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魔法学園、嫌われ者で悪役な彼女

作者: 星乃 夜一

アデレイドは学園の嫌われ者だ。


朝、寮を出て、校舎に向かう長い道のりは嫌われ者としての花道。

彼女を見かけた者はさっと視線を逸らし、視界に入らないように脇に逸れる。

それでいて興味津々、今日はなにが起こるのだろうと遠まきに見つめる者。

嫌悪し、冷めた目で眺める者。嘲る者。

ぎりぎりとハンカチを噛み締め、睨みつける者など様々だ。


自分はなぜこんな目に合うのだろう?


アデレイドは分かり切っている問いを、毎日この瞬間に自問するのだ。


アデレイドは長い栗色の髪のどこにでもいるような17歳の少女だ。

強いて言えば、長い前髪と黒縁の眼鏡が陰気さを醸し出している。

一見普通の少女だが、実は妖精の血を引いていて、その目を至近距離で見た異性を魅了してしまうという能力を持つ。

だからこそのうっとおしい前髪と眼鏡だった。


陰気で朝の爽やかとは無縁の彼女は、周りにいる男達をちらりと見て、小さく息をついた。

右に一人、左に一人、後ろに二人。

後ろの二人と左の男は馴染みだが、右の男は新顔だ。


「どうした? アディ。浮かない顔だな」


右にいる背の高い男が、屈み込むようにアデレイドの顔を伺う。

見上げると、金髪碧眼の見目麗しい男の顔があった。

目線を合わせずに顔を伺うと、男は切れ長の涼しい目元を綻ばせ、笑ったようだった。

途端に道の両脇で、黄色い悲鳴が上がった。


「なんでもありません。エイデン様。お気になさらず」


アデレイドが目を逸らすと、男はアデレイドの右手を取り、なでなでと撫で回す。


「っ!」


アデレイドは全身に鳥肌が立つのを感じたが、振り払う事はせず明後日の方を見たままそれに耐えていた。

アデレイドが視線を戻さないでいると、男は切なそうに息を吐く。


「家名で呼ぶなど冷たい事を。僕の事はロイと呼んでくれ」

「・・・・・」


アデレイドが返事を返さないでいると、左側の男が助け舟を出した。


「ロイ。いい加減手を離してはどうだ。公衆の面前だぞ」

「君に愛称を呼ぶ許可は出していないが? ブレント・オールディス殿」

「それは失礼。ローランド・エイデン殿?」


左にいる男ーーブレントはおどけたように肩を竦める。

癖のある焦げ茶色の髪に琥珀色の目のブレントは、整った愛嬌のある顔立ちをしている。

ローランドと同じく長身だが、ひょろひょろしているローランドよりしっかりした体格をしていて、魔法だけでなく、剣技も見事で女性の黄色い声に事欠かない。


明るく快活なブレントもそうだが、今は後ろで黙っている二人もそこそこモテる二人なので、最近、女子からの嫉妬と侮蔑の視線がすごい。

そして昨日今日で、今までの嫌われ度をぶっちぎりで凌駕したと思う。


なにしろ、学園の王子様を毒牙にかけてしまったのだから。


「で、いつまでアデルの手を握っているつもりだ? さっさと離せ、エイデン。アデルも嫌がっている」

「男の嫉妬は醜いぞ、オールディス。アディは嫌がってなどいない。そうだろう、アディ?」

「え〜と・・」


学園の王子様ことローランドに問いかけられ、アデレイドは言葉に詰まる。

ローランドの父は侯爵で、ローランド自身も爵位を持つ。

吹けば飛ぶような田舎貴族の娘のアデレイドは、ハッキリと嫌ですと言える立場ではない。


つくづく厄介な相手に魅了がかかったものだ。

肝試しと言ってアデレイドに近づいたローランドの自業自得だが。


「え〜と、エイデン様」

「ロイだ」

「ローランド様」

「ロイだ」

「・・・ロイ様」

「アディ、君の前ではただのロイでいたいんだ」


ローランドはアデレイドの手をぎゅっと握り締め、口から砂を吐きそうな甘い言葉を囁く。

アデレイドは口元を引き攣らせた。


このやりとり、多分彼の黒歴史の1ページを飾るだろう。

顔を上げていないから彼がどんな表情をしているのか分からないが、周りのお嬢さん方の反応から、うっとりか熱い目をしているのだろうと思われる。

彼が正気に戻った時が怖い。

そんなことを鬱々と考えていると、前方が騒がしくなった。


アデレイドはうんざりと前を見る。

ハーレムを引き連れたお姫様のお出ましだ。


見目麗しい5人の青年少年を引き連れた少女は、アデレイドの前までくると、キッとアデレイドを睨みつけた。


アデレイドと同い年、17歳の少女は、金色の巻き髪にグレーの瞳、幼さが残る大きな目で人形のように愛らしい。

可愛らしい桃色のドレスは、華奢な彼女によく似合っていた。


彼女ーーキャロラインはローランドの婚約者である。


自分の婚約者が他の女に夢中とか、いくら本人の意思ではないとしても体裁が悪いだろう。

早々に引き取って、魅了が解けるまで何処かに閉じ込めておいてくれないだろうか。


「ご機嫌よう、アデレイド様。いつも言っているけれど、魔法で殿方を侍らすなんてはしたないわ。惨めだと思わない?」


