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救国の少女  作者: ざっく
本編
2/9

家族

 屋敷に帰り、出仕書を父に手渡した。


 「私の不徳の致すところ。お父様にまでご迷惑をおかけ申し訳ありません」

 家族だけのリビングで、私はソファに座った父、母、兄に頭を下げた。

 「ふん…まあ、想定内だ。あの餓鬼が」

 チッと、舌うちが聞こえた。

 公爵は、普段、笑っていなくても笑っているような顔をしている、柔和な人物だ。

 ……と、一部の人間以外には思われている。

 家族の中だけでは、素の公爵が出るので、怒っているときは、娘だとしても怖い。

 「下品ですわよ、あなた。・・・婚約破棄、ねぇ。まあ、いいですけど?」

 どうなってもしりませんけどね?

 そんな言葉が聞こえてきそうな母がにこやかに笑った。

 こっちは、笑っているのにどうして怖いのだろう。


 私は、息を吸って、決意を固める。

 「お父様―――」

 言葉を発する前に、手で制され、侯爵が先に口を開いた。


 「私は、隠居することにした」


 ひゅっと、自分の息を吸う音が聞こえた。

 声が出る前に、よたよたと父に駆け寄り、一生懸命に首を振る。

 父が、隠居。

 そんなことはあってはならない。国に必要な人間だ。

 「お、お願い、です。や・・・やめてくださ・・・」

 なかなか出てくれない声を絞り出すように、父に懇願する。

 まず、私の話を聞いて欲しい。決して、迷惑をかけることはしない。


 「大丈夫。後は私が継ぐよ」


 いつの間にか後ろに来ていた兄が、父に縋り付かんばかりにしている私の肩を抱く。

 「私、私のせいで、公爵家に傷がつくことなど・・・っ!」

 静かな瞳で私を見る父には何を言っても無駄だと、兄を振り返る。

 「お願いです、私を切り捨ててください!追放でも、出家でも、何でも受け入れます。

どうか、どうか、私のために・・・


―――こんな他人のために犠牲にならないでっ!」


 心のまま叫べば、家族中が怒りにあふれたことが分かった。

 目の前の兄が、冷たい視線で私を見下ろした。


 「私を、侮辱する気かい?」


 冷たい視線に、至上の愛を感じる。

家族からの怒りの気配に、喜びを感じる自分を叱りつけたい。

 「この程度、妹を犠牲にしなければ解決できないと?さらに言えば、お前以上に守らないといけない家名ではない」

 公爵家って、王家についで一番の家名だ。

 そんな兄の言葉にも、父母は苦笑いだけで済ましている。


 「私は、家族を犠牲に助かりたくはないのです!」

 だから、どんなに辛くとも、兄の手を払いのけた。

 「シャルロッテ、お前が何の罪を犯した」

 兄の怒りの前で、私には発する言葉を持っていなかった。


 私には、心当たりがないのだ。

 嫌味は言った。苦言も呈した。

 嫌がらせ?無視?していない・・・と、思う。

 けれど、嫉妬はしていた。自分の婚約者に近づく女に。

 態度には、出していないつもりだったけれど、睨むくらいは、したかもしれない。

 どの行動をそうやって捉えられているか分からないから、何度も反芻した。

 だが、考えても、王から呼び出されるほどのことをしていない。

 けれど、相手は、エルクハルト王太子殿下。

 彼ほどの頭が良い方が、何もなしに婚約破棄をできると考えているはずがない。


 ならば、どこからどんなものを持ってきて、私を罪人にしようとしているか分からないのだ。


「私の未熟さが招いた事態。私が、出家しようと・・・」

 「させない」

 兄が、私の言葉にかぶせ、否定の言葉を吐く。

 冷たい態度とは真逆の優しさで、頬が撫でられる。

 「公爵家を守りたいと言うお前が、家族の一番の宝物を、奪っていってしまう気か?」


 涙腺が、決壊した。

 目を見開いたまま、涙を流す私を、兄は、面白そうに見て、困ったようにハンカチを差し出してくれた。

 「お、にいさま」

 泣いたまま話すものだから、ひっくひっくと、情けない声が間に入ってしまった。

 それさえも、楽しそうに、「なんだい」と返事をする兄へ。

 「あいしています」

 兄が目を見開いた。

 そうか、こんなに大事な言葉も私は伝えたことがなかった。

 普段から、笑顔以外をあまり見せない兄が驚いて固まってしまうほど。

 「おとうさま」

 泣いているせいで、舌っ足らずが恥ずかしい。

 「あいしています」

 だけど、今、言わなくては、伝えるときがない。

 父は、少し嬉しそうに、ちょっと戸惑うように視線を揺らした。

 「おかあさま」

 「ふふ。なあに?」

 「あいしています」

 「わたしもよ。可愛いシャルロッテ。愛しているわ」

 母に伝えるのが最後になってしまっても、一番期待してワクワクする時間が長かったと、ことのほか喜んだ。

 「嬉しいです」


 私は笑った。大好きな家族のために。


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