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プロローグ:松浦春治郎の覚書

 俺の名前は松浦春治郎、当年とって87歳。28歳で「松浦洋食店」を開き、現在は息子の夏彦と孫の柊介に店を任せ気楽な身だ。現在は俺と同じ隠居仲間と日々遊びまわり……いやいや精進している。

 だが、元気者と自他共に認める俺にも悩みもある。

 俺の悩みは柊介だ。見た目も料理の腕も悪くはない…まあ祖父視点だから見た目の点数は甘いかもしれんが、料理の腕は間違いない。

 しかし、こいつは娘さんとのつきあいが長続きをしたためしがない。悪いやつじゃないんだが、どうにもピリッとせず現在35歳で独身記録を更新中だ。このままではあいつは一生ふにゃふにゃである。それは困る。

 そんなわけで、少しばかりのお節介をしても「孫を心配している祖父」として許されると思うのだ。実はもう目星をつけた娘さんもいるしな。


 俺が目をつけた娘さんは、三島誓子ちゃんといい大手商社に勤める25歳。俺や友人たちがボランティアをしている観光案内所へ週末に英語を教えに来てくれる。偶然にも勤務先が柊介の親友・和哉くんと部署は違うが同じ会社と知ったときは、思わず心のなかでほくそ笑んだのはここだけの秘密だ。

 そんな誓子ちゃんが俺たちに英語を教えてくれるようになったのは、観光案内所の管理をしている溝口さんに英会話を覚えたいなあと話したら、彼女が大学の後輩だと誓子ちゃんを紹介してくれたのがきっかけだ。語学堪能とは聞いていたが英語とフランス語はペラペラ、ドイツ語とスペイン語もOKのマルチリンガルなのには驚いたが、それを自慢することもなく実に温和丁寧な性格。でも凛としているところもあって間違いなく会社でバリバリ働き、かつ出世するタイプとみた。彼女と話していると、5年前に先立たれた妻の礼子さんを思い出す。

 礼子さんは俺が洋食店を開店したばかりの頃の常連客の一人で、ここら辺の地主の娘さんで医者だった。いつも背筋がぴっとしていて風格すら感じる物腰、タフで優しい性格。ちなみにプロポーズの言葉は“礼子さんのために料理を作るから結婚してくれ”。そう、礼子さんは料理が大の苦手だったのだ。

 おっとわき道にそれてしまった。友人たちの息子や孫は既婚だったりまだ若すぎたりでライバルになりそうなのはいない。ということは、これはチャンスというやつ。


 しかし2人をどうやって会わせるか…ううむと考えていると、向こうからきっかけが転がってきた。授業を終えた週末のある日、俺たちと誓子ちゃんはいつものように世間話を始めた。そこで彼女が海外出張をして戻ってくると必ず好物のオムライスを食べることにしているのを聞いた。彼女の好みのオムライスはチキンライスの入った紡錘型でソースはデミグラスかケチャップ。

うちのオムライスにぴたりと合う…これは使える。そこで俺は、押し切る形で彼女にオムライスを作り、それを食べてもらう約束をとりつけたのである。

 誓子ちゃんを納得させたので、次は店のほうである。こっちのほうはものすごくスムーズで夏彦も息子のことは心配だったらしく俺の提案にすぐに乗ってきた。いよいよ、今度は柊介にいつ自然な形で会わせるかということだ。

 すぐに会わせるのは得策ではない。まずは興味を最大限持たせなければ。だから俺はあいつのまえで誓子ちゃんの話をし、その人柄やマルチリンガルぶりを褒めた。最初はあんまり興味がなさそうだったが、自分が俺や夏彦に遠出を頼まれたときに限って彼女がやってくるのを聞いてからは姿を見たくなってきたらしい。

 まあ厨房を引退してあちこち出かけている祖父が、その日だけは自らオムライスを作っているうえに父親も彼女と仲良くなっているという疎外感もちょっとはあるんだろう。

 だから、そろそろ会わせようかと俺たちは考えて次の誓子ちゃんの帰国日にあいつに遠出を頼まなかった。



 果たして化学反応は起こるのだろうか?

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