キャロラインは、扇の向こうからバッサリと言葉の刃で切りつけてきた。

実は彼女、人の話を聞かない。

何度となくこの状態は本意ではないと言っているのに、アデレイドがわざとやっていると思っているのだ。

そして自分は、自分の魅力で男達を惹きつけているのだといつも自慢している。

見た目可愛らしいお人形なのに嫌味な女だ。


「ご機嫌よう、キャロライン様。いつも言っているけど、わざとじゃないのよ」

「どうでしょう? わざとでないなら、なぜ、こんなことになっているのかしら?」

「それはエイデン様が・・・」

「さすが妖精の血を引くだけあって、イタズラ好きなのね。

でもいくらご自分に自信がないからといって能力で魅了するなんてよくないわ。

もしかしたら、そんなことをしなくても、本当にあなたの事を好きになる奇特な方がいらっしゃるかもしれないでしょう?

まあ、たぶんいないでしょうけど」


(きいぃ、この嫌味女! 人の痛いところを的確についてくるんだから!)


アデレイドは子供の頃から、目を合わせた男を魅了してきた。

なので、自分の能力抜きに自分の事を好きになってくれる人がいるのか。それは大きな悩みだった。

プチっと切れたアデレイドは、売り言葉に買い言葉、キャロラインが一番嫌がるだろう言葉を口にする。


「その魅了にご覧の通り、あなたの婚約者様もかかってしまったの。

いくらあなたのような可愛い人の魅力でも、私の魅了に勝てないのね」

「!」


怒りに任せて言い返してしまって、アデレイドは後悔した。

言った途端に、キャロラインは般若の様相になり、キャロラインの取り巻き達からブワッと怒りの気配が上がる。

ついでに野次馬達の中から、魅了にかかってしまったことのある人、彼氏が魅了にかかってしまったことがある人などだろう、怒りの気配が沸き起こる。


(ああ、失言・・・、もうここにいられないかも)


アデレイドは走馬燈のようにこの学園での日々を思い出した。

クラスメイトを魅了して付きまとわれた挙句に嫌われ、先輩後輩を魅了して付きまとわれた挙句に嫌われ、父兄を魅了して付きまとわれた挙句に、攫われそうになり。


嫌われ、なじられ、嫌がられ。

12歳の年に学園に入ってから嫌な事ばかり。

よくここをやめなかったと思ったが、よく考えたら自分は珍しい無効化の魔法を使うので、逃げようとしてもここから逃げられないのだった。

誇れる事は人の魔法を無効化するぐらいで、他に大したこともできないアデレイドは、魔法を使った嫌がらせは無にすることができるが、魔法を使わない普通の嫌がらせには対応できない。

水をかけられたり、閉じ込められたりしては、いつもブレントに助けてもらっている。


昔を思い出してため息をついていると、


「彼の魅了はいつ解けるの?」


キャロラインの低い声が響いた。流石にもう般若のような顔ではないが、怒りを抑えているのが見て取れる。


「人によるけど、大体三週間からひと月ぐらいかしら。私を視界に入れなければ、解けるのも早いと思うわ」

「分かったわ。ーーローランド様、ひとまず寮に帰りましょう。

ご実家に連絡を入れますからしばらくご静養なされなせ。すぐに悪い夢は解けますわ」


優しく言って、キャロラインはローランドの腕に手をかける。

しかし、ローランドはその手を振り払った。


「僕は正気だ。皆のように彼女の力に惑わされているわけではない。僕は僕の意思で彼女を愛しているんだ」


振り払われたキャロラインは目を丸くしている。今までそんな扱いを受けたことなどないのだろう。手がわなわなと震えている。


これはまずい。

これをキッカケに、ローランドが正気に戻ってもキャロラインとうまくいかないなんてことになったら、シャレにならない。


アデレイドは自分の右手を掴んだままのローランドの手にそっと左手を乗せる。

キャロラインを冷たい目で見下ろしていたローランドは、はっとアデレイドを見た。


「ロイ様、女性に対してそんな態度をとってしまってはいけません。今日のところはキャロライン様とお帰りください」

「しかし・・」

「私に免じて、お願いします」


アデレイドは言いながら視線を上げた。さらりと流れた前髪の間からローランドを見据える。

深い海の青色と言われるアデレイドの瞳。

アデレイドと目が合ったローランドは息を飲み、ゴクリと喉を鳴らした。


駄目押しに『お願い』というと、ローランドは体を屈めてアデレイドに顔を近づける。

頬にキスをされると分かったが、まあいいかと受け入れた。

頬にキスなど、親しい間柄なら挨拶だしこれだけ秀麗な人にされるなら役得でもある。

なにより帰ってとお願いしているのは自分なのだから、これくらいなら安いものだ。


ただ、これでもう一週間ぐらい、魅了が解けるのが延びるかもしれない。

アデレイドと目を合わせれば合わせるほど、魅了は深くなる。

しかし、閉じこめてもらえばローランドの黒歴史も増えないし、正気に戻った時に身悶える事もないだろう。


結果よければすべてよし、だ。


(あー、今回はさっさと終わってよかった)


