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救国の少女  作者: ざっく
兄視点
6/9

シャルロッテ

 「父よ」

 「言いたいことは分かった。だが、暗殺も誘拐もダメだ」

 私が話しかけると、すぐにそんな返事が来た。

 笑ったような顔をしているくせに、公爵なだけあって、父は計略に長けている。

 父を出し抜くのは苦労しそうだが、どんなに苦労してでも手に入れたいものというのは存在する。


 シャルロッテ。


 可愛い妹であり、最愛の女性。

 なのに。

 「何故あんなガキに渡さなきゃならない」

 「陛下に是非にって言われて。謀反疑われたら面倒くさいし」


 領内視察へ行って、半年かけて回って帰ってきたら、妹の婚約が決まっていた。

 私がもらうと言っていただろう。

 「……お前は、兄なんだよ?」

 「愛さえあれば、乗り越える」

 「その場合、両方に必要だ」

 大丈夫だ。形は違えど、深い愛がある。


 5つ違いの妹は、まだ10歳だ。

 実際の結婚にはまだ猶予がある。




 「私の不徳の致すところ。お父様にまでご迷惑をおかけ申し訳ありません」

 頭を下げる妹を見て、あのバカ殿下の頭をかち割ってやりたいと思う。

 実際、自分がやろうとしたことも、他の女をあてがうとか、王女を娶らないといけないようにとか、そういった画策だった。

 王女の方が、少しずつ具体的になってきていたっていうのに、勝手に他の女に転がっていったと言う。


 この可愛いシャルを前にして。


 どんだけ馬鹿だ。

 父も母も、怒っているようだ。

 「・・・婚約破棄、ねぇ。まあ、いいですけど?」

 母は・・・ちょっとまずいくらいに怒っている。

 おい、父よ。ちゃんと宥めろ。


 この婚約だって、王家が言い出したことだ。

 『救国の少女』から受け継いだ黒目黒髪が欲しかったから。

 公爵家がこれほど盤石な権力を保持できているのも、『救国の少女』の家系とのことで、民衆の支持が厚いからだ。

 その人気が欲しくて言い出したことなのに、王太子がいきなり婚約破棄に向かって動いている。


よくやった。


 馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、これほど馬鹿だとは。

 政情が見えていない。

 公爵家が、どれほど、この娘を大切にしているかさえも、見えていない。

 私に都合がいいことだらけではないか。


 父が私に公爵意を譲ると言い出した。

 王太子蹴落とすから、公爵位くらいは退かなくてはならないのだろう。

 まあ、いいけど。正直、早々に継ぐのは面倒くさいが。

 それに、シャルが激しく反応した。

 「大丈夫。後は私が継ぐよ」

 そう言っても、涙でぬれた瞳は曇ったままで、他人とまでいうから、ちょっと、本気で怒ってしまった。


「私の未熟さが招いた事態。私が、出家しようと・・・」

 「させない」

 シャルの言葉を最後までいわせずに遮った。

 出家?させるわけがない。お前は、私の妻になるのだ。

 「公爵家を守りたいと言うお前が、家族の一番の宝物を、奪っていってしまう気か?」


 シャルが泣いた。

 可愛くて、抱きしめたいけれど、やったら母に絞められそうだものな、と思いながら、ハンカチだけを渡した。


 「お、にいさま」

 舌足らずで、泣きながら自分を呼ぶ。

 「あいしています」

 続いた言葉に、息をのんだ。相思相愛か!


 「おとうさま、あいしてます」

 「おかあさま、あいしてます」


 私が固まったままでいる間に、シャルは父と母にも同じ言葉を贈った。

 父は、私に怒るなよと視線を飛ばして、母は、面白そうに、私が言いたかった言葉を発した。

 抱きしめようと広げた腕をどうしてくれる。

 ……シャル、覚えてろよ。


 ちょっと、理不尽な怒りが湧き上がったが、仕方がないだろう。


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