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救国の少女  作者: ざっく
本編
3/9

謁見

 王との謁見の日。

 婚約破棄は、間違いないだろう。

 私は、いじめてはいない。いじめてはいないが―――苦言は呈した。

 公爵令嬢から言えば、委縮してそう受け取られるものなのだろうか。

 分からない。

 だが、こうして正式な書面で出仕を求められている。

 陛下から、婚約破棄を言い渡された令嬢は、のちにどうなるのだろう。

 下される罪状にもよるが、幽閉が一般的だろうか。

 それとも、他国に人質同然に嫁がせるか・・・。

 「お兄様」

 傍らに立つ兄を見上げると、緊張も何もなく、いつも通りに立つ兄がいた。

 「他国に、私が嫁げるような場所がありますか?」

 「ないね」

 間髪入れずに帰ってきた返事に、落胆する。

 「ルイス・・・もう少し言葉を選べ。シャル、そんなことを気にする必要はない。今は、これからのことを考えろ」

 兄の反対側に立つ父が、優しく微笑んでくれた。


 そうだ、今からだ。

 他のことを考えている時ではない。


 「シャル、感情を読み取らせるなよ」

 「もちろんですわ」

 父と兄の視線に微笑みで答え、謁見の間に入った。


 そこには、王と王妃、王太子殿下、第二王子、宰相と議長、軍師、ヴィオラとその父、ダックローズ男爵がいた。


 「失礼します。陛下」

 父が挨拶をするのと同時に、兄と私も礼を取る。

 「ああ、わざわざ、すまなかったな」

 陛下が、ちらりと兄に視線を走らせたが、特に声をかけるでもなく、皇太子殿下に視線を移した。


 「失礼します」

 視線を受けて立ち上がった殿下は、堂々と、述べた。

 「私、皇太子 エルクハルト=バームクールと、公爵令嬢 シャルロッテ=フィナンシュの婚約破棄について、審議したい」

 一度、全員の顔を見回してから、最後に私に視線をとめた。

 「シャルロッテの行動によって、国母にふさわしくないと判断し、これを認めてもらおうと思う」


 「その前に、発言を」


 言葉をつづけようとする殿下を遮って、兄が手を挙げた。

 「・・・許可しよう」

 いぶかしげな殿下を何の感情も持たずに見返して、兄が発言する。

 「見たところ、王族と重要人物のみ集められていると見受けられるのですが、何故、ここに男爵が?」

 「彼らは、これから話すことの被害者だ」

 「被害者・・・なるほど。では、被害者として証言してくださるとのことですね?」


 それ以外では口開くんじゃねえぞ、てめえらごときが。

 あれ、おかしいな、空耳かな。なんか、変な言葉が聞こえた。


 「……ああ、そうだ」

 殿下が無表情に答えた。

 「続ける。・・・シャルロッテは、そこにいる、ヴィオラ令嬢に日常的に悪口や嫌がらせなどの行為を繰り返し、いじめの首謀者として、その名が報告された」

 その間、ヴィオラは思い出すのもつらいと言うように目を閉じ、震える手を握りしめていた。

 その姿は可憐で、守ってやりたくなるような姿だった。

 「シャルロッテ様?」

 宰相であるジム様が、初めて、私に意見を求めるように訊いてきた。

 「記憶にございませんわ」

 事実だ。

 しかし、ジム様は息子に何か聞いていらっしゃるのかもしれない。

 彼の息子も、ヴィオラに愛をささやいた一人と記憶している。

 多くの皴の刻まれた顔で、一言で終わった私の答えに不満そうにしていた。


 「これは、破られた扇子だ」

 殿下が、ボロボロになった扇子を取り出した。

 ……全く見覚えがない。

 「五月の夜会で、あなたがヴィオラを呼びとめただろう?その後、ヴィオラが持っていた物だ」

 「いつ、お話ししたかなど、覚えておりませんわ」

 「そちらが覚えていなくても、こちらには記録がある」


 次に取り出したのは、首飾り。

 「これは、私が彼女に贈ったものだ」

 兄がピクリと動いた。

 「わが妹ではなく、そちらの令嬢に贈られたと?何故?」

 殿下は、そう言われるのが分かっていたと言うように、ゆっくりと頷いた。

 「彼女は、宝石を持っていないことで、からかわれ、恥ずかしくてもう夜会に姿を見せられないと泣いたのだ。そのような者がいれば、それに心を砕くのも、王族の役目だ」

 からかったのは、私だと言いたいのか、しっかりと睨みつけられた。

 「宝石を持っていない令嬢には、殿下が下賜されると?何の実績もない娘に・・・?」

 「私の個人財産から支出している。問題ない」


 ありまくりだ、馬鹿野郎。

 婚約者がいながら、他に宝石を贈るなんざ、お前はどこの浮気亭主だ。もっとましな言い訳しやがれ。

 ど、どうしてかしら。兄の罵詈雑言が聞こえるのだけど。

 ちらりと兄を見上げても、何も変化はない。


 「これが、紛失したのだ」

 ちらり、と殿下がヴィオラに視線を投げると、ヴィオラが、勢いよく立ち上がった。

 「そうなのです!殿下からいただいた大切な首飾りでっ、私、大切にしていたのに、どこかに行ってしまって・・・!一生懸命探してたんです!そしたら、そしたら・・・シャルロッテ様の侍女の方がお持ちで……っ」

 「同じような、別のものでは?」

 「それはない。私が自ら作らせたのだ。他にはない」

 ううっと、ハンカチを握りしめて泣き崩れるヴィオラ。


 「お待ちください」

 次は、父が手を挙げた。

 「その宝石、見せていただけますか?」

 「いいだろう」

 殿下が不思議そうにしながら、公爵に宝石を渡す。

 それをゆっくり見た後、私に渡した。

 「シャルロッテ、その価値を」

 急に、そんなことを言われて戸惑ったけれど、ハンカチを出して、ゆっくりと眺めた。

 全てのものには、適正価格というものがある。

 有事の際ほど、それは誤魔化されやすい。

 こちらが金に困っているときほど、そういった輩は寄ってくるのだ。見る目を養いなさいと、父にあらゆる宝石を見せられた。

 そして、これは……。

 「30・・・いえ、20いくかどうか・・・ルビーに似せていますが、これは、ガラスですね」

 「はっ……?」

 殿下の驚く声が響く。

 「そんなわけがないだろう?私がだまされたとでも?」

 私の言葉は信用ならないのだろう。私は、宝石を王妃様の元へ持って行った。

 受け取った王妃様も、物を見て・・・というか、受け取る前から分かっていらっしゃったようだ。

 「なんていう粗悪品をつかまされているの・・・遠目でも光の反射でわかります」

 王妃の言葉に、公爵が頷いた。

 「で、その粗悪品を、公爵令嬢がどうしたと?」

 「でっ、殿下からいただいたのです!どんなものだって、価値がありますわ!きっ、きっと・・・嫉妬されて、私から奪ったのです!!」

 「奪って、大切に持っておく必要が?・・・王妃陛下」

 公爵が、王妃から宝石を受け取って、そのまま、床にたたきつけた。

 パリーン

 軽快な音とともに、砕け散る、赤いガラス。

 「同じものを身に着けるわけにもいかず、価値もないものなど、砕いてしまえばいい」

 あっさりと、柔和な顔で語る公爵に、誰も、驚きで突っ込めない。

 仮にも・・・殿下が自ら作らせたものをあっさりと砕いたのだ。

 侍従に片づけを頼み、証拠だから、捨てないでねと言っているのが聞こえた。


 

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