元来、楽天的なアデレイドはこれで今回の件は済んだと思ってしまった。

しばらくは嫌がらせが増えるだろうから、気をつけなきゃと思っていたアデレイドは、気付かなかった。


先ほど、まあいいかと思ったその判断がーーこれから起こる事の引き金になることを。



✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎



「アデル、話があるんだ」


午前の授業の合間、呼び出しを受けたアデレイドは空き教室へと来ていた。

呼び出したのは最近ずっと一緒にいて、今朝も一緒に登校した男二人。

大柄な体に精悍な顔立ち、黒い髪と薄い青の目が鋭利な印象だが実は穏やかな性格のチェスターと、栗色の髪に緑の瞳、華奢な白磁の美少年、ケイシー。


彼らは空き教室まで来るとアデレイドを先に入れ、自分たちは扉の前に立つようにしてアデレイドと対峙した。


「よく黙ってついて来たね。自分が魅了した男二人とひと気のない場所にいるなんて、危ないと思わない?」


ケイシーは口を歪めて笑った。隣に立つチェスターは無言だ。


「あなた達の事は信頼してるから。

魅了された当初から無理強いするわけでもなく、ただ一緒にいてくれた。

最初こそはケイシーもチェスターも牽制しあってギスギスしてたけど、最近は楽しい事ばかりだったもの。そう、本当に楽しかった」

「アデル・・・」

「言いたいことがあるんでしょう? いいよ、言って」


アデレイドが促すと、ケイシーは二歩進み、アデレイドの目の前まで来た。

彼の身長はアデレイドより少し高いぐらいだ。目を合わせないよう、アデレイドはさらに視線を伏せた。


「アデル、手を握らせてくれないか?」

「? いいけど」


手を差し出すと、ケイシーの細い手がアデレイドの手を握る。

ケイシーは小さく息を吐くと、チェスターに促した。

「ほら、君も」そう言われ、チェスターも恐る恐るという風に手を握る。

チェスターの手は大きく、荒れてゴツゴツしていた。

チェスターは、ほっと息を吐くと、アデレイドの手をそっと離した。


「確認?」


アデレイドがクスッと笑って言うと、ケイシーもおどけた声を出した。


「そう、確認。もう僕達は君に魅了されていないというのをはっきりさせるための確認」


アデレイドも気づいていたことだが、二人の魅了はもう解けている。

チェスターを魅了したのがひと月半前、ケイシーはその一週間後。もうとっくに解けていておかしくない期間がたった。

だから、呼び出された理由もなんとなく察していた。


ここ何週間か穏やかに過ごせたのは、二人の魅了が解けていたから。

それを知ってか知らずか、二人は一緒にいてくれて、ブレントと四人、一緒に登下校して休み時間を過ごして、放課後や休みの日に出かけたりしてくれた。


「今朝、あの人が君にキスした時にハッキリと自覚したんだ。

僕はもう嫉妬しない。君に魅了されていないって。

それでチェスターにも聞いたんだ。君はどうかって」

「俺は、随分前から魅了は解けていた。だけど、別に今のままでいいかと思っていたんだ。お前達といるのは居心地が良かったから」


低く優しいチェスターの言葉に、アデレイドは泣きそうになった。

魅了が解けているのが分かっていて一緒にいてくれて、居心地がいいと言ってくれた。

こんなに嬉しい言葉は学園にきて初めてだ。

危ない。惚れそう。


「チェスター・・」

「チェスター! 駄目だよ。ハッキリさせるって約束しただろう!」


思わず顔を上げそうになったアデレイドと押さえつけるように、ケイシーの鋭い叱責が飛ぶ。


「ああ、そうだったな。悪い、ケイシー」

「もう!」


甘やかすような優しいチェスターと拗ねたようなケイシー。

二人の間に流れる空気に、おやっと首を傾げる。


(まさか、まさかね)


しかし、アデレイドの動揺を嘲笑うかのように、ケイシーはあっさり爆弾を落とす。


「僕達、付き合い始めたんだ」

「・・・・・は?」

「チェスターに聞いたんだ。なんで魅了が解けていたのにアデルから離れなかったんだって。

そしたら、僕の事が気になっていたからなんだって」

「え?」


(それはつまり・・・、え?)


