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救国の少女  作者: ざっく
兄視点
8/9

解決

 そして、馬鹿太子は、やってはいけないことをやった。


 殿下が合図して、3人の男がやってきた。

 そうだよ、できるじゃないか。被害者だって、発言するときだけ入れろよ。


 「あ~、確かに、このお嬢さんでしたね。俺らに依頼してきたのは」


 「彼らは、ヴィオラを襲おうとしたんだ」


 王と王妃が焦っている。


 「私の名前でヴィオラを呼び出し、この男性に襲わせ、穢してほしいと依頼したのだ」


 「君は言ったそうだね?穢れた血は、穢れたもの同士・・・」


 シャルが、真っ青になって震えている。

 本当のことを……実の親について話した日のようだ。


 黙って立ち上がると、父も同時に立ち上がったらしい。

 「爵位を返上します」

 父とそろって優雅な礼をした。


 父が敵対を宣言した。

 あまりにも唐突で――決して許さない宣言。


 陛下が、もう、王太子は無理だと判断した。


 「廃嫡しよう。国をいたずらに乱したとして」

 さすが、一国を背負うだけはある。

 素早い判断で・・・息子を切り捨て、国の安定を取った。

 たやすい決断ではなかったろうが、決定されれば、国はそれに向かって動いていく。


 誰もかれもが騒ぐ中、凛とした声が響いた。


 「静かになさって」


 シャルは、悩むように目を伏せて、物語を語った。

 ここで語らせるつもりなどなかった。

 それは、決して楽しい話ではい。

 どんなに讃えられようと、望んだ過去ではないのだ。


 けれど、シャルは、流れるように語った。

 ほのかな笑みさえ浮かべて。


 王太子に、まるで謝罪でもするかのように、語りかけた。

 「秘密だったわけではありません。……知ってらっしゃると、思っていました。私には、公爵家の血は、一滴たりとも流れておりません。穢れた血、穢された血。両方を、受け継い・・・」


 ガンッ


 思わず足が出た。

 馬鹿をシャルが見つめることもムカつくが、内容には、あり得ないほどの怒りを覚える。


 「それ以上口にすれば、公爵家への侮辱と受け取るよ」


 その怒りのままに口にすれば、少し驚いたように見上げてきた妹は、泣きそうな顔で笑った。

 嬉しくてたまらないと言う風に。


 ああ、愛しい。

 抱きしめたい。


 父が、諦めたようにため息を吐いたのが分かった。

 陛下と王妃は、目を伏せて、息子の暴挙を止めなかったことを、悔いているようだ。

 宰相たち・・・年かさのものは、もちろん、この事実は知っている。

 ただ、わざわざ言うほど、軽い内容ではない。知っておくべき事柄なだけ。


 驚きすぎて、固まっている3人に声をかけた。

 「そこの3人。救国の少女を知っているか」

 「は、はい!それは、もちろん。身を賭して私たちのために戦ってくださった方・・・」

 顔つきと体つきで分かった。やつらは、北国出身だと。

 そいつらが、何故、最も忌むべき犯罪に手を貸そうとしたか?


 男たちは、床に這いつくばって、シャルに許しを乞うた。

 「……金が、欲しくて。あぁ、救国の少女の最期を知っていたのに、どうして、オレが、一番嫌いな犯罪を・・・!?無理矢理襲って、殿下が来れば、すぐに、逃げろと言われていました。逃走経路も確保して・・・」

 懺悔を始めたが、そんなことはどうでもいい。

 私が促せば、すぐに主犯が顔を出す。


 「嘘よっ!私、彼らに襲われたのよ!そこを、殿下に救っていただいたのです!」

 男爵令嬢が金切り声をあげた。

 うるさすぎる。


 男爵令嬢と目があった。その途端、また襲われる眩暈。

 そして、理解した。―――なるほど、と。


 「殿下」

 シャルの声が響いた。

 「大好きでしたわ。人生を共にできると、思っておりました」

 そんなわけはないがな!

