茶番
王との謁見の日。
婚約破棄は、間違いないだろう。
それ以外は認めない。絶対だ。
父は、その覚悟を感じ取って、呆れたような視線を送ってくる。
現在、私はまだ公爵位を継いでいない。
面倒なので、シャルと結婚した後でもいい。
そう言えば、「まあ、謁見次第だな」と、呑気な答えが返ってきた。
謁見の間に入る前に、シャルに呼ばれた。
「お兄様」
どうやら緊張しているらしい。
「他国に、私が嫁げるような場所がありますか?」
「ないね」
間髪入れずに返した。
何故、今そんなことを考えているんだ。
あるわけがないだろう。お前が嫁ぐのは私だ。
謁見の間には、まあ、結構なお歴々がそろっていた。
婚約破棄だ。それも仕方がないだろう。
だが・・・
「見たところ、王族と重要人物のみ集められていると見受けられるのですが、何故、ここに男爵が?」
入った途端感じた違和感を追求すれば、
「彼らは、これから話すことの被害者だ」
下らない理由が返ってきた。
だったら、証言させるときだけ入れろよ。何、御前会議に参加させてんの。
「被害者・・・なるほど。では、被害者として証言してくださるとのことですね?」
それ以外では口開くんじゃねえぞ、てめえらごときが。
思念を発したら、シャルがびくっとした。
私の思念を感じ取れるのか。やはり妻にするしかない。
それからは、茶番だった。
証拠のない嫌がらせ疑惑。
安物の首飾りの泥棒疑惑。
ってか、ちょっと待て、王太子。なんで、他の女にプレゼントなんてしてるんだ。
「彼女は、宝石を持っていないことで、からかわれ、恥ずかしくてもう夜会に姿を見せられないと泣いたのだ。そのような者がいれば、それに心を砕くのも、王族の役目だ」
訳の分からない持論が展開された。
それなら、都中の宝石がないと言っている女に配って回れ。
「宝石を持っていない令嬢には、殿下が下賜されると?何の実績もない娘に・・・?」
「私の個人財産から支出している。問題ない」
ありまくりだ、馬鹿野郎。
婚約者がいながら、他に宝石を贈るなんざ、お前はどこの浮気亭主だ。もっとましな言い訳しやがれ。
また思念を発すると、今度は不思議そうに眼を泳がせるシャルがいた。
父が、宝石を床に叩きつけた。
いい加減イライラしているようだ。
この品のないお嬢さんが目の前にいれば、そうだな。
「なっ・・・何するのですか!私が頂いたものなのに!」
私もいい加減うるさいなと思い、胸元にあったものを勝手にやってしまう。
このくらいいいだろうと、満面の笑みを浮かべると、私の顔に見とれる令嬢を見つける。
……こんなのに捕まるだなんて、宝石も女も見る目がないな。
そう思いながらも、ふと、男爵令嬢の目に視線をやると、ぐらっと、よろけた感じがした。
―――?なんだ、今のは。
だが、そんな違和感に付き合っている暇はない。
全てが空振りに終わって、王太子も、少し追いつめられているようだ。
陛下の眉間のしわが深まっている。
あわよくば、『救国の少女』を、籠の鳥にしようとしたのだろう?
王太子が持ってくる断罪が上手くいけば、シャルを捕らえることができるかもしれない。
そうすれば、公爵家は、王家に歯向かえない。
さらに、欲しかった黒目黒髪が手に入る。
けれど、思ったよりも、息子が無能だったようだな?