「僕に惹かれていたけど、男相手だからどうしようって悩んでたんだって。

アデルのそばにいれば僕といられるからなんて、可愛いよね」

「・・・・」


天使のような美少年なのに、その後ろに悪魔の尻尾が見えるようだ。


「僕は男でも女でもいけるから、付き合うことにしたんだ。

だから、もう君とは一緒にいられない。それを言いに来たんだ」

「えっと、ケイシー?」

「もう僕達に近づかないでね。彼をまた魅了したら、僕なにするか分からないから」


ケイシーは笑顔の短剣でアデレイドを突き刺し、輝くばかりの笑顔で去って行く。

傍らに甘ったるい顔をしたチェスターを連れて。


「な、な・・」


二人が去った扉を見つめ、アデレイドは震える声を上げていた。


別れを告げられることは分かっていた。怒鳴られることも叩かれることもなく、穏便に終わったと思う。


でも、だからってーー


「上げて落とすことないじゃない! ケイシーとチェスターの馬鹿!」



✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎



昼休み。

いつもならブレントとケイシーとチェスターと過ごしているが、今日は一人きり。

そこまで考えて、アデレイドは自嘲の笑みを浮かべる。

今日は、ではない。今日からは、だ。


ケイシーとチェスターとはもう一緒に過ごすことはない。彼らは離れてしまった。

ブレントは、用事があるから今日は一緒にいられないと言っていた。

そう言う時の彼は、いつもアデレイドの頭を撫ででくれて心配そうにするのだが、今日は硬い声音でさっさと去ってしまった。

アデレイドは直感で悟る。

多分、これが別れ。もうブレントも一緒にいてくれない。


ブレントを魅了してしまったのは三年前。彼の魅了もとっくに解けているだろう。

それでも優しいブレントは一緒にいてくれて、助けてくれた。


アデレイドを見限るキッカケ、思い当たるのは今朝の自分の態度か。

侯爵令息に強く出られなくて、庇ってもらっていたのにローランドの行動を許してしまったのが運の尽き。

人が一時的に自分に魅了されるのに慣れてしまって、そのうち収まるさと自分でなんとかするのを怠ってしまった。

ローランドのキスを受け入れてしまったのは、断る面倒臭さと少しの優越感。

ブレント達がそばにいてくれるという安心感から、気が大きくなってしまっていた。


なんて馬鹿なアデレイド。


もう元には戻れない。

ブレント達がいてくれたからこその日常だったのに。


「はぁ〜」


大きくため息をつく。

こんな馬鹿な女、ここにいてもしょうがない。誰か追い出してくれないだろうか。


(家に帰りたい。兄や弟妹と畑を耕した事が懐かしい。みんな元気かな、帰りたいなー)


中庭のベンチに座り、土の上を一生懸命歩くアリ達をぼーと眺めていると、そこに影が落ちた。


「?」


誰かそばに来たようだ。

太陽はほとんど真上にあり、影は短い。影が目に入ると同時にその人物の靴も見えた。男物だ。


「おい、そのまま顔を上げずに聞け」


ドスの聞いた低い声。

この声は確かキャロラインの取り巻きの、ケンヒル侯爵の嫡男グレアム・カーヴェルの声だ。

男らしく精悍な彼は、男をたぶらかすアデレイドが大嫌いだ。

今もその薄茶色の髪を逆立て、緑の目をつり上げて怒っているのだろう。ビリビリとした怒気を感じる。


「お前に決闘を申し込む」

「え?」


思わず顔を上げそうになって、慌てて俯く。

危ない。この至近距離で目が合ったら確実に魅了してしまう。


「どういうことですか?」

「どうもこうもない。今朝のお前の態度は許せない。キャロラインの婚約者と知りながらローランドを魅了し、それに嘆き悲しむキャロラインを罵倒するなど、人とは思えん!」


(うん。こいつの目は腐っている)


キャロラインの婚約者と知りながらローランドを魅了した、というところは悪名轟くアデレイドであるから、誤解しても仕方が無い。

しかし、キャロラインが嘆き悲しんでいたというところには、異を唱えたい。

キャロラインは、元気に嫌味を飛ばしていた。それにちょっと言い返しただけだ。

決闘なんて冗談ではない。


「決闘はお受けしません。今そんな元気ないので」

「なんだと! 卑怯者、決闘を申し込まれたら受けるのが礼儀だろう」

「だって、決闘を受けたっていいことないし」

「そういう問題ではない! これから魔法闘技場で決闘だ。お前が負けたらこの学園から出て行ってもらう」

「ーーっ!」


アデレイドは一瞬喜び、顔を上げそうになるが、すぐにそんなことできるわけないと、嘆息する。


「無理です。私は特待生ですから簡単には学園を出られません」

「分かっている。だが、我が侯爵家の威信にかけて追い出してみせる。他の者にも協力を仰ぎ、絶対に追い出す!」


決意を込めたグレアムの言葉は、今のアデレイドには救いの言葉だ。


「本当ですか⁉︎」


アデレイドはがばりと身を起こし、グレアムの顔を見上げた。

切れ長の緑の目と目が合った。グレアムは目を見開く。


(あ、やばい)


