暴かれる罪
「なっ・・・何するのですか!私が頂いたものなのに!」
ヴィオラが公爵に詰め寄ると、兄がふわっと立ち上がった。
「父が失礼をいたしました。では、代わりにこれを」
兄が胸元に飾っていた、ペンダントを差し出す。
ルビーではないが、宝石がちりばめられ、明らかに高価なものだ。
「えっ・・・あ、あの・・・」
「お詫びですので、どうぞお受け取りください」
満面の笑みでそっと差し出す兄は、無駄に格好いい。
ヴィオラが真っ赤な顔をして、ペンダントを見て・・・・・・受け取った。
「では、いただきます」
唇を尖らせ、仕方がないように、ペンダントを受け取った。
しかし、その顔には堪え切れない喜びがあふれており、愛する人からの贈り物を壊された悲しみは見えなかった。
兄が殿下に視線を送ると、嫌そうに顔をしかめて、また話し始めた。
「さきほどの宝石を持っていたという侍女の名前を控えています」
殿下が無理矢理話を元に戻した。
宝石の価値は、今は関係ないと言うことだ。
多分、後から王妃様より厳しい教育がなされるであろうが。
「その夜会の日付と、お名前を教えていただけるかな」
公爵が帳面をまくりながら言った。
「その侍女は、宝石を持っているところを見つかり、自主退職しているはずです」
そう言いながら、名前とともに夜会の日付を告げると、公爵は首をひねる。
「その日、その侍女にはついてきてもらっていない」
「……え?侍女を、記録しているのですか?」
「ああ、そうなんだよ。ルイスについていきたがる侍女が多くてね。うちの家令が記録付けて、今日は誰だと順番に回しているんだ」
ルイスは、次期公爵が決定しているにも拘らず、婚約者がいない。
ついでに、気さくなので、人気なのだ。
「その記録も、怪しいと言うことになるね?」
にっこりと公爵が笑えば、殿下は、無表情を保ったまま、外に合図を送った。
3人の男が入ってきた。
どれも、町で働いているだろう、たくましい男性たちだ。
「では、最後に彼らからの証言を」
3人の男性は、何故か、私の顔をじろじろ見てくる。
「あ~、確かに、このお嬢さんでしたね。俺らに依頼してきたのは」
……何の依頼だろう。
「彼らは、ヴィオラを襲おうとしたんだ」
殿下が大きな声で言った。
王と王妃が、その言葉に大きく反応する。
「なんだと・・・!?」
その反応に気を良くしたらしい殿下は、そのままの調子で続ける。
「私の名前でヴィオラを呼び出し、この男性に襲わせ、穢してほしいと依頼したのだ」
「待ちなさい、エルクハルト!それは……!」
王が今までにない表情で叫ぶが、聞く耳を持たない。
私は、多分、真っ青で、震えが止まらなくて・・・それを見た殿下は、さらに畳みかける。
「君は言ったそうだね?穢れた血は、穢れたもの同士・・・」
ガターン!
兄と父が立ち上がった。
「陛下・・・」
父の笑みが消えた。
その声で呼びかけられて、陛下は、目に見えて、びくっとした。
兄が上着を脱いで、私にかける。
そっと、肩を抱き寄せてくれた。
「爵位を返上いたします」
「待て、フィナンシュ!この・・・エルクハルト、お前は国をつぶす気か!?」
陛下が、すごい勢いで殿下を叱責した。
「え、私ではなく、シャルロッテが・・・」
「お前はもう口を開くな!」
ものすごい怒声だった。
「フィナンシュ、話を聞いて欲しい」
「さっきまで、聞いていましたよ。ずっとね」
声だけはに柔和なものに戻ったが、陛下には、全く安心できない状況のようだ。
「エルクハルトには、教えていなかったようだ」
「この侮辱、知らなかったで済まされると?」
全く敬語を使わない兄にも、狼狽したように眉間にしわを寄せる。
「いや……」
陛下は、息をのみ、訳が分からないと言う顔をした殿下に顔を向けた。
迷いは数瞬。
「廃嫡しよう。国をいたずらに乱したとして」
「父上!?」
殿下が叫び、男爵と令嬢も騒ぎ出す。
訳が分からないと。
「静かになさって」