 心の中で突っ込みながらも、無表情を保つ。


 「私は、もういいかしら?休みたいの」

 シャルが退出したがり、父は、それを許した。

 シャルは、最後まで凛として、美しい。

 それを、目を覚めた思いで・・・確かに、目が覚めたのだろう。見送る王太子。

 だが、もう渡さない。


 これからが、私の独壇場だ。


 思わず、心からの笑みを浮かべてしまって、父以外の人間からは、真っ青な顔で見られてしまった。



 まず、正式な婚約破棄を認めさせた。

 次に、私との結婚も認めさせ・・・

 「ちょっと待て。それはできないだろう?」

 陛下が気弱なことを言っているが、思わず睥睨してしまった。

 「王太子の元、婚約者が、どこに嫁げると言うのです?あらぬ噂が流れることでしょう。王家を敵に回したくないと、どこもシャルを娶ろうとはしないのは、目に見えている。……出家しろとでもおっしゃいますか?」

 実際、シャルはそのつもりでいるだろう。

 婚約破棄後、自分がどうなるのかを、考えていたようだった。

 王太子が何か言いかけるように口を開けるのを、睨むことで押しとどめた。


 「私が、娶ります。救国の少女の名を出して、この話を広めてでも。シャルには、私が四六時中愛をささやきましょう」


 反論はなかった。

 本心ではあるだろうが、国としては、救国の少女の話が広がるのは御の字のはずだ。

 伝説ではない、生きた伝説が、王家の隣にいるのだ。


 一日中でも一年中でも膝に乗せたまま、ずっと愛していると言い続けよう。

 シャルが穢れなど気にする間もないほどに。

 「四六時中はうざいぞ」隣から、余計な声が聞こえたが、無視しておく。


 さて、結婚は了承された。


 「では、父よ。私はシャルのもとに結婚の申し込みをしに行きますので、後はお願いします」


 「ああ、そうだ。そこの男爵令嬢は、邪眼の持ち主です。先ほどから、妙な力が私に働いております。殿下も、そこの3人も、あと・・・何人も報告があっている有力貴族たちも、その力の餌食になっただけでしょう。そのことを踏まえて、廃嫡にするかなどのご判断をお願いいたします」


 「は・・・?ちょ、待て。邪眼?ルイス・・・」


 「この宝玉をお持ちください。邪眼の影響がなくなります」

 私が胸元から出した宝玉を父に持たせる。


 「いやいやいや、ルイス、ちょっと待て」


 「お前たち・・・」

 私が、先ほどの3人の男に目を向けると、全員が正気に戻っていた。

 床に手をついて、覚悟の目をしていた。

「救国の少女を貶めようとしたのです。あの方に、なんて最低な言葉を言わせてしまったのか・・・!もう、村には帰れないし、死罪となる覚悟もできております」

 リーダー格であろう男が頭を下げた。

 「いいだろう、その覚悟、受け取った。後日、沙汰を申付ける」

 いい拾い物をした。

 訓練をすれば、いい護衛に育つはずだ。

 シャルを、命を賭してでも守るだろう。


 「じゃ、行ってきます」


 「行かせるわけがないよね?」

 父が私の肩をつかんでいる。

 「・・・私は、優しさをもって、邪眼のことを教えたのですが」

 「結婚の了承後にね?」

 当然だ。

 その前に邪眼が明らかになれば、厚顔無恥な馬鹿太子が、自分は騙されていただけだなどと言い出したらどうする。甚だ面倒くさい。

 「私に全く責任はありません」

 胸を張って断言すれば、……誰も反論できない。

 私は、まだ爵位としては子爵位を持つだけだ。

 父の跡を継げば公爵にはなるが、今ここにいる私は、ただの「加害者の兄」という役割だったはずだ。

 その私が、シャルのもとに向かいたいのを数分我慢して教えてやったのだ。

 それが優しさでなくて何だ。



 父の嫌そうな視線に送られて、私はシャルのもとに向かう。




 さあ、あの愛しい娘は、私の求婚にどんな顔をするだろう?



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