アデレイドは慌てて目を逸らした。

今のなし。今のなし。

呪文のように唱えてグレアムを伺うと、グレアムは顔を逸らしどこかを睨んでいた。魅了されてしまった様子はない。


(セーフ、セーフだ。よかった〜。

今ちょうど魅了されてる人がいなくなったのだから、さっさとこの男に負けて追い出してもらおう)


きれいさっぱりローランドの事を記憶の彼方に追いやってしまったアデレイドは、喜々として声を上げた。


「決闘をお受けします、カーヴェル様。行きましょう、早く」


アデレイドは言いながら、魔法闘技場へと歩き出す。

人がついてくる気配がないので振り返ると、さっきと同じ場所に立っていたグレアムが、アデレイドの顔を見て、さっと顔を逸らした。


「・・・・」


顔を逸らされるのはよくあることなのだがこの感じ。

嫌な予感がよぎるが、アデレイドは気のせいとそれを打ち消し、闘技場へと向かった。




✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎



魔法闘技場は魔法が外に漏れ、観客が怪我をしないように結界が張ってある。

広大な敷地の学園の一角にあるそこには、情報を聞きつけた生徒、教員が集まりつつあった。

決闘はなによりも優先される神聖なもので、娯楽でもある。

特に悪名高いアデレイドが学園から追放されるか否かと聞けば、全ての事を放り出して見学にくるだろう。


グレアムと対峙する間もどんどん観客が増える。

皆がアデレイドが負ける事を望んでいる。

さしずめアデレイドはお姫様のために決闘する騎士の敵役。無様に負ける事を期待される悪役だ。

上等ではないか。

悪役らしく華々しく散ってみせようーーいや、死なないけど。


遠くに位置どるグレアムと睨み合い、今にも戦いの火ぶたが落とされそうという時、闘技場の入り口が騒がしくなった。

見れば、取り巻きに囲まれたキャロラインがいる。

彼女は取り巻きの男達から離れ、アデレイドの前までやってきた。


「あなたと決闘するのはわたくしですわ」

「・・・いいけど、彼の立場は?」


グレアムの方を見ると、キャロラインの取り巻き達がグレアムを回収に行ったようだ。遠くで揉めている。


「ええと、私カーヴェル様と賭けをしているのだけど、そうなるとその賭けはあなたが継いでくれるのよね?」

「賭けというと、グレアム様が勝ったらあなたを学園から追い出すというものでしょう。勿論ですわ、そのための決闘なのだから。あなたを追い出すのはこのわたくしよ」


アデレイドはほっと胸を撫で下ろす。よかった、反故にされなくて。


「それならいいわ。さっさと始めましょう」

「あなたの条件はなんですの?」

「え?」

「あなたの条件よ。あなたは勝ったら、わたくしになにを望むの?」


アデレイドは目を瞬いた。

考えてもみなかった。というより考える必要はない。負ける闘いなのだから。


「私はなにもいらないわ」


キャロラインは目を見開いた。ついで訝しげに眉を顰める。


「なにもいらないの? あなたは負けたらここを追い出されるのよ?」

「ええ、そうね」

「・・・そんなのフェアじゃないわ。勝負事はきちんとしなければ。

いいわ、あなたが勝ったらローランド様に近づく事を認めて差し上げるわ」


(え、そんな条件いらないし)


