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第1話 遺産探し

 僕は今、自分に合った最高のパートナーというものが、いったい何なのかを考えてみている。

 ガールフレンドという存在では、僕は無駄に意識して固まってしまうし、逆に家族は家族で別の感情がある。

 例を挙げれば幼なじみのような、可もなく不可もなく、ただそこにいるだけで心地よい気持ちになれるそんな存在がいればと、僕は思っていた。

 僕は元々孤児。小さい頃の記憶はほとんどなく、近所の幼なじみというものがいたかどうかもわからない。だからこそ、その存在に憧れてたりするのかも知れない。


 幼なじみ。昔馴染みであることから、ガールフレンドという存在ほど緊張はしないし、家族ほど近すぎた存在でもない。

 その絶妙な距離感。僕はそれが一番落ち着くような気がする。

 今まで生活してきた中で、いろんな人と関わってきた中で、出会っていればそう感じただろう心地よさの追求。

 恋人も、家族も決して悪いものではない。恋人が出来たことはないが、居心地が悪いわけでもないだろう。

 しかし、気楽に、なにもせずとも、完全に心地よいという結論には至らなかった。

 理由は先ほど述べた通り。緊張とか、親近感がありすぎるとか、何らかの理由で心地よさに減点が行われていたからだ。


 そもそも、家族はそういった関係になることすら無縁だし、ガールフレンドという存在は全万人類、いや、全種族で難易度の高いクエストだ。ミッションだ。その他諸々だ。


 …少し変な比喩が入ってしまったが、気にしない。


 僕の考える幼なじみとは、お互い何も求めずとも理解し合い、意識しすぎず、加えて穏やかな人間関係だ。

 そう、幼なじみという存在こそ、僕は理想のパートナーだと思う。

 うん、幼なじみって、いいよね。


 などとくだらないことを考えながら、いつものようにボーッとしていると、ガツンと音を立てて目の前にガラス製のコップが置かれた。音を聞くにあと少しで割れる音だった。

 顔を上げると、厳つい表情をしたおばさんが睨んでいた。 

 この酒場の店主で、僕の義母、拾い主その人だ。

 過去を話すのはまた後にしよう。少し長くなるし、あの顔を見ると何か言いたげだ。

「そんな怖い顔をして、どうしたんですか」

「どーしたもこーしたもないよ。セルス、あんた一日中そこに居座って、いったい何をやってるんだい」

「見てわかりませんか?別になにもしてないですよ。自分の理想に浸ってただけです」

「はぁ…、あんたの理想がなんなのかは知らないけど、あたしの理想は、あんたが早いことうちでまともに働くか、ハンターにでもなって稼ぎにでてくれることだよ」

 麦と果実を混ぜて絞り出した変わり種ジュースを注ぎながら女将は言う。

 それを手に取り、ゴクリと一口。

 評判は良くないらしいが、僕はこれが好きだ。芳ばしい香りにさっぱりとした甘さと酸味が癖になる。

「ハンター、か…」

 ここで言うハンターとは、いわゆるトレジャーハンターのことだ。

 今マルゴレア大陸中で古代文明の遺産レガシー探しが流行っている。

 そういった物を集めて儲けるハンターのことをレガシーハンターとも呼ぶ。

 もちろん、普通のトレジャーハンターだって、狩りを生業とするハンターだって沢山いるが、遺産レガシーの存在が知れ渡ってからはそっちの方が圧倒的に引っ張りだこ。

 それに、人気なのはただ珍しいからだけじゃない。

 伝記によれば、大昔、僕たちのような万人種ヒエルコは、大昔に大きな戦争で一度絶滅したと語り継がれている。

 絶滅する前は、今よりも遥かに高い技術があったとか。

 少し前までは、そんな話はただのお伽話とか伝承でしかなかった。

 けどある日、一人のトレジャーハンターが、地下の遺跡で見たこともない構造をした金属と紙を発掘した。

 紙には、今僕らが使っている文字に非常に似たものでなにか書かれてたらしいが、所々読めない部分もあり、それが昔使われてたものだと理解するのは容易だったとか。

 そして、謎の金属も、文明崩壊以前の技術で作られたものだとわかり、その後の解析と研究で、それが「ジュウ」というものだということもわかった。

 筒から金属の玉を、どういう原理だかで音速で発射するという画期的なものだ。

 まぁ、大体は魔法を使ったのだろうけど、僕ら万人種ヒエルコは魔力感応性がまったくない。

 ゆえに研究者たちは、これを万人種のものではないと判断して、鳥人種セルピアンに研究素材として渡した。

 彼ら鳥人種セルピアンは、魔法武具の研究が盛んな種族だ。彼らなら、何か知ってるかとも思ったのだが、彼らも初めて目にしたそうな。

 その後、彼らはそれを魔法感応性がなくても扱える魔法武器「魔導銃」として再構築に成功し、万人種ヒエルコの市場に輸出した、というまでの話が約2年前で、僕が知ってる遺産レガシーについての最新情報。

