと力がぬけて柊介さんにもたれかかる形になってしまい、慌てて離れようとしたけれどそれを許す彼ではなかった。
ほんのり明るい部屋のなかで柊介さんが私にふれる。
「誓子ちゃんはあまい」
「あ、あまいって言われても……あっ、そ、そんなとこあまくないです」
「そんなことない。俺、あまいものってあんまり好きじゃないけど誓子ちゃんは別」
「べ、べべつって…わ、わたしはお菓子じゃないっ…きゃっ……んんっ」
「……好きだよ」
「わたしもすき…」
もっとふれてほしくて、私からキスをした。
「あ~店行きたくない」
私を抱きしめたまま柊介さんがぼやく。
「そんなこと言っちゃだめです。私も自分の部屋に帰りますし」
「誓子ちゃん、敬語に戻ってる。俺に対して敬語を使わないって昨日約束したよね」
「え。いやそれは。え、ちょっと…んんっ」
そういえば昨日の夜、敬語を使ったらキスすると言われていたんだった…冗談だと思っていたのに、本気だったのか。
「…と、とにかく私も部屋に帰らないといけないのっ。明日仕事だしっ」
「…じゃあ、着替えを持ってこっちに帰ってきて。ついでに俺の部屋に服とか置いて。きっとこれからここから出勤すること多くなると思うし?」
「え、なにそれ」
「分からないなら、まだ時間あるから教えてあげるよ」
柊介さんの表情が色気を漂わせてきている。非常に危険である。
「……!!いや、わ、わかりま…分かった。いま分かった!!」
「遅いな」
そしてまた彼は私に“誓子ちゃんはほんとうにあまい”とささやいた。