アデレイドは胸中で呟いた。なんでそんな話が出る。

アデレイドは訝しんだが、キャロラインの顔を見て悟った。

この女は自分が負けると、露ほどにも思っていない。

ローランドを守る為に戦って勝ったという事実が欲しいのだ。さらにアデレイドを追い出して万々歳。

本当にムカつく女である。

一瞬、闘志が芽生えるがそれでは本末転倒。

ムカつくがここは追い出してもらう為に、涙を飲んで負けるしかない。

その代わり、派手に負けてやろう。後々まで語り継がれるような派手な闘いをして華々しく悪役として散ってーー


「弱っ!!」


アデレイドは思わず倒れ伏しているキャロラインに向かって叫んだ。


アデレイドは大した魔法を使えない。せいぜい魔法弾を打つくらいなので、派手に戦うとなったら相手の魔法に頼るしかない。

キャロラインが火の龍を出して、見せびらかすように場内を駆け巡らせたところで無効化し消して。

水の狼が縦横無尽に走り回り、向かってきたら無効化して消して。

雷の鷹が一直線に向かって来た時は、怖いのですぐ消した。


自信満々なだけあって、キャロラインは魔法の精度も魔力量も素晴らしい。


もっともっと、いい闘いが出来る。

その為には悪役も少しは足掻かなければーーと思ったのがいけなかった。

アデレイドが放った魔法弾は、バイーンと微妙な音を立ててキャロラインに直撃した。

アデレイドの魔法弾は子供がボール遊びをするのに最適だ。軽くて弾力のあるそれは、弟妹に人気だった。


それの直撃くらいで吹っ飛び、気を失うなんて弱過ぎる。


アデレイドは慌ててキャロラインに駆け寄った。さっさと起こして続けなければ。

しかし、先にキャロラインの元に辿り着いたのは、彼女の取り巻きの赤毛の少年だった。

彼はキャロラインを抱き起こし、キッとアデレイドを睨みつける。


「なんてことをするんだ‼︎ キャロライン先輩が怪我をした・・ら・・」


始めの勢いは何処かに消え、少年の声はどんどん小さくなる。

少年はアデレイドとバッチリ目が合っていた。

怒りの形相が緩み、恍惚とした顔になる。アデレイドは顔を引き攣らせ、目を逸らしたが遅かった。

キャロラインをぼとっと落とし、少年はアデレイドに抱きつく。


「お姉さま!」

「きゃあ、どこ触って・・」


少年はあろうことかアデレイドの胸に顔を埋め、グリグリと押し付ける。

少年の背は低いわけではない。絶対わざとだ。


「ちょ、ちょっと、誰かこの子剥がして」


ごすっ。

キャロラインの取り巻きに助けを求めると、すかさずグレアムが少年の頭を殴り、剥がしてくれた。

かなり痛そうな音がしたが、大丈夫だろうか?


少年もキャロラインも取り巻き達に連れられて退場していく。

後にはアデレイドとグレアムだけが残った。


アデレイドはグレアムと対峙し、立会人の始めの合図を待つ。


「始めの状態に戻りましたね。仕切り直ししましょう。あなたと私の決闘です」

「そうだな。条件は・・」

「さっきの通り。あなたが勝ったら私は学園を去ります」

「私が勝ったら私と結婚してもらおう」

「・・・・へ?」


想定していた言葉ではないものが聞こえてアデレイドが混乱しているうちに、立会人が始めの合図を出した。


「ちょ、ちょっと、待ってください。主旨が変わってる!」

「待たない」


グレアムは冷たく言い放ち、剣を構える。その目は真っ直ぐにアデレイドを見つめていた。目の奥に怒りではない熱が見える。


(タチが悪い! さっき中庭で目を合わせた時の、やっぱり効いてたんだ。今まで隠してたなんて‼︎)


アデレイドは心の中で叫び、後ずさる。

元々グレアムに勝てると思っていない。キャロラインのように魔法のみの闘いなら勝算もあろうが、グレアムは剣も使う。

対してアデレイドは丸腰。魔法弾の連打でなんとかなる・・・か?

勝算は薄い。だが、やるしかない。

誰が自分を嫌っている相手と結婚するものか。


覚悟を決め、アデレイドは右手を突き出す。

魔法弾は魔力を込めれば込めるだけ、硬く重くなる。連打で距離を取り、魔力を込めた硬い一球で仕留める。

これしかなかった。


グレアムはゆっくりと近づく。アデレイドは試しに一発放つ。

グレアムは避けずに、剣で切った。


「げっ」


あっさりと切られてアデレイドの顔が引き攣る。

二発、三発、四発と放つがグレアムは魔法弾を切りながら進む。

アデレイドが後ずさっているから距離は縮んでいないが、すでに軽い魔法弾をシャボン玉のようにスパパパーっと飛ばしているのに進んでくるってどんな運動神経だ。軽いから当たっても気にしていないのかもしれない。

これでは駄目だと、態勢を建て直そうと考えた時、ドンっと背中が何かに当たった。

後ろを見たら、客席の下の壁だった。


(いつの間に⁉︎)