 僕もただここで麦ジュースばかり飲んでたわけじゃないさ。たまに出掛けた時には情報屋から最新の情報は仕入れるようにしてる。

 まぁそんなこともあり、今では遺産レガシー探しは大ブーム。一つ見つけるだけでも数年は遊んで暮らせる。

 もちろんそんな話もあれば僕だって一度は考えたさ。

 ただ、安全なんかじゃないよね。

 あるハンターは、突然遺跡が崩れて行方不明。

 あるハンターは、盗賊に狙われ殺された。

 あるハンターは、雇った傭兵に遺産レガシーを奪われそのまま殺された。

 僕は、そんな危険ばかりがある中に飛び込むのは、やっぱり勇気が足りなかった。

 けれど、最近は少し考え始めている。


 事が起きたのはつい3日前。

 僕は、朝起きて、いつものようにバーのカウンターでに座って考え事をし始めていた。

 女将さんは仕込みのために数時間前にはすでに起きている。もちろんまだ開店前だ。

 そんな静かな朝の酒場に、一人の少女がバタンと扉を開けて入ってきた。

 情報屋として働いている、僕がよく訪ねる子だ。

 今日は珍しく木箱を脇に抱えて向こうからやってきた。

 彼女は情報屋を本業としているが、その土地勘からメッセンジャーとしても働いている。そんな姿も何度か見たことがあった。

 今回の用は宅配の方だろう。たぶん女将さん宛ての食材か何かの仕入れの品だろうと思っていた。

 けれどその木箱は、僕の元までやってきた。

「セルスさん宛です!どぞ!」

 少女はいつもの愛らしい笑顔で木箱を差し出してきた。

 一瞬ためらい、その表情が報酬金を要求しているのだと思い、懐からお金のはいった袋を取り出そうとした時、「それは既に受け取っておりますので!」と言うことで、金銭の要求ではなかったようだ。

 まったく心当たりのない品がきた。

 簡単な木箱ではあったが、金色の蝶番や留め金で軽く装飾された、ここらではそれなりに価値が付きそうな箱だった。

 本当に心当たりがないので、差出人を聞いてみたが、依頼者の個人情報ということで教えてもらえなかった。しかし、実際のところ彼女も相手がどんな人物なのかはわからないらしい。

 彼女は「今後もリグリット情報網をよろくしおねがしまーす!」と一言言って、そそくさと酒場を出て行った。 

 女将さんは、何事かと出てきたところだった。

 僕は受け取った木箱を女将さんの前で開いた。

 するとそこには、いかにも高そうな一対の魔導銃が入っていた。

 それを滞納するためだと思われる皮の装備とともに。

 露天でたまに目にするものとは明らかに違い、しかもそれが2つも入っているのだ。

 物の価値がわからない僕でも、それはとても高価なものだとわかった。

 女将さんもほぉ、と唸っている。僕がこれを受け取ったことについては気にしてないようだ。

 せっかくなので早速手に取ってみると、ずっしりと重たかった。

 使い方はもちろん知らなかったが、形を見ればなんとなく使い方はわかった。


 どうしてこんなものが僕の元へ届いたのか、3日たった今になっても理由はわからない。

 何度かあの情報屋に尋ねてみたが、彼女も知らないという。依頼者のプライバシーがどうこう以前に、依頼者の情報からこの魔導銃についても、制作者、能力など全くわからないという。

 たしかに、情報屋がすべての情報をもっているわけではないが、あぁ見えて多くのハンターたちが世話になっている凄腕なのだ。

 特に、「最近誰々が作ったどれどれがすごい!」など武具市場にはめっぽう強い。最近話題になった魔導銃だって例外じゃない。

 鳥人種セルピアンの有名職人から獣人種バッギルカの無名職人までその武具市場網は非常に広い。一目見れば、その武器がどの職人のもので、いくらの価値かなどの鑑定もできるほどだ。

 そんな彼女でも、わからない武器となるとすこし不安になる。


 まぁ、しかしだ。もらったものなのだから、存分に使ってやらないと、くれた人にも魔導銃にも悪いだろう。

 ホルダーから取り出してそう言ってやると、心なしかきらっと光った気がする。ほんと、綺麗な造形美だこと。

 いまは一丁しかもってないけど、二つ入ってたってことは、もしかして二つ同時に使うのか?