焦って動こうとしたが、もう遅かった。アデレイドが後ろを見た一瞬で距離を詰められる。

牽制に放った魔法弾は、カーヴェルに片手であっさり弾かれた。

その場から動く前に剣を突きつけられる。


「終わりだな?」


白刃が喉元で輝く。ゴクリと喉を鳴らすと、白刃は少し離れた。


「降参しろ」


促され、アデレイドは口を開く。しかし言葉は出さなかった。

口をギュッと閉じ睨みつけると、グレアムは目を細める。


「これは決闘だ。負けを認めないなら殺すことも許される」

「・・・・」


アデレイドは無言でグレアムを睨みつけると、顔を背け目を閉じた。

降参するのは絶対に嫌だった。

魅了はいつか解ける。そんな相手と結婚などしたら自分も相手も不幸になるだけだ。

なにより、自分の魅了の力に負けたようで嫌だ。


顔の周りで冷たいものが動いているのを感じる。剣の先だろう。引っ掛けられ、眼鏡が落ちた。

顔を正面に向けさせられ、ざらっとしたなにかーーグレアムの指だろう、荒れているーーが顔を触り、前髪を左右に分ける。


目を開けるとグレアムの顔が目の前にあった。

グレアムは笑みを浮かべる。仄暗い笑み。


「私と結婚するぐらいなら、死んだ方がマシだって? 殺しはしないさ。ここでお前を奪ってやる」

「なっ」


グレアムの目は狂気に揺れていた。

魅了は一日目が一番強く心を掻き乱す。

それにさっきからずっとアデレイドと目を合わせていることと、状況と闘いの高揚とが彼を狂わせている。


本来の彼は正義感が強く、真面目な人間だ。人を尊重し、だからこそ人の尊厳を奪う能力を持つアデレイドを嫌っている。

そんな彼が、無理矢理自分の欲望を叶えたら、絶対に後悔する。


「カーヴェル様、落ち着いてください。待って」

「待たない」


グレアムはすげなく言って、顔を近づける。アデレイドは手を張りグレアムを押し返すが、両腕を取られ、壁に押さえつけられた。

アデレイドが顔を背けると、グレアムはアデレイドの首に口づけし、舌を這わせた。

生温かく柔らかい感触に鳥肌が立つ。


「ちょっ、やめ、待ってって。いたっ」


首に少しの痛み。なんかされた。


「待って、分かった。分かったから。降参します!」


アデレイドは自分の矜恃を捨てた。


(もう無理。もうやだ。首になにかされた! 噛まれた⁉︎ もうやだ!

どうせ結婚なんて誰かが止めてくれるもの。自分でなんとかするの無理! もういい!)


軟弱だろうと、意志薄弱だろうとなんとでも言えばいいわ! と、変な方向に開き直ったアデレイド。

グレアムはアデレイドの首から唇を離し、アデレイドと目を合わせる。真剣なその顔が、嘘は許さないと言っているようだ。


「そうか。では、私と結婚をするんだな?」

「え〜と、そうですね。それについては後で返事をしたいなーなんて思うのですが・・。一月後ぐらいに」

「駄目だ。今誓え。私と結婚を・・」


グレアムの言葉を遮ったのは、ブレントの低い唸るような声だった。


「させるわけないだろ!」


ガツンと痛そうな音が響く。見れば、ブレントは長剣の柄頭でグレアムの頭を殴りつけていた。

あれは痛い。

というか、あんなに力一杯殴ったら頭の中身が・・・。

ブレントは呻き倒れたグレアムを蹴飛ばし、踏んづけながら後ろに声をかける。


「おい! 終わったぞ! アデルが降参した! こいつの勝ちだ、引き取れ!」


とても勝者を扱う態度とは思えない。力を込めてグリグリと踏みつけている。


「ねえ、ブレント。そんなに踏んだら可哀想・・」

「・・・」


グレアムに手を伸ばしながら言うと、ブレントは無言で振り返った。

こちらを見ているのになにも言わない。

重い空気が流れる。

アデレイドはいつものようにブレントの顎あたりを見ているので確かではないが、なんとなく冷たい目で睨まれている気がする。


「殺すか」


ブレントの物騒な言葉にアデレイドは反射的にブレントの目を見上げる。

ブレントは、それはそれは冷たい目をしていた。

冗談ではなく、ぴきっと凍るようにアデレイドの体が固まった。

いつもの優しくてちょっとおどけた雰囲気のブレントどこに行った。


ブレントの視線が、アデレイドの顔から少し下、首あたりを見る。グレアムに舐められたあたりだ。

ブレントは憎悪に顔を歪め、倒れているグレアムに剣を向けた。

アデレイドはブレントの『殺す』発言の相手がグレアムだと悟って、慌ててブレントを止める。


「待って、ブレント! なにする気⁉︎」

「こいつを殺す」

「剣を持って言ったら冗談にならないって」

「冗談じゃないからな」

「冗談にしておいてよ! 取り敢えず落ち着いて。相手は無抵抗よ!

それに、カーヴェル様は殺されるような事してないでしょ!」

「お前、自分が襲われてた自覚がないのか?」


射抜くように睨みつけられ、アデレイドはうっ、と言葉に詰まる。

ブレントの手がアデレイドの首に伸びた。それを避けて一歩下がると背中がなにかにぶつかった。

また壁だ。


「こんなものをつけられやがって!

少し目を離した隙に新たに二人も魅了するなんて、いい加減にしろ!」


珍しく声を荒げるブレントに驚いて、アデレイドは唖然としてブレントを見上げた。

それにしてもひどい言い草である。まるでアデレイドがわざとやっているようだ。

しかしそれより気になるのは、ブレントがアデレイドとしっかり目を合わせていることだ。

せっかく解けた魅了がまたかかってしまっただろう。

アデレイドはもう遅いと思いつつも、顔を逸らした。

しかしブレントの手によって戻される。


「こっち見ろ」

「いや、だってそうするとブレント、また魅了されちゃうわよ。もう遅いと思うけど」

「ああ、遅いな。それに今更だ」

「どういう意味?」

「俺は三年前から魅了されたままだ。解けたことはない」

「え?」


聞き返すがブレントはなにも言わず、顔を近づける。


「え? ちょ・・」


キスされる! と思った途端、ブレントの顔が遠のいた。


「あれ?」


ざっ、と土をこする音が聞こえ、見れば、ブレントはグレアムに引き倒されていた。

グレアムの元気な様子と、二人の向こうにキャロラインの取り巻き達がいることから、誰かがグレアムに治癒の魔法でもかけたのだろう。

屈んだまま呆然としている眼鏡の男がかけたのだろうか。

取り巻き達の中には、先ほどのエロ少年もいて、取り巻きの一人に羽交い締めにされていた。


「なにをする!」


倒されたブレントが素早く体勢を整え、グレアムを睨みつける。


「それはこちらの言うことだ。後ろからいきなり攻撃するとは卑怯にも程がある」


グレアムは怒っているようだ。緑の目がつり上がっている。


「斬りつけられなかっただけ感謝しろ。アデルにしたこと、しようとしたことを思えば、殺されても文句は言えないだろう!」

「彼女は私の妻になる人だ。貴様にとやかく言われる筋合いはない!」

「ふざけるな!」


ブレントはさらに声を荒げる。


「アデルはお前などの妻にはならない!」

「決闘の条件だ。他人には覆せない」

「なら今ここで、お前が取り消せ!」

「そんなことをするわけがないだろう?」


グレアムは鼻で笑った。


「彼女は私のものだ」


いつものお堅い印象を感じさせない愉悦の浮かんだ悪そうな笑み。

魅了が解けたあかつきには、恥ずかしさで頭を抱えるだろう。


どんどん熱くなる二人を見ながら、アデレイドはオロオロしていた。

グレアムは魅了が解ければ決闘の条件を元に戻してくれるだろうから、二人とも今日のことは水に流して引いてくれないだろうか。

これ以上こじれる前に。


「ならば、アデレイドをかけて、お前に決闘を申し込む」

「望むところだ」


(あ、こじれた)


アデレイドは胸中で呻いた。これ以上面倒なことはごめんなのに!


グレアムは今、剣を手に持っていなかった。取り巻きの一人、長い茶髪のキザったらしい男がグレアムの剣を抱えていたので、アデレイドはその男に合図を送る。


(渡さないで! その剣持ってどこかに行って‼︎)


目があった彼は力強くこくりと頷いた。

気持ちが通じたようである。

キザ男は立ち上がると、高らかに宣言した。


「僕もアデレイドをかけての決闘に参加する!」


(ちっが〜〜う‼︎ っていうか、これだけ距離が離れているのに、なんで魅了にかかるの! あんた、そんなに意思が弱いの⁉︎)


アデレイドは頭を抱え、衝動のままに掻きむしった。

指に引っかかって、アデレイドのカツラが落ちる。

妖精族の特徴である薄い色素ーーアデレイドの淡い金髪が露わになる。


闘技場がシーンとなった。


アデレイドの金髪は短く、自分で切っている為不揃いで、所々はねている。

襟足が短いため露わになった細い首と、陽光に煌めく金髪。

愛らしい顔なのに整えられていない髪はどこか扇情的。


男達はギャップにやられてしまった。

会場の雰囲気。魔力に酔ってしまったというのもある。


結果ーー場内乱闘に発展した。



✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎




グレアムは、ローランド同様、家から迎えが来て静養という名の監禁を受けている。

アデレイドと目が合っていなくとも、影響を受けた男達はふわふわと浮つき、女生徒に多大なる迷惑をかけている。


キャロラインは涙ぐんだ目でアデレイドを睨みつけ、

「ローランド様に近づくことは、約束だから許しますけど、彼はわたくしの婚約者なんですからね!

むやみに近づかないで‼︎」

という矛盾した言葉を吐いて去って行った。


アデレイドは現在、自室のベットにて膝を抱えて座っている。


アデレイドは三週間の謹慎処分を受けた。

部屋から出るな、男女共同である食堂にも行くな、とにかく男に近づくなと厳しいお達しで、窓の外と扉の前に監視役の警備員がいる。


今日も窓の外が少しうるさい。

しかしそんなことは気にならない。今は粛々と処分を受けるのみだ。


謹慎処分を受けたのはアデレイド一人。

仕方がない。アデレイドはーー


嫌われ者で悪役なのだから。

読んで下さりありがとうございます。

読み終わった後に、いい意味で「あれ?」って思っていただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 言ってはいけないのだろうけど この世界にサングラスは無いのだろうか? ターミネーターのシュワちゃんや「MIB」みたいな奴
[一言] 魅了なくても普通にモテたと?
[一言] 続きを書くとしたら難しそうですね〜見たいけれど
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