 そう言うスタイルは見たことないけど、たしかに、二刀流があるのだがら、二丁流があってもおかしくないはずだ。

 単に魔導銃が高いから、二つも買えないってだけなんだろうけど。

 よし、明日から町を出て魔導銃の練習をしよう。

 町からちょっと出た辺りなら対して狂暴な動物もいないし、狩りのついでならちょうどいいだろう。


 ということで、翌日から早起きを始めた。

 机に置いてあるホルダーを腰に回し、そこへ二丁の魔導銃を差し込む。

 こうやって持ってみると、なんだかハンターにでもなった気分だ。悪くない。

 外に出ると、日の出が丁度始まるころだったが、もう城壁の大門は開いていた。

 さすがに城壁近くにはなにもいないので、遠くにそびえる「カルナデの大樹」に向かって行くとしよう。


 カルナデの大樹。

 それは、鳥人種セルピアンたちが身を寄せ合って暮らす、巨大な木だ。木の上にはたくさんの町があり、鳥人種セルピアンの大半がそこに住んでいる。

 大陸の中央に位置し、大陸全土からその全貌を拝めるマルゴレア大陸の名所の一つだ。

 ただ、鳥人種セルピアンたちはすこしプライドが高い。だから、木の周辺にはめったに近づけないんだとさ。って、情報屋リグが言ってた。


 しばらく歩いて着いた場所は、開けた草原地帯だった。

 なんていうところだったかなぁ…、そうだ「パルマ草原」だ。

 リグに聞いたところ、ここには単体で生活するサバンナボアがいるんだとか。肉食で人を襲うけど、群をなさないから単体なら対して強くはないらしい。

 ただ注意すべきことは、突進が滅茶苦茶痛い。

 それどころか、まともに受けたら、一発で背骨がポッキリ逝っちゃうらしい。

 その分頭は悪いから、ちょっとのフェイントで引っかかる。

 そんな感じでいろいろ聞いてたけど、実際みてみると意外と小さい。まだ子どもなのだろうか?

 なんにせよまずは実践だ。


 魔導銃を腰から一つだけ取り出す。

 そして、手前と奥にある出っ張りが重なるようにあわせ、それをサバンナボアに重ねる。あとは引き金を引けば…

 グリップから光が溢れ、それが本体のスリットを伝って銃口に到達した瞬間、魔法陣が現れると同時に赤色の弾を放った。

 一瞬の出来事だったが、弾は見事にサバンナボアの頭を貫き、仕留めた。

 これはすごいな。

 魔導銃といっても、こんなに小さいものだから、何回か撃たなきゃいけないのかとばかり思ってた。

 あ、でも頭を撃ち抜いたわけだし、それで生きてた方が怖いか。

 …まぁ、すこし遠出すればいるけどね、そういうのいっぱい…


 それから、近くにいたサバンナボアを数匹ほど狩り、皮や牙など売れそうなものを剥ぎ取ってから町へ戻った。

 あまり多いわけでもないが、小遣い位にはなるだろう。

 実際売ったところ、とバタラ銅貨50枚になった。

 この国では、銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨50枚で金貨1枚が相場だ。まぁ、ほんとにお小遣い程度だ。

 だが遺産レガシーは最低価格でも金貨5枚。いままで最高金額で、金貨12枚だそうだ。その価値はひと目でわかる。


「そりゃ儲かるよね…」

 他人事のように呟きつつも、隣にいる情報屋(リグ)を頼りに来た。

 もちろんハンターについてだ。

 武具関連に詳しい彼女なら、これからのハンター稼業で役立つことも教えてくれるだろう。

 さっきボアの素材を売った時に得た銅貨を10枚ほど渡すも、「お得意さんのセルスさんには特別!」と、代金を返してきた。

 けれど、やはり悪いので、こちらから頼んで半分は受けとってもらった。

 お互い納得したところで、初心者向けの選りすぐりの情報をもらう。


 ハンターへの道その一!

 まずは装備を揃える。

 古代遺産は大抵遺跡か、地下洞窟にある。

 もちろんそういったところは、最近まで出入りが少なったことから、動物やモンスターがうじゃうじゃしている。

 そういったモンスターの攻撃から身を守るために、武器や防具が必要となる。

 僕はすでにこの魔導銃があるので、次は防具や遺産用のカバンが必要になる。

 このカバンだが、鳥人種(セルピアン)が作る魔道具に、小さくて大容量なものがあるとか。

 最近では需要が増えたため、比較的安価で入手できるらしく、高品質で低価格な店を教えてもらった。

 防具は、あとでリグが一緒に見てくれるそうだ。


 ハンターへの道その二!

 仲間を見つける。

 遺産(レガシー)探しでは、必然的に遠くへ旅をする必要が出てくる。

 そのために旅団(キャラバン)を組んで、それぞれ役割分担をして生き残っていく必要があるそうだ。

 さらに、魔力濃度が高かったりすると、動物や、モンスターも必然的に強くなる。

 単独では群れに囲まれると、生き残る確率は一気に下がる。

 こういった点から、初心者は旅団(キャラバン)を組むことが推奨される。

 これに関しても、リグが手引きしてくれるとかで、やはりいい仕事をしてくれる。


 ハンターへの道その三!

 サバイバル術を身に着ける。

 いくら武器や防具、仲間がそろったって、自分が足を引っ張ってはいけない。

 と言うことで、指南書をくれた。

 代金を払おうとするも、やはりいらないと言われてしまう。

 なんだか本当に頑張らなければと思えてくる。


 一通り話が終わったところで、僕らは商業街へ品物を見定めにむかった。



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